たった一つの伝えたい言葉
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ホルターネックのワンピースはいとも簡単に脱がされていく。
首の後ろでヒモを結ぶタイプのもので、この間ウィンリィが選んでくれたものだ。
肩も背中も隠れないから、着たばかりの頃は「露出が多い」とか「年頃の娘が」とか、何だかどこかの父親みたいなことを兄さんはぶつぶつ言っていたものだけど。
「これ、脱がしやすくていいな」
これだよ。その笑顔があまりにも爽やかで、ボクはちょっと呆れてしまった。
「…バカ兄」
「バカで結構。あ、でももう直ぐ…」
その後に何かを言い掛けたから続きを待っていたのに、「やっぱり何でもない」とはぐらかされた。
そういう時って最後まで言って欲しいよ。気になるから。
どうやらよっぽど不満そうな顔をしていたみたいで、兄さんは困った様に笑ってボクの左手をとると軽く口付けた。
指先がじんわりと痺れていくみたいで顔が火照っていく。
指を絡めながらその左手を床に縫い付けられた。
指輪が当たって床がカツンと音をたてる。
「…んっ」
ゆっくりとだけど胸を揉まれる感覚は、気持ち良いというよりどちらかと言うとくすぐったくて。
思わず笑いそうになるのを堪えて身を捩った。
男の人は胸が大きい方が好きだって聞いたから自分で揉んでみたんだけど、やっぱり自分でするのとは全然違う。
何か、変な感じ。くすぐったいっていうのとは違うかなぁ…。
それも悠長に考えてる時間は直ぐに吹っ飛んだ。
スカートの裾をたくし上げて侵入してきた手が太腿を撫でるものだから、
「ひゃっ…」
短い悲鳴のような、変な声が口からこぼれた。
慌てて自分の口を空いていた右手で塞いで目を閉じる。
ボクが声を上げるのを楽しんでるのか、それとも我慢してるのを楽しんでるのか。
どちらにせよ、兄さんがこの状況を楽しんでいるのはとてもよく分かった。
脚を撫でていた手が中心に辿り着いた時、思い切り反応したボクに満足そうに笑ってたし。
反射的に脚を閉じようとしたけど叶わない。膝を押さえられてさっきよりも開かれてしまう。
「…っや……ぁ」
「アル」
名前を呼ばれたけど、ボクは思い切り頭を振った。
見られてると思ったら余計に恥かしい。
顔が熱くて、浮かんできた涙でさえその熱で蒸発してしまいそうだ。
「大丈夫だ…。力、抜いて」
時々だけど、兄さんの囁きに混じってくちゅくちゅと音がするのが耳に入ってくる。
いっそのこと耳も塞いでしまいたい。
下された下着が片足に引っ掛かってて気になるし、服も中途半端に着たままだし。
何よりも痛い。それに何だか気持ち悪い。
今は指だけなのに、こんなんじゃ兄さんのこと受け入れられるのか不安になってきた。
相手が兄さんだから我慢も出来るけど、ボクがこんなんじゃあ…。
「おい」
「…っ!?」
口を塞いでいた手をいきなり掴まれて、吃驚して思わず閉じていた目を開けてしまった。
ぶつかった金色の瞳は真っ直ぐボクを見据えていて、逸らしてしまいたいのに逸らせない。
「余計なこと考えてんじゃねえよ」
まるで心の中を見透かされたみたいで。
「オレのことだけ考えてろ。そしたら大丈夫だから…」
「兄さ…」
その後の噛み付くようなキスに、何故だか涙が流れた。
痛みの所為なのか恥かしさの所為なのか、自分自身でもよく分からなかったけど、ボクはただ頷くことしか出来なかった。
一瞬だけ見えた兄さんの表情が、さっきの科白と比べたらすごく余裕がなさそうに見えて、ああ兄さんも緊張してるんだ。そんな風に思ったら急に緊張が解けた気がした。
昔からそうだっけ。兄さんが冷静さを失ったりして周りが見えなくなったら、驚くくらいボクは冷静になってフォローに回っていた。
小さな子どもだった頃も、旅をしていた時も、何時も何時も…。
今の状況でそれと比較するのも違うんだろうけど。

……そうだ。これで兄さんは兄さんでなくなる。ボクも妹じゃなくなってしまう。
でももう直ぐ…。さっき兄さんが言い掛けてたのはこの事だったのかな。
おかしいな。兄さんだけど、兄さんじゃなくなるなんて。妹だけど妹じゃなくなるなんて。
それを望んでいた筈なのに、寂しいって思うなんて。

「―――……っ」
力を込めた左手に、握り返してくれた兄さんの右手。
それが嬉しくて、掠れた声で名前を呼んで。
…また涙が流れた。

後で思い返してみると、自分は壊れた玩具みたいになっていたような気がする。
何度も何度も兄さんを呼んで、本当に兄さん以外のことなんて何にも考えられなくなって。
身体を揺さぶられる度に心が奪われていくみたい。

これでボクらは三度目の禁忌を犯したことになるんだろう。
一度目は母さんを錬成したこと。
二度目はボクの身体と兄さんと手足を取り戻したこと。
でも、ボクは。
この禁忌を犯したことに後悔はしていない。


気を失ったのか寝てしまったのか、それさえも定かではなかったけど、ボクが目を覚ました時にはベッドの上に居た。
しかも自分の部屋じゃなくて兄さんの部屋。
寝返りをうつのも億劫で、だるくてどうしようもない。
考えてみたら、初めてが床の上っていうのもどうなんだろ…。
汗で張り付いた前髪が気になって手を動かした時、左手の薬指に指輪がないことに気が付いた。

続く





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