外から見た分だとそれほど広くないと思っていた
だけど建物の内部に入ると不思議なほど広い空間が続いていた
窓のない部屋には日が入り込む事はなく、僕達が入ってきた扉から差し込む少々の光だけが足元を照らしていた
ミサキという名の男が住まう場所…
暗く、ジメジメしているうえに妙な匂いが辺りに充満していた
生臭いような匂いと油のような匂い
それが何なのか確認は出来ないが、異様な物がこの先にあるものだと感じられる

「…何か用? しかもそんな大勢で」

建物の中に声が響いたかと思うと床下の方から音が聞こえた
ガコン、と何かを押し上げるような音がし、暗かった建物の内部に明かりが灯る

「なぁに、ちょっとお前に会わせたい奴等がいてな」

ドゥエガーが建物の一番端にある椅子に座っている男に近付いていった
薄暗くてよく解らないが声の感じから僕と同じくらいの年齢かそれよりちょっと上くらいだと感じる

―――トゥトゥトゥトゥトゥ

「あっと…ちょっと待ってくれ、連絡が入った」

ミサキの後ろにある小さなノートパソコンが音を発した
ラグナロクの世界に不釣合いなその物体、物質
そのような物を持ってるって事は僕達と同じような存在なのかもしれない
ラグナロクの世界じゃない所からやってきた人間。それ以外には考えられないだろう


りあらぐ 第10話


「運命だとか一期一会だとか…
よくは解らないがそういったものは存在するのかな
俺はこの通り科学者とか技術者みたいな類だ、精神論とか宗教的な事はあまり気にしないんだが…」

ミサキは立ち上がり、僕の顔をじっと見てきた
科学者とか技術者の類…と自身が言ったように、この部屋の中には色々なものが置いてあった
大よそラグナロクの世界には似つかわしくないような物が沢山ある
剣や斧、槍、アサシンが使うカタール類の武器も置いてあるがそれは他の物に比べれば極小数

「あ、これってこの前発売されたばかりのMDウォークマンだー」

梶原が手にした物
先週某大手企業から発売されたMDウォークマンだった
MDとほぼ同じ大きさと薄さで連続再生200時間という優れものだ
もちろんこっちの世界になんて存在しないものだろう

「それは俺が持ってきた物だ
こっちにゃ娯楽っつー娯楽が何もないからな、それで気を紛らわせているのさ」

「持ってきたって…」

僕はその言葉に驚いた
持ってきた、って言葉は家からここに持ってきた、くらいの軽い意味じゃないからだ
明らかに向こうの世界から持ってきたという意味を含んでいた
僕の先入観と思い込みでしかないと思うけど

「あんた…村瀬守だろ?」

「えっ…?」

ミサキの視線がウォークマンから僕に戻る

「偶然…とは思えないが…
お前さんを探してる奴を連絡が取れたもんでな、まったくなるほど…アイツは何考えてるんだか」

「探してる…探してる人って誰ですか?」

一番最初に浮かんだ人は家族の誰か、だけど…
ラグナロクのラの字も知らない両親だ多分それはありえないだろうし
兄貴だってそうだ

「お前のご学友さんだよ
俺の知り合いが教えたらしいぜ、ここの事を」

ミサキはそう言うとノートパソコンをこちらに向けた
表示された画面には僕の特徴が書かれたメッセンジャーのウィンドウが表示されていた
ここまで僕の事を知っててラグナロクの事を知ってる人…それでいて僕の友達

「そ、その人と連絡を取る事は!」

「…今はちっと無理みたいだな…向こうは少々厄介な事になったらしい
一方的に回線を閉じられたよ、こっちから干渉する事はまず無理だな」

そう言ってミサキはノートパソコンの電源を落とす
だけどさっきの…僕の特徴を知っている人は一人か二人くらいしかいない
ラグナロクという共通の趣味で繋がった友人は竹原君と美香さんしかいない
僕らがなったように、美香さんはこっちの世界にいると思うし
残るは竹原君だけ…
そうなんだ…僕の事を心配して、どうにかしようとして…
勝手な思い込みでもいい、ただそれだけで…

「で、お話中申し訳ないんだが…
お前さんは何者なんだ? ついつい聞きそびれたんだが」

僕とミサキの間に割り込んで瀬戸先生が入ってくる
ドゥエガーからのちゃんとした紹介かミサキ自身の自己紹介もまだだった
ミサキという男と確定したわけじゃない、まだ何者かは解らない状態だった

「その前にそっちが名乗るべきじゃないのか?
一応ここは俺の家って事になるんだけどな?」

「ほう…」

一気に険悪なムードになる
ミサキは高圧的に出られるのが嫌いなようだ
瀬戸先生もよせばいいのに更に威圧的なオーラを発していた

「まぁ待てって、ここに案内したのは俺だ」

そんな二人をなだめる様にドゥエガーが間に入る

「あー…こっちがさっき話したミサキって奴だ、お前らの助けになるかと思って連れて来た
で、こっちが…ミサキは知ってるようだがマモル、セト、ビゼンにサカだ」

「ふーん…マモルにセトにビゼンにサカねぇ…フルネームは何て言うのかな」

ミサキは気付いているようだ
自分と同じような人間がここにいるって事を
僕達がラグナロクという世界に入り込んだ人間だっていう事を

「ま、そんな事はどうでもいいか…
今回の俺の目的はお前達を元の世界に戻す事になったよ
微力だがせいぜい頑張らさせて頂くかね」

「は? おいおい、どういう意味だよそれは」

「えー、アタシ達ここから出れるって事?」

備前先生と梶原の言葉にミサキがニヤリと笑う
ちょっと待った、今確かに元の世界に戻すって…

「驚く事はないだろう? こっちと向こうを行ったり来たりしてる奴だっているくらいだ」

元の世界に戻る手立てを知っている人がいきなり目の前に現れるとは…
かなりの前進だとは思うけど、僕達には放っておけない事があるし
ゲームの世界の人間だから別に放っておいてもいいって言われればそうかもしれない
それに自己満足だと言われるかもしれないし、僕達がモロクの住人を解放するとかしなくてもいいとも言われそうだ
だけど戻る前に解決しなくちゃいけない事が僕にはあった

「それって今すぐに戻れる事ですか…?」

「お前達次第、と言っておこうかな」

僕の質問に簡単にミサキは答えた
僕達次第と言ったけど…何で僕達次第なのか…

「とりあえず、戻る為の準備はしなくちゃいけないな
こっちの部屋に来てくれ、全員に合うような武器を用意しなくちゃな」

武器、と言われて少しドキっとしたが一番初めの目的は戦いの準備をする事だった
モロクの街の今後を掛けた戦いにいきなり参加するなんて不安でいっぱいだ
だけど引き受けたからには…悔いのないようにしたい


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