【 In paradisum 】
>509氏

【注意】アル死にネタ有


舗装されていないあぜ道を、男は花を手に歩いていた。
心地よい風が吹いている。澄んだ空気と、豊かな緑。
何もないと言ってしまえばそれまでだが、ここは本当にのどかでよいところだ。
都会にはないものが、ここにはあふれている。
東の果てにある、かつて鋼と呼ばれた姉弟の故郷。
男がはじめてここを訪れたのは、もう5年以上前のことだ。
そのときのことは、今でも鮮明に思い出せる。
噂で聞いた優秀な錬金術師を勧誘に来て、そして目にしたのは血まみれの錬成陣と片手足をなくした子供。
あれが、すべてのはじまりだった。
あれから長い時が経ち、今はあの子供も成長し、男の妻となっている。
胎には子供もいて、春には家族が一人増えるだろう。
今日は、身重で動けない彼女の代わりに、この彼女の故郷へ、彼女の母と弟の墓に花を供えにきたのだ。
墓地に入り、並べて建てられた二つの墓に花を供える。
いつだったか、少女が昔の思い出話をしてくれたときに語っていた、彼女の母が生前好きだったという白い花だ。
二つ並んだ石碑は、ひとつは長い時間雨風に晒されたせいで灰色にくすんでしまっているが、もうひとつはまだ花に負けないくらいの白さを保っている。
男は目の前にある、その新しい墓石を見つめた。
今は妻となった少女の、弟の名が刻まれた石。
だが、たとえ両の爪が剥がれるほど掘り返したって、その下には何もない。
なんにも、ないのだ。
「おや」
不意に後ろから声をかけられた。振り向くと、黒い犬を連れた小柄な老女が立っていた。
ここで暮らしていたころ、姉弟の後見人だった人物だ。
彼女も墓参りにきたのだろう。片手に、色鮮やかな花を持っている。
「ご無沙汰しております。お元気そうで何よりです」
「ああ、ひさしぶりだね。あの子は元気かい?」
「ええ、おかげさまで。もう少し落ち着いたらこちらにもうかがおうと思っているのですが」
「いいよ。妊婦に無理させるものじゃない。
 それに──今あの子に会っても、あたしらのことも覚えてないんだろう?」
「まだ記憶が安定していませんので……」
中央に残してきた金の髪と瞳の少女を思い出す。
身重であるというだけでなく、彼女の記憶は所々抜け落ち、精神的に不安定な状態だ。
混乱を避けるため、今はまだ、過去に触れるような接触は避けたかった。
老女は墓に花を捧げると、男の隣に並んで同じようにそこにある墓石を見つめた。
犬も行儀よく並んで座り、墓を見つめている。
「……もうそろそろ、何があったのか話してくれてもいいんじゃないかい?」
墓石のひとつを見つめたまま、老女がつぶやくように言った。
老女が何を言いたいのか、男には分かっていた。
「すでにご連絡しているとおりですよ。
 一年前アルフォンス・エルリックが亡くなり、その後彼女と結婚しました。
 弟を亡くしたショックで彼女の記憶に多少の混乱が生じていますが、今のところ日常生活に支障はないですし、それ以外はいたって健康で、お腹の子供も順調に育っています」
事実など、ただそれだけだ。
だが老女はそれに納得しなかった。隣に立つ男を見上げる。
「あんたと腹の探りあいをする気も化かしあいをする気もないんだ。
 アタシはただ真実が知りたいだけだよ。
 そして、あの子のしあわせを願っているだけだ」
男は、まっすぐに見つめてくるその視線に、この老女は『知っていた』のだと確信する。
知っていて──それでもなお、彼女のしあわせのために、ただ黙って見守ってきたのだと。
「何があったんだ?」
もういちど、老女は問うた。
それに、男は目を細めるようにしてどこか遠くを見つめた。
「……何があった、というわけではありません。ただ、『そのとき』が来ただけです」
いぶかしむように老女が眉根を寄せるのが分かった。
男は空を見上げる。今は遠くにいる愛しい少女を想った。
「そして私も、彼女のしあわせを願った。ただそれだけです」


