エルリック兄妹物語 ロイ子遭遇編
>339氏

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プロローグ

「すんませんねえ。田舎なもんで、車なんかアリャしないんですわ」
「いや、趣があっていい。たまにはのんびり行くのも良いだろう・・・」
馬車を操る老齢の軍人に、黒髪の女性将校は言った。
女性将校はけだるそうに、荷馬車の縁を肘立てにしながら遠くの風景をぼんやりと眺めていた。
「それにしても、こんな田舎に何の用件で?」
「勧誘だ。なんでも優秀な錬金術師がいるらしい。私は見極め係」
「ほお。国家錬金術師ですか。こりゃ剛毅だ」
「軍部も人員不足だからな。優秀と思われる人員は他行く前に確保したいと言ったところか」
(なんで私がこんな田舎まで出張って来なくてはならんのか・・・)
と呟いて大袈裟に溜め息をつく。付き添いの金髪の女性がそれを見て眉を顰める。
「なんでもエルリックとかいう輩らしいのだが」
老齢の軍人は、はて・・・と考え込んだ後、ああっと膝を打った。
「エルリック兄妹の事ですか・・・なるほどなあ。あのチビ共が国家錬金術士なあ・・・」
「チビ?・・・どういうことだホークアイ少尉」
「・・・書類不備。でしょうねマスタング中佐」
眉間にしわを寄せて資料を眺めるロイに、リザは簡潔かつ冷静に答えた。



***********



嵐の過ぎ去った後。
そういう空気が漂うエドの病室である。エドはげっそりとした顔をしてベットに横たわっていた。

なんだかんだで人体練成に失敗し、右の腕と足を失ったエドは、ロックベルの家に世話になっていた。
アルは治療終了後に自分の家へ連れて帰ると主張したのを、ウィンリィとエドの猛反対に逢った為である。
(ウィンリィはお姉様であるアルの貞操を心配して、エドは自分の貞操を心配して)
だが、心配した状況とはあまり変わらなかった。アルが朝から晩まで看病と称した逆セクハラを敢行するからである。

2時間前。
「これでラストだよ、兄さん。あ〜んして?」
皿に残ったスープをパンで拭い、エドの口元に持っていくニコニコ顔のアル。
この光景は、エドがロックベル家に運び込まれてからずっと続いている光景である。
「なあ、別に一人でも食えるんだし、ここまでしてくれなくてもいいぜ?」
複雑な表情で遠慮がちに言うエド。目線の先には、扉の向こうで覗きながら異常な殺気を放つウィンリィ。

「ダメだよ兄さん!!利き腕がなくなってるんだもん。誰かが腕の代わりになってあげなきゃ!!
 僕の事なら大丈夫!!!兄さんの為なら食事の世話だろうが、下の世話だろうが、なんでもしてあげちゃうよ!!!
 兄さんさえ良ければ、ううん、むしろ無理矢理にでも夜の世話も志願するよ!!!」
「・・・食事の世話だけにしてくれ。夜は勘弁してくれ・・・」
うんざりした表情でエドは言った。こころなしか感じる殺気も強まった気がする・・・
「兄さんは欲が無いなあ。その気になれば、僕はいつでもOKなのに・・・」
相変わらずニコニコ顔で奉仕(エドにとっては逆セクハラ)を開始するアル。そして視線は机の上の牛乳に移る。
「牛乳飲まないの?」
「・・・いらん」
「相変わらずだなあ・・・でも、そんな兄さんに朗報だよ」
へっと惚けるエドをしり目に、なぜか上着を脱ぎはじめるアル。
「な、なんだ!?」
「へっへー。実は僕、母乳が出る様になったんですね〜。
 毎日兄さんと接している内に、愛情が溢れ出て来たっていうか。やっぱ僕って兄さんのこと愛してるんだなあ・・・」
恍惚としながらもテキパキと上着を脱いでゆくアル。
「ちょ、落ち着け!!なんでアルのを飲まなきゃなんねえんだよ!!」
「だって、牛から出た飲み物だから飲みたく無いんでしょ?確か。
 だったら人から出たものならOK!!問題無し!!!」
「でも、だからってここで直は・・・」
「なにいってんの?こういうのって直から飲まなきゃ意味無いジャン。
 セントラルじゃお金払わなきゃ、こんなことできないよ?」
そういって片方のおっぱいを下着から出す。まっしろな肌にピンクだが大きめの乳首が見えた。
・・・微かに母乳が染み出して来ている・・・
・・・エドはゴクリと唾を飲む。
「さあ兄さん。飲んで?」
アルがニコニコ顔を微かに赤く染めて、エドを誘う。
(うっ!!逆らわなきゃ!!このままじゃ一線越えてしまう!!!・・・でも綺麗だなアル・・・なんか懐かしい匂いもするし・・・)
聖母の様なその姿(中身は性母でも)に、エドは催眠術にかかった様に逆らわず顔を寄せる。
「うふふ・・・兄さん。来て・・・」
「アル・・・」

