「……さっきの、顔?」

そう言ってミコトが首を傾げると、彼は首肯いた。

ミコト自身、不思議なほどに恐怖心はない……一体何人の輪人が彼の手にかかっているのかと、思わないでもないのだが。

でもこの、年の近い弟のような彼がどうしても…憎めなかった。

「さっきの………こうしたときの」

言うなりまた組み伏せられる。

驚きつつも、ミコトはもはや抗う気もしない。

そうして覗き込まれる……やはりその瞳は何かに期待している子供のようで、ミコトは笑ってしまった。

それを見て、彼もまた嬉しそうに……笑った。

「そう、それだ」

「……これで、いいのか……?」

にこにこと嬉しそうな顔に、ミコトもまた目を捕われる。

無邪気としか形容の仕様がない顔だった。

彼が異形に変わったことなど、まるで夢だったかのようにミコトには思えた。

とりあえず起き上がろうとすると、今度は押さえこまれる。

今度こそ殺されるのか、と背が冷えた。

しかし、

「さっきの顔」

またせがまれて、ミコトは何となく理解した。

「……別に、こうされていなくても出来るから……」

試しに言ってみると、彼はあっさりと手を離した。

起き上がったミコトに期待するように見ている彼に、ミコトは苦笑するしか無かった。

よく見ると彼の衣服は血と泥でぐちゃぐちゃになっていた。

それはミコトも同じであったが。

それで思い出し、ミコトは言った。

「怪我、大丈夫なのか?」

点々と続く赤い血は、彼のものであったはずだ。

しかし彼は首を傾げると、大きく裂かれた服の隙間から肌を見せた。

そこには何の痕も見えない。

自分の気のせいだったかと、ため息をついた瞬間……彼が不機嫌な顔になった。

「………?」

気を損ねてしまったか、とミコトが警戒すると、彼は不機嫌なまま言った。

「さっきの顔」

今度の顔は、ミコトにも自信は無かったがとりあえず満足してもらえたようだった。











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