音をあげてかなりの重量を持った大型の車がカーブを曲がる
運転している奴の顔はこちらから覗けないがきっと涼しい顔をしている事だろう
声ひとつあげずにハンドルを握っている
「もうこんな事には慣れっこですよ」みたいな恐ろしい事を口走りそうだから声はかけない
しかし俺に与えられた仕事というか任務は物凄く過酷なわけで

「高速に入ります。そこで何とかしてください」

「こ!? 高速!? んな無茶な!」

一般道を走っている今現在でさえ80から90km/hは出ているだろう
だがこの車を追ってくる赤い目を持った黒い影を引き離すには至っていなかった
それどころか地味に地味に影との距離が縮まってきているように感じる

「おまっ! おい! こんな警棒一本でっていうか落ちるって!」

「大丈夫です。とある先人が言ってた言葉があります…『ガッツ』と」

「冗談だろう!?」


りあらぐ 第11話


日の光が見え始めてきた
昨夜は全然眠れなかったせいか、朝日が凄く目に染みた
僕の心臓は昨日の夜からずっとドキドキしっ放しで眠気さえも忘れている
今日でこの街の行く末が決まるんだけど…

「どうしたの?」

ドゥエガーの小屋の外から見える風景を眺めていると、さっき起きてきたのか眠たそうな顔をした梶原が出てきた
知らない内に僕達と一緒に行動している黒猫も梶原の足元にいる
ドゥエガーが言うには僕達をソグラド砂漠で見つけた時には既にそばにいたらしい
今のこの状況は猫には難しいのか、小さな欠伸をしながら唸っていた

「悩んでる?」

眠そうな目を擦りながら言った梶原の一言に軽く僕は頷いた

「ミサキの言った事かな?」

僕は再度頷く
中々どうして、梶原は人の心の中が見えてるんじゃないかと思う時がある
普段からも煙のような空気のような雲のような…
実体の無いものを掴むようなそんな感じ
文字通り掴み所のないのが梶原だった

「あの話を聞いたら…」

「この世界は全部0と1の集合体って話だね
人々には人格こそあれどプログラミングされたキャラクター
自己で考え、行動するけどデジタルでしか生きられない生命体…」

梶原が言ったように、薄々は感じていたんだけど、この世界はデジタルの世界
ラグナロクというゲームの中に入った人間以外は人格を持つデジタル人間
誰が何の為に作ったのか、何の目的で人を中に取り込めるようにしたのか
…どうやってこんな世界を作り出したのか…ミサキとR.G.Sという人物がそれを調べているらしい
今解っているのはここがラグナロクの世界ということ
誰かがこの世界を作り出したということ
RPGでいうイベントが起きた時にラグナロクの世界に引き込まれるということ
極少数だが、自由にこの世界に出入り出来るということ
それくらいらしい
だけど僕にはアディックやドゥエガーが作られた人格のデジタル人間だとは思えない
しっかり体温だってあったし、こっちの言葉にもしっかり反応してくれる
ミサキはこの世界で起きてる事はイベントとして割り切れと言うけど…

「梶原は…作り物だとかって割り切れるの?」

「…う〜〜〜〜〜ん」

僕の問いかけに梶原は頭を抱えて悩んだ
足元の黒猫は梶原を見上げながら首を傾げていた

「アタシは…」

長い沈黙
それを打ち破るかのように梶原はゆっくりと話し始めた

「アタシ、馬鹿だから難しい事は解らないけど、カグラって人がモロクの人々を苦しめてるんだったら…」

「そう…だよね、迷わないで戦うって言ったばっかりなのに…」

みんなを助ける為に戦うって昨日心に決めたばかりだった
なのにミサキの言葉ひとつで心が揺らぐなんて僕は何なんだ
決意した事を翌日にはすぐ忘れてしまう人間になるところだった
…確か作戦が開始されるのは今日の正午
正午にカグラがモロクの中心部、古砦前の泉で演説か行われるとの事
大勢の人が集まったところで作戦開始
まずは人ごみに紛れたドゥエガーの仲間が騒ぎを起こす
その後僕達4人が後方から回り…カグラに近付く
簡単に言えば撹乱&挟み撃ちという形になる
そして最大の敵、アディックと正面から対峙するのは僕達になるだろう
常にアディックはカグラの後ろ、演説の舞台の裏に待機しているという
そこを突破出来れば終わりはすぐ見えると言われた
そんな重大な役目を請け負っているのに有耶無耶な気持ちじゃ…

「よし! もう腹を括った! この戦い、絶対に勝とう!」


……
………

「梶原…寝てる…?」




「そろそろ時間になります」

太陽の光が真上から照り付ける
カグラによる演説が開始される時間だ
演説の会場の方は既に準備が整っており、いつでもカグラを迎え入れる事の出来る状態になっていた
時間も時間ということで、正装したアディックがカグラの部屋へとやってきた

「…向こうはどうなってる?」

窓際に置かれたリラックスチェアから立ち上がりカグラは窓の外へと視線を移す
ここからモロクの中心部は見えないが、そこに至るまでの道には様々な装飾が施されている
それが自分の為に行われている事だと思うとカグラの口元が少なからず綻ぶ
自分の為に民衆が尽力を尽くすという行為にではなく、『本当の私の目的すらも知らずに…』
カグラの目論むオシリス復活の為にこれから行われるであろう大々的な儀式の事も知らずに…という思いと
どちらかといえば力の無い者を圧倒的な力で捻じ伏せる事という行為に対する陶酔の感情が先走っていた

「既にモロクの住人のほとんどが集まっています。
これも偏にカグラ様の絶対的な力を統率力の賜物かと…」

人道的に許される事ではない行為―――他人を犠牲にして自分が上に立つ
そんな事をしているカグラではあったがアディックはずっとカグラに仕えてきた
今のカグラの笑みにすらアディックは何も言わなかった
『力だけでは民衆は従いません』だとか『押さば引け』のような言葉すら発しなかった
なぜならアディックもカグラと同じだからだ
カグラにはオシリスの復活という目的があって、その上にカグラという人物の思考が置いてあるが
アディックは最初っから他人の興味など無かったのだ
ドゥエガーが言ったように先ず最初はいい人を演じる
自分に近寄らせ自分の都合のいいように動かす為の準備だ
力があるという事を誇示出来ればアディックはそれでよかった
アディックのその考えにカグラの思想がどう映ったのかは解らないが…

「これから起きる事すら解らない民衆がこうも…
中々に壮観だとは思わないか? いや、きっと思うだろうな…アディック?」

アディックはカグラに仕えている
長い間ずっと仕えている
戦闘能力というものならアディックの方が上だが、ずっとカグラに仕えていた
きっとこれからもそうだろう

「きっとそうだと思います」

顔色ひとつ変えずにアディックは言った
演説というのは表向き
本当の目的はオシリス復活の為の儀式準備
オシリスの力を復活させるべくモロクの人々の生気を全て捧げるという儀式
アディックの訳した古文書に書かれていた事を行おうというのだ

「オシリスが復活すればカグラ様がプロンテラ王になられるのも時間の問題かと」

そしてオシリス復活はカグラの目的の中のひとつに過ぎなかった


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