今日の分の仕事を片付けファイルに纏める
仕事と言っても保健室に来た生徒の名前とクラスで纏めるだけだから簡単だ
ファイルを机の引き出しにしまい立ち上がると、俺は保健室の窓を全開にする
白衣のポケットから煙草を一本取り出しジッポで火をつける

「ふぅ〜…」

思いっきり煙を肺に浸透させるように吸い込み、一気に吐く
至福の一時だ

「…保健室は禁煙だ、ヤンキー牧師」

最高の時間を過ごしている時に邪魔が入った
そいつ――同僚の瀬戸和海は保健室の扉の所で俺の方を見ている
悪いのは確かに俺の方だが、瀬戸に言われるのだけは何か気に障った

「今はしがない保険医だ、牧師業はほとんどやってないって」

俺は恩師とも言える教会の神父から洗礼を受け、牧師として活動する事が許されていた
だが今は私立高校の保険医をやっている
何故かと聞かれれば『何となく』と答えるだろう
だけど、辞めるかと聞かれれば『辞めない』と答えるだろう
一応この仕事には誇りを持っていた
瀬戸とは違って…



りあらぐ 第2話



「俺に何か用かな? 喫煙現場を抑えに来たわけじゃないと思うけど」

俺は半分くらいまで吸った煙草を揉み消し、準備しておいた携帯灰皿へと吸殻を入れた
携帯灰皿の封をきちんと閉め、ポケットサイズの消臭剤を保健室に振り撒く
ここまでして煙草が吸いたいってのが愛煙家ってものだろう
瀬戸は呆れ顔で俺の行動を見ていた
ある程度消臭剤撒いて窓を閉める、多分匂いは残っていないだろう

「ちょっと聞きたい事があってな」

瀬戸は近くにあった椅子を自分の下に寄せ、腰掛ける
安物のパイプ椅子らしく、ギギギという錆びた金属が軋む音がした
俺だけ立っているのも何なんで椅子に座る

「面倒なんだけどこれも仕事でな、少し時間を貰うぞ」

そう言いながら瀬戸は手にした名簿を開く
名簿には2-Aと書かれていた
確か瀬戸は2-Aの担任だった
教師らしくなく無気力で無感動、生徒の事に関心なんてないように思っていたが…
そのお陰ですっかり忘れていたが一応担任だったっけな

「…伊澤拓、知ってるか?」

「…ちょっと待て」

俺は伊澤拓という名前に聞き覚えがあったが、後少しの所で思い出せない
どこで会ったか、どこで見たか
伊澤イザワいざわ…確か一ヶ月くらい前に会ったような
俺は自分の机を開け、さっきしまったファイルを取り出して中を確認した
…あった
最後に会ったのは…一ヶ月ちょい前だ

「あぁ、確か寝不足のせいで体育の時間に倒れただとかで運ばれてきたな」

「そうか、じゃあ…長谷崎紡は?」

「ちょっと待てな…えーっと長谷崎長谷崎……二週間前に来てるな
内容は言えないが、相談を受けた、まぁ家庭の事情に関してだけど」

「流石牧師」

「言うな」

牧師と言われるのには抵抗感を覚える
特に瀬戸に言われるのは何か嫌だ
瀬戸なんて俺の顔を見ながら笑っている
俺が牧師と呼ばれるのに抵抗感があると知って言っているな

「ふむ…」

瀬戸は神妙な顔つきになったかと思うと名簿を閉じる
いつになく真面目なようだ
俺の勘違いじゃなければ、だけど

「で、こいつらがどうかしたのか?」

「いや…少し前から学校に来なくなってな、この二人に限った事じゃないが…
最近学校に来なくなる生徒、ようは不登校の生徒が増えてきたんだけどな、どうにも様子がおかしくてな」

「様子がおかしいって何だ? …それと俺とが関係あるのか?」

「関係は無いんだけどな、ついでに聞くが…三那原美香は知っているか?」

三那原?
みなはらみなはら…と、あった
昨日来たばっかりの生徒だったな
保健室に来た時の顔色の悪さは相当だった気がする
で、生徒達との関係は無いと瀬戸は言っていたが、どうにも気になるな
それに三那原は2-Aの生徒じゃない

「何で保健室の利用者の生徒達ばかりを聞いてくるんだ?」

「何かおかしい事は無かったか、と思ってな」

「おかしい事? 保健室に来る生徒は少なからずどこか具合が悪いもんだ
それは体であったり心であったり…そもそもお前の言うオカシイってのは何だ?
それに何でこの生徒達について俺に聞いてくるんだ? 担任はお前だろう」

「知るか、お前は聞いてないのか? 最近学校に来ない奴が一気に増えたんだよ
原因なんて解らん、親が聞いても行きたくないの一点張りだ
それで担任の俺の所にまで電話されちゃいい迷惑なんだよ、親のお前が知らないのに俺が知るかっての」

「じゃあお前はどうしたいんだよ、あ? 俺にこんな話聞かせてどうしたいってんだよ?」

「俺か? 今からそいつらの家に言って一発ぶん殴るんだよ
備前、お前は俺の足代わりだ」

…はぁ?
ぶん殴る? 足代わり?
前々から滅茶苦茶な奴だと思っていたがいきなり何を言い出すんだ
殴ってどうなるって言うんだ、性根を叩き直すとでも言うのか
それに…

「足代わりってどういう事だ」

「二ケツだ、言わなくても解るだろ」

「はぁ…? ざけんな、何でお前なんかの為に俺が!
しかも俺の大事なバイクなんかにお前を乗せられるかっ!」

「駄目か?」

「駄目に決まってるだろうが、で、何? お前は何なんだ? 生徒をぶん殴ってどうしようっていうんだ?」

「無理矢理にでも学校に来るようにするんだよ
何があったか知らねぇがこんなところで人生潰して親の脛齧って生きてくってか?
変なとこでひん曲がって俺みてぇにならないようにしないとな…」

「俺みたいに…って」

「ふん…」

それだけ言って瀬戸は俺から顔を逸らす
少しだけだが瀬戸の内面を垣間見れたような気がする
無気力で生徒に無関心な態度を示してても心の奥では、か
本当の事言っちゃえば楽になるっていうのに…
何でこうも憎まれ口を叩くのかね、天邪鬼は

「わーったよ」

「何が…」

「解ったって言ったんだ、で、どこに行くんだ?」

俺も何だかんだ言って断れないタイプなのか
瀬戸のニケツ案に乗ってしまった
絶対に今度飯奢らせてやる

「ふん…まずは新宮町だ」

新宮町…
ここからじゃ20分てところか
残業手当…つかないんだろうなぁ


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