レッスン
酒 | ゚Д゚)ノ 氏



待たせ過ぎたと姉さんが急いで彼氏の元へ戻る後を付いて走る。
部屋に入ってみれば、下はきちんと着込みながら上は裸のままという姿で、男は寝入っていた。
軍人のくせに緩い人だ。見る限り、隙あらば寝ようとしている。
こんなことで我が国は大丈夫なのかと冗談めかすと、疲れてるんだろ、と姉さんが笑う。

この様子じゃ起きそうもないし、起こしてまでやることもないかという結論になる。
男はベッドのほぼ中央に眠っているし、このベッドに3人で横になるのは無理だ。
それなら姉さんを僕の部屋へ誘って、風呂での続きをしようと思ったのに。
じゃあな、また後で、と言って姉さんは彼氏の横へ器用に滑り込んだ。
横になって、男の腕と体との間にすっぽり収まる。小さいって、こういう時に便利だね。
姉さんの、髭が痛いんだよなぁという独り言のようなつぶやきを聞きながら、扉を閉めた。

いきなりすることがなくなった。とりあえず自分の部屋に戻る。
さて、どうしよう。ベッドに座りながら考えても、これという名案が浮かばない。
お腹はいっぱいだし、適度に疲れてるし、暑くも寒くもないし。
昼寝というには半端な時間だけど、姉さん達に合わせて寝てしまおうかな。
でも、読もうと思ってた本があったんだった。どうしようかな。

ふと目が覚めて、結局寝てしまっていることに気付く。
部屋の中はもう薄暗い、日が落ちかけてるようだけど、何時か確かめるのは面倒だ。
姉さん達はどうしたかなと思ったところで、さっきから聞こえている物音に意識が向く。
これ、軋む音だ。隣の部屋から聞こえてる。高い声も時々聞こえる。
姉さんだ、きっと彼氏にいろいろされてるんだ、今日目の前で見せられたようなことを。
音と声しか情報がないことが逆に想像をかき立てる。
指が自然に胸と下へ伸びる。以前なら持て余していた体の熱を、今は自分で解放できる。
もうひとりでできるから。
姉さんと男の指を思い出しながら、自分が一番気持ちいいと感じる部分を刺激していく。

「んっ ……ふぅ」

自分でやってるのに声が出る。やだ、僕、いきなり何なの。
だって今日、初めていったばかりなのに。ちょっと気持ち良くなれるだけでいいのに。
声が出ちゃうほど自分でやっちゃうのって、どうなの。いやらしい。
誰に見られてるわけでもないけど恥ずかしい。恥ずかしいけど指が止まらない。
隣の軋む音が、早さを増す。声の間隔も短くなって、あっちはあっちで盛り上がってる。
姉さんは今頃、あんなことをされてあんな風になって、あんな顔をしてるんだろう。
あそこはきっとまた大洪水で、あんな音がしてるんだ。

「あ! あっ なに……やだ……」

いきなりすごく気持ち良くなってきた。さっきから同じことをしてるのに、急に。
きっと、姉さん達につられちゃったんだ。姉さんの声が、あんまり気持ち良さそうだから。
脚の間から聞こえる、自分の指がたてる音にも反応してしまう。
触れる指から伝わるのも、自分のあそこで感じるのも同じ、熱いという感覚。
姉さんの奥も、柔らかくて熱かった。姉さんと同じ、お揃いだ、嬉しい。
僕もいく時、あんな声が出せるかな、あんな可愛い声。姉妹だもん、出せるよね。

「ああぁ、ねえ、さん、姉さん、いく……いく、いっちゃう……ぅあぁっ」

脚がガクガクと震え、あそこはヒクヒク痙攣している。
目には涙が溜まってるし、息も荒いし汗ばんで、体中がベタベタする。
やだな、早く風呂に入ろう。そう思って被っていたシーツを蹴り上げた。
体が外気に触れると、涼しくて気持ちいい。
……そのまま寝てしまったみたいで、起きた時には真っ暗だった。
体の汗は引いていたけど、あそこのヌルヌルはそのまま。
着替えを掴んで風呂に飛び込む。体中をきれいに洗って、やっと人心地がついた。
風呂からあがって牛乳を飲んでいると、廊下の電灯が点る。
うちに来た時と同じ格好をした男が歩いてきた。

