めりくり!
>118氏
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街が茜色に染まりはじめ、最後のケーキを渡し終え、エド子はほっと溜息をついた。
だが…。
「ええッ! オレが頼んでたケーキがない!? でも、当日売りのケーキがあるって…」
「当日分は完売しました」
「そうですか。完売、おめでとうございます…って、お取り置きしてくれてたんじゃ…!?」
「ほら、エド子ちゃんが駄目にした予約のケーキのやりなおし分、職人さんがエド子ちゃん用にお取り置きしてたのを使って、やっちゃったらしいんだよ」
「なっ…」
「ごめんね、申し訳ない」
「じゃあ、店のオーブン、貸してもらえますか? 自分で作りますから!」
「うーん、でもねえ。今夜は職人さんに早じまいって言ってるし」
「お願いします! 後かたづけはちゃんとしますから!」
と、言うわけで、エド子は工房のオーブンを借りて、自分でケーキを焼くことにした。
途中までは職人たちも手伝ってくれたが、生地を型に流し込み、オーブンに入れたところで、みんな家族や恋人と約束があるからと言って帰ってしまった。
後に残されたのは、警備員がわりに宿直を頼まれたロイと、エド子だけだ。
「おまえが、あれだけドジやって解雇されなかった理由がわかったよ」
「あ?」
胡桃をつまみ食いしようとしていたロイが、手を止めた。
茶色いエプロンをつけたエド子は、生クリームを混ぜる手を止め、ずりおちてくる肩ひもを直して顔を上げる。
「店長から聞いた。おまえ、イシュヴァール帰りの元軍人なんだってな」
「…ああ」
「錬金術、使えるって言ってたよな。国家錬金術師だったのか?」
「私はドジで無能な士官で、部下や仲間を大勢死なせた。これ以上は、話したくない」
「なんで、軍人なんかになったんだよ」
「失業率が高いこの国で、最も食いっぱぐれがない職業だからさ」
「…」
「士官なら、危険な所へ行かされることもないと思ったんだが、とんだ見当違いだった。それで、次に食いっぱぐれがないのが飲食関係の仕事に…痛ッ!」
「めっ!!」
胡桃をつまんだ手を叩き落とし、エド子がロイを睨みつける。
「かまわんだろう、苺じゃないんだから」
「駄目! 摘み食いするくらいなら手伝えよ」
そう言って、椅子に腰掛け作業台に頬杖をついて、作業を見ているロイを睨みつけた。
「やだね。もう私服に着替えたし」
「暇なんだろ?」
「腕が痛い。卵もクリームも混ぜるの飽きた」
「んっとに、元軍人のわりに根性ねえな。ほんと、使えないオヤジだ」
ブツクサ言いながら、焼けたスポンジをテーブルの上に移し、パラフィン紙をかけて放置する。
「よっし、スポンジが冷めるまで休憩だな」
その間に、絶妙のタイミングで沸いた湯でコーヒーを入れて、見物していたロイにマグカップを手渡した。
「久しぶりだな、エド子のコーヒー」
「別に、淹れてやりたくて淹れたわけじゃない。セクハラ防止用だ。ほら!」
「ありがとう」
嬉しそうにマグカップを受け取るロイに、悪態をつく気も失せる。
エド子は大きすぎて邪魔なエプロンを脱ぐと、ロイの隣りに椅子を引きずって来てちょこんと座った。
大きなマグカップを包み込むエド子の手、鋼色をした武骨な機械鎧の右手が、重く鈍い光を放つ。
華奢な左手に較べて、機械鎧の右手は、あまりにも厳つい。
「エド子は、私服でもスカートをはかないんだな」
「足腰が冷えるからやなんだよ」
「だからって、黒いタートルネックのセーターに、黒い皮のパンツはどうかと思うぞ? 女の子なら、せめて赤とかピンクとか華やかな色を…」
