少女が着ているような可愛らしい衣服。裾がふわりと膨らんでいる。
肩をすっぽりと覆うように掛けられた布は、先日の戦いで失われた左腕を上手く隠していた。 
そして腰まで届く黒髪の鬘(かつら)。 
「お似合いですよ、本当」 
「嘘をつけ。心の中では大爆笑しておるくせに」 
「本当ですってば」 
長い蒼髪は布で上手く巻かれ、銀細工で品よく止められている。
女性ものの衣服だが、こちらは身長に合わせ大人びたものが選ばれた。
詰め物の胸による違和感は上い具合に消し去られている。 
「お、おぬしは……」 
「…腹の底から笑って下さって結構ですよ」 
「ぷくく…似合いすぎて笑えるというのもなかなかないのう……」



役所から出てきた楊ゼンと、蝉玉に突き出された太公望はしばらくお互いを見つめ合い、ことばを交わしていたが……すぐに太公望の笑い声が辺りに響きわたった。 
腹を押さえて苦しげに笑い続ける太公望の前で、楊ゼンが肩を落として途方に暮れている。 
「おかしいわよ…こんなはずじゃあ…」 
「いや、スースの性格上こうなるのは当たり前さ」 
「……やっぱこれは失敗か?」 
「誰っスか!こんな作戦考えたの!!」 
「だってどうせ変装させるなら女装の方が楽しいじゃない!!」 
「………まあ、否定はしないけどな」 
第一作戦:相手の普段見慣れない服装を見せることにより心の動揺を誘い、その理由を自らに問わせる。 
……これはどうやら失敗に終わった模様。 
まだ軽く笑いを残しながら、太公望は楊ゼンを引きずって彼らのところにやってきた。 
「なーにをこそこそやっておるか!ほれ、出掛けるのであろう?」 
「……嫌だったんじゃねぇの?」 
と姫発。 
彼は以前、西岐城下で女性を追い掛けていたときの服装である。 
「こうまでされたら引き下がれぬわ。おかげで面白いものを見れたしのう…」 
「…僕のことですね」 
「誰もそうは言っておらぬ」 
嘯(うそぶ)くが、一目瞭然であった。 
そんなやりとりを交わしたのち、実家へ帰るという武吉と、仙人界まで行って体を休めるという四不象と一行は別れた。 
結局街へと向かうのは太公望、楊ゼン、姫発、天化、蝉玉(+土行孫)………。 
意気揚揚として楊ゼンを引っ張っていく太公望を見ながら、残された面々はこれからの苦労を思いため息をつく。 
ふと空を見上げると……ナタクの背に乗った天祥が歓声を上げていた。






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