淡淡恋愛
>773氏
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〜お祭編〜
予想外に夜店はにぎわっていた。
金魚すくい、ヨーヨー釣り、射的ではハボックが見事な腕を披露した。
夜店回りだが、エド子は…
金魚すくいをすれば金魚に逃げられ(金魚はハボックが取ってくれた)
ヨーヨー釣りでは浴衣の袖を濡らし(ヨーヨーはハボックが以下略)
射的でもハボックが…以下略。
惨敗である。
射的の商品で貰ったチョコバナナとイチゴ飴を1つずつ分け、エド子はチョコバナナを、ハボックはイチゴ飴を食べながら手を繋いで歩いている。
多少行儀は悪いが祭ならではの楽しみだ。
「少尉なんであんなに上手いんだよ」
チョコバナナを口いっぱいに頬張りながらもごもごとちょっと拗ねた様にエド子が言う。
「ちょっとしたコツがあるんですよ。
それに俺の田舎じゃ何もないから祭の時くらいしか娯楽がなかったんで」
ちょっと懐かしむ様にはにかむハボック。
「ふーん。いいな。俺の田舎もそんなもんだ。何にも無くて、でもいい所だよ。
…少尉の田舎、見てみたいな」
「え。」
多分大将はなんの気なしに言ったんだと思う。
でも、期待してしまう。
出来るだけ、さりげなく聞こえる様に言う。
「いつか一緒に来ますか?俺の家族に紹介しますよ」
「うん、行きたい」
即答だ。
顔を赤らめて、きゅっと繋いだ手に力が篭められる。
お、コレってもしかしてもしかしてそういう意味?
俺の人生春?
大将ってばさりげに容姿、スタイル(今は発展途上)、資産、権力、オールオッケーだし?
いや、そんなのはどうでもいいんだ。
ここは決める所だろう!!
「大将!」
「うわっと」
急に振向いた俺に引っ張られて大将がよろける。
とっさに肩に手を回して引き寄せる。
いい匂いがする。
「ほら、危ないですよ」
と言って抱きしめる。
自分でやっといてなんだけど、危ないのはきっとこの体勢、俺の方だ。
俺の腕の中で俺の顔を見上げてほっとしたもののびっくりして頬を紅潮させているエド子。
「うん、少尉、ありが…」
大将のお礼の言葉ごと口付ける。
初めてのキスはイチゴと、バナナとチョコの味がした。
…すみません、我慢できませんでした!!
「男はオオカミなんだから気を付けてくださいね」
やってしまった。初めてなのになんてムードのない…
「え?あ、あの…」
頬を染めて俺の顔を見たり俯いたりしている。
うろたえている姿も可愛く思えて、あんまり解ってないんだろうな、とついでにそのままもう一度口付ける。
結構屈まないと辛いけど我慢。
「少尉、人が見てるよ…」
「見たい奴には見せときゃいいんです」
「…んっ」
「食べちゃいたいけど今日はこれで」
ハボックが舐めていたイチゴ飴の欠片を口移しでエド子の口に入れる。
「んーっ!少尉!」
「だって、一口欲しいって顔に書いてありましたよ」
なんて言って横を向く。
うわ、どうしよう。
我慢出来ないからって、相手は初めてで、往来で、何やってるんだよ俺。
落ちこむハボックと、うわーうわーキスしちゃったよ。び、びっくりした…・
「食べちゃいたい」…て!もしかして?
でもキス、してくれたけど、飴って…やっぱり子ども扱いなのか?俺は…
飴はそりゃ一口食べたいなって思ってたけど…あ、こういう所が子どもなのか?
こちらも微妙に落ちこみ気味のエド子。
それぞれの思いを微妙に擦違えさせながら二人のデートは続く。
なんだか微妙な雰囲気になった二人の状況を一変させたのは、今日ずっと、妙にきょろきょろしていたエド子の一声だった。
「あっ?!アル子?!!!」
遠くに、一瞬頭一つ出た彼女の妹の姿が見えた、…気がした。
祭が珍しい事ももちろんあったが、アル子が出掛けに言っていた『ボクもデートなんだよ』は思いの他、このシスコンの姉には効いたようである。
「アル子ちゃんもお祭に来てるんスか?」
…アル子の事は名前で呼ぶのな。と一瞬、妹にまで嫉妬しそうになる。
ああ、そんな事より今はアル子だ。
「聞いてくれよ!アル子ったら彼氏がいるのを隠してたんだ!
今日出掛ける時に初めて聞いたんだぜ?!
それに俺が聞いたら怒るからって…教えてくれないし」
ぐいぐいと少尉の腕を引っ張りながら人の波の間を移動する。
「へぇ…確かに、大将知ったら怒りそうだけど、あの人はあの人なりに真面目に付き合ってると…」
「ちょっと待て!少尉は知ってんのか?アル子の相手!」
ピタリと立ち止まり、怒りに、ちょっとした怯えを混ぜたような複雑な表情で振り返るエド子。
なんで?何で少尉がそんな事知ってるの?
「…多分。でも言えません」
「なんで?!…俺には言えないのかよ」
「本人が敢えて言わない事を他人の口から伝えるのはちょっと、ね」
カッと頭に血が上る。何でそんなに大人の反応なんだよ。
「俺、アル子追いかけて話つけてくる!」
ダッと走り出そうとするエド子。
困ったな。
そっちは、大人のカップル向けの穴場ですよ、大将…
ハボックは人波からどんどん離れて行くエド子の後姿を追いかけた。
続く