エド子は無言で、工房の隅にかけておいたフード付きの赤いコートを指さした。
フードに白いボアがついていて、可愛いといえなくもない。
「じゃあ、皮パンツをやめて、タイツをはいて、黒皮のミニスカはどうだ。可愛いぞ」
「夏にスカート履いて歩いてたら、拉致られかけた。ぜってーやだ」
「しかしな、スカートを履くのは女性の特権なんだぞ?」
「あんな、股下がスースーする特権なんかいらん!」
にべもないエド子に、ロイはポツリと言った。
「なら、せめて口紅くらいつけろ。元はいいんだ。少しは自分を飾る事を覚えた方がいい。もったいない」
「何が哀しくて、余計なお金を払って、自分からセクハラされるような恰好しなきゃなんないんだよ」
「なら、せめて、その荒れてパリパリの唇を何とかしたらどうだ。血が出てるじゃないか。痛いだろう」
「うっさいな! 関係ないだろ!」
「唇の荒れをなんとかする位なら、金をかけなくてもできる」
「いいんだよ。こんなの舐めれば治るから!」
「なら、私が舐めてやろうか?」
「機械鎧で、グーで殴るぞ、セクハラ野郎」
「なら、こういうのはどうだ?」
ロイは立ち上がり、作業台の上の瓶を手にすると、蜂蜜を指で掬いエド子の唇にチョイチョイッと塗った。
「なんの真似だよ?」
「唇の荒れには、蜂蜜を塗るといいって知り合いがね」
「なんか、すっげ、傷に染みてヒリヒリするんだけど?」
エド子は、しかめッ面で蜂蜜を舐め取る。
「ああッ、こら!」
性懲りもなくロイが蜂蜜を塗ると、エド子が舐め取る。
ちょっと塗られては、また舐める。
塗られては舐め、舐めてはちょっと塗られを繰り返し、ブチ切れたのはエド子だった。
「だーッ! アルみたいな事、すんなぁ〜〜ッ!!」
「んっ?」
「あいつ、たまにネコ相手に、鼻先にバター塗って舐めさせて遊んでるんだよ!」
「ほう、バター猫か」
「だから、そういうやらしい言い方すんなッ!」
「バターを舐めるからバター猫だろ? 何がやらしいんだ?」
ロイに真顔で聞かれ、ハッとしたエド子は、白い頬を真っ赤に染めて口ごもる。
「ふーん」
「なんだよ!」
「意外とおませさんなんだな」
「かっ、顔、近づけるなよッ」
エド子は俯いて、ロイから視線を反らした。
「何か困ることでも?」
頬や耳に、ロイの息がかかる。
胸がドキドキする。
蜂蜜が染みて、唇が熱い。
無意識に、ベタベタする唇を舐めてしまう。
また、蜂蜜がついた指で濡れた唇をつつかれ、心臓が跳ねた。
こんな状況で唇を舐めるなんて、物欲しげに見られたかも知れない。
「あ…、あっちいけよ」
恥ずかしくて俯いていると、顎を掴まれ、無理矢理顔を顔を上げさせられた。
羞恥の染まった自分の顔がロイの瞳に映り込んでいるのを見て、慌てて身を引こうとして、引きよせられる。
「ち、違うんだ。唇が、熱くて、ひりひりするからなっ…うんっ…ん…」
蜂蜜を舐めとったロイの舌が、エド子の歯列をなぞる。
エド子の手から、マグカップが滑り落ちた。
どうしていいかわからず、エド子はロイのシャツの袖を握りしめた。
なかなか口を開かないエド子を咎めるように、ロイが下唇を噛んで催促をする。
「ふ…っ」
小さく声をあげ、エド子は生まれて初めての、他人の舌を受け入れた。
口の中いっぱいに、コーヒーと蜂蜜の味が広がる。
「ンッ」
人の舌が、こんなに熱いなんて知らなかった。
キスの仕方はよくわからなかったが、とにかく舌を動かしてみた。
ぎこちないエド子の舌を、ロイが優しくエスコートする。
舌と舌が触れ合う感覚にうっとりしていると、ロイの舌が出ていきそうになった。
