幻夜奏2
>616氏




 爛れた、長い夜だった。

 兄さんは子猫のようにぴりぴりと怯えていた。
 ばかみたいにぼうっとしているボクを浴室に引っ張り込むと、自分は服を着たままでシャワーの栓をひねり、ていねいにていねいに、ボクの肌にお湯を流していった。
 ボクはまたさっきの狂騒状態の余熱が燃え立って、膝がかくかくと笑い出す始末。でも、いくらかは理性のようなものが戻ってきていたから、恥ずかしくてたまらない。
 ボク、どうしちゃったんだろう。兄さんにあんなことされて、よ、喜んで・・
 かああっと、いっぺんに頭に血がのぼるし、頬が熱くて、心臓なんか張り裂けそうだった。
 泡立てたぬらつくスポンジで、兄さんに首筋をなでられて、肩がびくっともちあがる。髪を水流に梳かれ、鎖骨に浮いた水溜りをすくわれ、いけないいけないと思っているのに、どうしても記憶が連鎖する。機械的なはずの手の動きに、事務で触れているだけの手の動きに、恥ずかしいおぞましいものを感じてしまう。
 自分でするからと、断ればよかったのかもしれない。でも、止められなかった。
 誰かにそばにいてもらわないと、気が変になりそうだった。不安なんて生易しいものじゃない、難しい本を沢山目の前につきつけられてるみたいに、何人ものひとにたえず耳元で怒鳴られ笑われているみたいに、これまで封鎖されていた五感が膨大な奔流となって耐えずボクの脳みそをかきまわしているんだから。
 怖かった。どうしたらいいのか分からなかった。なんでもいいから、このへんな高ぶりを鎮めてほしくてたまらなかった。兄さんだけが頼りだったんだ。
 兄さんの唾液が何層にも載って乾いたあとを、くるくると一心に、洗われた。噛まれて、吸われて、たくさんたくさんついた痕も、綺麗になるようやられた。まるごとすべて水に流してしまおうと思っているみたいだった。
 おなかのあたりまで洗ってしまうと、兄さんは手を止めた。いつのまにか、ボクの太ももには白いのと赤いのと透明なのが絡まり混ざり合いながら流れている。それを兄さんは汚らしいものであるかのように流し、泡立て、ふとももの柔らかいところを擦る。
「アル、ごめんっ」
 短くするどく詫びて、兄さんはボクのからだの、その、・・中に指をもぐらせた。
 ボクはその瞬間、膝ががくんとなって、兄さんの方へつんのめった。兄さんにしがみつくと、べったり濡れて張り付いた布のいやな感触が後を引いた。
「あ、あ・・」
 押し付けたい――
 脈絡もなく、強烈に思った。兄さんの体、どこでもいいから、もっと奥まで・・
 液体がかきだされる重たい音がした。
 中で動く指の感触が、心の、本能のいちばん柔らかいところを直接えぐった。
「あああっ!」
「アル・・?」
 驚いて引き抜こうとする手を、ボクは必死で掴んで制止して、
「・・めんなさ、ごめんなさい兄さん、ボク、ああ、」
 でもそんな事をしたらまたさっきみたいに、兄さんはきっとボクを怖がって、
「ごめんなさい、ボク、へんなの、自分でするから、あといいから」
 嫌われると思ったらボクは怖くて怖くて、兄さんを付き飛ばしてしまった。
 立たなくなった足腰で床にへたり込み、初めて自分でそこに触った。ぬとぬとしていた。構造もよくわからないうちに、ひだをかきわって触ったら、もう止まらなかった。
 べったりと濡れそぼったそこを、指で貫いた。世にもおぞましい音がして、身体中に鳥肌が立つ。
いや、こんなの嫌なのに、気持ち良い!
