義家族
>161氏

「あ、あっ、もう……ああん、いきそうっ ああぁっ」
「いいぞ、いきなさい」
「あん、あ、あっ あぁん、あ……いっ いく ああぁ あっ ……は、はぁ、あ……」
「ああ、よく締まる」
「もう……言うなよ、恥ずかしいだろ」
「誉めているのに」
「そりゃどーもありがと ……ねぇ……ううん、何でもない」
「……」

下の子も2才になり、幸いなことにふたりとも順調に育っている。
妻は今まさに女盛りといったところか。柄の悪い口調と膨らみのない胸は、昔と変わることはないが。
年相応に見られない外見も、昔と同じ。子供がふたりいると言うと、一様に驚かれるらしい。
とはいえ、実年齢もまだ若いと言っていいだろう。そう、妻は若いのだ。

そして私は、妻とは14才も年が離れている。確かに男盛りではあるが、精力面では衰えも見えてきた。
若い頃でさえ、彼女を心底満足させるには心身共に充実させ……つまり、かなり頑張ったものだ。
それが今や、妻が物足りなさを感じているだろうことは、容易に想像が付く。
彼女は何も言わないし、私も申し訳なく思うが、こればかりはどうすることもできない。
ある日、欲求不満の人妻の不倫願望などという下世話な話が、平和な職場で飛び交った。
上司を前に余裕だなと仕事を部下に押し付けたが、机仕事なので話が途切れない。
ここで唯一の女性である副官は、こんな話題にも顔色ひとつ変えない。むしろ私の方が青くなる。

「ちょっと聞きたいことがあるんだが、撃たないでくれるか?」
「ご質問の内容によります」
「女性の欲求不満というのは、その……どういうのが満足で、何が悪いと不満なんだ?」
「それは良くご存知だと思いますが」
「いや、一回一回は満足させていると思うんだが、総合的な事でいうとだな……」

小声でのやり取りにもかかわらず、部下共が思いきりこちらに注目している。
何スかついに大将に逃げられたんスか、と楽しげに言うので、銜えた煙草を炭にしてやった。
ざわつく空気を咳払いひとつで静め、副官がめったに見せない笑顔になる。
女は回数じゃないんですよ、深さです。
やたら意味深なことを言いおいて、副官はもとの顔に戻った。

深さ……即物的に言えば、あれの長さのことだな、という発想を頭を振って打ち消す。
思いの深さのことだろうか。それなら自信はあるのだが。
結婚前には、妻とその弟との間柄に関して思い悩んだこともある。
だが弟はもはや彼女の一部、逆もまたしかり。切り離すことなど端から無理なのだ。
そう理解して、弟ごと彼女を愛することにした。そして今に至る。
妻が欲求不満から不倫するとは到底思えない。気掛かりなのは、そこではなく。
彼女を愛しているから、満足させたい、満足して欲しいのだ。
自力ではせいぜい一晩2回が限界、だからといって道具に頼るのはためらわれる。
長い間、彼女の相手は鋼だったのに。今さら無機物を挿入させる気にはなれなかった。
回数ではないと言われても、妻はもっと多くを望んでいるように見える。

なにか良い手はないかと考えてみるが、自力ではどうしようもないという結論しか出ない。
薬はどうかと思うが、それこそ一時的に体力を絞り出すだけで、後々の反動が恐ろしい。
自力がだめ、物もだめ、となると、残るのは「協力者」。
すぐに義弟が頭をよぎる。誰よりも何よりも、妻を知り尽くした男だ。

いかに思いの丈があろうとも、とても素面で話せる内容ではない。
夕食の後、妻が子供と一緒に風呂に入った隙に、義弟を書斎に呼んだ。
好きな酒を飲んでいいと言うと、高価な物には目もくれず、最も入手困難な酒を選ぶ。
お互い軽く酒が入ったところで本題を切り出す。

「つまり、僕と貴方で姉さんを……ってことですよね?」
「そうだ」
「あんた最低」
「我ながらそう思う」
「大体、指でもいいじゃないですか、姉さんは要はいければいいんだから」
「いや、そうは言うが、やはり指では感じる深さが違うだろうよ」
「そりゃね、僕だって貴方公認で姉さんを抱けるんなら、喜んで協力しますよ、ただ」
「ただ?」
「姉さん、本当に欲求不満なんですか? 僕はそうは思えないけど」
「……あの何か言いたげな様子は、物足りないんだろうと解釈したが」
「まあ、僕はその場にいたわけじゃないから、明言は避けますけどね」
「……怒られるだろうな、嫌われるかもしれない」
「……たぶん、本気で怒りはしないだろうと思います」
どうにか義弟の協力を取り付けた安心感からか、ついその後もウダウダ喋って飲んだ。
ふたり揃って寝室へ向かうと、とっくに風呂から出て子供を寝かし付けた後の妻が眠っていた。
まず私が声をかけ、微笑む妻の上にのしかかって同意の確認をする。
始めは軽く、次第に深く下を絡ませながら服を脱がせにかかった。
義弟には、頃合をみて好きな時に加わるように言ってある。