バタン!!!
「なにやってんのよーーー!!!!」
鼻血を出したウィンリィが乱入して来たのはそんな時だった・・・
「これはなんとも・・・」
エルリック家に着いたロイ一行は、家の内装に唖然とする。

そこには・・・
ジャニーズを思い起こさせる様なグッズの山。もちろんすべてエド仕様。
ウチワからペンライトまで、すべてを網羅する勢いで揃えられていた。

「・・・エドワード=エルリックはナルシストなのか?」
「・・・資料にはそこまでは・・・」
ロイは手元の写真着きウチワを手に取る。
そこにはあどけない笑顔を浮かべた幼少の頃のエドが印刷されていた。
(ふむ・・・なかなか・・・)
「中佐。どうやら、ロックベル家にエドワード氏が滞在してるらしいです」
(でも、まだ子供だろうしなあ・・・素材は良さそうだが・・・)
「中佐?」
「へ?ああ・・・分った」
リザの声に正気にもどるロイ。取り繕う様にウチワを仰ぐ。
「き、今日は熱いな少尉」
「・・・そうですか?」
リザはどもるロイを置いて、老齢の憲兵と共に荷馬車へ向かった。
「まあ、考えときな。そん時は力になってやるから」
ピナコはそう締めくくった。義手義足についての説明を受け、エドは無言で俯く。
そんな姿のエドを見ながら、ピナコは部屋を出ていった。
「どうだったばっちゃん」
「・・・どうだかねえ。まあ、話はしたけどそこまでする必要はないからねえ・・・」
頭を掻きながら扉の前で出待ちをしていたウィンリィに言うピナコ。
(研究だけなら片手だけでもできるからねえ・・・無理して手術する必要もなしって所かね・・・)
溜め息まじりに作業場に戻るピナコ。一方、ウィンリィは、
(さっさと手術してこんな所から追っ払いたいけど、今度はリハビリでアルお姉様とくっ付く事に・・・
 で、でも、このままでもお姉様をエドに独占されたまま・・・ああ!!どうしたら!!!)
と、妥協策のない袋小路に追い詰められて唸っていた・・・


「んふふ。これで買い物も終了・・・今日は兄さんの好きなシチュー♪」
上機嫌にバイクで農道を走るアル。荷台には大量の食料品が乗っている。
最近のアルは機嫌が良い。もちろんエドがリゼンブールに戻って来たからであるが、それ以上に今までの鬱憤を看病と称して発散できているのが大きかった。
エドが家出をして数年・・・本当に辛い日々だった。
エドを方々探すが見つからず、母さんを復活させればと人体練成に手を出せば身体を失い、軍の情報に頼ればあるいはと国家錬金術師になれば、裏家業専門(おかげで賢者の石レプリカを手に入れたが)にさせられてしまった。
(でも、今は兄さんを探し出し、独占している!!
 僕も兄さんも身体を失ってしまったけれど、そんな事僕がどうにかして見せる!!
 元の身体に戻って、兄さんに僕の初めてを貰ってもらう為ならなんだってしちゃうよ!!!)
今アルの目は常に前向きに、輝いた未来を見つめていた。たとえ、エドにとっては修羅道の入り口であろうとも・・・
「失礼する」
「・・・軍人が何の様だい・・・」
外では憲兵がデンに吠えられまくっている中、玄関ではピナコとロイが約1分ほど睨み合っていた・・・
「あ、あの〜何の御用でしょうか?」
緊張感に耐えられなかったウィンリィは、助け舟を出す様にリザに話し掛けた。
「すみません。エドワード=エルリック氏がこちらにいると聞いて来たもので・・・」
「へ?俺?」
車椅子を乗ってトイレに来ていたエドが、名前に反応してヒョイッと顔を出す。
ピナコの制止を無視し、つかつかとエドに歩み寄るロイ。?な顔のエド。
「・・・君の家に行ったぞ。なかなかの趣味だった」
「はあ・・・」
何の事かわからないエド。彼はリゼンブールに戻ってから、一度も家に帰っていない。
「まあ、人それぞれだ・・・あまり言及はしないが、ほどほどにな・・・」
「はあ・・・どうも・・・」
お互い噛み合わないままの光景、それがロイとエドの初対面だった。

