眩しい日差しに眉をひそめ、彼女は座る位置を変える。 長雨の季節もようやく終わりを告げ、晴天が続くようになっていた。 手元に広げていた石板に目を再び落としたところに声がかかる。 「ねえ、そんなの見ていて楽しい?」 「…お前か」 顔を上げると見知った少年が不思議そうに石板を覗き込んでいた。 用の無い限り他人と干渉するのを好まない彼女にこうして気さくに話しかけてくるのは彼くらいのものだった。 それでも頻繁に会いに来る訳ではなく、彼はもっぱら彼自身の兄や他の戦人と戦って遊んでいる。 彼に石板を手渡そうとするが、首を横に振られた。 「いいよ、何が楽しいのか分からないもの」 「そうか」 いつものやりとりを気にせず、彼女は石板を脇に置いた。 軽く丈夫な石に刻まれた知識は幾度読み返しても彼女を飽きさせることは無いのだが、他に理解する戦人が少ないのも知っていた。 あーあ、と息を吐きながら彼はぺたりと近くに座り込む。 「最近ほんとにつまんなくてさー」 「輪人ででも遊んでくればいいだろう」 「だってあいつら弱すぎるんだよ」 不満そうに唇を突き出して彼は言う。 「たまにはいいけど、いつもじゃ飽きちゃう」 強い相手と戦いたいの、と頬を膨らませる様に彼女は呆れる。 「それならお前の兄がいるではないか」 「兄さんどこか行っちゃった」 むす、と不機嫌なまま少年が言う。 「?」 「いつもいた場所に行ってもいないんだ…ここに来てからふらふら出かけることってあんまりなかったのにさ」 つまんないのー、と地面に転がる少年を見ながら彼女は首を傾げる。 少年の言うとおり、彼の兄は気に入った場所を見つけるとそこから動くことはまず無かった。 空さえ眺めていられたらそれでいい、と明言する青年だ…他に気に入った場所でも見つけたというのだろうか。 「仕方ないから他に相手見つけようと思ったけどなんかここら辺の人いなくなってるし」 みんなどこ行っちゃったのかな。 兄のように空を仰ぎ不満を漏らす少年を見ながら、彼女は考える。 確かに最近同胞の気配が減ってきている…個人行動が基本なので気にしていなかったが、もしかしたら何かが起こっているのかもしれない。 退屈を紛らわすにはいい調べ物ができた、と彼女は一人頷いた。 数日の後、彼女は自ら少年の元を訪れる。 「珍しいね?」 「もっと、珍しいことが分かった」 「?」 「輪人に戦士が産まれた」 「本当!?」 久しぶりだね!と喜ぶ彼を彼女は微笑みを浮かべて見る。 「早速、開始しようと思う」 「やった!…ああでも、兄さんがいないのが残念だなぁ」 今回こそ勝とうと思ってたのに、と残念がる少年に彼女は笑う。 「…そのことだが」 そうして教えた内容に、彼は飛び上がらんばかりに喜んだ。 next→ novels top |