「あれ、帰っちゃうんですか?」
「ああ、明日も仕事なのでね」
「姉さんは?」
「寝ているよ、疲れたんだろう」
「泊まっていけばいいのに、姉さんも喜ぶのに」
「婚約もしてないのに、女の家から出勤はできないよ」
「?」
「世間体が悪いだろう?」
「……そんなの」

姉さんを疎むみたいな言い方をされて、面白くない。
何が世間体だよ、そんな保身めいたことを、こんな時にここで言わなくたって。
明からさまにムッとしていたら、額を指でぱちんと弾かれた。

「いたっ!」
「ちょっと悪戯が過ぎるな、君は」
「何もしてませんけど?」
「姉さんに、だよ」
「! だって、あれは……僕の姉さんなんだから、構わないでしょう?」
「君があんな跡を付けるから、思いがけず、姉さんにお仕置きしてしまったじゃないか」
「お、お仕置きって」
少しかがんで僕に目線を合わせていたのを、すっと体を起こして不敵に笑う。
見おろされてるのが、また気に食わないというか腹が立つというか。
……でも、笑みが不敵だったのは少しの間で、いつの間にか柔らかく微笑んでいる。
気分は悪くないか、痛いところはないか、食事はしたか、そんなことを聞いてくる。
姉さんの彼氏なんだから、僕のことは構わなくていいだろうに。
意地悪なんだか優しいんだか。いや、優しいんだ、きっと。
頼んだのが姉さんだとはいっても、今日は僕のとんでもない願いを叶えてくれた。
きっと、本当に優しい人なんだろう。

「今日は、ありがとうございました」
「いや、礼には及ばないよ」
「いいえ、今までだってお世話になりっ放しだったのに、ろくにお礼も言ってなくて」
「……私たちがこうなるまでには、いろんなことがあった」
「はい」
「君が知っている事も、知らない事も、いろいろとね、あったよ」
「……」
「君が姉さんから離れられない気持ちもわかる、無理に離れなくてもいい、……ただ」
「?」
「必ず幸せになりなさい」

頭を軽く叩くように撫でられる。
僕らが元の体に戻ろうと必死だった頃、この人はこの人で、何かと戦っていた。
その上でなお、僕らの願いが叶うよう、できる限りのことをしてくれていた。
それに僕らが気付いたのは、ずいぶん後になってからだった。
お世話になったと感謝はしてたけど、それだけではすまない気持ちが生まれて。
姉さんにとっては、その頃にはもう彼氏だった訳で、改めて惚れ直してたみたいだけど。
恋愛感情ではない僕のこれは何だろうと、不思議だったことを思い出す。
でも会えないでいるうちに、お礼を言うことさえ忘れてしまっていた。
早く寝るよう僕に言って、男が玄関のドアノブに手をかける。
もう一度泊まっていくように言うため、呼び止めようとした。
以前のように階級で呼べばいいのか、今となっては名前で呼ぶべきか、一瞬迷った。

「待って、お父さん!」

男の手が滑ってドアノブは回っていないのに、体は前進して開いていない扉に突っ込んだ。
よく扉で頭を打つ人だ。額を痛そうに押さえている。
僕が呆気にとられている内に、それでも笑って、また今度と言って帰っていった。
お父さんって。……何言ってるんだ僕。お父さんって。
単に思わず言い間違えただけなんだけどさ……お父さんか。
僕らの本当のお父さんが家にいた頃の記憶が、僕にはない。
もっとも、記憶がある姉さん曰く、父親らしいことは何もしなかったそうだけど。
そのせいで姉さんはしばらくお父さんが大嫌いだったけど、父親らしいことって何だろう。
一緒に遊んでくれたり? 抱き上げてくれたり? 勉強とか教えてくれたり?
よくわからないけど、違うよね……。家族を愛すること? 
お父さんは、僕らを愛してなかったんじゃなくて、愛していたからこそ、早くにいなくなった。
錬金術のことになると集中しきって、周りには一切気が向かなくなる人だったらしい。
一緒にいた時間はひどく短いのに、姉さんは話に聞くお父さんにそっくりだ。