エド、ピナコを前に話を始めるロイ。要は国家錬金術師へのスカウトらしい。
「あんたらはアルを連れてっただけで無く、エドまで軍の狗にするつもりなのかい・・・」
ピナコはキレる寸前だ。ロイは真っ向から睨み返し、
「来るか来ないかは彼の意志だ。我々は強要はしない」
といった。リザはそれを聞いて溜め息を着いた。
話をする前から喧嘩腰の二人が睨み合う・・・
エドは当初から居心地が悪そうにしている。
エド以外全員女性。しかもキツメのタイプばかり・・・正直、彼は畏縮していた。
まあ、子供と言う所を抜いても、この面々に囲まれて畏縮しない方がおかしいとは思うが・・・
「・・・ところでアルさんとは・・・」
険悪な雰囲気を意にも返さず、リザは疑問に思った事を聞いてみた。
「この子のいも「俺の姉です!!!軍に居ます!!!国家錬金術師です!!」
ピナコの声を遮る様に大きな声で言うエド。
アルは年令を騙って軍に入っている。バレル訳にはいかない。
エドはピナコにアイコンタクトをすると、ピナコは仕方ないとばかりに溜め息を着いた。
「何?エルリックなんていたか?少尉。」
「・・・おそらくアルフォンス=エルリック少佐の事かと・・・」
と言うリザに、ロイの顔が一気に歪む。
「・・・グランの猟犬か・・・」
話に聞く『鉄(くろがね)の錬金術師』。その技は謎に包まれている、新進気鋭の武闘派術師・・・
ちらりとエドを見る。睨まれた様に感じたエドは、こわばった苦笑を返した。
(この子があの鉄の弟・・・おもしろい・・・)
「エドワード君。君と差しで話がしたい。いいかい」
顔を寄せながら、ロイはエドに言った。
「はあ、まあ」
よし。と、ロイはエドの車椅子を押してエドの病室へ向かう・・・

「なんとも強引な輩だねえ・・・」
「すいません」
苦みばしった顔で呟くピナコに、リザは無表情で謝った。


「君が鉄の弟だったとはな・・・」
ロイは車椅子に座っているエドをマジマジと見つめながら言った。
「・・・アルの奴。真面目にやってますか?」
空気の気まずさを感じながら、やはり兄として仕事振りを聞いてしまうエド。
なんだかんだで、アルを心配しているのである。
「優秀だよ。非常に。今日も任務に出てるんじゃないかな」
含みのある笑顔を見せながら、ロイはそう答えた。
「優秀ですか・・・よかった。アルの奴が迷惑掛けてなくて」

その言葉にロイは目を細める。
「・・・知らないのか?君は」
「え・・・」
「君の姉が軍でなんと呼ばれているか・・・なんの仕事をしているか・・・」
きょとんとした顔で首を振るエド。それを見てロイは顔を顰める。
「ティンダロスの猟犬。それが彼女の異名だ・・・」

次元の狭間に棲む魔獣。周到に執念深く獲物を狙う。まさにアルフォンス=エルリックを表すに相応しい異名。
「君の姉は、軍で主に政治犯グループを対象にした殲滅任務に携わっている。これまで任務に失敗した事はない。
 錬金術師でもあるグラン准将配下きっての強者だ・・・」
エドの顔が強ばる。ロイは言った。
「・・・殺し屋なんだよ。君の姉は・・・」



「ん?お客さんかな?」
遠くにロックベル家が見えて来た頃、庭で犬に追い掛けられてる老人がいた。
「しょうがないなあデンは・・・」
苦笑いを浮かべながら、アルはバイクのアクセルを吹かしスピードを上げた・・・
「・・・殺し屋なんだよ。君の姉は・・・
 君は今まで何も知らなかったのか?一緒に生活をしていてなにも気付かなかったのか?」
ロイからの問いかけに視線を反らす。
(殺し屋・・・アルが・・・なんで・・・)
「・・・気付いてもなかったか・・・唯一の肉親がこれじゃ、エルリック少佐も救われぬな・・・」
「だって・・・アルは何も言わなかったんだ・・・」
(俺を探す為にそこまでしていたなんて・・・言わなかったんだ・・・)
アルが知らせなかった(知られたくなかった)事実に、困惑するエド。ロイはますます目を細める。

「それを気付くのが家族じゃないのかね。・・・情けない奴だな君は」
鼻で笑い、嘲る様にロイは返す。
情けない。その言葉にエドは反応する。

「さっきからの態度。相手の表情を伺う癖。・・・君は本当にあのエルリック少佐の弟なのか?」
最近の生活で卑屈色に染まっていた頭が自分に対する怒りで染まっていく。エドはそれを感じていた。

「・・・黙りか。・・・まあいい。私の中で君の評価は確定した・・・」
いつの間にか、さっきまでの気負いが無くなっていく。リザンプールに帰って来て久しく忘れていた自分への問いかけ。焦り。 