少女は男の腕の中で、抱き合ったあとの心地よいけだるさに身を任せていた。
普段は上司と部下、国軍大佐とその子飼いの国家錬金術師という関係だが、職務を離れてふたりきりになれば、恋人同士といってもいい関係だった。
旅を続けているため常に傍にいることは出来ないが、報告書の提出などで男のもとを訪れたときにはこうして男の家で抱き合うのがいつものことになっていた。
黒髪の男は抱き枕のごとくに体に腕を回して抱きめて、
そのまま少女の髪を撫でたり額に軽いくちづけを落としてきたりする。
少し気恥ずかしい気もするが、そんな時間が嫌いではなかった。
普段は男のふりをして旅をしている少女だが、ここでは男のふりをする必要などない。強がってみせることも必要ない。
甘えるとか、頼るとかではなく、ただ、自分が自分でいられる場所だった。
いつも、愛している愛していると繰り返し囁きながら男は抱いてくる。
普段の余裕げな顔や皮肉げな顔ではなく、真摯な顔で見つめ、鋼の冷たい手足にも、同じようにくちづけを落とし、触れてくる。
そうされると、鋼に感覚などないはずなのに、触れられた場所が熱を持ち、震える快感を伝えてくるような錯覚に陥る。
それはいつも少女をしあわせで満たしてくれる。
その身体のように、どこか欠けたいびつな心を満たしてくれる。
少女が半分眠りの淵に意識を落としながらまどろんでいると、男が耳元に囁いた。
「もうすぐ君の誕生日だな」
「ああ……忘れてた」
たとえば母が死んだ日や家を焼いた日は覚えていても、自分の誕生日などというものはすっかり忘れていた。
「その日に君が近くにいてくれればいいのだが、そういうわけにもいかないのだろうね」
「……」
これが弟の誕生日だったなら、彼のために贈り物を選んだり、 幼馴染と共にささやかなパーティを開くため故郷へ帰るなど気も使うのだが、自分の誕生日に特別何かをしようという気持ちは少女にはなかった。
本当なら、恋人である男と過ごすのがいいのだろうが、そうすることは出来なかった。
自分の誕生日だからという理由で旅を中断するよりも、早く次の目的地へ向かって賢者の石を探したかった。
男のことを愛してはいるが、優先順位をつけるなら、弟の体を取り戻すことが一番なのだ。
たとえそのことで男に責められたり飽きられたりしたとしても、どうしても譲れないのだ。
「そんな顔をしないでくれ。責めているわけじゃないんだ」
一体どんな顔をしてしまっていたのか少女自身には分からなかったが、男が少し困ったような顔をしてなだめるように頬を撫でた。
きっと、よほどひどい顔をしていたのだろう。
「今度の誕生日で16だろう。それを確認したかっただけだ」
「悪かったな、16になっても男で通るようなちんくしゃで」
「そんなことは言ってないだろう。
 私が言いたかったのは、16といえば、もう結婚できる歳だということだよ」
何か含みを持たせるような言い方に、少女は男の顔を見上げた。
男の黒い瞳が、少女をまっすぐに見つめていた。
「君達の旅が終わったら──私と結婚してくれないか?」
「大佐?」
少女は驚いて、金色の目を見開く。
正直言って、この男がそんなことを言い出すとは思わなかった。
出世欲の強い男は、きっとどこかの将軍の娘でも娶るのではないかと思っていたのだ。
そうすることが男にとっていちばんいいと思っていたし、少女の置かれている状況からみても、結婚など無理だろうと、考えていなかった。
好きだと言ってくる男の気持ちを信じないわけではなく、それとは別の次元で、そのうち終わってしまう関係なのだと心のどこかで思っていた。
「……いつ戻れるか分からないよ。10年後かもしれないし、20年後かもしれない」
「それなら、それまで待つよ」
「そのとき、あんたいくつだよ」
「オジサンの嫁になるのがいやなら、そうなる前に早めに頼むよ」
冗談めかした口調だけれど、男が本気なのだと分かった。
たとえそれがいつか反故になってしまうとしても、今そう言ってくれることが嬉しかった。
何故だか涙があふれて、泣き顔を見せたくなくて少女は男の胸に顔をうずめた。
男は優しく抱きしめて、髪や背を撫でてくれる。
(いつか、すべてが終わったら、そのときは)
そんな日が本当に来るのかは分からない。
でも、そう想うだけでしあわせだった。
しあわせで、しあわせで、胸がいっぱいになった。


