「ウエナさまぁ」

「……何だ、タヤタ」

晴れた、晴れた空の下。

いつもの広場では今日も子供達が明るく遊びに興じている。

駆け回り、疲れた彼らが泉の近くにそれぞれ腰を下ろして一休みを始めたとき、ウエナは声をかけられた。

普段から共に遊ぶ、輪人の少年の一人。

彼はとんとん、と泉のほとりを叩いてこう言った。

「ミコトさま最近いないねー」

「……ああ」

一時期は彼の定位置となっていたその場所には、今は姿は無い。

それを不思議に思ったタヤタがウエナに尋ねる。

「どこに行っているの?」

「…森に」

「森?」

くき、と首を傾げてタヤタは繰り返して言った。

「大丈夫なの、ミコトさま?」

危険じゃないの?と。

もともと、森は輪人にとって古くから生活の源である。

衣、食、住の全てがそこから生まれ出るからだ。

危険な獣がいるとは言っても、住む場所は遠く離れているし夜行性の動物にはもちろん夜でないと出会うこともない。

…しかし最近では、そんな獣たちよりも何よりもの恐怖が輪人を苛んでいた。

「……ここにいても安全とは限らぬよ」

ぽん、と同じ高さのタヤタの頭を軽く叩くウエナ。

「そうだけど……」

それでも納得がいかないように見つめてくるタヤタに、ウエナは苦笑した。

「それに、ミコトは我らのように幼くはない。自分の行動にはきちんと責任を持てるから…」

「……?」

「だから、心配することなど無いのだよ」

小さく、ウエナは笑んだ。

その笑みをちらりと見ながら、タヤタは泉の水面を叩く。

「そうなの?」

まだ冷たい水に小さく悲鳴を上げつつ、彼はまだ不思議そうに問う。

「そうだ」

こくん、とウエナは迷うことなく頷いた。

そうして大きく息を吸う。

「例え朝早く備蓄していた食糧を勝手に持ちだしていても、朝餉もそこそこに森に行っても、そして夕餉の時間ぎりぎりに帰ってこようとも何も気にしてはいない」

表情を乱さずに一気にそこまで言い切り、続けて言う。

「茶はいいものを選んでくるし何やら今まで見たことのない花とかも摘んできてくれるし……

だからウエナは何にも怒ってはいないぞ。毎日毎日何処で何をしているのかだなんて全く心配などしておらぬ」

ふー、とウエナは大きく息を吐いた。

「そうなんだぁ……流石はウエナさま、偉いなぁ」

黙って聞いていたタヤタは素直にそう言って笑う。

その笑みを見ながらウエナはぽん、と彼の頭を叩いた。

「……タヤタ」

「なあに?」

「頼むからおぬしは変わらずにあれ」

「?」

不思議そうに首を傾げるタヤタの頭を軽く叩き続けながら、ウエナは泉を見つめる。

きらきらと輝く水面に、苦笑する彼女の顔が揺られて映っていた。











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