お母さんが死んでしまった後も、僕には姉さんがいてくれた。
お母さんが死んでしまって辛くて寂しかったけど、不安に思ったことは一度もなかった。
でも姉さんは、僕を抱えて大変だったんだろう。きっと不安だったんだ。
口には出さなかったけど、お父さんがいてくれたらと思っていたに違いない。
だから、お父さんへの誤解がとけた今でも、姉さんはお父さんがちょっと嫌いだ。

……お父さん、か。考えてみれば、僕には両親の記憶があまりない。
お父さんはもちろんないけど、お母さんだって、ずいぶん小さい頃に死んでしまった。
僕はきっと、わずかなお母さんの記憶を、姉さんに重ねて見てるんだ。
僕という存在を無条件に愛してくれて、僕が無条件に甘えていい女性だから。
そして、その姉さんが愛してる年上の男の人に、お父さんを重ねて見てる。
そうか、だからなんとなく甘えてしまうんだ。
そうすると、僕はお父さんに性教育を受けたということに。
それはまずいよ! だめだよ! 入れてないけど、それに近いことはされたよ!
お父さんにそれは……まずいよ。お父さんの指に……いや、だめだめ。
でも、お父さんをどこか重ねていたからこそ、嫌悪感がなかったような気も。
だめだ、考えるのよそう。余計ぐるぐるしてくる。
きっと、親に甘えたい時に甘えられなかったから、甘えたい衝動を性欲と混同してるんだ。
寝よう、寝てしまおう、それがいい。早く寝なさいって言われたし。

ベッドにもぐり込んで、無理やり寝ようと目を閉じる。
次に目を開けたら、すっかり朝だった。あれ? いつの間に。
姉さんが起きている気配はない。朝ご飯の支度をしようと台所に立つ。
冷蔵庫の中の、昨日の残りを物色していたら、姉さんが開かない目をこすりながら起きてきた。
風呂に入る気なんだろう、下着だけ付けて、ほとんど裸だ。
その姿にギョッとする。虫に刺されたかと思うくらい、赤い斑点が体中に散っている。
僕の付けた跡が、どれか悩むくらいだ。お仕置きって、これ?
ふらふらと風呂に入って少しして、姉さんの悲鳴というか絶叫が聞こえる。
風呂からすごい勢いで飛び出してきた。あーあ、濡れたままだ、床がびしょびしょ。

「お前! これ何だよ!」
「僕が付けたんじゃないよ」
「お前のせいだろ! お前が跡付けるから!」
「付けていいって言ったじゃない! ……だって、まさかそんなことになるとは」
「ずっと我慢させてたからなぁ、それにしても派手にやりやがって」
「昨日、あれからどうだったの?」
「ああ、髭がなあ」
「ヒゲ!?」
「! 何でもねえ気にすんな!」
床をそのままにして、姉さんは風呂に戻る。床は当然、出てきたら自分で拭いてもらおう。
髭、髭か、気になる。体中に散った跡といい、あれから二人はいったい何を。
支度が済んだ頃合を計ったように、姉さんが出てきた。まず床を拭いてもらう。
話したいことはたくさんあるけど、とりあえずお腹が満たされるまでは二人とも無口だ。

食事が済んで一息入れる。姉さんはジュースを口に含んだまま新聞に見入っている。
「あの人ってお父さんみたいだね」と何気なく言うと、姉さんは思いきりむせた。
散々咳き込んだ後、同意しかねると涙目で言う。まあ、そうだろうね。
お父さんに抱かれちゃまずいよね。しかも、あんあん言ってたもんね。
世間体が云々って、言いにくいけど、一応姉さんの耳にも入れておいた方がいいかな。