そしてそれと同じ夜。
彼女の大切な弟アルフォンス・エルリックは行方不明になった。


アルフォンス・エルリックの死体が見つかったのは、それから数日後のことだった。
死体、というのは正確な表現ではない。
もともとその鎧の中身は失われていたから、ただ、血印に傷のついた、もう二度と動かない鎧が街の片隅に転がっていただけ。
男の権限を使い、軍でその死因を調査したけれど、結局詳しいことは分からなかった。
一般人から見たらそれはただの脱ぎ捨てられた鎧で、街の片隅に転がっているそれを、通行の邪魔だと路地裏に押しやったり蹴飛ばしたり、子供たちなどは兜を被ったり鎧の中に入ったりして遊んでいたらしい。
ゴミとして処分される前に回収できたのは、せめてもの救いだった。
だが、そんなそれまでの扱われ方のせいで、死因を突き止めることができるような痕跡はかき消されていた。
蹴飛ばされたり転がされたりしている間にも鎧に傷が付き、すでにボロボロの状態だった。
血印に傷はついていたが、それが死ぬ前につけられたのか、死んでからついたのか、また、何によって出来た傷なのか、分からなくなっていた。
だから、分からないのだ。アルフォンス・エルリックが何故死んだのか。
何かの事故で血印に傷をつけてしまったのか、誰かに故意に傷付けられたのか、あるいは──自殺なのか。
ただひとつ確かなことは、アルフォンス・エルリックはもういない、ということだけだった。
薄暗い室内で、まわりじゅうに本を積み上げて、冷たい床に座り込んだ少女はただひたすらに本を読みふけっている。
時折、手元の手帳に何かを写し取ったり、公式や薬品名を書きなぐったりする以外は、本から目を離すこともない。
差し入れられた食事は、手をつけられないままテーブルの上に置き去りにされている。
食事だけでなく、ろくに睡眠も取っていないのだろう。
その横顔にはひどい隈ができ、やつれたような面差しになっている。
だがそれでも、何かに取り付かれたように、少女は本を読むことをやめない。
男が大きな音で扉をノックし、中に入ってきても、顔を上げることすらしない。
あるいは、本当に気が付いていないのかもしれない。
彼女にとって今必要なことは研究のみで、それ以外のことはもう五感にさえ届かないのかもしれない。
血印の壊れた鎧が見つかってから、すでに数週間がたつ。
はじめ、弟を失った彼女の憔悴はひどいものだった。
それはそうだろう。彼女にとっては唯一の肉親で、生き甲斐と言ってもよい存在だった。
命を賭けても守ろうとしていた相手が、いなくなってしまったのだ。
はじめて出逢ったときのような暗く濁った目をして呆然としている少女を、誰もが心配した。
しかし、生ける屍のようだった一時期を過ぎたあと、彼女は錬金術の研究に没頭しだした。
『何の』研究なのかはすぐに分かった。
いなくなってしまった弟をよみがえらせるための研究だ。
かつて魂を錬成したとはいえ、そのときとは状況も違い、そのまま同じようにはいかないのだろう。
もういちど弟をよみがえらせるために、寝食を忘れてまでのめりこんでいるのだ。
男は大股で少女のもとに歩み寄ると、見ている本を取り上げた。
「何すんだよ! 返せ!」
「もう、こんなことはやめなさい」
「こんなことってなんだよ!」
男を睨みつけ、今にも殴りかかりそうな少女に、男は冷静に言い放った。
「また同じことを繰り返すつもりか?
 君だって分かっているはずだ。お母さんのことを忘れたのか?
 あの苦しみを、今度は弟に与えようというのか?」
「────!!」
男の言葉に少女が青ざめるのが分かった。ひどいことを言ってるという自覚はあった。
母を錬成しようとして失敗した記憶は、彼女にとってつらいものだ。
それでも、彼女がやろうとしていることをきちんと自覚させ、止めなければならなった。
人体錬成。死んだ者を生き返らせること。それは禁忌だ。
軍が禁止しているから、などという理由ではなく、世界の理を捻じ曲げる大罪だ。
錬成した彼女の母親はどんな姿をしていただろう。その代償に何を失っただろう。
それこそが罪の証だ。
今弟を錬成しようとするのは、かつて母を錬成しようとしたのと同じだ。
魂に器を与えるのとは違う。決して許されない。
「でも、だって、あいつは俺のたったひとりの弟なんだ」
泣きそうに、少女の顔が歪む。
「なのに、俺のせいで──」
「自分を責めるのはやめなさい」
せめて死因がちゃんとわかったなら、まだ心の整理もついたのかもしれない。
けれど、死因もわからない突然の死で、それを受け入れることが出来ないのだ。
分からない死の理由──自殺も、考えられなくはないのだ。
どんなに強そうに見えても、彼はただの14歳の少年でしかなかった。
鎧となってしまった身や、姉の負担になっているのではないかという自責、あてもない旅の日々、人造人間との戦い、身近な人の死──。
そんなつらい状況が重なって、衝動的に自殺したということもありえなくはない。
その可能性を考えて、少女は自分を責めているのだ。
自分が、弟を追い詰め死なせてしまったのではないかと。
男は慰めるように、少女の頬に触れた。
「彼は君と共に、元の体に戻ろうと頑張っていただろう? 自殺なんてありえない。
 だからきっと、事故だったんだよ。何かあって──血印を壊してしまった。
 きっとそうなんだよ」
少女に言い聞かせるように、優しくゆっくりと言う。
事故の可能性も、なくはない。
血印が壊れたらどうなるかは本人も熟知していたから、触れたり壊したりしないように気をつけていた。
でも猫好きの彼は鎧内に猫を入れたり、何らかの事情で人を入れることもあった。
そんなときに、何かのはずみで──まったく悪気なく血印に触れてしまったとも考えられる。
たとえば、夜の路地裏で猫と遊んでいたときに、誤って猫が血印を引っ掻いてしまった、というような。
「……そう、なのかな」
「ああ、きっとそうだよ」
理由がどうであれ、少女の弟がもう還らないということに変わりはない。
それでも、事故死であると思ったほうが、まだ心が軽かった。
ぼろぼろと、少女の目から涙がこぼれた。
弟の死の報せを聞いてから今まで一度も泣いていなかった少女が、やっと涙をこぼした。
そのことに、男は安堵する。張り詰めていた心が、少しでも解放された証拠だ。
少女を優しく抱きしめた。
「もうずっとまともに眠っていないんだろう? 眠りなさい」
けれど、少女は弱々しく首を振る。
「眠れないんだ。眠ると夢を見る。あいつが──姉さん助けてって言うんだ」
「……」
「だから、大佐、お願い……」
すがるように、男の服を掴む少女の手の力が強くなった。
少女が何を望んでいるのか、男には分かった。
以前より軽くなってしまった少女を抱き上げると、寝室へと連れて行った。
シーツの上に横たえ、服を脱がせる。
もともと痩せすぎな印象のある体だったが、最近の不摂生のせいで余計肉が落ちてしまったようだ。
それでもその薄い胸を両手で包んで揉みあげた。
「あっ……」
ちいさく立ち上がった乳首が、快感を伝えていた。
下肢に手を落とすと、多少は濡れているがまだ十分ではない。
そこに愛撫を施そうとすると、それを少女の手がさえぎった。
「いいから。そのままいれて……」
「だが、まだ」
「いいから、……痛くして……あのときみたいに」
それがいつのことを言っているのか、男にはすぐに分かった。
彼女をはじめて抱いたときのことだ。
母親を錬成した直後の、まだ機械鎧さえつけていないときだ。
あのときも、少女は今と同じ症状に陥っていた。
異形の姿になってしまった母を、自分の犯してしまった罪を、繰り返し夢に見て、まともに眠ることも出来ずにどんどんとやつれていっていた。
戦場でそんな症状になって壊れていく人間を何人も見た。
罪の意識に心が耐え切れなくなるのが先か、不摂生に体が耐え切れなくなるのが先か、どちらにしろやがて壊れてしまうだろうことは明白だった。
だから、その子供を無理矢理抱いた。それも戦場での経験からだ。
人肌のぬくもりを伝えるという意味でも、痛みとショックで意識を引き戻すという意味でも、快楽ですべてを忘れるという意味でも、戦場ではよく使われる手段だった。
彼女にとっては、破瓜の痛みだけでなく、幼すぎてまだ男を受け入れることなどできないはずの性器を無理矢理貫かれ、相当の痛みと苦しみだっただろう。
だが少女は、痛みに涙をこぼしながらも、自ら足を開いて男を受け入れた。
彼女にとってそれは『罰』だったのだろう。
母の死を冒涜し、弟をあんな姿にしたにも関わらず、それを知った幼馴染もその祖母も、弟本人ですら誰も彼女を責めなかった。
そんな優しさは、時としてつらいものだ。
少女は誰かに自分の罪を責めて欲しかったのだろう。罰して欲しかったのだろう。
だから、そんな少女をはじめて罵った男が与える痛みを、罰として自ら受け入れたのだ。
そのときのことは、『治療』の一環で、お互いに特別な感情などなかった。
その後少女と弟が旅に出て、それを影から支えていくうちに、だんだんと少女の存在に惹かれ、恋人となった。
ひどい抱き方をしたのは、その最初のときだけだ。
そのあとは、いつだって優しく抱いていた。
今、少女の望むまま、手酷く抱くことは簡単だ。
けれど、男は少女の秘裂に優しく指を這わせ、愛撫をはじめた。
「やだ、大佐……もっと、もっとひどくして……」
その優しい動きをする手に、少女が身をよじって逃げようとする。
あのときは何をされても痛いだけだったろうが、成長し、行為にも慣れた体では、快感しか感じない。それでは嫌なのだろう。
それを逃がさないように押さえつけて、男は笑った。
「……知っているかい?
 戦争中などのときはね、捕虜を拷問することもあるのだが……
 痛めつけるだけが有効ではないのだよ」
「え……?」
「『ひどく』してあげるよ。君が望むとおりにね」