「ん、ぅん……はぁ……、この頃はよく抱いてくれるね、何かあった?」
「いや、特に何も、私はいつも通りのつもりだが」
「そっか……あっ、あん、あ……あっ いや」
「いや? 君こそ最近、よく求めてくるが、何かあったのか?」
「ううん、何もない あん、あっ あ、そこ あっ ……あ、あれ? あっ いや! 何?」
「何だね?」
「いや、だって あれ? あっ あぁん! やだ! え、どうして……あっ」
「何が?」
「ちょっと離して、何かいる、絶対 あぅっ! やだっ 何これ、ああぁっ」
「どうした?」
「離して! でなきゃ見て! 何かが触ってるから! ああっ やだ、やだぁ!」

妻の胸から上を体重で押さえ付け、両手は自らの手で拘束している。
振り返れば、義弟がさっそく参戦していた。足の間に顔を埋め、下着の横から舌と指を挿入している。
不審なところはないと言うと、そんな馬鹿なと泣きながら訴えてくるが、あえて教えない。
乳房に舌を這わせて乳首を舐めあげると、喘ぎながらも体を起こそうと暴れる。
そのうち弟の動きが激しくなると、力が抜けてきて、小声で嫌だと呟きながら泣いている。

「ああ、いや……ねぇ あっ どうして あ、あん 助けて くれないの?」
「え?」
「誰か絶対 あ、はぁん いるのに あっ あぅ! ああぁっ、あっ」
「……すまない、実は」
「あっ あん、あ …………あ、アル?」
ビクッと動きを止める男ふたり。その隙を逃す妻ではない。
弟は蹴倒され、私は裏拳で殴られた。どういうことだと泣き叫ぶ妻に、平謝りしながら訳を話す。
妻は興奮覚めやらず、しゃくり上げながら事情を聞いていた。
どうやら自分を思ってのこと、というのは理解してくれたらしいが、涙が止まらないようだ。「不満なんて……ないよ」
「……すまない」
「最近、仕事が大変そうだから、無理しないでって」
「……」
「でも、無理せざるを得ないから、じゃあ言わない方がいいかって思って」
「……
「だから何も言わなかった……それだけなのに」
「本当に、悪かった」

また新たな涙が頬をつたって落ちていく。それを手で拭いながら、頬に口付けた。
私の仕事の辛さを知っている妻だからこそ、仕事の愚痴はいっさい言うまいと誓ったのに。
疲れなど、うまく隠したつもりだったが、妻はあっさり見抜いていたのか。
どんな高位の役職にあったところで、この体たらくか、腑甲斐ない。

頬から耳を通り、首筋へと口付けていく。妻の両腕は私の首へと絡みついた。
ふと義弟に目をやると、やれやれといった感じで首をすくめて見せる。
彼にも悪いことをした。今後、多少のことは目をつむらなくては。
もはや彼は必要なく、彼自身も用済みと思ったのか、扉へと向かって歩き始めた。
「アル!」
「は、はい!?」
「逃げるなコラ、戻れ」
「え、でも、後は義兄さんと……」
「うるさい! いいから来い!」

義弟は恐る恐るベッドの側へと戻ってきた。妻の腕は相変わらず首に絡み、表情が見えない。
いや、両腕は単に絡んでいるだけではない。気が付けばぎゅうぎゅうと締め付けてきている。
やがてフフフと低い笑い声がしてきた。思わず義弟と顔を見合わせる。はっきり言って怖い。

「……あなたが悪いんだよ、欲求不満とか言い出すから」
「妙なことを言い出して、悪かった」
「そんなこと今まで思ったことなかった、けど、思えばきっと、あれがそうなんだ」
「な、何のことだ?」
「夜に目が覚めて、横で寝てるあなたの顔を見て、寂しいような気持ちになって」
「……?」
「起こそうかと何度も何度も思って、でも起こしてどうするのか、それがわからなかった」
「……」
「やっとわかった、抱いてほしかったんだ」

急に顔をあげた妻に、唐突に唇を塞がれる。驚く間もなく舌が差し込まれ、絡めとられた。
存分に吸われた後で妻に押し倒され、服の前をはだけられて乳首を舐められる。
妻に襲われるのは初めてのことで、斬新さにわくわくしてきた。
下から彼女の小振りな胸を揉みあげると、気持ちよさそうに表情を艶めかせた。
「アル、俺の服、脱がせて」
「姉さん、一人称が俺になってる」
「いーんだよ、子供がいない時は」
「常日頃から直さないと、いざって時に困るって言ったのは姉さんだろ」
「いいの! 今はとにかくそんなことどうでも! 早く脱がせろって!」
「……脱がせるだけ?」
「してもいいけど、あ、ちょっと待って」

