ひとしきり笑い合ったあとで、ミコトが持参した食料を篭から取り出した。 それらを不思議そうに眺めていたソラだったが、ミコトがそれを勧めると横に首を振る。 何故か、と聞くと彼はやはり首を傾げた。 「…別に…食べたいと思ったことはない」 「……腹は、空かないのか……?」 「腹?」 ソラはまた首を傾げた。 「腹には石があるじゃないか」 「………いし………?」 今度はミコトが首を傾げた。 「いし、というと……」 立ち上がり、川の方へと歩く。 その後をソラがついてくる。 さらさらと清い流れを湛えた川が、日の光を浴びて輝いている。 その川端にしゃがみこみ、ミコトは適当な石を拾い上げた。 「……こういう石か?」 「違う」 ソラは首を横に振った。 途中で草をぷち、と千切ってきて、それをミコトに差し出す。 「こういう色の石……だと思う」 草を受け取って眺める……どこにでもある普通の草だが、こんな色の石をミコトは見たことが無かった。 「……この色と決まっているのか?」 「ああ」 ざぶ、と川に足を入れてソラは言った。 「輪人には無いのか?」 「………石、か?」 「ああ」 速答するソラを見ながら、ミコトは手に持っていた石を川に戻し、草を流した。 水の流れにそって流れていくそれを面白そうにソラは見ている。 黙って様子を見ていると、気に入ったのかぷちぷちと草を千切っては川に流して遊び始めた。わくわくと輝く瞳が、外見にそぐわず子供じみている。 ミコトは改めてソラをよく見た……今までそんな余裕が無かったと言っていい。 よく動く黒い目、少しくせの入った黒髪。 輪人が着ている服と多少異なる服……全く似ていない、という訳ではなかったが。 揺れる黒髪の隙間から時折額の入れ墨が見え隠れする……日の光の元で見たそれは、ミコトが見たことが無い模様だった。 マナイの元で見たことのある模様とは、少し系統が異なるように思える。 また、黒と思い込んでいたそれが実は白かったことにも驚いた。 ソラと出会う前に会った骸のそれは黒かったので、てっきりソラのもそうだと思っていたのだが。 そして、石があるという腹部を見る。 服に隠れていてはっきりとは分からないが………どう見ても、特別な何かがあるようには見えない。 痩せすぎでもなければ太りすぎでもない、標準的な輪人の青年と同じような体格…… 手元の適当な草が無くなった辺りで、ソラはミコトの方を振り向いた。 どうかしたのか?と不思議そうに言う彼に、ミコトは改めて問う。 「……本当に、腹に石が入っているのか?」 「…ミコトには入ってないのか?」 二人は不思議そうに顔を見合わせて、首を傾げた。 next→ novels top |