男の指と舌は、それからずっと秘裂に這わされている。
入り口をなぞったり、中へ浅くもぐらせたりするものの、激しい動きをすることはない。
快感は与えられるのに、決定的なものは与えられず、少女は達することができない。
そのくすぶるような熱を、ずっと与えられているのだ。
さらに自分で触れないようにと少女の両手は背中のところで縛られている。
「やだ……もうやだ……」
少女は半分べそをかきながら、男に哀願する。
けれど男は意地の悪い笑みを浮かべて、少女の膣を嬲る。
「ひどくして欲しいと言ったのは君だろう?」
男自身は、既に少女の口淫で2回抜いている。
だが少女はまだ一度も絶頂を与えられていないのだ。
「私だって早くここにいれたいのだがね……」
言いながら男は、すでに勃起している性器を少女の秘裂にこすりつける。
力強く脈打ちながら硬くなっている肉棒が、蜜をあふれさせながら震えている入り口を掠めてまた離れてしまう。
「う……いれて……」
「ダメだよ、そう簡単には入れてあげられないな」
男の手がきつく乳首を摘み上げると、反射のように少女の背が反り返った。
痛みにではない、快感でだ。
だが絶頂に達するにはわずかに足りず、また体の中にくすぶる熱を蓄えさせるだけだった。
強過ぎる快感は、もはや苦しさになっている。
痛みにならきっと耐えられるが、こんな苦しさには耐えられない。
苦しくて苦しくて、他のことが何も考えられなくなる。
「おねがい……っ」
縛られているせいで自由にならない体をそれでも必死に動かして、濡れた性器を男の腰に擦り付ける。
獣のように浅ましいと思うけれど、とめられなかった。
少女の必死に媚態に、男も限界だったのか、男は少女の腰を抱えると一気に根本まで埋め込んだ。
「ああっ!」
それだけで、少女は達してしまう。
けれど息をつく間も与えられずにそのまま激しく突き上げられる。
「あっ、や、待って」
「待てない」
少女のことなどお構いなしに、男は腰を振る。
痛みを感じるような無茶苦茶な動きでも、熱をくすぶらせていた身体はそれを快感へと変えてしまう。
激しく動きながら、後ろで縛っていた腕をほどかれる。
自由になった両腕で男の背中にすがった。
このいびつな身体を、もっと責めたてて欲しかった。
もっと苦しめて、痛めつけて、それだけでいっぱいにして欲しかった。
失って、足りなくなってしまった何かを補うように。
それができるのは、この男だけだ。
「ロイ……ロイ……」
うわごとのように名を呼ぶと、動きを緩めて、男が覗きこむように顔を近付けてきた。
心配するように、うかがうように、優しくくちづけられる。
それを少女は頭を振って振り払った。今欲しいのは、優しさなどではないのだ。
その思いは的確に男に伝わったのだろう。
また痛いくらいの激しさで腰を打ち付けてくる。
それでいい。今は、それでいいのだ。
頭を白く染め返る、押し寄せる波に身を任せて、少女は目を閉じた。