ベッド脇の棚の引き出しをあけて、ごそごそと何かしている。
あそこにはゴムが入れてある、それを取って渡すだけにしては時間がかかっていた。
弱いながらも青い光が漏れていて、何か練成しているようだ。
やがてこっちに向き直り、私と弟ににっこり笑ってゴムを3つずつ手渡す。

「何をしたんだ?」
「ん〜? 内緒、それより続きしよ? ね?」
「いや、私は3つもいらないから……」
「大丈夫! いざとなったら口でしてあげる」
「姉さん、僕も3つはいらない……」
「お前は3回くらい余裕だろ、と言うより俺を3回いかさないと許さねえ」

つまり私も3回いかさないと許してもらえないらしい。3回か…………厳しい。
いや、私が2回、弟が4回という手もある。そもそも、そのための協力者ではないか。
そっとゴムをひとつ彼に渡していたら、妻にばれて叱られる。
ひとり最低3回死守、指や舌のみは不可、と宣告された。
明日も長時間の会議がひかえている、しかしそれを今の妻に告げたところで何も変わるまい。
彼女はこれから6回分を一身に受け止めようとしているのだから。
「姉さん、いくら何でも6回は無理だから」
「えー? 大丈夫だって」
「単にいくだけなら大丈夫だろうけど、入れるんだよ? 無理だよ」
「平気、大丈夫」
「平気じゃないね、無理だってば」
「へーいーきーだー!! 俺が平気っつってんだから平気なんだよ!」
「6回だよ? 何考えてんだよ無理に決まってるじゃないか何を意固地になってるんだよっ!」
「平気ったら平気なんだよっ! 俺の体だお前につべこべ言われる筋合いはねえっ!!」

姉弟喧嘩が久々に勃発したので見学する。口ではお互い一歩も引かない。
この様子ではケリが付きそうもなく、いい加減に明日の仕事も気になり始めた。
要するに、妻は怒りから意地になって6回しろと言い放ち、意地から発言を撤回できないんだろう。
これは上の子が、もっと小さい時に見せた意地に似ている。
リンゴ1個を丸ごと食べると言い、母親の制止も聞かずに食べ切った。
案の定、その後からげーげー吐いて、苦しいと泣きついてきた。自業自得なのだが、誉めてやった。
彼女は今、意固地になっているだけだ。本気で6回もしたい訳ではあるまい。
我々男共への牽制の意味も含んでいるはずだ。
とりあえず何度となくいかせていれば、そのうち満足して回数のことなど忘れるだろう。
とにかく満足させることが、解決への近道だ。
そう信じて、妻へと手を伸ばす。喧嘩に夢中だったのか、あっさり捕まった。
驚く妻を黙ってベッドへ押し倒し、無言で妻の体に残る衣服をすべて取り払う。

「寂しい思いをさせて、すまなかった」
「えっと、うん……あっ あん、あ」
「今日は彼もいることだし、二人がかりで相手させてもらうよ」
「え? どういうこと……、え? アル?」

わざと妻の右半身を空け、目で弟に加わるよう促す。
弟もベッドに乗ってきて、右の乳房を口に含んだ。右の太ももを撫で、そのまま付け根へと這わせる。
こちらも左の乳首を舐めつつ、左側から彼女の中心へと手を伸ばした。

「いや、いやっ あっ だめ、だめぇっ!」
「今さら何言ってるのさ姉さん、平気なんでしょ?」
「あ、あは はぁん、ひ、ひとりずつ、やってよ……ああぁん!」
「もちろん入れるのはひとりずつだから、安心して」
「当たり前だ! 2本もいっぺんに入るか!」
「子供産んでるのに?」
「子供は出せても入れるのは無理!」
姉弟喧嘩をこのまま続けさせたら萎えそうだ。気をそらさせようと、溝をなぞる指を中に入れる。
軽く息を吐いて目を閉じるが、弟の指も後から侵入してくると、背を反らせて嬌声をあげた。
別々に蠢く指に、珍しく翻弄されている。この頃は、昔のように乱れることはなかった。

無理もない、恋人になり夫婦になってから何年経ったことか。
仕事柄、毎日毎夜一緒にいられる訳ではないが、それでもお互いの体に慣れはする。
特に近年は、私が衰えてきた。昔のように乱れさせることなど、もうひとりでは無理だろう。

「珍しいね、姉さんがそんなに良がるなんて」
「あぁ、あ、あぁん、 なんか 今日、すご……い ああっ、あっ、いい」
「やっぱりふたりなのがいい?」
「わかんな…… あっ けど、いい、あっ ああぁ、あっ」

驚いた。年の変わらぬ弟が相手なら、昔と同じに今も乱れていると思っていた。
隣あった弟の指が先に出ていって、花芯を摘んだ。
それだけで妻の体は跳ね上がり、指に激しいうねりが伝わってくる。
彼女のはあはあと荒い呼吸が少し収まったところで、入れたままの指を再び動かし始めた。
弟の指も、花芯に戻って揉みたてる。体を捩って逃れようとするのを、二人で押さえ込んだ。

