「ねぇ、遊ぼうよ」

………面倒なやつが来た、と彼は思った。





眺めていた空が遮られて、いきなり顔を覗き込まれる。

遮ったのは彼の同胞の一人。

普通の同族なら偶然会ったとしても無視して通り過ぎるだけなのに、今目の前で微笑んでいる少年だけは別だった。

「………」

無言で目の前の顔を押し退け、体を起こす。

今せっかくいい雲が通っていたのに、などと内心残念がりながら軽く伸びをした。

「ねー、遊ぼう?」

隣にぺたりと座り込んで、首を傾げる少年。

「……何をするんだ」

多少自分でも不機嫌だと思うような声で問い掛ける。

その声と顔……恐らく顔も不機嫌そのものだったんだろう……にぱちくりと目を瞬かせ、少年は無邪気に微笑んだ。

「えっとね、いつもの」

「………」

まあいいか、と思い、彼は深くため息をついた。





少年との遊びは別に嫌いじゃなかった。

ただ、好き好んでしたいとも思わなかったが。

「……炎は、使うなよ」

「どうして?」

「森が、燃える」

「はーい」

心得たように首肯いて、少年は姿を変えた。

それまでのあどけないまでの姿を欠けらも見せない……輪の人たちが呼ぶ異形の姿。

それを確認して彼も姿を変え、日の光の中に一つの闇が生まれた。

小さな気合いと共に少年であったものが彼に近付き、拳を振り上げる。

それを受けとめて反対に拳を叩きつけ、地に転ばせた。

「あはっ!」

嬉しそうな声を上げながら転がった勢いそのままで起き上がり、また彼へと飛び掛かる。

連続して打ち付けられる拳を躱しながら、彼は相手を思い切り蹴り付けた。





傷つけ、傷つけられながら闘い合い……転ばされて十数回目にして、ようやく少年は動きを止めた。

「あー……楽しかった」

「………」

「やっぱりさ」

少年の姿に戻り、彼は心底嬉しそうに微笑んだ。

口の端に残る血をくい、と拭いながら。

「輪人と遊ぶよりも、他の奴らと遊ぶよりも……兄さんと遊ぶのが一番面白いよ」

「……そうか」

彼も姿を戻し、その場に腰掛ける。

弟程ではないが、彼もいくらか傷を負っていた。

「でもさ」

「?」

くる、と少年は彼の方を見た。

そして不思議そうに首を傾げる。

「どうして、兄さんは本気で遊んでくれないの?」

「………さあ、な」

また彼も不思議そうに首を傾げた。

言える訳など無かった。

どうやったら本気になれるのか、彼自身分からないのだから。





少年が去った後、彼はいつものように近くの小川で汚れた身体を清めた。

怪我自体はほとんど治っていたが、出血が凝って気持ち悪かったから。

そして、また草の上に寝転がり、空を見上げた。











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