慌てて追いかけ、エド子は、初めて自分の舌で他人の唇に触れた。
軽く息を吐いて、再び唇を合わせる。
ロイは戸惑うエド子を舌を吸いあげ、軽く噛み、エド子の口の中を掻き回す。
掻き回されるたび湿った音がして、混ざり合った唾液が唇の合わせ目から溢れ、顎へ伝い落ちていく。
唇が、舌が、触れ合うほど、エド子の体は熱を帯びていく。
ロイのシャツの袖を握る指がほどけ、自由になった大きな手が、セーターの上からエド子の胸を包み込む。
「ちょっ…何?!」
抗議の声は、唇で唇を塞がれた。
その間にも、ロイの指が何かを探すように彷徨う。
そして、ようやく見つけた小さな突起を嬲りはじめた。
「うっうんッ……う……」
ロイの意図に気付いたエド子は、首を振って抵抗したが遅かった。
セーターとTシャツの裾をたくし上げ、ロイの手がエド子の脇腹を撫で上げる。
「やっ、ヤダッ!!」
やっと唇を開放されて叫んでも、ロイの動きにに迷いはない。
跪き、露わになった鳩尾にキスをして、その上にある小さな膨らみを見て、ふと動きを止めた。
以前、ロイの着替えを見られた時、エド子は色気のないスポーツブラをつけていたが今日は違う。
小さな胸を包み込んでいるのは、よせてあげる効果も抜群、ベビーブルーの生地に白いレースの花を散らし、ストラップやカップの上部にフリルレースをあしらったエド子のお気に入りだ。
「これは…、なるほど、勝負下着か」
「違う!!」
「私も男だ。精一杯、君の気持ちに答えさせてもらおう」
「だから、違うんだって!」
「だが、せっかくの装いが、これではよく見えないな」
「おい、人の話を聞け!!」
「じゃあ、ちょっと脱いでみようか」
「えっ!?」
「ほら、ばんざーい!」
うっかり両手をあげてしまったエド子から、セーターとTシャツを取り去り、ロイはあるものに目をとめた。
「おっ?」
両腕を降ろそうとしたエド子の両肘を押さえて、ニヤリと笑う。
エド子はハッとして、腕を下ろそうとしたが、男の腕力にはかなわない。
「みっ、見るな!」
「ほう…」
「なっ、なんだよ!」
「腋毛を生やした女性をみるのは、何年ぶりかな」
腋毛と言っても、申し訳程度に金色の産毛が生えてる程度のものだ。
冬でノースリーブを着ないのをいい事に、放置していたのが仇となった。
「もう、いいだろ!!」
エド子はそう言って腕を下ろそうとするが、ロイは何を思ったのかエド子の脇の下に顔を埋め、舌を這わせた。
「ヒッ! や…やだっ! 何するんだよ!」
生暖かい舌に腋を這い回られて、くすぐったいような奇妙な感覚がエド子を襲う。
腋を舐め回しながら、ブラごと胸を揉みしだかれながら、エド子は何か納得がいかない気分で、羞恥に耐える。
「うーん、この匂い。この生え始めの柔らかな毛がたまらんな…」
「やめろ、ばかッ! 変態ッ!」
「この程度は誰でもやってることだ。それとも、見せてやろうか。大人の本気を」
見たこともない男の表情に、エド子は急にロイが恐くなった。
「や…やだッ! もう、やだ!!」
ロイは、逃げようとしたエド子の腕を掴み、作業台の上に俯せにねじ伏せる。
「放せよッ、この変態オヤジ!!」
足を蹴り上げるが、あっさりかわされベルトをはずされた。
「やめろ!」
皮パンツのボタンをはずされ、ジッパーが降ろされる。
「やだッ! やぁッ!」
懸命に足をばたつかせるが、尻の下までズボンを降ろされ、再びロイの手が止まった。
「く…クマ…?」
エド子の小さなお尻を包み込んでいるのは、ブラとは対照的に、子供っぽい白地にクマのバックプリントの綿のショーツだった。