妻がひときわ高い声で喘ぐ。その嬌声を聞いて、途端に昔を思い出す。
彼女がまだ機械鎧の腕と脚で、鎧の弟と共に旅を繰り返していた頃。
まだ国家錬金術師と、報告を受ける軍人というだけの間柄。
どこまでも生意気な豆粒のくせに、垣間見せる弱さのせいか、なぜか世話を焼きたくなる子だった。
お世辞にも、可愛いとか美しいという形容詞は当時からしっくりこなかったのだが。
何かというと癇癪を起こして怒鳴り散らすその声で、どんな風に鳴くのだろうか。
一度湧いた興味は、なかなか消えなかった。
私と会うのは彼女にとって単なる義務、それを逆手に取り、宿直室で押し倒した。
閲覧禁止の資料を餌に抵抗を封じ、弄ぶ。生意気な豆粒は、予想以上に良い声で鳴いた。
幼い体を貫くことまでは考えていなかったのに、その声に駆り立てられ、結局犯した。
そうだ、あの頃の声だ。
彼女はまだ、昔と同じ声で鳴く。変わったのは私。だが、まだ挿入していない。
衰えたとはいえ、射精の回数に関係ないのなら、昔と変わらない応対が可能だ。
いや、昔から変わらぬ応対をしているつもりなのだが、気付かない間に何か変わった?
そして彼女も、この声を長い間出さなかったのは何故?

「本当に今日はいい声だ、やっぱり二人がかりは違うかい?」
「ぅん、あ、そうじゃ、ない…… あぁん、あっ」
「何がそんなにいい? 聞きたいね」
「具体的には あっ わかんない、けど あん、は、はぁ……いい、すごく」
「ふむ、君はどう思う?」
「そうですね……、そういえば、姉さんは昔はいつもこんな声でした」
「あん! あっ そ、そんなこと いっ言うなよ んん、あ、はぁ」
「そうか、やはり二人ということ以外に、何かいつもと相違があるんだな」
「そこを突き詰めていけば、わかりそうですね、義兄さんは、ここをこうします?」
「あぁん、やだっ」
「それはするな、では君は、これはするか?」
「あっあぅ あ、やめっ」
「しますねー、じゃ、ここは?」
「ああっ はぁん、あ」
「それもするな、ではここは?」
「ああぅ! やだっ、もういや……」
「……あの、義兄さん、僕そろそろ……したいんですけど」
「そうか、君は若いからな」
「ちょ、ちょっと待って、アルは後にしろよ」
「だって僕限界だよ、こんなになってるのに」
「だめだ、アルは後じゃないとだめ」
「ごめん姉さん、僕本当に限界」
「いや、いやぁっ やめろ! やだっ助けて ロイ、お願い……」
本気でどうしても嫌なら、ただ黙って犯される女でないことは百も承知だ。
ただ、ここは夫として、助けを求める妻を無視することは到底できない。
まだ準備が完全でなかったが、ベッドの上で揉み合う二人を見ていたら起ち上がってきた。
妻は逃れようとすがってきて、義弟はそんな彼女の腰を抱き、後ろから貫こうとしている。
寸でのところで義弟を制し退かせる。抗議はされたが、どこか諦めの色もあった。

妻の体を横たえる。しとどに濡れたそこは、既に口を開けて待っていた。
脚を掴んで開き、そこに固くなったものを押し当てる。
最初は若干の抵抗があるが、それを過ぎると、むしろ飲み込んでいくように中が蠢く。
奥まで行き着くと、妻は鼻にかかる甘い声で私の名を呼び、うっとりと上気した顔で微笑む。
最高だ。…………これらの様子を横で凝視する義弟の存在さえ無視できれば。

「ねえ義兄さん、僕は姉さんを満足させるために投入されたんですよね?」
「確かにそうだが」
「でも入れるのはひとりずつで」
「それは当然」
「義兄さんがそうやってる間、僕は何をしましょう?」
「何と……言われても」
「姉さんに触ってもいいですか?」
「私は構わないが」
本人に了承を得たまえ、と言う前に、「そういう訳だから姉さん!」と妻にむしゃぶりつく義弟。
口内を貪られているのか、妻のくぐもった声が聞こえてくる。
妻の表情がまったく見えず、視界には義弟の後頭部と背中、かろうじて妻の太股があるだけだ。
せめて声だけでも聞かせろと言うと、顔を上げてこちらを振り返り、手を伸ばしてくる。
その指が押し潰された花芯を探り出して、柔らかく摘んで揉むように動き始めた。
高い声を上げ内を締め付けながら、妻の両腕が義弟の首に巻き付く。

「ああぅ! あっアル、だめ いやっ アル、アル」
「姉さん、今中に入ってるのは義兄さんだよ、わかってる?」
「いや、いや……あ、あん、あ、アル、アル、だめ……」
「もっと気持ち良くさせてあげるね」
「っあ、は、はぁん! あぅ、だめっ ああ、アル、アル!」
「義兄さんも呼んであげなよ」