「泊まっていけばって言ったんだけど、世間体が悪いからって」
「ああ、俺も前に言ったことある」
「ひどいよね、姉さんとの関係をそんなに知られちゃまずいのかな」
「……あいつが気にしてるのは、俺らの世間体だ」
「え?」
「結婚前に男を泊めるってのは、世間一般の女にとっちゃ破廉恥な行為なんだと」
「えーっ!? そうなの? 今どき?」
「あと、結婚前に自分の手付きだって公言して、自分に何かあったら責任取れないからって」
「?」
「はっきり言わないんだけどさ……なんか、いまだに、命とか狙われたりしてるみたいで」
「え……」
「結婚したら身内になるだろ? そういう危険が俺らにも及ぶことを危惧してんだよ」
「そうなんだ……だから寝不足なのかな」
「だから俺、軍に就職するって言ってんのに、聞いてくれねーんだよ!」
そりゃそうだろう。何を言い出すんだ、この女は。
今までの話を聞けば、僕らを巻き込まないように彼氏は気を使ってくれてる様子なのに。
軍に身を置くなんて、わざわざ危険の中に自ら飛び込むようなもんじゃないか。
敵が軍の外にいるのか中にいるのかは知らないけど。軍人ってだけで危険と隣合わせなのに。
どうせ志願動機は側にいて守りたいとか、そういう類いのものだろう。
そんなことしなくたって、あの人の側にいる連中は、百戦錬磨の猛者ばっかりだと思うけど。

「……だから姉さん、いまだに僕との組手をやめないんだね……」
「おう! いざって時に役立つのはやっぱ日頃の鍛練だからな!」
「何言ってんの! あの人の気持ち、姉さん全然わかってないじゃない!」
「はあ? お前にそんなこと言われる筋合いねーよ!」
「僕らを危険に巻き込まないようにしてくれてるのに! 軍に入りたいって何だよ!」
「軍に入りゃ問答無用で悪党が誰か探し出して捻り上げられるだろ!」
「ひねり……って」
「この問題が解決しない限り、あいつは俺に結婚しようって言わねーんだよ!」
「いや、だから危険だし」
「俺らの将来の邪魔してる諸悪の根源をぶっ潰す! それだけだ!」

ああ、もう、守るとかそういう生温いのは通り越してるんだね。
具体的に将来の展望を、すでに描いている。夫婦になろうとしてるんだ。
その障壁を取り除く一番手っ取り早い方法が、姉さんの軍入り。
まあ、ね。姉さんの戦闘能力を考えれば、少々のことでは何ともないだろうけど。
……問題は、姉さんが規律にうるさい軍の中で働けるかってことだ。
彼氏が一番問題にしてるのは、実はそこじゃないだろうか。
姉さんは、次なる人生の目的を見つけて、生活も充実してるみたいだ。
以前の、常に絶望が取り巻いていた目的とは違う、明るい未来へつながる目的が。
いいなー……彼氏か、僕も探そうかな。
でも、直接触られるより姉さんを見てた方が感じるんだもん、まだ要らないか。

結局のところ、僕は親への思慕と性的欲求がごちゃごちゃになっているんだろう。
本来親へ感じるべき思慕を、姉さんやその彼氏に感じている状態で。
そこへ年頃らしい性的興味が加わって、ややこしいことに。
長い間、生身の体がなかったんだもん、仕方ないとは思うんだけど。
早くどうにかした方がいいよね。でもまだ姉さんから離れたくないし。
無理に離れなくてもいいって、あの人も言ってくれたし。まだまだ側にいよう。

部屋に戻ってシーツを剥ぐ。取り替えないと、汗臭い。
汗だけじゃないけど。ちょっと心当たりのある部分がパリパリになってるけど。
僕もう自分でできるから、これからはしょっちゅう交換することになるだろう。
潮吹きは、僕が処女のうちは難しいみたいだから、今はとりあえず諦める。
別に吹かなくたって、気持ちいいし、ちゃんといけるようになったし。
そうだ、今度またあの本を姉さんに借りよう。もっともっと気持ち良くなれるかも。
彼氏ができるまではそうしよう、そして困ったことがあったら、また姉さんに頼るんだ。

本を借りに姉さんの部屋に行くと、ほどほどにしとけと言いながら貸してくれた。
理解が深まってから再度目を通すと、けっこう見落としていた部分があることに気付く。
いや、何のことかわからなくて、無意識のうちに流していたように思う。
よし、次はこれ。

「姉さん、クンニって何?」



おわり






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