しばらく睡眠をとっていなかった身体を酷使して、もう限界に達していたのだろう。
少女は糸が切れたように深い眠りに落ちている。
男がその頬を撫でても髪をかきあげても、目を覚ます気配はない。
胎児のように小さく丸まって眠る彼女を見つめながら、男は思う。
(急がなければ)
これですべての問題が片付いたとは思えない。
今説得できたとしても、すぐに弟のことを吹っ切れるわけではないだろう。
弟をよみがえらせる研究をとめることはできても、頭のいい彼女はやがて弟の『死因』に気付いてしまうだろう。
早く──早く。そうなる前に。
少女が、弟の本当の死の原因に気付く前に。
真実など誰も救いはしない。
だったら優しい嘘で塗り固められた世界のほうがいい。
それがただのエゴイズムであったとしても。
男はそっと眠る少女のまぶたにくちづけた。

少女は花を持って、弟が発見された路地裏へと来た。
そこは『発見された』場所で、実際に命を落としたのは別の場所かもしれない。
それでもそこに花を捧げた。
いつも一緒にいた弟を思い出す。
幼いころも、鎧姿になってしまってからも、ずっと一緒だった。
錬金術でよみがえらせられたらと今でも思うが、それは決してしてはいけないことだ。
母のような目に、弟まであわせてはいけない。
願わくば、彼が先に逝ってしまった母のもとで、笑っていてくれればいいと想う。
(どうか、安らかに)
今、少女が願うことは、それだけだ。
弟の死もやっと受け入れられるようになってきた。
恋人である男は、弟が死んだのは、きっと事故だったのだと言った。
そうなのかもしれない。あれは、事故死だったのかもしれない。
あんなに猫はダメだと何度も言ったのに、猫好きの彼は、それだけは絶対に言うことを聞かなかった。
この路地にも何匹か野良猫の姿が見える。
夜中、猫のいそうな路地裏に行って猫と遊んでいるときに、何かのはずみで血印に傷をつけてしまったのかもしれない。
「バカだなあ、あいつ」
哀しいのには変わりはないが、そう思うほうが気が楽だった。
弟が苦しんで苦しんで自殺したなんて思うよりも、ずっと。
哀しみは消えないけれど、やっと気持ちの整理はつきそうだった。
それに、ただ哀しんでばかりもいられない。やらなくてはいけないことはたくさんある。
まずは弟が死んだことを、故郷の幼馴染とその祖母や南部に住む師匠に伝えないといけない。
身内だけのひっそりとしたものになるだろうが、葬式を行って墓も建ててやらないといけない。
墓は故郷の母の隣がいいだろう。
そのあとのことはまだ何も考えられないけれど、今は目の前のことを片付けてから、あとでゆっくり考えればいい。
弟との想い出を振り返りながら、あふれそうになる涙をぬぐおうとした、そのとき。
「やあ、おチビさん」
「!」
その声に、少女の背中が総毛立つ。
一見陽気に聞こえるものの、その奥にどす黒いものが潜んでいるような、その声。
涙など一瞬で引っ込んだ。身構えながら、ゆっくりと振り向く。
そこにいたのは長い黒髪の、人を見下すような嫌な笑みをたたえた男。
何故そいつがここにいるのか。
「──ホムンクルス」
そこに立つ男を、睨みつけた。
「あんたの弟、死んだんだってね。カワイソウに」
かわいそうなどと言いつつも、欠片も死を悼んでいないと分かる口調で、笑っている。
そんな人造人間の姿に、少女の頭に嫌な可能性が浮かぶ。
(もしかして、こいつらが)
奴らの目的がなんなのかはっきりとは分からないものの、敵であることははっきりしている。
そして、逆にいえば目的が分からないからこそ、何をするか分からない。
もしかしたら、こいつが弟を殺したのかもしれないのだ!
少女は瞬時に機械鎧をナイフに錬成させると身構えた。
「おい、答えろ。おまえらが弟を殺したのか!?」
「さあ〜」
人造人間の男は、わざと少女の神経を逆なでするような声音と表情で答えてくる。
「もしそうだったら、どうするわけ?」
「殺す!」
人造人間に刃を向けて、強く地面を蹴った。
切りつけようと飛び掛った少女を難なくかわして、人造人間は彼女の腕を掴んだ。
その細い体からは考えられない、人間にはありえないような強い力で、少女は動きを封じられてしまう。
「いいね、憎しみと殺意に満ちた目。そういうの大好きだよ。
 でもそれより、その顔が絶望で歪むほうがもっと好き」
人造人間は笑っている。今の状況が、楽しくて仕方ないというように。
猫が、捕えたねずみをすぐには殺さず、いたぶって弱らせてからとどめを刺すように、少女を嬲ることを楽しんでいるようだった。
「あんたの弟の死因を教えてやるよ」
「!!」
こいつはそれを知っているのかと、少女は目を見開く。
耳元に顔を寄せて、人造人間は面白そうに囁いた。

