小川のせせらぎと、小鳥たちの声で目が覚めた。 やわらかな土の匂いが鼻を擽って…ミコトは寝返りをうつ。 閉じた目蓋にも差し込んでこようとする朝の光に、ミコトは眉を寄せた。 「……さっきの顔」 不機嫌そうに呟くその声で、ミコトは微睡みから抜け出した。 ぱち、と目を開けると、寝起きの目には痛い程の青空が飛び込んでくる。 数回目を瞬かせて頭をはっきりとさせると、ミコトは横に寝転がる青年へと視線を転じた。 何が楽しいのか、じっとこちらを見ている青年にほほ笑みかける。 途端に嬉しそうに笑う彼に釣られてまた笑みをこぼしながら、ミコトは言った。 「お早よう」 「おはよう」 異形の人でも、朝のあいさつはあるのだなあと、どこか焦点のずれた感動をミコトは感じた。 気が付いたら眠っていた……こんな恐怖が隣にいるにも関わらずに、だ。 それだけ自分が疲れていたことを自覚はするものの、ウエナ辺りに知られたら無頓着すぎると叱られるだろう。 そういえば、すぐに帰るつもりでいたのに夜が明けてしまった……きっと皆心配しているだろう。 ミコトが起き上がると、それに合わせて彼も起き上がった。 じっと、視線はミコトから外さない。 「……あの」 言い掛けて、ミコトは彼の名前も何も知らないことに気が付いた。 「……名前は、何というんだ?」 今更間抜けだと思いながら、彼の黒い瞳を見つめながら言った。 その瞳がくりっと動いて、瞬かれる。 「………どうした?」 何か変なことを言っただろうか…と思ってミコトが言うと、彼は黙って上を見上げた。 釣られてミコトも上を見る……透き通った、綺麗な空がそこにはあった。 まるで、彼の瞳のようだと思った……色も何も違うのだけど。 「………綺麗だな」 静かに、ミコトは言った。 そのことばに、彼は弾かれたようにミコトを見た。 喜色を顕にして……今までも嬉しそうな顔を見てはいたが、本当に嬉しそうな顔で。 勢い良く首肯いて、また空を見上げる。 遥かに遠く、どこまでも青が続く空を。 「…………これが、俺の名前」 彼が呟いた。 ミコトは空から彼に視線を転じた。 「………そら?」 確かめるように言ったミコトを見て、彼……ソラはまた笑って首肯いた。 「お前は?」 言われて、ミコトは自分の名を名乗る。 久々に名乗る自分の真名に、ソラはすぐに不機嫌な顔になった。 「………長い」 初めてウエナに自分の真名を教えたときと同じ反応に、ミコトは笑う。 「……だから、最後の三文字だけでいい」 「……………ミコト?」 首肯くと、それなら覚えられる、とソラは嬉しそうに首肯いた。 next→ novels top 解説11 |