「…元々、身体には怪我や病気を自ら治そうとする力があるんだ」 請われるまま、ミコトは風邪の治し方を話している。 「石が治すんじゃないのか?」 「推測だけど……石はその力を助けているのだと思う」 「そうなのか」 ぽんぽん、と自らの腹を叩くソラ。 そんな彼に苦笑しつつ、ミコトは続けた。 「俺たちには石は無いけど…その力を助けることは出来る」 「どうやって?」 「例えば……」 そうしてミコトが話す風邪の治し方を素直に聞いていたソラだったが、項目が増えるにつれ段々と眉を寄せていく。 「………ソラ?」 「……」 そういえば以前に話したときも同じような反応だったことを思い出して、ミコトは苦笑した。 「……まあ……たぶん、寝れば治る」 それほど重い風邪ではないし。 そう告げるととりあえず安心したようにソラは首肯いた。 「……でも」 身体暖めるくらいなら出来る。 そう言ってソラはミコトから離れようとしなかった。 苦笑しつつ共に横になるが、本当に暖めてくれているのがよく解る。 途中で熱くなりすぎて、調整してもらわなくてはならない程だった。 そうして二人でしばらく黙って雨音を聞いていた。 「……ミコト」 「?」 「ミコトにも、石があれば良かったのに」 そうすれば風邪だってすぐに治ったのに…と呟くソラにミコトは苦笑する。 「……そう、思うか」 「ああ」 ミコトの髪を梳きながらソラは答えた。 さらさらと手からこぼれ落ちる感触を楽しんでいるのか、飽く事無く続けている。 「……楽しい、か?」 「ああ」 くるくると指に巻きながらソラは嬉しそうに笑った。 苦笑しながら、ミコトはちら、と森を見る。 打ち付けるような雨は止み、雨は静かに森に降り注いでいた。 「…でも…」 「?」 ぽつ、と呟いたことばにソラは手の動きを止める。 「……病気になったり…いつの日か動かなくなるからこそ……」 ぎゅ、と不安そうに抱きつくソラにミコトは微笑んだ。 「…だからこそ、大切なんだと思う」 「……たいせつ?」 「たいせつ……と言うのは」 不思議そうに尋ねる彼の表情を見ながら、ミコトは大切だと思う人々を思い浮べる。 そうして微笑み、答えた。 「いつも笑顔でいてほしいと思うこと…かな」 やわらかな雨音が、彼らの耳に届いた。 「…だったら…」 ふ、とソラが口を開いた。 「俺は、ミコトがたいせつだ」 「…そう、か」 「ああ」 だから笑顔。 そう無言で訴えてくる瞳に思わず笑みをこぼすと、ソラもまた嬉しそうに笑った。 「うん……やっぱり、たいせつ」 納得したようにソラは首肯き微笑む。 その笑みを目を細めて見つめ、ミコトも言った。 「……俺も……ソラが大切だ」 「そうか」 たいせつ、と繰り返し嬉しそうに言うソラの髪を、ミコトはゆっくりと梳いた。 そうして静かな雨音とソラの心音を聞きながらミコトはうとうととし始める。 先程まで感じていた悪寒はもうどこにも無かった。 ゆうるりとした暖かさに包まれながらミコトはぼんやりと思う。 戦人は、かなしい人々なのかもしれないと。 彼らも昔は、病気を、怪我を……死を恐れ。 恐れたからこそ石を手に入れたのではないだろうか。 そして石によって全てを克服し……何をも恐れなくなった。 永の別れを知らないために、人との関わりを求めず。 死の恐ろしさを感じないために、容易に他者を。 …かなしい、とミコトは思った。 気が付くとソラも眠そうに目を瞬かせている。 ふわ、と大きなあくびをして、ミコトの髪に顔を埋めた。 外を見ると、次第に辺りが暗くなってきている。 雨はまだ静かに振り続いていた。 ………このまま、朝になったら。 きっと、同じようにかなしいことをソラに告げようとミコトは決めた。 背中に回した手に力を込めると、それと同じだけの力でしがみつかれる。 また、視界が滲んだ。 next→ novels top |