レッスン
酒 | * ゚Д゚)ノ 氏

僕の抱えた本の山を姉さんが受け取る。その時、姉さんの指が僕の胸に触れた。
よく電気が走ったとか形容されてるけど、そんな刹那的なもんじゃない。
衝撃の強さはそんなものかもしれない、でも、余韻がずっと続いて、全身に広がる。
あそこがじんと疼いて、思わず足を摺り合わせた。

おかしいよね、姉さんも僕も女なのに。
同じ女に触れられて、興奮も何もあったもんじゃないと思うのに。
やだな、濡れてきちゃったよ、気持ち悪い。

その日の夜、お風呂で自分のあそこに触れる。
姉さんは今夜、帰ってこないかもしれない。
夕御飯は15才も年上の恋人と一緒に食べるからと、夕方頃に出ていった。
今頃はベッドの中で、可愛がってもらってるのかな。
こんな風に指を差し込まれて、動かされて。
…………うん、気持ちいいのはわかるんだけど。
声が出るほどじゃないし、指を中に入れて動かしてみても、これの何がそんなにいいんだろう。
姉さんがよく彼と喧嘩しては「自分でやる方がよっぽどいい」とか言うんだけど。
やっぱりわかんないのかな、処女には。
抜き出した指は、粘ついたもので濡れている。これ、感じてるってこと? これで?
なーんか腑に落ちない……。


今日も姉さんと連れ立って、街の図書館へと赴く。
道の途中のゴミ捨て場に、見るからにいかがわしげな雑誌の頁が、風にパラパラめくれていた。
大きな文字の『17才処女の潮吹き初体験!』なる見出しが、見開きで踊っている。

「姉さん、潮吹きって何?」
「水棲ほ乳類が呼吸のために水面下に現れ、吐息と共に水を吹き上げることだ」

すっとぼけて。瞬間湯沸かし器のくせに、何その返答。
どうも最近、触れたくない話題はのらりくらりと避けられてしまうようになった。
姉さんも、ちょっと大人になってしまったのかな。
そりゃ自分はいいよね、15才ちかくも年上の、大人の恋人がいてさ。
何でも聞けるよね。そして何でも答えてくれて、時には実践してくれるんでしょ?

「姉さんは吹いたことあるの?」
「俺は陸棲だからない」
「どこから吹くの?」
「吹いたことない」
「何を吹くの? 潮って何のこと?」
「だーかーらー! 潮なんか吹いたことないっつってんだ!!」

人通りの多い昼下がりの往来で叫ぶにふさわしい単語かどうか、よく知らないけど。
いろんな人が姉さんを振り返ったし、姉さんはトマトを顔で潰したように赤くなってる。
ふーん、何かよくない意味の単語みたいだね。

「知らないの? じゃあ聞いてみるから、いいよ」
「…………待て、誰に聞く気だ?」
「姉さんの彼、あの人なら大人だし、知ってると思うから」
「バッ だっ だめだめだめダメ!! そんな危険なことすんな!」
「何が危険なの? 潮吹きについて聞くだけだよ?」
「年中無休で盛ってる獣にそんなこと聞けるか! 絶対だめだからな!」

いかがわしい雑誌の見出しに出てるくらいの単語だから、想像は付いてたんだけど。
そんなにいやらしい言葉なのか、潮吹きって。
そんなんじゃ、潮吹きに関する本なんて、街の図書館にはないかな。調べたいのに。
気になり始めると止まらない。何なの潮吹きって。
あれだけ焦るってことは、姉さんは体験済みか否かはともかく、何のことかは知ってるんだ。
おしっこ漏らすこと? うーん、それは処女とか初体験とか関係なさそうだし。
何なんだよ、潮吹きって。
「お前、何やってんの?」
「ぎゃっ! ね、ね、姉さん、何してんのこんなとこで?」
「俺が聞いてんの、 なに? ああいう本が欲しいのか?」
「ううん本が欲しいわけじゃなくて何ていうの知りたいことがあるっていうか見たい頁があるって」
「わかった、落ち着け、お前も年頃ってことか」
「年頃も何も、姉さんとひとつしか違わないんだけど」
「この前も潮吹きがどうのって、どこで覚えてくるんだ、そんな言葉を」
「姉さんこそ、どうして潮吹きなんて知ってるのさ」
「俺は、その、あれだから」
「彼氏に教えてもらってるんでしょ? 何なの潮吹きって」

咳払いが聞こえて、周囲を見ると男性が数人、困ったようにこっちを見ている。
見れば二人して一画の出入り口の真ん前に立っていた。これじゃ入れないだろう。
すみませんと謝って離れようとすると、「おっちゃんが吹かせてやろうか?」と声がする。
何だそれと無視していると、通り道を塞がれて、すぐにお尻と胸を撫でられた。
うわ痴漢、と叫ぶ前に、おっさんが鼻血を吹きながら倒れていった。それもひとりじゃない。
馬鹿だな、姉さんにも触っちゃったのか。これじゃ穏便には済まないや。
一通り血祭りにあげて店を出る。関係なさそうな人は殴らなかったと思うんだけど。たぶん。

「あいつら最低!」
「そうだねー、ちょっと勘弁してほしいね」
「人の胸と尻揉んどいて“なんだ子供か”ってなんだー!!」

ああ、沸点はそこか。まあ、その感想を抱くのも無理ないといえばない気がする。
彼氏ができれば姉さんの胸も膨らむと思ってたんだけど。
姉さんの体は、幼児体型とまでは言わないけど、ちょっといろいろ淋しい感じはする。
もしかして姉さん、処女ってことはないだろうけど、あんまり回数こなしてないのかな。
彼氏って淡白な人なんだろうか。忙しい人だとは知ってるけど。
本屋作戦も流血の惨事に終わって、誰かに聞く以外の方法はないように思える。
でも、こんなこと聞けるような人といったら、姉さんくらいのものだ。
ウィンリィも少し頭をよぎったけれど、わざわざ電話で話すような内容でもない。
姉さんが簡単に喋ってくれるとは思えないけど、仕方ないな。

次の日の夜、姉さんが戻ってきたら話してみようと思っていた。
夕ご飯を一緒に食べて、いざ話を切り出そうとした時、姉さんが何か包みを差し出す。
開けてみると、見かけたものとは違うけれど、同じ類いのいかがわしそうな本だった。
何これ買ったの? と聞くと、もらってきたと言う。…………彼氏に? これ使用済み?

