淡淡恋愛
>823氏

今日は近くでお祭があるらしい。
と言っても夜店が出たりする位の小規模な奴らしいけど。
それでも。
初めて、ハボック少尉から誘ってもらったから、嬉しいと思う。
俺が「好きだ」って言ったら「俺もですよ」とか言ってくれたけど、…子ども扱いされてる気がする。
向こうから、好きだって言われた事ないし。
デートもいつも俺から誘ってるし(といっても散歩とか飯くらいだけど)向こうがこっちを子ども扱いする気なら俺は少尉が無視出来ないくらいの大人の女を目指すんだッ!
ぐっと握り拳で言ってみた所で“大人の女”ってどうすりゃいいんだ?
手っ取り早くアル子に相談したら「お祭に行くんなら浴衣を着るといいよ」と言ってどっかから調達して浴衣を着せてくれた。
「アル子、お前いい奴だなぁ」
「やだなぁ。姉さんが女の子らしい事したいって言うの初めてなんだからコレくらい協力するよ」
感極まってアル子を呼ぶ「妹よ!」
「姉さん!」
ひしと抱き合う姉と妹、いや豆と鎧。
ノリがいい。
「じゃあ、着るか」
「姉さんも着付け覚えてた方がいいよ。まず、着物を羽織って…」
「ふんふん」
アルも自分に着付けながらなので浴衣を着るシュールな鎧になっている。
…どこからそんな特大サイズ借りてきたんだ。
エド子といえば…アル子に任せっきりだったりする。
「姉さんは浴衣が似合う体型だからタオル要らないよね」
「ブラは和装ブラか、スポーツブラね。いつもスポーツブラしか着けないけどね、姉さんは」
「…と、お端折り長過ぎ、かな?」
うーん、コレは取っておきの秘密サイズを出すしか…姉さんごめんね。
とアル子が心中密かに決心したのを気付いているのかいないのか。
アル子がてきぱきやってくれるお陰でエド子はすっかりお人形状態だ。
他のに着替えるついでにお代官様と町娘ごっこやったりして。
「お代官様、お止め下さいっ!私には好いたお人が…!」
「何を言う、よいではないかよいではないか、それ―♪」

…順調に支度が遅れております。


〜一方その頃〜
その部屋にいるのはハボックと大佐。
「うえー?
 こんなの着るんですか?」
「黙れ、上官命令だ。それにそれを着るといい事があるらしいとのアル子君からの情報だ
 …どうするかね?」
多少悩むが、いい事ってなんだろう?気になる。
「まぁ着方が解れば、着ても…」
「仕方ない。女性相手にしか使わない予定だったのだが」
着物を持った大佐が近付き、気付いた時には一瞬で着替えが終わっていた。
「うわっ大佐…い、今のなに?!」思わず自分の体を抱きしめながらハボックが問うと、
「“脱がせる”の逆だ。簡単だろ?」
にっこり笑う。
いや、それ多分簡単じゃないと思います…
「あと女性物の着付けも覚えおけ。」
は?なんで?
「女性に恥をかかせてはいかんだろう。はっはっは」

〜姉妹サイド〜
次に出てきたのは紺地に赤い金魚が泳いでる柄。
ちょっと地味かな、と思ったけど、帯がふわふわ広がって可愛かったのでよしとしよう。
「姉さん、可愛いよ!」
アル子が褒めてくれる。そうかな?
アル子、お前も一種異様だけど、可愛いよ。
「あとは髪をアップにして…」
「えっまだすんのか?」
「約束の時間が気になる?ふっふっふ、大人の女は男を多少待たせるものだよ」
「そ、そうなのか?」
「と言う訳であと一息がんばろー!」
…なんか上手く乗せられてる気がする。


**

〜待ち合わせ〜
結局エド子の支度が終わったのは丁度少尉との約束の時間あたりだった。
「姉さん、ハンカチとティッシュは持った?」
約束の場所に向かって慣れない格好で走りつつ後ろから走ってくるアル子に返事を投げる。
「持った!なんだよアル子、お前も出かけるのかよ!」
「ふふ、ボクもデートなんだよ。姉さんも頑張ってね〜」
「なっ!聞いてないぞ!お前、相手は誰だ!」
「だって姉さん、聞いたらきっと怒るもの。じゃあね〜」
疲れ知らずの妹が美しい裾捌きで走り去る背中を見送る。
…鎧の上から浴衣ってオレの趣味からしてもやっぱすげえ。
ああ、そういやアル子の奴、確かにいつもより鎧の手入れに時間掛かってたなぁ。
いやいやいや。そういう事を言ってる場合ではなく。
相手って誰だ?!
そいつは鎧でもいいって相手なのか?それとも全身機械鎧なんです、って誤魔化してるのか?
いやいやそれとも中には美少女が入ってると思い込んでるキモイおっさんだったりしたらっ!
「もしも〜し?お嬢さん、待ち合わせに遅れといてさらに目の前素通りってのはあんまりじゃないですか?」
つん、と浴衣の袖を引っ張られる。
振向くとそこにはハボッ…ええ?な、何で浴衣っ!
しかも浴衣っていうより着流し?
首元とか、鎖骨とか、着物の袷の部分からチラりと覗く素肌とか。
すごく色っぽい…かもしれない。
「ねえ、少尉、これもしかしてオレの為?」
「大将も、その格好は俺の為ですか?」
なんとなく気恥ずかしくなってしまって二人で笑い合う。
頬が熱くなる。
「あの、その、浴衣似合ってますね。かわいい」
にこにこと嬉しそうに少尉が褒めてくれる。
う、やっぱり『かわいい』止まりか。
色っぽい、とか大人っぽいとか目指したのにな。
でも嬉しい、かな。
「遅れてごめん。しょ、少尉も、カッコイイね、それ」
普段軍服を見慣れているせいか、酷く新鮮に映る。
なんだか目を合わせられない。
大将が浴衣とはなぁ。
大佐が言ってた「いい事」ってこれか?
一瞬誰だかわかんなかった。
いつもは黒の上下か、赤コート、二人で出掛けてもいつも服装は似たような感じで。
機械鎧だから多分気にしてるんだろうけど。
今日は浴衣で、紺地にちいさな赤い金魚が泳いでる。
それに揃いの巾着。
帯は…子ども用っすよね、コレ。
でもそのふわふわっとした赤いリボン帯がまた似合っててかわいい。
髪もいつも後ろでみつあみにしてるのにアップにしてあるし。
俺の為かぁ。
ふふ。口元が緩む。
「でも遅れたのは浴衣だったからだったんですねーよかった、俺てっきりすっぽかされたかと」
「そんな…事ない。すっぽかしたりは」
一瞬顔を上げるけど、はっとした表情をしてすぐに下を向いてしまう。
「どうかしました?」
「いや…その、あんまり少尉がいつもと違う様に見えて」
伏し目がちにもじもじしながら言う大将。
かわいい。
もうそれしか出てこないッス。
「あの、遅れてごめん」
動転しているのか再び謝る。
「いや、別にいいっスよ。待つのも楽しいですし。
 …それに女の子がデートの用意に手間取ってくれるって事は男冥利に尽きるでしょ」
「そんなもんですか」
「そんなもんスよ?そろそろ行きましょうか」
右手を差し出すと、小さな手がそっと握り返してくれた。






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