家に戻って篭を手にして、ミコトは一直線に森へと向かった。 この間通った道を走る……今回は途中の枝葉に気を付けながら。 それでも数ヶ所に擦り傷が出来るのは避けられなかったが。 ……ミコト自身、本当に彼……ソラに再び会っていいのか分からなかった。 何かの勘違いをしていない限り、ソラは輪人が恐れる異形の人である。 ミコトは異形の人を見るのは初めてだったが、それでも一目で彼がそれだと分かった。 同じ人とは思えない……異形の、姿。 まがまがしく夕日に浮かび上がったその暗闇は、一瞬にしてミコトを恐怖に陥れた。 沈む瞬間の太陽に似た色に身を包み、目と覚しき場所が闇の中で不気味に光るその姿… だからこそ、その後の会話が信じられなかった。 輪人と同じように、笑い、拗ね……淋しそうな顔をする。 これが異形の人なのかと、ミコトは首を傾げるしか無かった。 そして、異形ということを考えないとする……それは難しいことではあるけれど。 ソラ、という存在に再び会いたいかと問われたとしたら。 ミコトは迷わず首を縦に振る自分に気がついた。 あの、無邪気に笑う青年とまた……話がしたい、と思った。 最後の枝葉を押し退けて、ミコトは一昨日のように草原へと出た。 遮るものが無くなり、視界には一面に青空が飛び込んでくる。 ふ、と視線を下にずらしていくと、この間のように横になっている青年を見付けた。 「……ソラ?」 声をかけて一足踏み出す。 それでも何の反応も示さない彼を不審がりながらミコトは彼に近付いた。 あと数歩、というところでソラの顔を見て、ミコトは苦笑した。 ソラは青天を見上げたまま、健やかに眠っていた。 草原を渡る風が、和らかく彼の髪を撫でていく。 草の上に腰を下ろして、篭を自らの脇に置く。 足を前にのばして手を後について、ミコトも天を見上げた。 ………何だかとても、気分が良かった。 今の季節に特有の淡い色彩の碧が広がり、その中を白い雲が緩やかに流れている。 森の木々は時折吹く風に合わせて揺れ、芽吹いたばかりの葉が空に映えていた。 遠くからは鳥たちの高い声が聞こえてくる…… しばらくそうして空を眺めていると、ふと横でソラが動く気配がした。 視線を移すと、彼はようやく眼を覚まし……ぱちぱちと目を瞬かせてからミコトを見上げた。 「……ミコト?」 茫然と呟いたソラにミコトが微笑むと、ソラもまた嬉しそうに笑った。 しかし、すぐに不機嫌そうな顔になる。 「……どうしたんだ?」 ミコトが問い掛けると、彼は少し眉を寄せたまま言った。 「……どうして起こさなかった」 「…?」 「起こしてくれたら、もっと早くミコトを見れたのに」 ソラがそう言って数秒後、ミコトは思わず笑みをこぼした。 憮然としていたソラだったが、ミコトが笑うのを見て機嫌を直し、また嬉しそうに破顔した。 青い青い上空を、鳶が輪を描くように飛んでいた。 next→ novels top |