「お前がまた変なことに首を突っ込んでも困るし」
「うわー、すごいね で、これに載ってるの? 潮吹き」
「載ってるけど、何かは書いてない、やり方が載ってるだけで」
「えー? 何かが知りたいのに」
「やり方の最後に成功例が書いてある! それ見りゃ何かわかるって!」
「でも、これ、もらっちゃっていいの? 返した方が良くない?」
「いい、他にもそんなのたくさんあったし、と言うより捨ててやりたい」
「何かあったの?」
「あったも何も、それのおかげで俺はひどい目に……」


せっかく待ち合わせたのに、彼は急に職場に戻ると言った。仕事が入ったらしい。
すぐ帰るから部屋で待っていろと言うから、風呂を借りてベッドで待っていた。
退屈だったから本棚を物色していたら、背表紙を奥に向けて入れてある本があった。
引っぱり出してみると、表紙からしていかがわしさ満載。
涼しい顔して、あいつも男なんだなぁと妙に納得して、ベッドに持ち込んで読む。
いわゆる体位の見本が図説付きで載っている。こんなので気持ちいいのかと甚だ疑問に思った。

「今日はどれがいい?」

急に後ろから声がして、声も出ないほど驚いた。
いつの間にか戻っていて、上着を脱いでいる。わざと音をたてずに入ってきたんだろう。
これは暇つぶしに見ていただけで何の興味もない、と訴えたところで無駄だった。
後ろから追い被さられ、胸を揉まれつつ耳たぶを舐められる。
どれがいいのか答えないと、なにか良くない目に合わされそうだった。
かといって、いつもの普通の体位を選んだら、おそらく瞬時に却下されることも目に見えていた。
脚の間に滑りこんだ指に思考を翻弄されながら、少しでも楽そうなのを探して頁をくる。
見なれない単語を見つけ、これは何かと聞きたかったのに、乱れた呼吸のせいで言葉が途切れた。

「これかい? 君も好きだね」

彼はそう言って体を起こし、準備があるからと言って部屋を出ていった。
準備って何! と慌てても遅い。その頁には、手順が丁寧かつ、わかりやすく書かれている。
なるほど、と感心してしまうのは研究者の性か。今からこれを自分がされるというのに。
そして待つこと十数分、待たせたねと現れた男は、風呂上がりの体でタオルを手にしていた。
それをベッドに敷いて、この上に座れと言う。壁にもたれて横にならずにいろとも言った。
腰に枕をあて、脚は開かされて、その間に彼が腰をすえた。
それからはもう、ひたすら指で嬲られ続け、いつ何がどうなったのか定かではない。
たくさん出たね、という声に目を開けてみると、彼が手を掲げて見せる。
指先から掌にかけてが濡れそぼっているのはわかる、だが腕が濡れているのはどういうことだ。
粘ついた感じのない、さらりとした液体。汗かと思ったが、彼の顔や体にその形跡はない。
たくさん出たという言葉から察するに、やはり自分の体から出たものなんだろう。
これは何かと聞くと、今のところ学術的には正式な答えが出ていない、と回答される。
そういうことが知りたいのではないのだが。

行為そのものは、出入りするのが性器ではなく指数本というだけの差で。
感じ方に若干の差異はあれど、得られる快感はいつもと変わりなかった。
ということは、これはいつも出ているもので、今何か特殊なことをして絞り出した訳ではないのか。
そういえば、後ろから貫かれている時、まれにシーツに液体が落ちる音を聞くことがある。
始めの頃は尿かと思い恥ずかしくて、事前に必ずトイレにいくことにした。
それでも音がすることがあって、今は気にしないことにしたのだが。
なるほど、あれが潮だったか。

何はともあれ、注文通りに雑誌に掲載されていた行為は済ませてやった。
そろそろいつものように抱いてくれるかと思えば、再び指があそこへ侵入していく。
もう嫌だと身を捩れば、せっかくタオルを敷いたのにと、訳のわからないことを言われる。
「もっと濡らしてごらん、好きなだけ吹くといい」

耳もとで囁くように言いながら、指は的確に感じるところを攻めていく。
信じられないくらい水を含んだ音が、自分の体から聞こえてくる。
いつもは体がぶつかり合う音でかき消されているものが、指だけだと鮮明に聞き取れた。
そしてまた新たに湧き出ようとしているのがわかる、体の奥が熱い。
こんなに乱れさせられて、せめて潮が吹き出るところを自分の目で確かめたいと思ったが。
達する時に、どうしても目を閉じてしまって、結局それは叶わなかった。

膝の裏に手を添えられて脚を抱えられ、やっと挿入かと息を吐けば。
頁をくる音と、どれにしようかというつぶやきが聞こえて、思わず身を起こそうとした。
が、脚を持ち上げられてしまい、ベッドへ沈む。その間もパラパラと頁はくられている。

「これはどうかな? やってみたいと思っていたんだ」

君は体が柔らかいからできるはずだよ、と優しく言われても、その図を見て頷けるものか。
激しく却下しているのに聞く気はないらしく、抵抗のかいなく図説の体位へ持ち込まれた。
しかも、その体勢でどうにか快感を得られるようになった頃、別の体位へと移ってしまう。
どのくらい経った辺りか、顔の横で例のタオルがくしゃくしゃになっていた。
触ってみると、しっとりしている。ところどころはぐっしょりと濡れていた。
こんなに出したのかと認識すると、もう何がどうでもなんでもよくなった。

翌朝。
散々弄ばれた挙げ句、やっぱりいつもの体位が一番だと言われ、死んでしまえと思った。
確かに、少しは興味があったのは認める。だけどあんなに嫌だと言ったのに。
もう絶対に絶対に許さない。態度如何では別れてやる、かもしれない、ぐらいの気持ちはある。
しかし、夕べ待たせたお詫びにと買ってあるケーキが冷蔵庫で待機しているのを知っている。
あれを食べるまでは、とりあえず別れ話は保留にして。
そして食べ終わる頃には、そんな怒りなどきれいさっぱり忘れてしまったのだ。