花芯を摘む義弟の指が、腰の動きに合わせて動きを変えていく。
存在を思い出させようと、中に入れたものでかき回してみるが、妻は弟の名しか呼ばない。
そして次第に締め付けがきつくなり、嬌声の混じる荒い呼吸と共に、激しいうねりが感じられた。
つられてうっかりこちらも達しそうになったが、どうにか持ち堪える。
まだ射精に至らないうちに、妻は絶頂を迎えたようだ。

「姉さん、いっちゃった?」
「……っは、はぁ、あ……うん……」
「そう、良かった ……義兄さん、僕は答えがわかりました」
「?」
「もう邪魔しませんから、どうぞ存分に」
「……」
「でも絶対後で替わってくださいよ」
弟は体を起こして部屋から出ていった。その言葉通り、頃合をみて戻ってくるだろう。
やっと妻の顔が見られる。もっと表情を覗けるように伸し上がると、妻は安心したように笑った。
動きを再開させると、さっきと同じように両腕を首に絡めてくる。
いつものように良さそうに喘ぐものの、さっきまでとは明らかに声が違う。
やはり二人、というより弟の存在が大きいのか。

空しさの反動で動きは強くなり、それに合わせて妻の喘ぎも高まっていく。
義弟を誘わなければ、こんな空しさは知らずに済んだ。今さら後悔もないのだが。
彼と同じことをすれば、同じように喘ぐかもしれない。だがそれはあまりに空し過ぎる。
空しい空しいと思いつつも体は動き、快感は勝手に増していった。
小さな乳房を両手で掴み、乳首を指の間に挟み込みながら、最後に大きく突き上げた。
妻はまた絶頂を迎え、その時だけは、あの良い声で鳴いた。

首に巻き付いた腕から力が抜け、ベッドの上へぱたりと落ちる。
それが合図のように、埋めたものを引き抜いた。処理しようと手を添えかけて驚愕する。
……破れていた。慌てて妻のそこを見れば、わずかだが白濁の滴りがある。
まずい。妻は妊娠を避けたいからこそゴムを渡してきたんだろうに。
3人目が欲しいとは聞いたことがなかったし、望んでいるかどうかもわからない。
ただでさえここ数年、彼女は家事に妊娠に子育てと忙しく、ろくに錬金術師としての研究ができていない。
そこへまた新たな妊娠の可能性など、どう告げていいものか、言葉がでなかった。
さりげなく妻と自分の体を拭き、どうしたものかと思案する。
言うべきなのは充分わかっているが、もし落胆されたら二度と彼女を抱けないだろう。
別に絶対妊娠するというわけではないし、とにかく言うだけ言わなければ。
そう勇気を出して妻の手を取り、口に出そうとしたところで義弟が顔を出す。
後で必ず言おうと、その場は言葉を濁した。不思議そうに見つめる視線が痛い。
義弟が、答えは出たかと聞いてくる。わからないし、それどころじゃなかった。
わからないと答えると、後で教えるから今は二人きりにしてくれと言う。
仕方ないので、後ろ髪を引かれつつ部屋を出る。待ってるから後から来て、と妻の声がした。

風呂に入り軽く汗を流し、書斎で酒をあおる。
承知の上とはいえ、やはり妻が他の男に抱かれていると思うと、気分が良くない。
いや、そんなことよりも妊娠だ。3人目ができたとしたら、私は嬉しいが妻はどう思うか。
いやいや、喜ばないはずがない。妻が一度とて自分のことを優先したことがあっただろうか。
自分のことは常に後回しだった。そういう女だ、だからこそ守らねばと思った。
……待て、もし義弟のも途中で破れてしまったら? 
もし妻が本当に身籠ったとして、私は素直に喜べるのか?
いやいやいや、妻の子なら私の子、髪や瞳がいかなる色だろうと構いはしない。

揺らされて気が付いた。横に義弟がいて、待っているのに来ないと思えば、と何やら怒っている。
ひとりでぐるぐる考えて、つい眠ってしまったらしい。
義弟の後をふらふら付いて歩く。うっかり飲み過ぎたか、起てばいいが。

