ドゥエガーに案内されて通された一軒の家屋
スラムの中心部に建っており、一番大きくとても目立つ
だがあちこち崩れていたり酷く汚れていたりで、建てられた当時の面影というものが感じられない
いや、感じさせないというのが正しいのかもしれない
今にも崩れて壊れそうな木製の扉を開け中に入る

中は薄暗く少しジメジメとしていた
カーテンの隙間から差し込む日の光のお陰で何とか足元は確認出来る状態だ
僕は何かに躓かないように恐る恐る、ゆっくりと足を進めた
暫く歩いた所で足を止める。天窓から指す日の光が2本の剣を照り付け輝かせていた
僕はそれに目を奪われてしまったからだ

「フォーチューンソードか? いい物だろう
『我等に幸運を』って意味合いを込めて飾ってあるんだけどな」

「我等に幸運を?」

ああ、と頷いてドゥエガーは僕の前に立った
そして飾ってあるフォーチューンソードの一本を手に取り、それを眺める
まるで母親が自分の子供を見つめる様な眼差しで

「さっきここに来る前に話しただろう?
俺達は俺達の自由の為に今、この街で戦っている」

ドゥエガーは今、モロクを支配するカグラという名の男と対立していた
1ヶ月くらい前からか、突如モロクの街に現れた謎の男がいた
カグラという名のその男は自分をファラオの代弁者と名乗ったそうだ

モロクは元々オシリスを崇める人々が作った街だ
モロクのすぐ近くに聳え立つピラミッドには今もなおオシリスが眠っていると言う
それを知ってか知らずかカグラはモロクでファラオの素晴らしさについて語っていたらしい
確かにファラオが眠る遺跡もモロクのすぐ近くにある、ファラオを崇める人がいてもおかしくはない
が、ファラオはオシリスと対立していたとの事だ
モロクを形成する歴史の上で、ファラオは必ず語られる存在故に、ファラオの眠る遺跡は残されていた
だがモロクの人々はファラオの教え、力が全てという考えには賛同してはいなかった

オシリスとファラオの対立がなぜ今現在の戦いに関係あるのか
それはカグラという人物に原因があった
『神は怒りに満ちている』と言い、ある日カグラはファラオの眠る遺跡へと潜って行った
数日後、カグラが遺跡から戻るとカグラの様子が変わっていた
変わっていたのは様子だけでは無かった
ほぼ枯渇状態となっていた水場を復活させたり、作物など育たない荒地を肥沃な土地へと変化させていったのだ
無論人々は感謝する
しかしそれが始まりだった

カグラはモロクの政治を司る人物達を次々と不思議な力でその手にかけていった
モロクに恐怖政治を布こうとしたのだ
勿論モロクの人々は反対した
だがカグラの力は神がかったものであり、反抗した人々を次々に処刑台へと送っていった
ファラオへの生贄という名目の下…