「な? 大変だっただろ?」
「ごめん、僕には惚気にしか聞こえなかったよ」
「お前、俺の話ちゃんと聞いてたか?」
「そんなことより姉さん、えーと、これ、しちゃった?」
「どれ?   あー……、   した  かな」
「へえ、じゃ、これは?」
「それもした、かも」
「へー、すごいね じゃ、これなんかは?」
「バッ バカお前いくらなんでもこれはないだろ!」

最後のは確かに曲芸にしか見えない。でも、体験済みという体位だって相当なものだ。
好きな人の前だからこそ、こんな恥ずかしい格好できないよ、普通に考えれば。
それができちゃうくらい好きってことなんだろうけど。
この姉さんがこんなことを、男の前で。雑誌と姉さんとを交互に見る。
姉さんは何だよとぶっきらぼうに言いつつ、首まで真っ赤になっていた。

自分でも、あそこが熱くなっているのがわかる。
今すぐ触りたい、でも自分でやると、すぐに冷めていってしまう。
体はもっと強い快感を求めている、でもどうすればいいのかわからない。
熱ばかりを持て余していて、時には下着が乳首やあそこを擦るだけで、たまらなくなってしまう。
男だったらこんなもの、すぐ処理できると聞くのに。女はどうすればいいの?
目の前の人は、おそらく答を知っている。
「ねえ、姉さん、潮吹きって気持ちいい?」
「はぁ? だから潮吹きは結果なんだよ、気持ちいい結果として出るんだ」
「そう、姉さんは潮吹きの経験者だよね、やり方はわかる?」
「吹き方か?」
「ううん、吹かせ方」
「さあなぁ、感じ方も人それぞれだろうし、相手の体をよく知ってないと」
「姉さんなら、僕の体をよく知ってるよね?」
「………………ちょっと待て、アル、何が言いたい?」
「僕を吹かせてくれないかな」
「はあぁ!?」

姉さんは混乱しながらも、俺たちは姉妹で血が繋がって云々と、よくある説教をかまし始める。
女同士ってところは吹っ飛んでいるのか、姉さんの口から出てこない。
嫌悪している様子がないので、畳み掛けることにする。口で僕に勝てると思わないでよね。

「いきなり男の人が相手なんて怖いよ、姉さんが教えてよ!」
「普通はいきなり相手が男なんだよ! 任せてりゃいいんだって!」
「やだ! 相手も初めてだったらどうするのさ!」
「そ、それは、本能! 本能がどうにかしてくれるはずだ!」
「そんなの、それこそ怖いだろ! やりたいようにやられちゃうじゃないか!」
「優しくしてとか何とか言っとけ! お前のこと好きなら優しくしてくれるって!」
「じゃあ姉さんの初めては優しくしてもらったの!?」
…………姉さんが黙った。あれ、触れちゃいけないところでしたか?
腕を組みながら、そうだよなぁとか小さくぶつぶつ言っている。
僕も、何をこんなに必死になっているのかと、我ながらおかしくなってきた。
僕は気持ち良くなりたいだけなのか、姉さんに相手をして欲しいのか、どっちだろう。
たぶん、姉さんに触って欲しい、姉さんに触りたい、そのついでに気持ち良くなりたい。
だって、あの姉さんがベッドではどうなるのか、ものすごく興味がある。
そして僕自身も、どこまでいってしまうのか知りたい。
相手が他人の男だとやっぱり怖いんだろうけど、姉さんが相手なら安心できる。
安心できた方が、より気持ち良くなれると思うから。

「正直に答えろ、アル、お前、男性経験は?」
「ないよ、処女」
「そうだよな……自分で触ったことは?」
「それなら何度か」
「気持ちいいと感じるか?」
「まあ若干は」
「うーん、一応言っとくけど、いきなり気持ちいいかどうかは微妙だぞ」
「そう?」
「何をどう感じればいいのか、最初はよくわからない場合もある、らしい」
「姉さんはどうだった?」
「俺は、その、あれだ」
「気持ち良かったんでしょ? だったら僕も大丈夫! 自信あるもん!」
姉さんはまだ迷ってるみたいだったけど、ここまでくれば、あとひと押し。
潤んだ目で「姉さん!」と迫ると、仕方無さそうに笑って頭を撫でてくれた。
ああ、この仕種は、ちょっとお母さんに似てる。

食器は片付けておくから、先に風呂に入ってこいと言われた。
これから姉さんに触ってもらえるんだからと、時間をかけて隅々まできれいにした。
出てみると、待ちくたびれた様子の姉さんに、どこ洗ってたんだと叱られる。
どこって、あそこだよ! もう……女心のわからない人だな。

姉さんの部屋で待つ。下着はとっておきの可愛いリボン付のにした。
姉さんのベッドは姉さんの匂いがして、嬉しくてゴロゴロ転げ回る。
匂いもシーツの感触も、姉さんの柔らかさも、少し前まで全然わからなかった。
でも今は全身で感じることができる。それが何より嬉しい。

姉さんが薄い肌着だけ付けて戻ってきた。風呂上がりの石鹸の匂いがいい香り。
お前、下着なんか着てんの? すぐ脱ぐのに、 と不思議そうに言われる。
バカバカバカ、姉さんのバカ。負けじと、これ可愛いでしょ? と聞いてみる。
うん、ハイ、じゃ脱いで、……ってさ、医者の診察じゃないんだからねー!!
バカバカバカバカバカバカ、姉さんのバカ!! 
なんだよ触りながら「濡れてきたね」とか言いながら脱がせてくれるんじゃないの!?
それは求め過ぎにしても、可愛いくらいは言ってよね! 女同士でもね!
デリカシーがなさ過ぎる。まさか彼氏に対しても、こんなに可愛げがないのかな。
泣きたくなりながら、言われた通り全部脱いだ。
姉さんは僕を見ながら、ふぅとため息を吐いた。
「やっぱデカいな」
「何が?」
「胸だよ、乳、それから尻」
「なっ なんだよ、そりゃ姉さんに比べたら太ってるかもしれないけどさ」
「くびれはちゃんとあるし、いいよな、女らしい体つきで」
「そう? 姉さんの方がきれいだよ、清楚な感じで」
「俺だって好きでこんな体じゃねえんだ! 正直胸とか尻とか欲しい!」
「姉さん、彼と何が」
「君は固いな って言いやがった! ちくしょう俺だってフカフカさせてやりてぇよ!」
「……姉さん、そんな男のことは今は忘れて」

