一瞬、明るい光が辺りを照らした。

「………」

ずっとミコトの寝顔を見ていたソラだったが、その光につられて外を見る。

数秒の後、遠くで空が轟くのが聞こえた。

「空鳴り……」

いつもはその光も、その音もソラは好きだった。

厚い雲の狭間を縫うように光が走り、空気が重く響く。

特に夜だと、その光が黒い空によく映えて……

ソラは、ぎゅ、とミコトの手を握り締めた。

音が響くたびに、何故だかざわざわと胸の奥が騒いだ。

ミコトの額にうっすらと浮かぶ汗を布で拭う。

静かに眠る彼が、時折苦しげに眉を寄せる瞬間が嫌だった。

「ミコト……」

傍にいるだけでいいと、そう彼は言ったけれど。

「……他に、出来ることはないのか?」

小さく呟くソラの声に、返ることばは無かった。

また、天が光った。





「……仮に……」

俯いたまま、圧し殺した声でミコトは言う。

「仮に、彼に戦士となってもらったとしましょう」

「……ええ」

そんな彼を見つめつつ、マナイは小さく首肯く。

「彼が他の戦人と……戦えるという確信がありません。戦人を……殺したことがあるのは知っていますが……」

森で見た無残な骸がミコトの脳裏に蘇る。

抉られ裂けた腹からはみ出る内腑の鮮やかさは今も目に新しい。

膝の上で、ミコトは強く拳を握り締めた。

マナイは床に置いたままだった器を手に取ると、静かにそれを手で玩ぶ。

そうして静かに口を開いた。

「………白き、印」

「………?」

ミコトが小さく、顔を上げる。

マナイは器に目を落としたまま、続けた。

「言い伝えによりますると、額に白き印を持つ戦人は……彼らの中でも最高位の力を持つもの」

「な………」

ミコトは目を見開く。

風に揺れて覗くソラの額の印を思い出す……確かにそれは白かったが……

「……お分りですかミコトさま。ミコトさまがお会いになられている方は………十分に我らが戦士に足る、ということなのです」

静かなマナイの瞳から逃れるように、ミコトは項垂れ唇を噛んだ。





ミコトの手を握ったまま、ソラは黙って彼の横にいた。

次第に強くなってくる雨音に、身を縮こませる。

か、と光が走る。

「…………」

確かにその光は変わらず綺麗だったけれど、ソラは黙って眠るミコトの腕に顔を伏せた。

暖かい……まだ熱いその身体の心地よさに目を閉じる。

空を切り裂くように轟く音を、そうして耐えた。

その空鳴りの後、途端に雨足が強くなる。

そおっと外を覗き見ると、地を叩きつけるように水が天から流れ落ちていた。

「……ミコト……」

静かに、また寝台に顔を伏せる。

そうすることが、何だか好きだとソラは思った。

ミコトの肌に触れ、その心音を聞くのが好きだった。

抱き締めたときはよく絶え間なく聞こえる規則正しいその音を聞いていた。

最初の頃は、何故音が身体の中から聞こえるのかとソラは不思議に思った。

葉のように風に揺れて音を立てるわけでも、水のように流れて音を立てるわけでもないのに。

そうミコトに聞くと、彼はソラの好きな笑顔を浮かべてこう言った。

「……生きている、ということだよ」

「生きて……?」

「……動いている、ということだ」

ヒトには心臓というものがあって、それが動く音なのだと。

そしてそれが動いている限り、ヒトは動くのだと…

「………ミコト」

ぎゅ、と腕を握ってソラは彼を呼ぶ。

「……動いている、な」

規則正しく動く音を、空に轟く音よりもソラは嬉しく思った。











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