「あんたのせいだよ」

「なっ……!」
「鎧に魂を定着させておくには、そのための『力』が必要だ。
 本来と違う器では魂は不安定で、すぐに離れてしまうからな。
 つなぎとめておくための力が必要なんだよ。
 あんたの弟をつなぎとめてたのは、なんだと思う?」
言葉ひとつひとつに対する少女の反応を見ながら、人造人間は楽しそうに口元を歪ませる。
実際、楽しくて仕方がないのだろう。
「あんたの弟の魂をつなぎとめていたのは、あんたの『精神』だよ」
「────っ!」
反射的に身を引こうとする少女の腕をきつく掴んで、人造人間は少女を捕えたまま言葉を続ける。さも面白そうに。
「あんたの弟は、錬成したときに、あんたの精神の一部によって魂を鎧に定着させていた。
 あんたが弟をこの世界に留めておきたいと思う気持ちが、魂を鎧につなぎとめる『力』になっていた。
 でも、あんたは思っただろう。”あいつさえいなければ”って。
 ”弟がいなければ、これ以上苦しい旅をする必要もない。
 自由に、しあわせになれる。あいつがいなければいいのに”って。
 そう思ったから、それは現実となった。
 魂を鎧に留めておく力が消えて、魂は剥がれていったんだよ」
「違う! 俺は……っ!」
言われた言葉に、体が震えた。
否定しようとした言葉は、途切れてしまう。思い出したからだ。
弟がいなくなってしまったあの夜、自分は恋人の腕の中で何を想っただろうか。
(いつか、すべてが終わったら、そのときは)
あのときだろうか。
あのとき、しあわせで、他に何も考えられなくなった。
だから。だから弟はいなくなってしまったのだろうか。
「ほら、心当たりあるんだろう?
 弟が大事だなんて言ってても、本当は弟が邪魔だったんだろう?
 まあそうだよな、あんな鉄の塊、邪魔なだけだもんな」
「違う! 違う! 邪魔だと思ったことなんてない!
 俺があいつをあんな身体にしてしまったから、俺は」
「嘘つくなよ、認めちまえよ。弟がいなくなって清々しただろ?
 本当はあんな奴いないほうがいいってずっと思ってたんだろ?
 表面的には美しい姉弟愛を振りかざしてても、
 心の奥底じゃ、あんな奴いらないって思ってたんだろ?」
「ちがうちがうちがうちがう!!」
「違わないよ。実際、おまえの弟は消えただろう?
 それが、おまえが弟なんかいらないと思った証拠だよ」
人造人間の言葉は、少女の心を切り裂いていく。
笑いながら、解剖中の蛙の心臓に最後に針を刺すように、人造人間は少女の耳元に言葉を囁く。