「君は腰抜けだ」
「俺を腰抜けと言うな!!」
エドは腹の底から声を出し、そう叫んでいた。
ロイを射抜く様な眼光。輝く様な瞳には、さっきまでの相手を伺うような卑屈な色はなかった。
「・・・ほう・・・」
エルリックの自宅で見た写真とは違った、闘志を浮かべた表情。ロイは思わず溜め息を漏らす。
侮辱をして、反応を見る。相手(特に子供)の器量を調べる手段の一つ。ロイはエドを試していた。
このまま畏縮して終わりなら、本当に帰ろうと思っていたが・・・
(良い眼光だ。・・・なかなかの素材だな・・・やはりこの子は怒った顔が似合う)
エドの反応にロイはほくそ笑んだ。

「腰抜けじゃないと?」
「ああ!!アルがどんな思いで、軍にいるのかは分からない。でも、アル一人に辛い思いはさせない!!」
(もうアルの後ろを歩くのはごめんだ!!これからは俺がアルを守る!!リザンプールを出た時に強くなるって誓ったじゃないか!!!)
・・・睨み合うロイとエド。しばらくするとロイは車椅子に座っているエドと目線をあわせる様にしゃがむ。
ロイの行動に面喰らいながらも、必死に虚勢を貼るエド。それを見抜き、ロイはクスッと微笑む。

「わかった。君を信じよう・・・侮辱して悪かった」
手袋を脱ぎ、エドの頭を撫でる。
「え?な、なにを・・・」
ロイの変化について行けてないエド。不意打ちに顔が真っ赤に染まる。
「君はいい錬金術師になるだろう・・・その気があるなら、ここに連絡をくれ」
そういうと、ロイは顔を寄せた。

唇が触れあう・・・

「!!!」
「続きはイーストシティで・・・待っているよ。エドワード=エルリック君」
メモとその言葉を残し、ロイは颯爽と病室を出ていく。
病室ではエドが呆然と取り残されていた。
「ばっちゃん今帰ったよ。今日はシチューだよ〜って・・・なんかあったの?」
デンから憲兵を助けた後、家の中に入ったアルは異様な雰囲気に思わず聞いた。
ピナコは顎でリビングの方を差す。そこには椅子に腰掛けている軍人、リザがいた。
アルの顔色が変わる。リザはかるく会釈をする。
「なにがあったの?ばっちゃん」
「勧誘だよ・・・あんたの時と一緒さ・・・」
誰の?と聞こうとした時、病室からロイが出て来た。リザが側による。
「あれは・・・確か・・・」
(若手筆頭の出世株。准将が煙たがっていたな・・・確か・・・)
リザと話をしていたロイは、アルの事を聞いたのかこっちに気付いて近付いてくる。
「初めてだな、エルリック少佐。私は」
「ロイ=マスタング大佐。お会いできて光栄です。本日の御用件は?」
自己紹介をするロイを遮り、無表情で社交事例を述べるアル。顔を引きつらせるロイ。
「貴方の弟さんであるエドワード=エルリック氏を国家錬金術師にスカウトしに伺いました」
「左様で」
かわりに用件を述べるリザ。アルは目線を合わせようとしない。
「君の弟はなかなか肝の座った少年だな。きっといい錬金術師に」
「用件を終えられたのでしたら、夕食でもどうでしょう。これから御用意致しますが」
再びロイの言葉を、感情のない声で遮るアル。殺伐とした場の空気にウィンリィが怯える。
「・・・いや、失礼する。これでもいろいろ忙しい身でね。
 まあ、どっかの誰かが犬を使って害虫潰しをしてくれてるおかげで多少助かってはいるが・・・」
流石に頭に青筋を浮かべたロイは、吐き出す様に嫌みを言う。
アルの眉毛がクイッと上がる。
「それでは失礼致します」
まだ言い足りなそうなロイを置いて、リザは半ば強引に嫌み合戦を終了させた・・・
「兄さん!!」
「・・・ああ、アルか。おかえり」
ロイ、リザが帰途に着いた後、
エドの病室にに飛び込んで来たアルに、惚けたままの顔で答えるエド。
「何、どうしたの?何かされたの?」
「んあ?・・・まあ、なんかされたって言えばされたんかなあ・・・」
ポーと虚空を見つめながら答える。
(一体どうしたの兄さん!!こんなに腑抜けた兄さん初めて見るよ!!)
唖然とするアルを後目に、エドは
(ロイさんか〜また逢いたいな〜錬金術師になればまた会えるかな〜)
と、アルが聞いたら錯乱しそうな事を考えていた・・・










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