「ミコト、ミコト……」 

小さな手のひらが目の前で眠る青年の身体を揺さ振る。 

「起きよ、起きぬか……」 

寝台の上で、呼ばれた青年がぴくりと動いた。 

潜り込んでいた寝具から手が伸び……そして顔を覗かせる。 

寝起きにしてははっきりした眼差しで目の前の少女を目にすると、彼は困ったように呟いた。 

「………どうかしたのか?」 

……そう尋ねながらも、もう彼には何が起こったのかは予測はついていた。 

それに違わず、六つか七つになるかどうかという幼い彼の妹は年不相応の大人びた表情で目をふせる。 

「………また、身罷られた」 

「…………そうか」 

表情の変化こそ少ないものの、彼女が悲しみに心を痛ませていることは分かる。 

彼は彼女の頭を引き寄せてその柔らかな髪を撫でた。

  

急いで身支度を整えて家の外に出、早朝の張り詰めた空気の中を妹と共に足早に歩いていく。 

しばし行くと、人々の不安そうなざわめきが聞こえてきた。 

一件の家の前に、その家を取り囲むような形で人々が群がっている。 

近付くにつれてざわめきの中から嗚咽が聞こえてきて……そして、人だかりの輪の中の外側にいた人が、彼に気がついて声を上げた。 

「ミコトさま……!」 

その声に気がついた他の人々も振り返り彼を見る。 

「おお、ミコトさま……」 

「ウエナさまも……」 

「…みな、落ち着いてくれ」 

静かに彼……ミコトが言うと、ざわざわとした空気が段々と引いていった。 

「……私たちが落ち着かぬと、逝くものも安らげぬだろう…?」 

嗚咽を上げ続ける子どもに近寄り、優しく頭を撫で付ける。 

「悲しめるだけ悲しむのも良い……だがその前に、逝くものを送らねばなるまい」 

幾度も首を縦に振るその子を宥めながら、ミコトはその家の中をのぞき見る。 

そして、正視に耐えない惨状に目を伏せた。

 

彼らの部族のものたちが無残な姿で事切れているのを見るようになって、どれだけの月日が経ったのか……  

時には森の中で、ときには朝起きると家の中で、その悲劇は続いていた。 

毎日のように起こるときもあれば、一月ほど何事もなく過ぎて人々が油断した後にまた誰かが殺されたりもする。 

弔いの儀式を終えて、各々の家へと戻っていく人々を見つめながらミコトは心中ため息をついた。 

現在の情況になる前だったら、集落の広場には人々が溢れ、森では食料の採集に励むものや、狩りに赴くものなどがたくさん見られていたのだが……最近ではあまり見られなくなった。 

何処にいても何をしていても、恐怖は必ず襲ってくると誰もが知ってはいた。  

それでもやはり、不安なときは一番安心できるところに逃げ込んでしまうのは人として当たり前だと彼は思う。 

巫女として儀式を終えたのち、着替えもせずに黙って自分の傍に来てしがみ付いて離れない妹の髪を撫で続けながら。 

「……ミコト」 

「どうした、ウエナ?」 

「………こわい」 

「……そうだな」

  

恐怖をもたらす異形の人……彼らが何を考え、自分たちを脅かすのか……

その答えを、彼らは未だ知らない。











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