「これは俺達を率いて最後まで勇敢に、先頭に立って戦った人の形見だ
ホント、その人もカグラに負けず神がかった力を持った人でな、戦場で傷つく事なんて無かったからな」

「それでフォーチューンソードを?」

「お守りみたいなもんさ、名前こそ凄そうな感じだけどさ
実際はそこらに売ってるスティレットとかと変わりはない強さだ」

ドゥエガーは剣を元の場所に戻すと近くにあった椅子に腰掛けた
そういえば今はそんな話をしてる時じゃないんだ

「それで、あの…梶原はどこにいるんですか?」

僕がそう言うとドゥエガーは思い出したかのように、はっとして椅子から立ち上がった
立ったり座ったりで、その力をもろに受けるボロボロの椅子はギシギシと軋んでいた

「おい、ヒクサ! ヒクサー!」

「はいはいー!? 何でしょう!」

ドゥエガーの呼び掛けに答えるように奥の扉が勢いよく開き、シーフ風の男が飛び出してきた

「えーっと、ちょっと前に砂漠で見つけた女、どこ行った?
連れが目を覚ましたから合わせに来たんだが」

「あぁ、あの女っすか
街を見て回りたいって言って外に飛び出していっちゃいましたよ?」

「って、おいおいおい、大丈夫かよ…
あいつも相当疲れが溜まったような顔してたんだぜ?」

「あー…いや、でも一応見張り役に一人付けてましたんで、大丈夫かと思いますが…」

ふう、と溜息をひとつついてドゥエガーはこちらに振り返る
頭を軽く掻いてバツの悪そうな顔をしていた

「どうにも入れ違いだったみたいだな…
どうだ、お前の連れを探すついでに街でも見て回らないか?」

僕は少し考えたが断る理由も無かった
プロンテラで起きた事はドゥエガーの部下達が単独で起こした事だと解り、誤解も解けた
それどころか丁寧に謝ってもくれた
これ以上お世話になるのもどうかと思ったが、街を見ておくのも悪くないと思う

「すいません、それじゃお願いします」

僕達は街へと繰り出す準備を始めた
モロクには一部、スラムよりも危険な所があると言われたので僕は念入りに準備をしていった




「ふん、金張りの豪邸か…いい趣味してるよな」

俺達はアディックの雇い主であるカグラという男の住居に来ていた
瀬戸が言ったように本当にいい趣味してやがる
アラブの石油王が住むような宮殿が眼前に聳え立ち、全ての外壁は金色で塗り固められている
よく見ると小さな細工をしてある所には宝石が散りばめられていた
これこそ贅沢の極みというのか…

「で、俺達をこんな所に連れてきてどうするんだ?」

俺が門の所に飾ってあった金色の獅子像と睨めっこしている後ろで瀬戸の声がする
アディックはうーんと唸りしばし何かを考えていた

「本来ならカグラ様に面会出来る人間は限られているのですが、あなた方はモロクに来るのが初めてのようですし
モロクの街を統治するカグラ様に一度お会いしておいた方がいいかと思いまして」

「そうか、大層凄い人物なんだろうな、その男は…オラ、行くぞ」

「っととと!」

瀬戸は俺の襟首を掴み強引に引っ張っていった
俺はバランスを崩しながらも何とか体勢を直し、アディックの後に付いて歩く
敷石が一面に敷き詰められた広大な庭を抜けると、門のように金銀宝石が散りばめられている扉が俺達の前に現れた
扉の取ってはダイヤか何かで出来ているのだろう、透き通るような透明な宝石で出来ていた

「さ、どうぞ」

俺達は言われるがままに建物に入る
外装もそうだが内装も凄い趣味をしていた
床は全て大理石で出来ており、その上に敷かれている絨毯の素材も高級な物だ
所々に置かれている置物も全て宝石で出来ている
年功序列で給料が上がっていく公務員にとっちゃ羨ましい限りの品々だ
あぁ、安月給の教師がここまで揃えるにはいったい何年かかる事か…

「おい備前、何人生に挫折したような顔してんだよ…」

「いやな、貧富の差ってーのか? こうも現実を突き付けられるとな」

「馬鹿かお前は、ここは現実じゃねぇだろ」

瀬戸の言葉で思い出す
そういえばこの世界は現実じゃなかった
リアルに物事が進んでいく別世界、別の次元で時間軸で繰り広げられるパラレルワールド
または夢、このうちのどれかの筈だ

「それでは暫くこちらでお待ちください」

アディックの通された部屋は今まで見てきた作りとはまた少し違ったものだった
純和風というか何と言うか…
俺達が住んでいる日本の家屋と同じような作りの部屋
囲いに囲まれた小さな庭ではししおどしが音を響かせている
雰囲気はまるで日本そのものだ

ある程度いくつかの場所を物色してみるが怪しいものは特に発見出来なかった
とりあえずはカグラとか言う奴がくるまでここで待つしかないだろう
俺は縁側に腰を下し、どことなく視線を放り投げた
さて、これから何が起きる事か


〜次回へ続く〜

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル