| ベッドの横のテーブルには僕が身に付けていた全ての物が置いてあった そしてプロンテラで初めて鞘から抜いた剣が立て掛けてある 全てを身に付け僕は扉を再度開けて外に出る 照り付ける太陽と30度は軽く超えてるであろう外気に当てられ、一瞬だけ目が眩んだ よく見れば外を歩いている人達は皆、僕と違い薄手の服を着ていた 「お、もう起きたのか?」 扉を閉めてさあ出発だと思っていたところで僕は通りの向こうの男と視線が合い、声を掛けられた その男は通行人と露店の隙間を縫うようにして僕の下へと走ってくる 身長は僕より高く、180cmくらいはあるだろうか 見た感じではまだ20代中頃から後半くらい、黒い肌と人当たりのよさそうな笑顔が印象的だ 「あ、もしかして…僕を助けてくれたのって…」 命の恩人に何もお礼を言わずに去るのは失礼だと考えていたところだ もしこの人がそうだとしたら探す手間も省ける 姿の見えない梶原の事も探さないといけないし、無駄な時間は使えないし 「おぉ、行商に行った帰りにソグラド砂漠でお前達を見つけてな お前、あのままじゃヤバかったぞ?」 「そうですか……助けて頂いて本当にありがとうございました」 あの時、僕は誇張や何かではなく死を覚悟した 妙に冷静で現実と思えない自分の状況を受け入れる事が出来ていたし、不思議と怖いとかいう感情はなかった 今思うとちょっとありえない。でも助かった事は素直に喜んで、元の世界に戻る手立てを探すとしよう その前に梶原を探さないといけないけど… りあらぐ 第6話 モロクの街は暑い。 しかしそれは照り付ける太陽の光、直射日光が厳しいせいだ ちゃんと対策をとればそれほど気になりもしないだろう 僕の体も本調子じゃないし、当分はモロクに留まる事になりそうだから 「ああそうだ、お前と一緒にいた連れの奴だけど…」 「あ、はい…梶原もモロクに…?」 「…なんつーかアイツ…ちょっと変わってるよな」 その男は苦笑しつつ頭に手を置いた それで思い出したのか、男ははっとした表情になり手を頭から下ろす そして徐に右手を差し出してきた 「そういやまだ名前を言ってなかったっけな。俺はドゥエガーってもんだ。 ブラックスミスのドゥエガーと言えば解るかな?」 「あ、僕は村瀬守です…」 僕はドゥエガーに握手を返そうと思って手を差し出す が、ふとある事を思い出し手を進めるのを止めた プロンテラでモロクに向かう為の身支度をしていた時に聞いた話を思い出したからだ それに梶原と初めて会った時の事もあったし… 「ドゥエガー……アディエマス……」 プロンテラで何かと話題になっているドゥエガー一家 目の前にいるこの男こそが一家の頭、一家のトップ、一家を束ねる者… 偶然、あまりの偶然というものか…この世界に来て一番最初に巻き込まれたトラブルがドゥエガー一家とのものだった ドゥエガー一家に関係する事でいい話は聞かない 助けてくれたのはありがたい事なのだが、少し相手に歩み寄るのを躊躇してしまう 「…そう警戒するなって、別に何もしやしない」 僕の考えてる事が解ったのか、ドゥエガーは手を引っ込めて軽く笑った 「それよりも…マモルはお仲間と会うんじゃないのか?」 「え…あ、はい」 「だったら何も言わずに俺について来い、100の噂話より1の真実とは思わないか?」 そう言われると弱い 百聞は…という諺もあるように、人から聞いた話なんてアテにならない時がある ましてやラグナロクの世界に来てしまったんだ 安い小説のありきたりな設定みたいに、ゲーム内で起きてるクエストか何かの一種かもしれない ここはどう出るべきか…そういうキャラとして役を演じているのか、それとも本当に意思のある人間と考えるべきか でも梶原がドゥエガーやドゥエガーの仲間と一緒にいる事を考えると… 「僕に選択肢なんてものはないですね…」 何かを企んでいるとしてもだ、命を助けてくれた恩人に対しての態度くらいは心得ているつもりだ 無粋な真似はしちゃいけない 僕に選択肢がないのもそうだけど、人としての最低限の礼儀だけは守りたい 「じゃ、とりあえずは着替えだな そんな格好モロクじゃ自殺行為だからな」 R.G.Sとの待ち合わせ場所に行くために準備をする そろそろ日付も変わろうとしている時間だ。色々と物騒になってくる 遠くではパトカーやら救急車のサイレンが聞こえる それに混じって改造されてるであろうバイクや車の音も聞こえてくる 待ち合わせ場所は上布駅の前 俺の家からだと歩いてすぐの場所にある 今から出たとしても待ち合わせ時間の12時には充分間に合う 俺は念の為に何が起きてもいいように準備をする 夜とは言え今の季節は夏だ、少し厚着をするだけで凄く暑い が、我慢してTシャツの上に上着を羽織る 「そろそろか…」 今から出ても予定の時間まではまだあるが、早めに家を出る ゆっくりと玄関のドアを閉め、極力音を出さないようにして鍵を掛ける 今日は月に雲もかかっていなく、比較的明るい夜だ なんて考えながら歩いているとすぐに上布駅についてしまった 本当にものの数分だ 12時まで後5分程度か… 「ん…?」 上布駅は比較的小さい駅だ しかも回りにコンビニ等の店もない。故にこの時間ともなると人通りはめっきり減ってしまう 車も殆ど通らなくなる。が、俺の視線の先には大きめのワゴン車が止まっていた まるで闇に紛れる為に黒く塗装したかのような黒いワゴン車だ ――12時丁度 そのワゴン車から降りてきた奴が近付いて来る 帽子を深く被っているせいか、月の光では顔を知る事は出来なかった コツコツ、コツコツとそいつは近付いて来る 「どうも…」 声を聞いた感じでは男か女か解らない… だが服装と合わせてその声を聞くと俺とそう年齢は大差ないように思える そしてはっきりと解る。目の前にいるこいつこそがR.G.Sだと 何となくだが… 「夜分遅くに呼び出してしまい申し訳ございません」 「あぁ、いいよ別に… 俺は俺で藁をも掴む思いだから」 手掛かりといえばR.G.Sの持っている情報程度しかないわけだ 可能性が1%でもある限り、その1%に縋るしかない もっとも…信用するかしないかは俺の判断なんだ、自分勝手だけど… 「とりあえずここじゃ何ですので…僕の車まで…」 〜次のページへ〜 |