デリカシーのなさは男の影響だったか。今度彼氏にきつく言っておかなきゃ。
どっちかというと姉さんの方が泣きそうになってるから、ここに来てと腕を伸ばす。
ベッドに乗ってきた姉さんは、僕の胸に顔を埋めた。両手で胸を持ち上げて、顔を挟む。

「あー、なんかあいつがやりたがるのわかる気がする、フカフカで気持ちいい」
「姉さんだって固くなんかないよ、柔らかいよ」
「アル、本当にいいんだな? 後悔しないな?」
「しないしない、全然平気、むしろ歓迎」
「よし! そこまで言うんなら俺がんばるからな!」
「うん、任せたからね!」

要るか要らないかわかんないけどとりあえず、と姉さんはタオルを敷き始める。
自分が経験した通りを再現しているらしい。
ということは、脚を広げて座って腰に枕を当てるんだとわかったから、あらかじめそうした。
そんな僕を見て姉さんはまた真っ赤になってる。
目を逸らしながら広げた脚の間に、四つん這いになって近付いてきた。
姉さんは僕の脚の間に入ってから顔を上げて、そっとキスをしてくれる。
唇が触れるだけで、これじゃ挨拶と変わらないなぁと余裕でいると、柔らかく吸われ始めた。
意識したわけじゃないのに口が開いて、姉さんの舌が優しく入り込んでくる。
本では、ここでお互いの舌を絡めるとかの記述があるけど、これはいったいどうすれば。
…………わからないので姉さんに任せる。とりあえず、息をするので精一杯。

ちゅ、と音がして姉さんの唇が離れて、そのまま耳に移動する。くすぐったい。
同時に姉さんの両手が僕の乳房にあてられて、優しく揉まれる。
乳首を摘まれると、少し体がビクッとなる。やっとなんだか気持ち良くなってきた。
姉さんの唇は耳から首を経由して、僕の乳首に吸い付いた。

「あっ あ、ね、姉さん! ……やだっ!」
「嫌か!? ごめん、もうしないから」
「え? あ、ううん、続けてよ、僕こそごめん、嫌とか言っちゃって」
「嫌なら止めるから、どうする? 続けるか?」
「うん、続けて」

嫌だなんてこれっぽっちも思ってないのに、口では嫌とか言っちゃうのが、自分でも驚いた。
本では、よく女が嫌だ嫌だと言いつつアンアン喘いでて、どっちなんだと思ってたけど。
実際、言っちゃうもんなんだ、なんでだろ。
姉さんの指と舌とで乳房を弄くられて、何度も嫌だと言いそうになるのを堪えた。
だって嫌じゃないから。できればもっとと訴えたいのに、これは何故か上手く言えない。
やがて姉さんの指がゆっくり下がっていって、僕の脚の間へと潜っていった。

「アル、濡れてる」
「うん、だって気持ちいいんだもん」
姉さんは微笑んで、もう一度キスをくれた。口付けられたまま、指が動き始める。
ああ、すごい。自分で触るのとは全然ちがう。でも、これって。
………………気持ちいいのかな? 嫌じゃないんだけど、これが快感ってやつ?
うーん……期待し過ぎだったかな。もっと、頭が真っ白になるような刺激が欲しいのに。
きっと、中に入れてないからだ。そうだよ、指とか入れてもらえば、きっと良くなるんだ。
初めは痛いらしいけど、そのうち良くなるんだ。本では大抵そうなってる。

「姉さん、い、入れて」
「え、あ、……い、入れていいのか?」
「入れて、入れないと潮って出ないんでしょ?」
「いや、入れなくても気持ちよければ出ると思うけど」
「入れた方が気持ちいいんじゃない?」
「でも、お前って処女だろ、痛いって」
「大丈夫、姉さんの指くらい平気」
「でも……」
「姉さん、お願い」
「……ちょっと待ってろ」

そう言って姉さんは、もらってきた雑誌を取ってきて、該当頁を広げて横に置いた。
えーと、とか言いながら恐る恐る触ってくる。なんだかひどく間抜けな光景で、白けてきた。
期待し過ぎたのは僕が悪いけど、姉さんだって経験豊富みないな喋り口だったのに。
もっと目くるめく展開を期待してたのに、なんだよ、全然じゃないか。
「痛いっ!」
「あ、ごめん! ほら、やっぱり痛いだろ、入れるのは止めよう?」
「やだ、姉さんはいろいろ知ってるんでしょ? 気持ち良くしてよ」
「男のものなら何度も見てるし知ってるんだけど、女のは初めて見るから……」
「ねえ、痛くてもいいからしてよ、姉さんがいい、姉さんじゃないと嫌だ」
「アル、やっぱり本当に好きな人ができるまで止めておこう、後悔するから」
「しない! だって姉さんが好きだもん! ずっと姉さんだけ見てたんだもん!」
「それは、俺が母さんを蘇らせるなんて馬鹿なことしたから、お前が鎧に」
「違う! ちがうもん……!」

姉さんに無理させてるな、とか、我ながら馬鹿なこと言ってるな、とか、いろいろ泣けた。
泣きじゃくる僕を抱きしめて、姉さんがずっと謝ってる。
姉さんが謝ることなんて何もないのに。僕が勝手に期待して、失望してるだけなのに。
姉さんは何でもできて、何でも知ってて、だから何でも叶えてくれるって。
胸までは確かに気持ち良かったんだから、きっと僕が、下半身での感じ方が掴めなかっただけ。
姉さんは最初から、処女で気持ちいいと感じられるかどうかは微妙だって言っていた。
悪いのは僕なんだ、それなのに。俺が下手だから、の姉さんの一言で、また姉さんに甘えてしまう。