「僕がかつて鎧だった頃、当然僕には性欲はなかったんです」
「? そうだろうな」
「だから、姉さんを抱くということは、即ち姉さんだけの快感を追い求めることでした」
「……」
「やがて僕に体が戻ってからは、僕の性欲を満たすことも目的となりました」
「……」
「もちろん、姉さんを気持ち良くさせることを、忘れていたわけじゃありません」
「……」
「でも、やっぱり自分を満たすことの方を優先していました」
「……なるほど」
「姉さんは、僕があんな体になったことに、ひどく負い目を感じていたから」
「……」
「僕のやりたいようにさせてくれたし、一緒に快感を得てくれもしました」
「……」
「それでも、姉さんの快感だけを追っていた頃に比べれば、物足りなさはあったでしょう」
「……」
「とりあえず今さっき、これまでと同じように、僕の快感を優先して抱いてきました」
「!」
「心配しなくても、あんないい声は聞けませんでしたよ」
「なっ 別に心配など」
「わかりますよ、兄弟ですから」
「……そうかね」
「あんな抱き方はあれで最後です、これからは昔のように、姉さんの快感を優先します」
「……」
「今までのあれは言わば恋でした、これからは愛です」
「言ってくれる」
「姉さんは貴方を愛している、だから貴方の快感は、姉さんの快感でもあったでしょう」
「……」
「でも、それに甘えていていいんですか?」
「……」
「貴方には僕という宿敵がいる、一生涯、それを忘れないでください」
「忘れるわけがないだろう」
「貴方も姉さんを愛しているなら、どうすればいいか、わかりますよね」
寝室の扉の前、義弟の背中は静かに焔を噴いているようだった。
愛した女性が姉でさえなかったら、彼は今より幸せだっただろうか。
姉弟で愛し合うなど「ありえない、なんて事はありえない」。義弟の口癖だ。
そんなもの、彼はとっくに超越して生きている。それは私も同じこと。
意を決し、義弟に続いて寝室の中へと入る。妻の姿がない。
男二人で顔を見合わせ、そのうち戻るだろうと、とりあえずベッドの端と端へ座る。
また眠気に襲われてベッドにごろりと横になった。このまま寝てしまおうか。

目を閉じていると、パタパタと足音が近付いてきた。扉が開いて、お待たせと声がする。
石鹸の匂いがして、風呂に入ってきたのだと知れた。
姉さん僕の時は風呂に入ったりしなかったのに、と義弟の恨めしそうな声がして。
バカ、弟と夫じゃ扱い違うの当たり前だろ、と諌めるような妻の声。
あんな汗くさいドロドロの体じゃ、こっちが萎えるんだよ、と妻の声が遠ざかる。
奥にある鏡台の椅子を引く音がして、髪を梳く音が聞こえてきた。
最初にドロドロにしたのは義兄さんなのに、と拗ねた声がしたが、奥から返事はない。
髪なんかどうせぐしゃぐしゃになるんだから、と急かすように義弟が言う。
これが女心ってもんだろバカ、と妻の声がして、足音が近付いてきた。

愛しているなら、どうすればいいかわかるだろう、とは随分と挑発的な言い種だ。
わかるさ、わかるとも。だが、彼女が求めるままを与えるのでは、自慰と一緒ではないか。
それ以上を与えてこそ意味がある。これまでは、「それ以上」の部分が足りなかった。
妻には、満足以上のものを味わってもらおう。
寝たかと声をかけながら体を揺する妻の手を取り、おもむろに起き上がる。
ゆっくり引き寄せて小さな体を抱き締めると、石鹸と妻の匂いが鼻に広がった。
顎を上向かせ一度軽く口付ける。それを合図に妻が口を開いて、舌の侵入を許した。
舌を絡めて吸い、口外にあふれた唾液を時おり舐め上げる。
彼女はこの手の深いキスを嫌がる。嫌いだからではない、その逆だ。
相手である弟が鎧姿であったため、膣内への挿入は可能でも、キスだけはできなかった。
それ故か、これだけは免疫がないと、いつか自分で言っていたことがある。

私もこれまでは、数回繰り返せば次の行為へと移っていた。
だが今回は可能な限り、キスを止めないでいよう。声はあまり聞けないだろうが仕方ない。
舌を絡めたまま両手で胸を揉み、乳首を弄る。高い声が途切れ途切れに漏れ聞こえてくる。
妻の両腕が首に巻き付いてきたので、彼女の背中を支えていた両手を腰へと下ろした。
腰を片腕で支え、もう片方の手は尻を撫でる。弾力のある柔らかさが心地良い。
服の中に手を忍ばせて下着の上から尻の間に指を這わせる。そこはもうしっとりと濡れていた。
布越しに花芯の膨らみが感じられ、下着の縁はすでに滑りを帯びている。
妻の腰がゆっくりと揺らめいて、誘われるまま指を下着の中へ差し入れた。

「っあ、ああ、あぁ! んあ、あ……」
「すごいな、こんなに濡らして」
「あ、あ、だって……キス……あっ、だめ、いや……」
「何が?」
「あんまり、激しくしないで……あっ あ、アルが……見てるのに……あん!」
「気にしないことだ、私だけ感じていなさい」
「そんなこと、言ったって、あっ あぅ……だめ、やめて……ひどくしないで……」
ふるふると首を小さく振って、指から逃れようと体を捩るが、腰を押さえて許さない。
指が動くたびに濡れて粘ついた音がする。それが義弟にも聞こえるようにと、指を激しく動かす。
くちゅくちゅと襞を分けて、余すことなく指を這わせて妻の反応を見る。
一度は逃れた唇を追って再度吸い、舌を絡みつけた。
中指を膣内へ差し入れると、背を反らせたはずみでまた唇を逃がしてしまう。
内側で細かく動かしながら、じっくりと探るように指を移動させる。
良い反応が返ってくるところを、ひとつひとつ記憶していった。

