「よいですかな、ソラどの」 輪が吸い込まれた腹部を不思議そうにソラがさわる前で、マナイは言う。 「いつも通り戦っている途中で、その輪から戦人へと力が送り込まれます」 「力?」 「戦人を眠らせる力、とでも申しましょうか…ともあれ、その力が送り込まれると戦人は動きを止めるはずです」 「そうなのか…」 ん、と首を傾げるソラ。 「俺は大丈夫なのか?」 「それはもちろん」 そのように作りましたから、とマナイはソラを安心させるように頷いた。 地面に降り戦いを続け、隙を見て強く杖で突くと同族は不意に身体から光を放った。 「……!?」 何事かとソラが距離を取ると、すぐに光は収まる。 そしてそこには地面に倒れ伏す同族の姿があった。 「…終わった、のか?」 指一つも動く気配が見られない。 緑に姿を変えても何も危険を感じなかったので、ソラは姿を青に戻すと手に持っていた枝を捨てる。 遠くからミコトが近づいてくるのも分かったので、彼が来るまでに木の上の輪人を下ろしてやろうと思った。 「トウヤ…!」 息を切らしながら森へと入ると、既にソラの戦いは終わっていた。 出来るだけ静かに下ろしたのだけれど、と心配そうに言うソラの腕には屋根葺きのトウヤが悲惨な姿で抱えられていた。 弱いながらも呼吸を確認し、ミコトは安堵のため息をついた。 「骨が何カ所か折れているが…何とかなりそうだ」 「そうか」 ほう、とソラも安心したように息を吐く。 「早く戻って、手当してやらないと」 「…あれは、どうすればいい?」 ソラの視線の先には動かなくなった戦人。 「…マナイさまの話では、あのままでも大丈夫らしい。だが…」 「?」 「…後で、何か身体が覆えるようなところに移そう」 「…そうだな」 木から滴る雨に濡れている戦人を後にして、三人は集落へと急いだ。 トウヤの怪我は酷いものだったが、命に別状はなかった。 マナイの指示で戦人の身体は木の箱に入れられ集落から少し離れた地に埋められる。 これでは死んでしまうのではないかと首を傾げるソラにマナイは言う。 「彼は死んではおりませぬが、息はしておりません…後の世で、石を取り出す術が出来るまで眠っていてもらうのです」 「今は、無理なのか?」 盛り上がった土を見ながらソラが問う。 「調べてはいるのですがまだ…今無理に取り出そうとすればただ命を奪うだけです」 「…そうか」 ソラは自分の腹を撫でながら頷いた。 そんなソラを見ながら、ミコトはため息まじりに言った。 「皆にも…伝えた方がいいだろうか」 「そうですなあ…時期を見つつ、伝えて参りましょうか」 箱を大量に作ってもらわねばなりませんし、とマナイもため息をついた。 ソラの役目、そして戦人の扱いはゆっくりと輪人へと伝えられた。 戦士という役目とその姿を知らなかった人々は驚き、始めはソラを恐れ忌避する動きも少なからず見られた。 それでも変わらないソラの人柄とミコトらの態度…そして家族を救われる人が増えたことにより人々の意識も変わっていく。 戦人に狙われ殺されるのは仕方ないことだと諦めていた輪人が、変わり始めていた。 next→ novels top |