秋に採れた木の実。 一月前の干し肉。 丁寧に織り込まれた布地。 器用に編まれた蔓細工の篭。 早朝……早起きのウエナですら夢の中にいる時間……にミコトは起きて、それらを手早くまとめた。 なるべく音を立てぬように、こっそりと。 そうしてからまた静かに寝台に戻り、寝具に潜る。 ウエナがいつものように自分を起こすであろうそのときまで、またミコトは眠りについた。 起床して朝食を摂り、ウエナに急かされるままにミコトは広場へと行った。 朝も早いためか、あまり多くの人はいない。 泉は変わらず清い流れを湛え、朝日が眩しく反射していた。 「……誰もいない」 「……そうだな」 ウエナはつまらなそうにミコトの横で不満を口にする。 「もしも来なかったらミコトと遊ぶしかなくなるではないか」 「………」 確かにそれは困る、とミコトは思った。 妹と遊ぶのは嫌いではないが、妹自身が彼と遊ぶのを嫌がるのではどうしようもない。 それに今日は、それだけは避けなくてはならないとミコトも思っていた。 傍で流れる泉に視線を落とし……それから同じく青い空を見上げる。 変わらず綺麗にそこにあるその空を瞳に映しながら、ミコトはこころを決めた。 今だに不服そうに隣で膨れているウエナを見下ろし…腰をかがめて、彼女に視線を合わせる。 「…ウエナ」 ぽん、と肩に手を置く。 「…俺はこの後、少し森に出掛ける」 兄と妹の視線が真っすぐにぶつかる。 同じ色を持った瞳を互いに見つめ合いながら、二人はしばらく黙っていた。 「………分かった」 ウエナがその沈黙を破る。 はふう、とわざとらしいぐらいのため息をついて、目の前にあるミコトの額を小さな指で弾く。 「痛いぞ」 弾かれた場所を押さえつつミコトが苦笑すると、ウエナはにこ、と微笑んだ。 「ああ…済まないなミコト」 何だかちょっと、悔しくてな……とウエナは呟く。 そのことばをミコトが反芻する間も無く、ウエナは別れを告げるように手を振る。 「せいぜい気を付けて行ってくるが良い……土産は茶で良いからな」 遠くから、ウエナを呼ぶ声が聞こえてきた。 足早に去っていく兄の後ろ姿を見送りながら、ウエナはため息をついた。 「どうしたの?ウエナさま?」 いつも共に遊ぶ子供たち……とは言ってもウエナと同じ年ぐらいの…の一人が、ウエナのため息を見咎めて声をかける。 「ミコトさまとけんかしたの?」 「いや…」 ふるふる、と彼女は首を横に振った。 「じゃあ何?」 「……なにゆえ、我らはこんなに仲が良いのかと……不思議になっただけだ」 「ふうん」 生返事を返した少年を、ウエナは軽く小突く。 何するのさ!と向かってくる彼を笑って躱しつつ、ウエナは先の兄の表情を思い出した。 (……何をしにいくのかは分からぬが) 心中でため息を追加する。 (あんな顔をされたら……誰にも止められはせぬよ、ミコト) 二人の追い駆けっこは次第に他の子供たちにも伝播し、広場中を使った大きなものへと変わっていく。 きゃあきゃあと彼らと共に高い声をあげながら、ウエナはほんの少しの不安を塗り潰した。 next→ novels top |