| 「…どちら様でしょうか…」 「紡君の…お母様ですね」 普段は見せないような真面目な表情で瀬戸は長谷崎の母親と何かを話していた 俺は玄関の外で階下の風景を眺めながら立っていた しばらくすると長谷崎の母親は泣きながら玄関のドアを完全に開ききった 瀬戸がこっちを見て手招きをする 「それじゃお子さんの事は任せてください」 「よろしくお願いします」 母親は一頻り頭を下げた後、階段を降りていった また俺と瀬戸とで生徒に会うって事か 母親を外にやったのもある事が狙いだ 「…今度は暴れんなよ…」 「さぁね」 瀬戸は何故か楽しそうだった りあらぐ 第3話 「おい長谷崎、いるんだろ」 瀬戸はドアを数回ノックして呼びかける だが中から長谷崎の返事は無い どこかに出掛けてもいないらしいので、今は部屋にいる筈なのだが 「聞こえてんだろ」 再度呼びかけるが相変わらず返事はなかった すでに瀬戸はイライラしてるようだ 気の短い奴め 「お、おい、あんまり無茶はすんなよ」 瀬戸はドアノブを激しく回し始めた 長谷崎の部屋のドアには鍵がかかっているらしくガチャガチャと音がするだけだ それでも無理矢理ドアを開けようと瀬戸はドアノブを回す が、それも数秒の事 ドアノブから手を離したかと思うと、瀬戸は数歩後ろに下がった 何となく察しがついた 「無茶すんなって」 俺の言葉にも耳を傾けず、瀬戸はドアを蹴り抜いた 「…言ってんだろ…」 蹴破ったドアを放り投げ、瀬戸は部屋の中へと入っていった 部屋の中は散らかっており足の踏み場も無いほどだ 窓も締め切っていて暗い、そしてジメジメしている 「おい、いるなら返事しろよ」 パソコンの前に座っていた長谷崎の肩を掴む瀬戸 長谷崎はようやく俺達の存在を確認したのかこっちを振り向いた 瀬戸は溜息をひとつついて拳を握り締める 俺は咄嗟に反応し、長谷崎を殴りつけようとする瀬戸の腕を掴む 「やめろって」 「ふんっ」 瀬戸は俺の腕を振り払い長谷崎の胸倉を掴む 「まず言っておく、二度言わせるなよ 明日から学校に来い、面倒な手間を増やすな、他人に迷惑かけてんな」 それだけを言うと瀬戸は長谷崎を突き飛ばした 本棚に背中を打ちつけながらも長谷崎は瀬戸の事を睨んでいた 瀬戸をそれを見下ろし睨み返す 「何か言いたそうだな」 「…僕は選ばれた…人間なんだ……」 「は?」 「僕は多くの人々の中から選ばれた……選ばれし者なんだ 英雄なんだ、この世を統べる事が出来る人間なんだ、王なんだ、統治者なんだ 先生達に言っても解らないと思うけどね」 まるで発狂した者のように一息で全ての言葉を吐き出した長谷崎 以前会った長谷崎はどちらかというと大人しめな感じだったが、今は全然違った 言うなれば…そう、『黒く輝いていた』 瞳の奥は暗くて底の見えない沼のようだ だが長谷崎の表情は明るい ―――リィィィィィィィィン… と、その時だった、鈴虫の鳴き声を数倍にも醜くしたような音が辺りを包んだ その音が聞こえると長谷崎は素早くパソコンの前に座り直した 「おい、話はまだ終わって…」 瀬戸が言葉を発するのと同時にパソコンのモニターから光が溢れ出した だが不思議と眩しくは無かった そして流れ込んでくる無数のデジタル信号のようなモノ 0と1の情報、ドットで描かれた無数のキャラクター達 それとは逆に自分の意識がパソコンの中に流れ出てるような感覚だ 色々な記憶がフラッシュバックし、0と1に置き換えられる 色々な知識はフラッシュバックし、0と1に書き換えられる 「くっ…あっ……な、何だ…ぁ…」 肉体から魂が引き抜かれる映像-ヴィジョン-を上から見下ろしている 自分を上から見下ろすなんて不思議な光景だ 「おい備前! びぜ……」 瀬戸の声が途中で途切れる はっきりと目を開けているのだが、どういう状況なのか解らない状態だ 自分の姿しか確認出来ない 自分の姿を確認出来る時点でおかしいと思うのだが… 「…Ragnarok…Online……?」 俺の最後の記憶は…映像は… Ragnarok onlineという文字だった 〜次のページへ〜 |