「やる気があるんだかないんだか」
「はなっからやる気なんかねえよ! もういいだろ! 放せよ!」
「ブラは気合いが入っていたのに…」
「クリスマスイブにお気に入りのブラつけて、何が悪い!」
エド子に怒鳴られ、ロイはハッっとした。
「そうか! 貧乏で勝負パンツまで手が回らなかったのだな?」
「はあ?」
「だが気にすることはない。大切なのはパンツじゃない。中身だ」
「だから、そんな気なんてねえつってんだろ!!」
「その割には…」
お尻のクマから下へ、人差し指で谷間を撫で下ろす。
「あっ!!」
指になぞられ、割れ目に張り付き濡れて透けた白い生地が、エド子の花弁の輪郭を映し出す。
「ほら、こんなに濡れてるじゃないか」
最後の秘密を暴かれて、エド子は硬く目をつぶった。
恥ずかしい。
ショーツ越しに割れ目をなぞられ、エド子は唇を噛みしめた。
キスされ、腋を舐められただけでも充分恥ずかしいのに、湿気で張り付くほどショーツを濡らしてしまった自分が情けない。
濡れたという事実に、抵抗する資格を失った気がして、エド子はロイにされるがままになっていた。
靴を脱がされ、黒皮のパンツを脱がされ、ロイが息を飲む気配がした。
「この足…」
「ああ、そうだよ。左足も機械鎧なんだ」
半ばヤケクソでそう言うと、左足の機械鎧の付け根をそっと撫でられた。
「そうか、君がミニスカートを嫌がるのは、この足を、人に見せたくないからだったのか…」
違うと言いたいが、愛おしげに太腿に頬ずりするロイの髭のジョリ感に耐えるのに精一杯で反論が出来ない。
「バカッ! エロオヤジ! 犯るならさっさとしろ!」
「随分、積極的だな」
「家でアルフォンスが待ってるんだ。スポンジが冷めたら、生クリーム塗ってデコレーションしなきゃならないんだ!」
「弟といえど、こういう状況で男の名前を出されるのは不愉快だ」
「いいからさっさとしろ! 目的はオレの体なんだろ!」
「…随分ないわれようだな。私は痴漢でも強姦魔でもない」
盗人猛々しい言い種に、エド子はとうとう言い出せずにいた一言を口にした。
「でも、人殺しのテロリストじゃないか」
「えっ?」
「見たんだ。この間、あんたが怪しげなサングラスの男と、爆弾事件の話をしてたの」
「まさか…」
「この店は、広場に面していて、絶好の爆破ポジションなんだろ?」
「…」
「頼む。オレはどうなってもいい。だから、もうあんな事はやめてくれ。頼むから、自首してくれ」
エド子の決意に観念したのか、ロイは溜息をつくと不敵な笑みを浮かべた。
「殊勝な心がけだが、たかが君の体如きで自首しろとは、我々の活動も舐められたものだな」
「そんなに活動したいのなら、他人を傷つけない方法でやればいいじゃないか!」
「子供の戯言だな」
ロイは鼻で笑って、ショーツに手をかけ、ゆっくりと引き下ろす。
金色の毛に淡く縁取られた割れ目を押し広げられ、エド子は身を強ばらせた。
「なるほど。テロ中止の交換条件にするだけあって、綺麗な色をしている…」
剥き出しになったピンク色の粘膜がヒクリと動いて、滴を垂らす。
「しかし、処女にしては、ちょっと濡れすぎだな。クリトリスもこんなになって…」
肉芽をつつかれ、エド子は作業台に爪を立てる。
「ああ、でも、ちゃんと処女膜は綺麗に残っているな。濡れやすい体質なのか、それとも…」
ロイは小さな入口に指を宛い、ゆっくりと沈めていく。
「それとも、本当は私とこうなるのを期待していたのかな…」
「っちあっ…ウッ、うう…痛ッ…」
「痛い? まだ指1本だぞ?」
体の中で指が蠢く。