「くっ、んぁあ! あっ あ、そこ、そこぉ……ああ、あっ」
「ここもいいのか?」
「うん、あっ……いい、そこ、そこも ああっ」
「やれやれ、これじゃ全部が気持ちいいことになるな」
「そ、んなこと 言ったってぇ あっ だめっ あぅっ」
「…………すまない、できたかもしれない」
「あっ え? 何?」
「さっき、破れてしまって……妊娠、したかもしれない……」
「……破れた、の?」
「ああ」
「………………やったじゃん! マジで!? 本当に!? すっごい嬉しい!」

今なら聞き流してくれるかと、ひどいタイミングで告白してみたが。
押し倒されるかという勢いで抱きつかれ、猫が甘えるように体を擦り付けてくる。
見れば義弟の方も、何だか目がキラキラと輝いている。感激しているのか?
「3人目、欲しかったんだけど、言い出せなくて……」
「なぜ? 言ってくれればいつでも」
「なんか忙しそうで大変そうだったから、負担になったら嫌だなって」
「そんなこと、気にしなくてもいいのに」
「子作りのために義務的に抱かれるのも嫌でさ、求められた結果として妊娠したくて」
「……」
「だから、ちょっと細工してあったんだよね、あれ」
「細工!?」
「強度を変えてあんの、あの箱の中身全部」

曰く、いつもくらいの摩擦程度では破れないが、いつもより激しいと破れるかも、というものらしい。
その辺りの頃合が難しく、いつも終わった後、「破れた?」と聞きたかったと言う。
だから弟に渡した分は、再練成して強度を戻してあるという話だった。

「しかし、破れただけで、妊娠したかどうかは明確には……」
「いーや、できたね! できた、絶対できた!」
「その自信はどこから」
「女の勘、ん? 母の勘? ま、いいや、どっちでも」

悩んだ私がバカだった。最初から全部、取り越し苦労だったようだ。
続きをしてとねだる妻を抱き寄せ、唇を重ね合わせながら、再度指で探って奥へと進める。
甘えた声を出す妻を見つめる義弟。その目は思いのほか穏やかだった。
妻が3人目を欲しながら言えなかった本当の理由は、彼にあるような気がする。
上の子を私が抱いて構い、下の子は妻が抱いてあやす。その時、彼は猫を抱き上げた。
その腕にも子供をと、思わないはずがない。ただ、弟に子供を抱かせたいとは言いにくい。
義弟も、もうひとり子供をとは、自分からはとても言い出せなかったはずだ。
おそらく、そういうことなのだろう。
熱に浮かされるように、入れてと口にした妻をうつ伏せにし、四つん這いの姿を取らせる。
顔がよく見えないので普段はほとんどしない体位だが、今回はこれでなくては。
舌と指でしっかり濡らして、固くなったものを挿し入れた。
これまでは、わずかに知れるポイントと最奥のみを突き上げていたが、今は違う。
指で丹念に調べたところを思い出しつつ、それらに行き渡るよう細かく角度を変えてやる。
大変腰にくる作業だが、その辛さも妻のこの嬌声と等価交換と思えば耐えられる。
これに加えて、片手で胸を揉み乳首を摘まみ上げ、もう片方は花芯を揉み続ける。
唇と舌は、うなじと背中を這う。とにかく使える部位は使って、妻の体を愛撫し続けた。
愛しているから、満足以上のものを味わせたい。この気持ちを「深さ」と言うのか。

「きゃあっ あ、あぅっ! あっ いやっ ああぁ!」
「嫌かね?」
「んん……嫌じゃ、ない、けどっ……あふっ あっ はぁん」
「わかっているよ、嫌ならこんな声は出ないだろうからね」
「ああぅ、あっ だめ、だめ……い、いきそう……ああぁん!」
「いきなさい、何度でも」
「あっ はぁ、だめ、おかしく、なりそう……はぁん、あ、あ、あっ」
「昔はね、どうやって君を狂わそうか、そればかり考えていたよ」
「ああ、あっ ……くふぅっ あ、はっ……んあ、あ、あん!」
「また、狂ってくれるかい? 私のために」
「あああぁっ! あっ いく……いくっ あ、あああぁっ」
「うっ ……は、……ふぅ…………また、破れたかな」
「……あ、あふ、ふ…………はぁ…… ん、どう? 破れてる?」
どれどれとおもむろに引き抜いたところで、急にベッドに転がされる。
何が起きたかわからずにいると妻の悲鳴が聞こえ、見れば背後から弟にのしかかられるところだった。
止めようと体を動かす前に、妻の見事な後ろ蹴りが炸裂する。
義弟は咄嗟に身をかわし直撃は免れたが、ベッドから転がり落ちた。
僕がどれだけ焦らされて我慢したと思ってるんだと、真剣に焔を噴く勢いで義弟が妻に再度迫る。
物事には順番があってまず俺の了承を得るのが先だろうと、弟に拳を振り上げながら妻が怒る。
また姉弟喧嘩が勃発したが、このまま見学していたら両者血を見そうなので止めた。

