昨夜の大雨が嘘のように、空は明るく晴れ渡っていた。

そのまま次第に日が傾き…暗くなる中で、用意された台に篝火が灯される。

一つ…二つ…と灯されていくにつれて、深い闇に包まれそうになる集落をぼうっとした明かりが照らし始めた。

集落の中心にある広場…泉の周りに、輪の人々がざわざわと集まっている。

その中心には一際大きな篝火が用意されて、周囲を明々と照らしていた。

昼間の内に用意された食物が並べられた前には、目を輝かせた子供たち。

しばらく談笑が続けられる中…軽やかな鼓の音が鳴り、人々は話を止めて静まり返る。

泉の前に、彼らの待ち兼ねていた人たちが立っていた。

輪人の衣服に身を包み、一気に集まった視線に戸惑った表情を浮かべているソラ。

それに苦笑しながら、巫女装束に身を包んだウエナが静かに彼に話し掛けた。

「良く参られた…我らが友、稀人よ」

鼓の音は続けて響いている。

「我らは斉しく輪の中にあり…その大きな輪の中で、我らの元に参られたことをこころから感謝する」

とん、ととん。

「我らが知らぬものを知り、知るものを知らぬ。それは我らの中にあるささやかな違い」

とん、ととんとん。

「その違いは我らをさえぎり遠ざけるものではなく、共に過ごすことの助けとなる」

とん、ととん。

「今宵は闇も我らの友だ…こころゆくまで語らい、歌い、踊り、杯を交わすことを止めるものは何もない」

とん。

「ソラ…我らの友よ。この喜び、共に分かち合おう」

篝火に照らされた幼い顔が、微笑む。

そうして伸ばされた両手を、ソラはそっと握り返して微笑んだ。

「ああ」

わあ、と広場が喜びに沸き立った。





それから人々は思い思いにときを過ごし始めた。

子供たちは嬉しそうに食物に飛び付き、頬張る。

大人たちは器に満たされた酒を酌み交わす。

鼓や笛の音が集落中に響き渡るように鳴り始め、それに合わせて歌や踊りが始まった。

人々は輪になり篝火の周りを跳ね、声を張り上げる。

火の粉が辺りを明るく照らし…昼間には及ばないが、それでも光は満ちていた。

そんな中で、ソラは輪人に暖かく迎え入れられていた。

子供たちには懐かれ、大人たちには語らいの中に引きずり込まれそうになる。

その扱いに戸惑っている彼をよそに、輪人は笑顔でソラに声をかけていた。

「ねね、これ食べた?」

明るい色の瞳をした少年が、熟れた果実をソラに差し出す。

「これもね、おいしーよ!」

肩までの髪を揺らして、少女が木の実で作った焼菓子を持ってくる。

「こっちも食べてみてー!」

まだ歩きがおぼつかない少女が、肉を木の枝に刺して焼いたものを何本も抱えてくる。

こて、と転びそうになるところを思わず支えて、ソラは破顔した。

「…楽しいな」

「ありがとー」

彼の呟きを気にせずに、少女は嬉しそうに笑った。

「あい、これ」

ぐ、と目の前に肉が差し出され…勢いのまま受け取る。

…良くは分からないけど、それからは何だかいい匂いがした。

目の前で少女は同じ肉にかぶりつき、嬉しそうに目をぎゅっと閉じる。

ソラも釣られて、渡された肉に同じようにかぶりついた。

じゅわりと肉汁が口の中に広がり、彼は目を瞬かせる。

「おいしーね!」

目の前では身体全体で喜びを現す少女。

「…ああ」

ごくん、と飲み込んでソラは笑った。

周りで待っていた子供たちからも色々と受け取り、次々と食べてみる。

それぞれ違った感覚が口の中に広がったが、どれを食べていても嬉しい感じが体中に満ちていくのをソラは感じた。

「おいしい?」

様子を伺うように、子供たちが聞いてくる。

ごくん、と全部を飲み込んでから、ソラは笑った。

「ああ…おいしい」

ありがとう、と言ってみると周りの笑顔がさらにいい笑顔になった。

「ほらほら、今度はこっちも召し上がれ」

近くの輪に集まっている大人たちが、彼をその中に引っ張りこむ。

不満の声を上げる子供たちを大人が宥めているのを見ながら、ソラは渡された器を覗き込んでいた。

ふわ、と甘い香が漂ってくる。

「…茶か?」

茶を飲んだときと似たような木の器。

「いや、酒です」

「さけ?」

不思議そうに首を傾げるソラに、集まっている人々は皆微笑んだ。

「まあ…飲んでみれば分かりますよ」

同じように器を持った人々が、茶を飲むようにそれを傾けている。

真似をして、ソラも器に口をつけた。

先程食べた果実と似たような味が、口の中に広がる。

飲み込むときに何だか喉が熱くなるのを感じたけれども…決してその感覚は不快ではなかった。

「いかがですか?」

「…良く分からない…が、嫌じゃない」

首を傾げて悩むソラを見て、隣に座っていた男性が大声で笑った。

「ならば分かるまでお注ぎいたしましょうぞ!」

「…え?」

持っていた器に、また酒がなみなみと注がれた。

「さあさ、お飲みくださいな」

促されてまた飲むが、やはり嫌ではない。

何故か身体が暖かくなってきたが、それを気にせずにソラは注がれるままに杯を重ねていた。

そのうちに違う輪からも声がかかり、引っ張られるままに連れていかれる。

そしてそこでも違う食物、違う酒をもらい、輪人の嬉しそうな笑顔に囲まれた。

何度もそれを繰り返され…始めはその扱いに戸惑っていたソラだったが、すぐに人々に打ち解けていった。

途中では踊りの中にも引っ張られ、見様見真似で跳ね飛ぶ。

流れる音楽は心地よく…そのうちにその踊りも覚えて子供たちと手を繋いで跳ね回った。

火の粉と月明かりが、優しく彼らを照らしている。











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