「う…あ…へんッ…き…気持ち悪い…ッ」
今までに感じたことのない異質な感覚に、エド子は呻いた。
「ふふ、ここにものを挿れるのは初めてのようだな」
「ふッ…くッ…や…嫌ぁッ…!」
「何、1本は嫌? しかし、もう1本増やせば、せっかくの処女膜が破れてしまうぞ?」
「えっ…ゥッ…やだッ! 指なんか入れるなぁ!」
「おやおや、君は私にここを提供して、テロをやめさせるんじゃなかったのか?」
「…ッ…このッ…!」
「そう、睨むなよ。君は我が身を投げうって、見知らぬ誰かを救うヒロインなんだろう。願わくば、私にも、その大いなる愛を恵んでほしいものだね」
「やっ…ハッ……」
ロイの指は、緩慢な動きでエド子の膣内を擦り、時折、中を探るように蠢く。
「や…やだ…お腹の中……気持ち…悪ぃッ…」
膣内を探りながら、ロイは親指の腹で、小さな肉芽を嬲りはじめた。
「あっ…あッ…はっ……そこはッ……!!」
「ここは、弄った事があるようだな」
「やッやぁんッ! やだッいやーーーッ!」
ずり上がって逃げようとするエド子から指を抜くと、ロイはエド子の花弁にキスをした。
「ヒウッ!?」
逃げようとしていたエド子の動きが止まる。
暖かい息を股間に感じ、我が身に怒っていることに気がつき、慌てて振り向いた。
「だ、駄目だ、ロイ! そこはッ…ヒャッやッ、駄目だっ…ああッ!!」
包皮ごと肉芽を吸われて、思わず声をあげる。
「やッやめてッ…やめ……やめろぉッ…!」
強烈な快感に目眩がする。
腰から突き上げてくる快感に、背中を反らせ身もだえする。
ロイの唇が離れてホッとしたのも束の間、今度は舌で舐め上げられる。
「やッやぁッ!!」
夜中、アルフォンスに隠れてトイレで、自分で弄っているのとは全く違う。
柔らかく湿ったロイの舌が往復するたび、快感で動けなくなる。
「ぁあ…う…そッ……なに…こんな……」
恥ずかしいけど、もっと舐めて欲しい。
汚い場所を舐めさせるのは申し訳ないが、誰かにしてもらうのが、こんなに気持いいとは思わなかった。
再び、指が中に入ってきたが、もう、気にならなかった。
さっきより違和感が減ったぶんだけ、股間から恥ずかしい水音がしている。
「はッぅんッ…ンンッ…!!」
「どうだ、気持いいだろう」
「…わ…わか…ぁなッ……わからな…い……」
「なら、もっと、わからなくしてあげよう」
背後で、ベルトをはずす金属音がした。
ふと、このまま、挿れられるのかなと、エド子は思った。
脳裏にロイが肩を抱いていた金髪の美女の姿が浮かんで消える。
ロイには、エド子以外に好きな人がいるのだ。
エド子だけのものには、ならない。
どんなに仲が良くても、男は女の元を去るものだ。
旅支度をして、無言で家を出ていった父親の後ろ姿を、エド子は今でも覚えている。
後に残されたのは、赤ん坊のアルを抱きしめ泣いている母親の姿だった。
その母親も病死し、その埋葬の帰り道、困惑を同情で隠した大人達の間で、小さなアルがエドの服の袖を掴んだ。
不安を噛み殺し、悲しみを乗り越える為、エドは母親の人体錬成を試みた。
アルの悲鳴と激しい錬成光の向こうに、しかし、エド子を守ってくれる筈の母親の姿はなかった。
「母さん…」
エド子が作った母親は、肉と骨で出来た化け物でしかない。
無くした左足が疼く。
父親も母親もいない。
もう、誰も守ってはくれないという現実だけが、そこにあった。
一人になるのが、恐い。
ただ、それだけの事で、エド子はアルを鎧の姿にしてしまった。
「母さん…母さ……」
一人前の女になれば、こんな気持ちにならずにすむのだろうか。