そうだよ、こんな簡単なことなのに、と言った気がする。
姉さんを突き飛ばして押し倒し、両足を持ち上げて開かせて、中心に顔を埋めた。
そこを見てしまったら引きそうだったから、目を閉じて、一心不乱に舌を動かす。
姉さんは嫌がって暴れるけど、力や体術なら僕の方が強い。
舌の付け根が痺れてくるほど舐めてみたけど、姉さんは一定のところ以上に乱れることはなかった。
やがて静かな声で名前を呼ばれて、もういくらやっても無駄だと宣告された。
僕の口の周りはべとべとになってる。姉さんのあそこだってぐっしょり濡れてるのに。
顔を上げると、姉さんは体を起こした。怒られるかと思ったけど、おいでと言って腕を広げてくれた。
僕はそこに飛び込んで、声を上げて泣いた。
悔しい。あんな男でさえ、姉さんを気持ち良くさせることができるのに。
ずっと一緒にいた僕が、そんなことさえできないなんて。悔しい。
せっかく姉さんが触ってくれたのに、それを気持ちいいと感じられないなんて。悔しい。

「泣くなアル、お前はまだ知らないだけなんだから」
「だって……だって姉さん、僕……僕が、悪い」
「アルは悪くない、大丈夫、そのうちわかるよ」
「そのうちなんてやだ、知りたい、今すぐ知りたいのに」
「アル……とりあえずは、もらってきた本を読んどけ」
「? うん、読む」
「見せてやるから、そのうち」
「何を?」
「アルなら、見ればきっとすぐにわかるから、それまで我慢な」

その日は、そのまま姉さんのベッドで引っ付いて眠った。
翌朝、姉さんの顔をなんとなく直視できなかったけど、姉さんはいつも通りに接してくれた。
体は小さくても瞬間湯沸かし器でも、やっぱりこの人は姉さんなんだなと思った。

もらってきてくれた本は、あれから何度も読み返し、特に潮吹きの頁は読み込んだ。
なるほど、とりあえずどういうものかは理解したけど、やっぱり体験してみたい。
すごく気持ちいいんだろうなぁという期待は高まる一方で。
でも、この前のように、その感じ方がわからないのでは話にならない。
相変わらず、自分でやってはみるけど、やっぱりよくわからないままだ。
そんなある日の夜、明日の昼は暇かと姉さんが聞いてきた。
予定はないと答えると、少し付き合えと言って、姉さんの部屋に連れていかれる。
姉さんは、ベッドの向いにあるクローゼットを再練成して形を変え、中に入ってみろと僕に言う。
入ってみると、少し狭いながらも座れる程度の広さがあった。
そして、扉には穴があった。表からみると、装飾の一部として削られたように見える穴だ。
これって……中にいながら外の様子が覗けるようになっている……まさか。

「明日は休みらしいから、連れてくる」
「誰を って、わかってるけどさ……」
「見せてやるって言ったろ」
「姉さん、いいの?」
「やっぱり妹の頼みを無下にできないしな、こういうことを教えるのも姉の務めだ!」
「そ、そう? それにしても荒療治だね」
「アルなら、どういうもんか見ればわかるだろ、わかれば自分でどうにかできるし」
「でも、姉さん、恥ずかしくない? 僕に見られるのに」
「恥ずかしいに決まってるだろ! でも俺が教えなきゃ誰が教えるんだ、男は嫌なんだろ?」
「うん、……ありがとう姉さん」
「よし、じゃ明日は昼から家にいろよ、呼んでくるから」
「僕、横で見てる訳にはいかない?」
「だめだめダメ! 危ないからだめ!」
「何が危ないの?」
「お前がいるとわかったら、絶対お前にも手を出すから!」
「……姉さん、そんな男とは別れた方がいいんじゃ……」


朝、特に出かける様子のない姉さんは、寝間着姿のままでうろうろしている。
僕も用事がないので付き合って、どうでもいい格好をしていた。
昼ご飯は彼と食べるのかと思っていたけど、うちで食べてから出かけると言う。
買い物をさぼっていたため、ろくな食材がない。夕べの残りで二人とも済ませる。

後片付けを頼むと言って、姉さんは風呂に入っていった。
彼に会うんだもん、きれいにしておかなきゃねって、からかったつもりだったのに。
事前に風呂に入らせてくれない可能性があるからな、と真顔で返された。
……あの人、けっこう獣なんだ。

姉さんは風呂上がり、下着だけ付けて出てきた。いつにない、可愛い下着だ。
あんなの持ってたっけ? というか、あんなの自分で買ったのかな? 意外。
暇なので、支度する姉さんを横で見ている。
スカートもソックスも膝上の長さで、よく似合っているんだけど。
どこか物事のディティールが崩壊している姉さんの趣味では絶対にない。
「姉さん、その服って自分で買ったの?」
「いや、こんなピラピラ買うわけないだろ」
「彼氏の見立て?」
「上下一式全部あいつの買い物、金が余ってて仕方ないんだろうな」
「またそんな言い方して、 下着も?」
「靴まで、全部」

時々、大きな袋をいくつも持って帰ってくると思ったら、こういうことか。
姉さんのいつもの格好を見てたら、服の一着二着、買ってやりたくもなるんだろうな。
汚いとかだらしないのとは違うけど、機能性重視というか色気皆無というか。
まあ、お金は持ってそうな人だし。そう言ったら姉さんだってお金がないわけじゃないけど。
流行に合わせて服を買うとか、そういう発想そのものが姉さんにないだけで。
こうしてちゃんとした格好してれば、小さくてそれなりに可愛いのに。

姉さんが出かけている間、これから身を潜めるクローゼットの中を整理する。
見たことない服がたくさんあって、どれもきちんと収納されていた。
大事にしてるということはわかるけど、服は着てこそ活きると思う。
姉さんは、大事なものは仕舞い込む質みたいだ。ちゃんと着るように言っておこう。
それにしても、良い服ばっかり。その辺の安物じゃないことは、見ればわかる。
ここまでくると羨ましい、今度ちょっと貸してくれないかな。
手に取って、上からあててみる。胸囲がまったく足らない。……子供服?