「 ア ン タ ガ コ ロ シ タ ン ダ ヨ 」


「────うわあああああああぁぁぁぁ!!!」
少女は狂った獣のように叫んだ。
その瞬間、叫びをかき消すような爆音と熱風が襲ってきて、少女を掴んでいた人造人間を弾き飛ばした。
「うわっ」
焔は正確に、少女を避けて人造人間だけを狙っていた。
自然爆発ではありえない。そんなことができるのは、一人だけだ。
「鋼の!!」
「ちっ、狗が邪魔しやがって」
こちらへ駆けてくる軍服の男の姿を認めて、人造人間は悔しそうに舌打ちした。
けれど、呆然としている少女の姿に一応は満足したのか、反撃することなく身を翻した。
「今日は身を引いてやるよ、またね、おチビさん」
それだけ言い置いて、人間にはありえない跳躍力で、建物のむこうへ消えていく。
その姿を追うこともなく、取り残された少女は力なく路地に座り込んでいた。
力なくうなだれて、その肩がかすかに震えている。
それを気遣うように男が駆け寄ってくる。
「鋼の! 大丈夫か!?」
少女はぼんやりと、軍服姿の男を見上げた。
さっきの人造人間の言葉が頭の中を回っている。
「大佐、大佐。俺、俺がアルを」
「鋼の、落ち着きなさい」
「俺が殺した。俺が、いらないって思ったから、だから」
「違う、違うんだよ。そんなことはありえない。なぜならアレは────」
けれど、その言葉の続きを聞くより前に、不意に少女の目の前が闇に包まれた。
精神が耐え切れなくなり、ショートするように意識が焼き切れたのだ。
「おれ、が……、……」
力を失って、少女は男の腕の中に倒れた。




少女はゆっくりと目を覚ました。
頭が重い。何か夢を見ていた。
しあわせな夢だったような気もするし、哀しい夢だったような気もする。
けれどその内容を思い出すことはできなかった。
「目が覚めたかい?」
声をかけられ、声のほうへ顔を動かすと見知らぬ黒髪の男がいた。
──いや違う。この男を知っている。なのに、誰なのか思い出せない。
「あんた……あれ? 俺は……」
「私の名前はロイ・マスタング。分かるかい?」
(ロイ)
少女は告げられた名前を心の中で繰り返す。
その名を確かに知っている。この男も知っている。
それなのに、どんな知り合いか、どこで出会ったのか、そんなことが思い出せなかった。
(どうして、思い出せないんだろう)
必死で自分の記憶の中を探るけれど、頭に靄がかかったようにはっきりしない。
どうにか思い出そうと意識を深めれば深めるほど頭痛がした。
「無理しなくていい」
思い出せない苛立ちと頭痛で眉を寄せる少女の髪を、男はそっと撫でる。
「君は『事故にあって』ね、少し『頭を強く打った』んだ。
 そのせいで記憶に少し障害が出ているのだろう」
寝ていた寝台から身を起こしてまわりを見回せば、おそらく病院なのだろう、白を基調とした簡素な部屋にいた。
事故にあったと言われても、その事故自体思い出せない。
それだけではない。
目の前にいる男のことや事故のことだけでなく、いろいろなことが思い出せなかった。
自分の名前や、年齢くらいはわかる。
けれど、どこに住んでいたか、どんなふうに暮らしていたか、家族はどんなだったか。
一枚の写真のようにいくつかの情景がぼんやりと頭に浮かんでも、その前後についてはっきりと思い出せないのだ。
記憶がないということは、ひどく不安なことだ。
自分を確立するための足場がなくなって、くずおれてしまいそうになる。
不安げな顔をする少女を、男は抱きしめた。
「大丈夫だ。何も心配することはないよ。私がいる」
そう言われると、ひどく安心した。
あたたかい胸に抱きこまれて、服越しに聞こえるかすかな心音を聞いていると、心細さが消えていくような気がした。
「なあ……、あんたは、俺のどんな知り合いなんだ?」
少女は顔を上げて、男に尋ねた。
この黒髪の男が、まったくの見知らぬ他人でないことは分かったが、それ以外のことは思い出せなかったからだ。
少女の問いに、男はすこし寂しそうな、困ったような顔をする。
「私は、君の後見人をしていた。そして……君と、恋人だったんだよ」
「え?」
後見人で、さらに恋人だったというのなら、とても深いつながりだったことになる。
それなのに、そう言われても、何ひとつ思い出せなかった。
「いいんだよ、無理に思い出そうとなんてしなくていい。
 君が今、ここにいてくれるだけでいいんだ」
男はまた、少女を胸に抱きしめる。
恋人だったというのなら、こんなふうに忘れられてしまい、きっと哀しいだろう。
それなのに、自分を気遣って慰めてくれる男の優しさに、少女の胸がかすかに痛んだ。
後見人で、恋人だったという男。
その記憶はいまだ戻らないが、だからこうして抱きしめられると、こんなにも安心するのだろうか。
少女は目を閉じて、目の前にある、男の服の胸元を握り締めた。