どうどうと妻をなだめつつ抱きしめてやり、そのまま後ろに倒れる。
義弟に尻を突き出す形になって、妻は少し嫌がったが、やがて私の胸に頬を寄せて弟を呼んだ。
弟に貫かれ、弟の手で愛撫されながら、妻は何度も私の名を呼ぶ。
さっきの意趣返しになったが、すでに義弟に対する負の感情は消えていた。
ただ、絶頂を迎えた妻が私の胸に爪をたてたのが痛かった。

良い声と顔をして目の前で喘がれると、また起ってきた。衰えたと思ったが意外に元気だ。
妻も気が付いて、もう一回するかと聞いてきたが、腰が限界に近い。
辞退すると、それなら口でしてあげると、ゴムも被せず手で拭って、そのまま銜えた。
義弟は少し休んでゴムを交換し、また妻の背後に身を寄せる。さすが、あの短時間に回復したのか。
妻はまたくぐもった声を上げ始め、義弟は姉を呼びながら、自身を激しく打ち付けていた。
私がまさに出そうという時に、妻が呼吸のため口から引き抜いたので、顔にかけてしまった。
慌てて拭こうとしたが妻はそれどころじゃない様子で、喘ぐだけ喘いだ後シーツで拭っていた。
顔がヒリヒリすると、少し機嫌を損ねていた。
翌朝、体が泥というか鉛というか、ひどく重い。
隣で眠っている金の髪を撫でようと手を伸ばすと、向こうから寝返りうってきた。
義弟だった。
男二人で叫びながらの起床。朝日に映えるシーツの白が、眩しいを通り越して痛い。
上の子が起こしに来る。朝食ができたようだ。

ものすごいクマができているが、見なかったことにする。
身支度を整えて出勤、義弟も珍しく用があるとかで、連れ立って家を出た。
玄関先で、妻が下の子を抱いて手を振る。上の子はその足元で、全身で手を振っている。
ああしていると、貞淑な妻、清楚な母なのだが。

「やっぱり姉さん、欲求不満なんかじゃなかったでしょう?」
「そうだな、君は正しかった」
「とはいえ、結局3回ずつ、計6回、いきましたね」
「まあ、1回は君に助けられたよ」
「子供、できてるといいですね」
「そうだな」
「どっちの子でしょうね? 楽しみだなぁ」
「? 男か女か、という意味か?」
「いいえ、言葉の通り、義兄さんの子か僕の子か、という意味です」
「……何を言い出すんだ」
「義兄さん、2枚しか使わなかったでしょう? 残りの1枚、どうしました?」
「!」
「最後に使ったあれね、義兄さんの分です、言ってる意味わかりますか?」
ただでさえ振らつく足元が、一気に回り始めた気がする。
そんな馬鹿な。どうする、殴るか? 夫として、ここは殴っておくべきか?
寝不足と相まって吐き気がしてくる。やっぱり殴るか。
だが、そんなことは覚悟の上で結婚したのだ。今さら取り乱してどうする。
今日一日考えて、やっぱり許せなかったら、こんな往来ではなく家で存分に殴ろう。

「何度でも言うが、彼女が産んだ子なら、皆愛しい我が子だよ」
「……」
「例え君の子でも構いはしないさ、生まれてくるのは皆私の子だ」
「……さすがですね、取り乱さないなんて」
「……」
「でも、睡眠不足で頭は回ってないみたいだ」
「ん?」
「姉さんができたって喜んだ時、僕はまだ射精に至っていません」
「!」
「もし姉さんの勘の通り、あの時妊娠したのなら、貴方の子ですよ」
「……」
「と言うか、冗談ですから」
「……なに?」
「破れてませんし、そもそも義兄さんの分なんか使ってません」
「冗談にしては笑えないね」
「言ったでしょう? 僕は姉さんを愛している、だから僕の子なんか産ませられない」
「……」
「冗談ですよ、……仕事中に倒れないでくださいね、クマすごいですから」
「善処する」
「それじゃ、僕はここで」
往来の人の波に消えていく義弟の背中を見つめる。
私は彼の若さが羨ましい。彼は私の立場が羨ましい。どちらも無い物ねだりだ。
だからこそ、生涯を通して宿敵以外にはなり得ないだろう。
だが、いつか彼の実子が彼を父と呼んだなら、この関係もまた違ったものになるかもしれない。
願わくば、彼の実子が己の出生を呪うことがないように。幸せのうちに育ちますように。
そのためにはまず、私がしっかり家庭を守らねば。
そして家庭を守るためには、己の職務を全うせねば。

重すぎる体を引きずって出勤する。どうしてもクマに驚かれる。
何スか慰謝料でも絞り取られてるんスか、と相変わらず銜え煙草の部下が楽しげに言う。
違うな、絞り取られたのは子種だ、と満面の笑みで言ってやった。
銃声が2発。副官は今日も顔色を変えなかった。


おわり







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