しばらくすると、玄関から人の話し声が聞こえてきた。
帰ってきたみたいだから、いよいよクローゼットの中に身を潜める。
穴を覗き込みやすいように位置を決めて座り込んでいると、姉さんが彼氏と一緒に戻ってきた。
「お願いがあるんだけど」
「何だい? 今日はお願いが多いね」
「いや?」
「嬉しいくらいだよ」
「…………抱いて欲しいんだけど、」
「いいとも」

まだ続きがあるのに、と精一杯暴れる姉さんをものともせず、ベッドに押し倒した。
男女の差というよりは大人と子供の体格差、そりゃ無理もないんだけど。
本屋での痴漢撃退劇を思い返せば、抵抗が本気でないのがよくわかる。
相手を殴ろう蹴ろうじゃないもんね、脚を閉じようとか手の動きを止めさせようとか。
そんなの抵抗とは言わないんだよ姉さん。彼氏も嬉しそうだし。
なるほど、風呂に入っておいて良かったね。

「いや、やだっ 待って、服が」
「そういえば、やっと着てくれたね、これはいつ買った物だったかな」
「服が汚れる……っ! やだぁっ やめて!」
「また買ってあげるよ、でも、そんなに気になるのなら」
「あっ」

男は姉さんの腰を簡単に持ち上げて、軽々とうつ伏せにさせた。
角度的に、姉さんの肝心なところが見えないんだけど、男の手はスカートの奥に入っているらしい。
逃げようと腰を上げたのが逆効果で、そのまま腕を回されて固定されてしまった。
嫌だ嫌だと口では言うけど、脚は徐々に開いていって、太股にあるソックスのレースが見える。
腰に回っていた腕が胸まで伸ばされて、服の前を開いてブラジャーの下に潜り込んだ。
パットを1枚ずつ抜き取られると、ブラジャーにはもう押さえて持ち上げるものがなくなった。
そうして易々とブラをずらされて胸を直接弄くられている。
男の手が細かく動いていて、男の顔は薄く笑っていて、姉さんは顔を伏せてしまったから表情が見えない。
でも、姉さんの腰はずっと揺らめいて、時おり強く痙攣するように震える。
声は高く、ひどく鼻にかかって今にも泣きそう。こんな姉さんの声、聞いたことがない。
僕まで落ち着かなくなってくる。こういうのを扇情的っていうんだ。

「ずいぶん短時間で濡れてきたね、久々だからかな」
「ちがっ そんなことない……」
「おや、では君はこの音を何だと解釈するつもりだ?」
「ああっ や、やだ、聞かせるな……いや……」
「ほら、濡れてるだろう?」
「うっ あ、あ、濡れてる、濡れてるから、待って、聞けよ!」
「何だい?」
「ちゃんと抱いて欲しいの! 普通に!」
「そうか、悪かった」

男は体を起こし、姉さんの背中を膝で押さえ付けながら、自分のベルトを緩めた。
おもむろにズボンを下着と一緒に下ろ……あ、途中で引っ掛かって、うわ。
初めて目の前で見た……! いや、扉越しというか穴越しだけども。
うーわー、あ、あんなものが姉さんのあそこに? いや、無理でしょ、無理無理。
どこからか取り出した物の封を開けて……あれがゴムなのか、ああやって付けるんだ。
へー、と感心してる間に姉さんは腰を抱え上げられ、男はゴムを装着した自分の物を掴む。
それでもって姉さんのあそこをどうにかしてるみたいだけど、角度的に見えない。
姉さんのスカートは完全に捲れ上がって、お尻が見えてる。
顔を上げた姉さんと、目が合った気がする。姉さんは違うという風に、弱く首を振った。
男の手が姉さんのお尻を掴んで、体を押し付けた。姉さんは一瞬目を見開いて、すぐ閉じた。
「いっ いや、いやぁっ!」
「君が抱けと言うから抱いているのに」
「違う、ちゃんと、あっ 順番 通りに、あ、あ、して欲し あっ」
「手順としては間違ってないだろう? ちゃんと濡れてから入れたし」
「そういう こと、あんっ 言ってんじゃ ねぇ、って ああっ」
「? 何のことだ?」
「とにかく、違う ん だからっ ……あっ あぁん! あっ、く、う」
「もう黙って、私の方も余裕がない」
「ひ、あ、いや、あっ あ、あ、あん、やだ……あ」
「この前も食事だけで帰ってしまうし、寂しかったよ」

男の動きが激しくなって、ベッドが軋んだ音をたてている。
姉さんの小さな体はガクガクといいように揺さぶられて、スカートが律動に合わせて揺れる。
二人とも、ほとんど服を着たままっていうのが、性急さがよく表れていてエッチだ。
姉さんは、こういうのを見せたかったわけじゃないんだろうな。かわいそうに。

男の腕がまた姉さんの股の辺りで蠢いている。姉さんの声が一段と高くなった。
男の顔から笑みが消えて、強く体を打ち付けて動きを止めた。
姉さんは背を反らせ、ほとんど悲鳴に近い声を上げて、がくりとベッドに倒れ伏せる。
荒い息をしていたけど、男が体を離す時に小さな声を出した。
抜き出された男のものを覆うゴムが、てらてらと粘つくもので光を反射している。
ああ、あれが姉さんのあそこに入ってたんだ。ちょっと信じられない。
肝心なところが全然見えなかったし。これじゃ本を読んで想像するのと同じだ。
でも主導権は完全に彼氏にあるみたいだし、僕に見せられるように立ち回るって無理か。
このまま延々二人の営みを見せられるのも、興味はあるけど姉さんに悪いし。
どうしたものかなと悩んでいると、姉さんが部屋から出ていった。トイレかな。
すると、男が処理を済ませ服を着直して、こっちに近付いてくる。
何だろう、クローゼットに用はないだろうけど。と思ったら、扉が開けられた。

「やあ、こんにちは」
「こっ ……………………こんにちは」

「やっと会えたね」
「はあ……どうも」
「いつも君に会わせろ、家に寄らせろと言っていたのに、断固拒否されててね」
「そうなんですか」
「それが今日はいきなり部屋に来てくれ、だったので驚いたが」
「そうですか」
「君はいないという話だったんだがね、どうもここを気にしてる様子だったから」
「あー……なるほど」
「で、君たちが何を企んでいるのか、話してもらおうかな」
「えーと、姉さんはどこに?」
「食べる物がないと言うから買い込んできたのを、冷蔵庫に仕舞ってるんだろう」
「はあ」
「後で君も一緒に食べよう、さあ、喋ってもらおうか」