「アル! 落ち着け!」
「いやあ! したい、したいの! お願いだからぁ!」 
 兄さんがボクの腕をつかんで、引っこ抜かせようとしてくるから、ボクはとうとう泣き出してしまった。
 中がひぅっと動いて、とくん、とくんと脈打つ。ぐじゃぐじゃにかき回して、突いて、ああ、こんなもんじゃ足りない、兄さんのが欲し――
 ボクは死にたくなった。なんて事をボクは、ああでも、あとちょっとで楽になれそうなのに、もうすぐそこまで気持ち良い波がきてるのに!
「いやああ! なに、なんなのこれ、気持ちいいよ、助けて!」
 泣いてるんだか笑ってるんだか、ひどい声が出た。
 兄さんはボクの腕を握り締めたまま、呆然と床に座りこんでいた。まっしろになっているみたいだった。ガラス玉のように凝固して動かない瞳孔でボクを見ていた。ボクはそれがほんとうに辛かった。
 嫌われた? 兄さん、ボクのこと頭がおかしいって思ってる? 怖がってるの? ああでも仕方ないよね、ボクだって自分が怖い、ねえ、ボクはおかしくなっちゃったの?
 動かしたくなくても勝手にうねる指と腰が、答えだった。油みたいに、どろっとすべるそこを、足りない指で必死になって貫きたてる。
 その時だった。兄さんはぱっとボクから手を離した。つかまれた部分が赤く腫れてじんじんした。
でも本当に痛かったのはそのことじゃない。まるでいやなものから離れるような動作だった。いやなものから。気持ちの悪いボクから。
 ひどい裏切りを働かれたような気がして、ますますボクは打ちのめされた。気がついてしまったんだ。
 ボクは、兄さんに、犯されたがってる!
「いや、いやだあ! たすけ、お願い、ボクこんなところ見られたくない! 見ないで!」
 ボクは震える腕で、せめて胸をかき寄せた。女の子の胸ってやわらかいんだな、と、場違いなことをぼんやり思った。
「へ、へんでしょう、ボクどうしちゃったのかなあ、すごくうずくの、どうしよう!」
 半狂乱で粘膜をすりあわせながら、ボクは身を引き裂かれるような思いで兄さんを見ていた。
何て言われるんだろう、何を考えてるんだろう、怖い!
 兄さんは素早くポケットの銀時計を取り出して、触れて、またしまい込んだ。いつもそばで見ていたボクは知ってる、それは兄さんのおまじないだった。神に祈る代わりに、星を占う代わりに、兄さんはああやって時計を握る。文字を見る。
「・・アル、お前が決めろ!」
 兄さんはいつものような目で、しっかりとボクを見返してきた。あんまりまっすぐだったので、ボクの方が恥ずかしくなってそらしてしまった。
「お前はどうしたい?」
 喉まで出かかった。でも何かがボクを引き止めた。
「出てけってんなら出ていく、鎮める薬かなにか欲しいなら探しに行く」
「・・兄さん?」
「今すぐ錬成し直したいならオレを使え、手でも命でも持っていけ!」
 きっぱりと言い切った声がお風呂場に何重にも響きわたった。
 返す言葉を失ったボクの肩を、兄さんがつかもうと手を伸ばす。
「やだあ! 触らないで、触られたら、ボク」
 最後の迷いを、どこか揺るぎないものを持っている兄さんの表情が溶かした。
「ボクさっきみたいに犯されたくなっちゃう!」
 今度こそ兄さんはボクの肩をつかんだ。たったそれだけなのに、ボクは安心してしまう。
「アル、いいんだな?」
「いい、いいよ、お願い、もうそのことで頭がいっぱい! 犯して、おもいっきりやって!」
 ボクは兄さんに両手を広げて抱きついていった。押し倒されながら、ズボンのファスナーを壊しかねない勢いで下げて、下着から乱暴に引っ張り出す。あんまり強張ってないのが、ボクの心臓を刺した。やっぱり嫌だって思ってるのかな、立ってくれなかったらどうしよう。
 一秒でも早く入れてほしくて、ボクはそれをぱくっと口に含んだ。