少女は男の胸に顔をうずめていたから、彼女の記憶がないことに、男がそっと笑ったのには気付かなかった。

外傷は特になく記憶障害だけだったので、少女は数日ですぐに退院した。
すでに家族は亡くなっていて、故郷の家もすでにないということで、それから少女は男の家で暮らしている。
世話になることを申し訳なく思ったが、記憶のはっきりしない状況では男に頼るしかなかった。
いや、それはただの言い訳だ。
幸いなことに少女の身元はしっかりしているし、国軍大佐という地位を持ったその男の後見もあるので、記憶などなくても働くことも一人で暮らすこともやろうと思えばできるはずだった。
本当は、ただ心細くて、誰かに傍にいて欲しかったのだ。
ひとりになりたくなかったのだ。
そんな少女を、男は快く受け入れてくれた。
むしろ、一緒に暮らして欲しいと望んでくれた。
それが本当に嬉しかった。
時間が経つ中で、断片的に思い出したことはいくつかある。
のどかな田舎で暮らしていたこと、錬金術を学んでいたこと、母が病気で亡くなったこと、弟がいたこと。
けれどどれも断片的でぼんやりと霞みがかり、多くを思い出せないのだ。
「何か、思い出したのかい?」
男の問いに、少女はゆるく首を振る。
「思い出せないんだ……」
「無理に思い出そうとすることはない。君は君だ」
少女が不安を感じるたび、すぐに男はそれに気付いて彼女を慰めてくれる。
優しく抱きしめて、気持ちが落ち着くまで、髪や背を撫でてくれる。
けれど、聡い少女は、その手の中にあるわずかな戸惑いを敏感に感じ取っていた。
戸惑いというよりも、ただ幼子を抱きしめるのとは違いそれ以外の意図を含んで、けれどそれを抑えている男の気持ちが。
男が何を望んでいるのか、さすがに少女にも分かっていた。
一緒に暮らしているといっても、今のところ言葉どおり、ただ一緒に暮らしているだけだ。
以前恋人であったというのなら、それなりのこともしていたのだろう。
けれど、少女が記憶のない事を気遣って、自分の欲望を抑えてくれているのだろう。
(ロイ)
男と恋人であったという記憶はいまだ戻らない。これからも戻らないのかもしれない。
それでも──それでもいいと思った。
少女は男の腕の中から顔を上げ、すこし背伸びをすると、自分から男のくちびるの端に軽くくちづけた。
子供の戯れのような軽いものであったが、それだけで少女の気持ちは明確に男に伝わったのだろう。
男は抱きしめる腕の力を強くすると、そのまま少女を抱き上げて寝室へと連れて行った。
寝台の上へ横たえられ、慣れた手つきでくちづけられ、服を脱がされていく。
少女はそれをどこか不思議な気持ちで見ていた。
かつての自分も、こんなふうにされていたのだろうか。そのときどんな反応をしたのだろう。
たとえばかわいらしく媚びてみせたり、自分から積極的に男に奉仕したりしたのだろうか。
けれど、記憶のない少女にとってはこれが『はじめて』で、男のなすがままに身を任せていることしかできなかった。
その初々しい反応を楽しむかのように男は指や舌を滑らせていく。
「あっ……」
男に触れられるたびに快感が走り、声をあげてしまう。
少女の性感帯はすべて知り尽くしているとでも言いたげな動きに翻弄される。
男の動きに合わせて体が揺れる。濡れた音が響いて羞恥を煽る。
下肢ははしたなく濡れ、自分ではどうにもできない熱とうずきが募ってゆく。
「ロイ……」
腕を伸ばして、目の前の男の首にしがみついた。
この熱をどうにかしてくれるのは、この男だけだと分かっていた。
熱く硬くなった肉棒が、腿のあたりに触れる。
今の少女にとっては『はじめて』で、それを怖くも思うのに、自然と体は受け入れるように震える足を開いていた。
「大丈夫かい?」
耳元で囁かれ、ちいさくうなずく。
それを確認してから、男は肉棒を少女の性器にあてがい、ゆっくり中へと沈めてきた。
「んっ」
きっと痛いのではないのかと思っていたのに、予想を裏切って、少女体はすんなりと男の肉棒を飲み込んだ。
痛みはないが、圧迫感はある。けれどそれが嬉しかった。
自分の足りない何かを埋めてくれるような気がした。
記憶はないけれど、体が覚えているのかもしれない。
けれどもうそれ以上何も考えられなくなった。

少女は男の腕の中で、抱き合ったあとの心地よいけだるさに身を任せていた。
黒髪の男は抱き枕のごとくに体に腕を回して抱きめて、そのまま少女の髪を撫でたり額に軽いくちづけを落としてきたりする。
少し気恥ずかしい気もするが、そうされるのは嫌ではなかった。
「そういえば、もう君は、16になったんだな」
「?」
男がつぶやいた言葉に、少女は顔をあげて男を見つめた。
男の黒い瞳が、少女をまっすぐに見つめていた。
「私と結婚してくれないか?」
「ロイ?」
同じことを、前にも言われたような気がする。
いや、きっと言われていたのだろう。自分はそれを忘れてしまっているけれど。
そのときもきっと今と同じようにしあわせでしあわせで、胸がいっぱいだったのだろう。
(────……)
何かが胸をよぎった気もしたが、それがなんなのかは分からなかった。
少女は涙を浮かべた顔でうなずくと、泣き顔を見られたくて男の胸に顔をうずめた。
男は優しく抱きしめて、髪や背を撫でてくれる。
いまだ記憶は正しく戻らないけれど、それでもいいと思った。
こうして男が傍にいて、抱きしめてくれるのだから。
多分、それでいいのだ。


それから半年後、皆に祝福されながらふたりは結婚した。









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