どうしよう、喋ったことで姉さんがひどい目に合わされたりしたら。
だから話せませんと言ったら、それなら君の姉さんの体に聞くよ、と言う。
どっちにしても結果は同じようなものだとわかって、おとなしく全部話す。
ふんふんと興味深そうに相づちを打ちながら、男は茶化すこともなく話を聞いている。
「なるほど、感じ方がわからないと」
「そうなんです、それで姉さんに頼ったんですけど、まだわからなくて」
「君は処女か?」
「はい」
「ふむ、ちょっと失礼」

男の手がいきなり僕の股間に伸びる。指が上下に動いたり、一点を擦ってきたり。
その間にもう片方の手は胸をまさぐり始めた。乳首の周りを擦られたり摘まれたりする。
その全部が、どうってことないというか、驚きが勝って感じるどころじゃない。
殴りつけようかと思ったけど、男の顔がひどく真面目で、怒る気が失せてしまった。
まるで何かを実験している科学者のような顔だったから。
ここは? ここは? と医者の触診を受けている気分になって、ますます感じない。

「気持ちいいとは思うかい?」
「はい、ちょっと体がピクッとするというか」
「なるほど」
「ただ、それ以上にならないんです、まして潮なんて」
「……何だって?」
「潮です、潮を吹けるくらい感じてみたいんですけど」

ゴンと大きな音がした。男が後頭部を押さえている。扉に打ち付けたらしい。
どうしたんだろうと見上げていると、階段を登る足音が聞こえてきた。
姉さんが戻ってくる、どうしよう、バレたって知らせるべきかな。
すると扉を閉めながら、隠れていなさいと男が言った。

「女は、気持ちが固まらないと感じないものだと聞く」
「?」
「どっちがいいのか、これから見て決めなさい」
「どっち?」
「気持ち良くなりたいのか、気持ち良くさせたいのか」
扉が完全に閉められて、また穴から部屋を覗く。姉さんが戻ってきた。
何か小声で男に言っている、聞き取れないけれど表情からして怒っているらしい。さっきのことかな。
今度は二人連れ立って部屋を出て行こうとしている。姉さんがちらりとこっちを見た。
だからバレるんだね、昔から隠し事は苦手な人だったけど。
部屋の扉を閉める真際、男がこっちを見て笑った。風呂だよ、と口が動いた。

風呂なら5分やそこらじゃ出てこない、僕もトイレとか済ませておこう。
外に出て、二人が風呂に入っているのを確認してから行動する。
今度は姉さんから隠れなきゃいけないなんて、変な感じ。
それにしても、彼氏は別に姉さんが言うほど獣ではないような。確かに手は早いけど。

冷蔵庫の中を見てみると、手当りしだいに買ったのかと疑うくらいに食べ物が入っている。
僕の好きなものも入っていて嬉しい。早く食べたいけど、いつになるんだろう。
風呂から笑い声が聞こえる。何だかんだ言っても仲が良さそうで、いいことだ。
水を飲んでトイレへいって、さっき少し濡れたから下着を替えて、またクローゼットに戻る。
少しして、二人がタオルを巻いたままの姿で出てきた。
さすが軍人というべきか、彼氏の体にはあちこちに傷跡があって、意外といい体をしている。
ちょっと見愡れてしまった。姉さんはというと、すでにうっとりとした顔をしている。
ああ、これはもう僕の存在は頭にないね。たぶん二人きりの世界にぶっ飛んだね。

彼氏が優しく姉さんの肩を抱いて、ベッドに座らせて、こっちに体を向けさせた。
そこでやっと姉さんは「あ」という顔をして、少し表情を引き締める。
でも、もう見ちゃった。あの姉さんが、あんな溶けそうな顔するとは。恋ってすごい。
姉さんは、彼氏から頬や耳なんかに何度もキスされて、耳もとで何か囁かれて、嬉しそうに笑う。
そしてまた二人きりの世界に行ってしまったらしい。まあ、いいけど。
唇が合わさっては離れる音を聞きつつ、心の中で彼氏の言葉を繰り返しながら観察を続ける。
どっちがいいのか。気持ち良くなりたいのか、気持ち良くさせたいのか、か。
潮吹きが目標なわけだし、気持ち良くなりたい、感じたいとは当然思う。
そのために心を決めろっていうことなんだよね。でも、どっちと言われても……。

ベッドの上の行為は、まさに姉さんの希望にかなった手順通りという感じで営まれている。
まずキスをしましょう、それから指や舌で愛撫しましょう、という風だ。
姉さんの方のタオルは開けられて体の下に敷かれている。下着は付けていない。
服を着たままの次が丸裸って、極端な人たちだな。そういうものなのかな。
両方の胸をまさぐられ舐められながら、姉さんは彼氏の首から頭をゆっくり撫でている。
時々小さな声を上げつつ、目を閉じて気持ち良さそうに身を任せている。
彼氏の方は、ほとんど盛り上がりのない乳房に、それでも時おり頬をすり寄せて甘えているようだ。
いいなあ……僕も甘えたい。

あ、これって、どっち?