 小さい頃のことを必死に手繰り寄せながら、ぬらぬらと口内で転がした。子供だったからむけちゃいなかったし出したこともないけれど、触っていて漠然と気持ち良いような感触がしたのは覚えている。あの感じを口で出してあげれば。
 ほっぺをへこましてちゅうっと吸う。口の中でも特別に柔らかい舌と横の頬で圧迫しながら、息を吸いすぎてめまいがするまで吸って吸って、しぼった。
 成長がはっきりと分かるのが、このうえなく嬉しかった。あ、と思ううちに、全部を受け入れきれずに喉の奥まではみ出てきて、たまらずボクはいったん吐き出してむせた。けほけほとやっているうちに兄さんがボクを裏っ返して、手足を猫みたいに床につかせる。
 不安になって振り返ると、兄さんがボクのおしりをつかんで膝立ちで立っていた。ぴたっと何かが押し当てられる感触がして、さっき口に入れていたものだと思ったらぞくぞくした。
「あ、ああっ!」
 押し入るにつれて広がり圧迫される粘膜があまりに気持ち良すぎて、ボクの口から勝手に動物みたいな声がこぼれた。ず、とひとまず浅い部分が一杯に満たされてから、のろのろと這うように進行していって、気が遠くなりそうだった。
「あ、いいっ、兄さんすごいっ!」
「ばっ、なんてこと言うんだお前は!」
「だってほんとに、は・・ああ!」
 ボクはとても上半身を支えていられなくて、あごをべたりと床に預けてしまった。重たいおっぱいが床に乗り、兄さんの動きに合わせてふるふると揺れる。
 兄さんはおっかなびっくり、ちょっとだけ動いた。ぱちんと肌と肌同士が打ち合わされて、ぶらさがった袋がぺとっとボクのおなか側のあそこの丘に張り付き、剥がれ落ちた。
「すっげ・・お前、なんでそんな可愛くなっちゃったんだ?」
「し、知らな・・っ、ね、お願いだからもっと・・」
「いいのか? たぶん歯止めきかねえぞ」
「いいの、してほしいの!」
「言ったな」
 兄さんが言うが早いか、全身が帯電したように痺れてしまった。熱い硬い棒が容赦なくボクを引き裂く、抜けていく、引きとめようと寄ってしまった中の肉ひだが再び貫かれてぐじゅっと恥ずかしい音を立てる。
「はあぁっ! あつ、熱いよ、兄さん!」
「アルもだ、アルん中も熱い」
「熱い、すごい、ああっ、ああ、にいさん、にいさんっ!」
 兄さんの手が伸びてきて、ボクの胸をさわった。てっぺんを触られてまたボクの中でぱちんと新しい電流が通る。びりびり痺れるような気持ち良さがどんどん頭を侵食して、立てた膝が、爪先が、太ももが、ひっきりなしにがくがく震える。
 次第に、胸を触ってた兄さんの手に余裕がなくなってきて、さっとやめてしまうと身体があぶなっかしく泳ぐボクの腰をがっちりと捕まえた。上下も前後も分からなくなるほど揺さぶられて、ボクは値を上げる。
「もうだめ、にいさん、ボクもうだめっ!」
「イきそうか?」
「わかんないっ、けどなんかああやだ来るっ! ひああっ!」
「アル、オレも!」
「うん、うん、いっしょに!」
 身体が燃えそうに熱くなって、さあっと白いものに飲み込まれた。がくんと高い所から落ちたみたいな突きぬけ感がする、ひくっ、ひくっとあそこが壊れたみたいにけいれんする。
 あんまり気持ち良すぎて、ボクはぼうっと床のタイルを眺めていた。
「アル。アル? 落ち着いたか?」
「ん・・」
 舌がもつれて、うまくものが言えそうにない。起き上がるのも無理そうだった。なんとかひっくり返って仰向けになると、ボクは兄さんの手を引いた。
「・・落ち着かない」
「え」
「もっと、しよ」
 長い沈黙だった。うっかり眠りそうになったころに、兄さんのかすれた返事があった。


終わり






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