あんな風に、誰にでも、優しく微笑んでいられるだろうか。
いや、何時でも微笑んでいたわけじゃない。
父親がいなくなってからは、エド子達に隠れて、一人で泣いていた。
「…父さん」
ロイに惹かれたのは、父親に似ていたからだ。
髪の色も顔も体つきも違うのに、どこか懐かしい気がした。
顔を会わせると、いつも大きな手で頭を撫でてくれた。
だが、明日になれば、エド子の頭を撫でてくれる人はいなくなる。
「嫌いだ」
「えっ?」
「お前なんか、大っ嫌いだ! 好きな人がいるくせに、どうしてこんな事ができるんだよ!」
「…は?」
「見たんだよ! おまえが、金髪の美人と一緒にいるの!」
「随分、よく見ているんだな。君は私のストーカーか?」
「恋人なんだろ! 肩抱いてたくせに!」
「なんでこういう時に、そんな事を…」
「思い出したんだからしょうがねえだろ!」
「あれは部下だ」
「嘘つき!」
「嘘じゃない」
「じゃあ、どうしてオレの事、好きって言わないんだよ!」
「えっ?」
「嘘でも言えよ! こんな事、してる癖に!」
「いや、だって…」
「言え! お前一人だって! 好きだって! ずっとそばにいるって! どこにも行かないって! 言えよ!」
絶叫して、エド子は泣き出してしまった。
もう、ロイが何者でもかまわない。
人殺しのテロリストだろうが、元軍人のドジなケーキ屋だろうと、どうでもよかった。
ずっと、大好きな人と一緒にいたい。
ただ、それだけだ。
こんなありきたりな願いを叶える事がどれほど難しいか、エド子は身をもって知っている。
「等価…交換だ。処女膜…くれてやる。だから、オレの事、好きって、言えッ!」
声を詰まらせ叫ぶエド子に、ロイは何も答えない。
エド子が作業台に突っ伏したまま、しゃくりあげていると、大きな手がエド子の頭を撫でた。
「ばかだな」
「ばか…言うな」
「呆れてものが言えん」
「……」
「処女膜だけ貰っても意味がない。どうせなら、本体込みでお願いしたいね」
「ほんたい…?」
「そのかわり、『エド子が好き』という言葉に、私自身をつけよう。それでどうだ?」
顔を上げ、エド子はロイを見た。
頬をなで、親指でエド子の涙を拭いながらロイは微笑む。
身を起こして作業台の上に座ると、エド子は杓子上げながら、唇を尖らせて小さな声で答えた。
「…いいよ」
「ありがとう」
額にキスをされ、エド子は思いきってロイの胸に顔を埋め、しがみついてみた。
「なあ、本当にあの女の人、おまえの彼女じゃないんだよな?」
「しつこいぞ」
「ロイが好きなの、オレだけだよな?」
「ああ。だから、君と一つになりたい」
「ロイ…」
「いいね?」
「…」
エド子は無言で頷いてみせた。
ロイに抱き上げられ、更衣室のソファに降ろされた。
不安に満ちた金色の瞳に映るロイの表情は優しい。
キスをしたロイが、自分の服を脱ぎはじめた。
脱ぎ捨てたシャツの下は、エド子が思っていたより筋肉質だ。
ズボンのベルトに手をかけたのを見て、エド子はそっと俯く。
祈るように組んだ両手を口元に当てて、ロイから視線を反らし続けるエド子に、ロイが耳元で囁いた。
「恐い?」
「…ちょっと、恥ずかしいだけ」
「私も恥ずかしいよ」
「べつに、全部脱ぐことないだろ」
「おいで」
抱き寄せられ、エド子の心臓が跳ねた。
ロイの腕の中は、今まで感じた事がないくらい暖かい。
さらさらと触れ合う素肌の感触が心地よくて、何故、ロイが服を脱いだのか解った気がした。
ふいに、無理矢理、寄せてあげていた胸が自由になる。
「あ…っ」
「邪魔だろ?」
