「マナイ」                                      

木にもたれたままソラはマナイを見上げる。                       

子供たちも同じようにして、不意に現われた彼を見上げていた。              

「マナイさまだぁ」                                  

「ほんとだー」                                    

「おやおや…たくさん遊ばれたのですな」                        

まだ息の整わない子や、満足そうに身体を投げ出して木やソラに凭れている子を見る。    

「うむ…マナイ、ソラはミコトよりも遊ぶのが上手だぞ」                 

ソラの横に座り、彼に凭れたままでウエナが満足気に笑う。                

「それは…何よりと申しましょうか」                          

ほほ、とマナイは苦笑した。                              

「マナイも遊ぶか?」                                 

ウエナがそう声をかけると、マナイは小さくて丸い目を細めて笑った。           

「それも楽しそうですが…残念なことに、やるべきことがございまして」          

「そうか」                                      

なら仕方ない、と彼女は首肯いた。                           

マナイはそんなウエナに微笑み、口を開く。                       

「すみませぬが…ちと、ソラどのをお借りします」                    

「………」                                      

ウエナは無言でマナイを見上げた。                           

彼らの会話を聞いていた他の子供たちも、マナイを見上げる。               

そんな視線の先で、マナイは困ったように微笑んだ。                   

「…そのようなお顔をされると、こころ苦しいですなあ…」                

「…でも、やるべきこと、なんでしょ?」                        

「お役目のじゃましちゃいけないもん…」                        

分かってるもん、と頬を膨らませて子供たちは呟く。                   

マナイとそんな子供たちを交互に見て、ソラは目を瞬かせた。               

「…遊んでいたら、駄目なのか?」                           

「ことが済んだら、いくらでも」                            

それに、とマナイは呟く。                               

「…知りたいことを、お教えいたします」                        

「………」                                      

ソラは黙ってマナイを見上げる。                            

そんな彼らを見て、ウエナはべしりとソラの背中を叩いた。                

「……!?」                                      

「行け、ソラ」                                    

「ウエナ」                                      

「我らと遊ぶのは、いつでも出来るから」                        

行ってこい、と彼女はソラをまっすぐ見て言った。                    

                                           

                                           

                                           

マナイに連れられて行った場所は、昨日と同じくマナイの家だった。            

変わりない…あるいは、変わっていても気付けない部屋の中でソラは昨日と同じ場所に座る。 

既に用意されていた茶を一口飲んで、息を吐いた。                    

向かいに座ったマナイも、同じように息を吐き出す。                   

「…さて」                                      

小さくて丸い目を見開き、マナイは口を開いた。                     

「始めてしまいましょう」                               

「……?」                                      

戸惑うソラに軽く微笑み、マナイは脇に置いていた包みを手に取った。           

昨日の会話の中で取り出されたものと同じだとソラは気が付き、幾度か目を瞬かせる。    

「それは…何だ?」                                  

マナイは包んでいる布を静かに撫でて、呟く。                      

「…私めが、一月かけて作り上げたものでございます」                  

ふう、と息を吐き出す。                                

「…これからお話することを、良く考えてくださいませ」                 

「…?」                                       

「私とて、まだ悩んでおるのですから」                         

ふ、とマナイは笑みを洩らし…包みを再び横に置いた。                  

「…我らが笑顔でいられぬ訳は、非常に簡単です」                    

彼は静かにソラに話を始める。                             

「昨日のようなことが、起こるからでございます」                    

分かりますな、とマナイはソラの目を見て言った。                    

その視線を受けとめてソラは首肯く。                          

「……戦人が、輪人で遊ぶから」                            

だから笑顔でいられない。                               

噛み締めるように、ソラは言った。                           

「…それなら、どうしたら我らは笑顔になるか」                     

静かに沸き立つ湯気の向こうで、マナイはゆっくりとことばにする。            

「戦人が、いなくなればいい」                             

簡単でございましょう?と彼は微笑んだ。                        











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