彼氏の手が姉さんの膝に伸びて、脚を開かせた。うわ、丸見えだ。穴越しとはいえ、全部見える。
ああなってるんだ……ふーん……じゃあ僕のもあんな風になってるんだ……へーえ。
喋ってないけど、思わず絶句。絵なら見たことあったけど、色が付くとまた違って見える。
男ってあれ見て興奮できるわけ? それって何か間違ってない? わからない。
そこにためらいなく彼氏の手が入っていって、指が動き始めと、姉さんの爪先がきゅっと丸まった。

僕に見えるようにしてくれてるのはわかるけど、あんまり嬉しくないというか。
正直、怖いというか。だって、なに、あんなこと、本当にしちゃうんだ。
本では読んだけど、やっぱり実物は違う。だって本の女性はあんなに身を捩ってなかった。
本だから、あんな声は当然しないとしても、あんな泣きそうな顔はしてなかったし。
あそこが真っ赤になってきてて、見た感じ痛そうだし。でも指は変わらず動いてるし。
なんだか姉さんが心配になって気持ちが引いてきた。どうしよう、本気で怖い。
姉さんとしては今の方が「普通」なんだろうけど、僕にはさっきの方が良かったな。
「今はあんまり濡れないね、さっきのでもう満足した?」
「ううん、そんなことないけど、濡れてない?」
「ほら、こんなに指が引っ掛かるよ」
「あぁん! あっ、あ、本当……変だな、緊張してんのかな」
「緊張?」
「あ、ほら、久々だから、ね」

姉さんはそう言いながら、ちらっとこっちを見てしまう。正直だよね、性格はけっこう悪なのに。
久々も何も、さっき一回したじゃない。同じことを彼氏に突っ込まれて慌てている。
優しくされるのが久々とか何とか、奇跡的に言い訳を成立させていた。
彼氏は全部知ってるんだけどね、そう思うとかわいそうになってくる。
濡れないのなら濡らそうかと言って、彼氏が姉さんのあそこに顔を埋めた。同時に姉さんの声が高くなる。
舌の動きが見て取れて、時々全部口内に収めるかのように、唇が吸い付いている。
姉さんの脚は痙攣したように動いて、股にある彼氏の頭を太股が挟み込んだ。
喘ぎ声が激しくなり背も反って、姉さんは達したらしい。荒い呼吸をして、ぐったりしている。

彼氏は姉さんの太股を掴んで開き、口元を自らの腕で拭いながら、おもむろにこっちを見た。
姉さんはまだベッドに沈んだまま、目を閉じている。男の様子には気付いていない。
にやりと不敵に笑い、動かない姉さんの体に覆い被さって、腕をベッドに押し付けて拘束した。
そして、僕に「出ておいで」と言った。

「!! ロイ、何を言って……」
「少し前かな、うっかり気付いてしまってね」
「気のせいだ、いない、誰もいないから!」
「さっき会って話もしたよ」
「そんな……」
「さあ、出ておいで」
「アル! 出るな! 絶対出るなよ! 犯されるぞ!」
「……人を性犯罪者のように言わないでくれるか、だいたい君の前で君の妹に何をすると」
「アル! 出てくるな! 頼むから!」
「何故そんなに私に会わせたくないんだ? 本気で私が犯すと思っているのか?」
「……」
「失礼だな、不愉快だ、今日のところは帰るとしよう」

彼氏は手を離し、体を起こしてベッドから降りて服を手に取った。
どうしよう、出ていくべきかな、出るべきだよね、でも姉さんは出るなと言うし。
彼氏は服を着てしまうし、姉さんは止めないし。あの人、本当に帰っちゃうよ。いいの?
というか、いいわけないから。しょうがない、僕が止めよう。

「また今度、といっても、お互い会う気があればの話だが」
「……」
「それでは失礼するよ」
「…………だって、会ったら、」
「何?」
「アルに会ったら、あんた絶対アルを好きになる」
「何だと?」
「アルは、胸も尻もあるし、女らしい体してるし、素直だし、性格も女らしいし」
「……」
「だから絶対、あんたアルの方を選ぶよ」
「何を言って……」
「だから、会わせたく、なかった……」

姉さんの語尾は震えて泣き声になってた。ベッドに伏せてしまったから、顔は見えないけど。
彼氏も慌てて戻ってきたし、僕も外に出た。でも姉さんは泣き止まない。
声を出さないで静かに肩を震わせている。それを見ていると、僕も泣けてきた。
そもそも僕が変なこと頼んだのが悪かった。姉さんはそれにできるだけ応えようとしてくれただけ。
姉さんは何も悪くないのに、彼氏と喧嘩させて、泣かせてしまった。
「ごめんね、本当にごめんね姉さん」
「アルは、悪くないだろ、俺が勝手に嫉妬して、会わせなかったのが悪いんだ」
「ううん、僕が変なこと言い出したから」
「俺がこんな体なのが、いけないんだ、胸とかないから」
「それこそ、姉さんのせいじゃないよ、姉さんは悪くない」
「だって、いつも、女性の体の柔らかいのが好きとか、胸に顔を埋めてどうのって言ってる男に」
「…………」
「未練たらしく付きまとってるのが、そもそも間違いだったんだ」
「…………」
「こんな固い体で、身の程知らずだったんだよ」

こいつ最低。以前は体の一部が鋼だった女性に、よくもそんなことを言えるよね。
その話は聞いたし、デリカシーがないってのも聞いてたけど、姉さんがこんなに傷付いてるなんて。
姉さんの背中を撫でながら男を睨み付けると、気まずそうに項垂れた。
あのまま帰ってしまえばよかったんだ。こんな男とは即刻別れた方がいいに決まってる。
帰れと言いかけたところで、男が姉さんの手を取った。誰が触っていいと言ったのさ!

「ひとつ、訂正させてくれるか?」
「……」
「固いと言ったのは、君の体のことじゃない、態度のことだ」
「……え?」
「初めの頃、私と一緒にいて緊張していただろう、あの時に言ったと思う」
「え? 態度?」
「もっと楽にしていて欲しいと、そう言ったつもりだったんだが……」
「そうなの?」
「言葉が足らなかったし、君が傷付いていたということに気が付かなかった、すまない」
「……ううん、そんな、俺の方こそ誤解してて……ごめん」
「もう泣かないでくれ」
「うん、ごめんね、ロイ」
アホらしい。しっかり抱きしめ合っちゃって、二人きりの世界再びだよ。
僕の存在は無視というか、ないことになってるよ。この涙をどうしてくれる、馬鹿みたいじゃないか。
あーあ、ま、いいか、姉さんが幸せそうだし。邪魔者は消えるとしますか。
……と思っていたのに、姉さんは僕の手を引いてベッドに乗らせるし。
彼氏の方は、責任を取るとか証明してみせるとか言いつつ服を脱ぎ始めるし。
何の責任? 何の証明? それと服を脱ぐことに何の意味が? わからない人たちだ。









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