ベビーブルーのブラジャーを奪い取られ、エド子は慌てて分散しかけた胸の肉を押さえ込んだ。
「どうした?」
「あ…あの、オレ、駄目なんだ。胸、ないし、色っぽくない…」
「充分、色っぽいよ」
「でも」
「ほら…」
「わっ! わわッ!」
握った手をロイの股間に導かれ、エド子は慌てて振り払った。
「何すんだよ!」
「何をするとは心外だな」
「なんだよ、これ! 変なものさわらせんな、このセクハラ野郎!」
「変なもの? 酷いな。君のせいでこんなになってるのに」
「もういい! いいからしまえ!」
「しまってもかまわんが、君が足を開いてくれないことには、しまい込む場所がない」
「なんで、オレが足を開かにゃならんのじゃ!」
「処女を貰うというのは、そういうことだ」
単刀直入に言われて、エド子はロイから離れて膝頭を閉じる。
「嫌なら、無理強いはしない」
「嫌じゃないけど…」
「なら、こっちに来なさい」
渋々、ロイのそばにやってきて、エド子は抱き寄せられて目をつぶった。
恐い。
先刻、触ったロイのものは、とても熱くて、大きくて恐かった。
あんなものが、とても自分の中に入るとは思えない。
不安で一杯の胸を、ロイが優しく揉みしだく。
小さな胸はすっぽりと手のひらに治まって、エド子は情けなくなってしまう。
「や…胸は…」
「どうして? 清楚で可愛い胸だと思うが?」
「どうせ、ツルペタだと思ってるんだろ」
「こういう胸の女性はね…」
指先で乳首を嬲られ、震える体に電気が走った。
「ウァッ…や……やぁッ…あ…や…」
「見た目以上に、感度がいいんだ」
「な…なに…、今の…?」
「女性の胸は大きければいいというものではない。覚えておきたまえ」
未知の感覚に怯えて、両手でロイの腕を掴むと、軽く耳朶を噛まれる。
「やだぁ…」
「可愛いよ、エド子」
耳元で囁かれ、身体の力が抜けてしまう。
「だめ……だ……」
ロイの舌が首筋をなぞり降りていく。
右太腿を撫でる手がもどかしくて、エド子は軽く腰をひねった。
「エド子…」
唇を重ね、覚えたてのキスでエド子は応じる。
体中に甘いしびれが走り、エド子は恐くなってきた。
「ロイ…」
「ん?」
「恐いよ…」
自分でも信じられないほど、甘えた声にエド子は驚いた。
だが、ロイはからかう素振りも見せず、額にキスして、エド子を抱きしめる。
「私もだよ」
「…えっ?」
「セクハラのし過ぎで、君に嫌われるかも知れないと思うとね」
「……しないよ」
「えっ?」
「嫌ったり、しない…」
「ありがとう。大好きだよ、エド子」
唇を重ね、舌を絡め合いながら、エド子は不安が興奮へ変わっていくのを感じていた。
「オレも…」
「ん?」
「オレも、ロイが好き。だから…」
顔を真っ赤にしながら、エド子は、自ら手を伸ばし、ロイのものを握りしめる。
「だから、どうすればいいか、教えてくれ」
真剣な眼差しに苦笑すると、握って扱いて欲しいとロイは答えた。
「えっと…、このくらい?」
「もうちょっときつくても大丈夫だ」
「こう?」
「ああ、いいよ。上下に手を動かしてごらん」
言われるままに動かしてみる。
すると、手の中で硬さが増して、スベスベした先端から透明な滴が染み出してきた。
「何か出てきた…」
そう言いながら、指で掬ってみる。
糸を引く粘ついた体液に驚いて、慌てて亀頭になすりつけた。
「こらこら」
いけなかったのかと不安になって見つめるエド子に、ロイは「舐めて御覧」と言う。
液がついた指を舐めるのか、ロイのものを舐めるのか、どっちなのかわからず、エド子は身を屈めてロイのものを舐めてみた。
そこが排泄器官であるのはエド子も知っている。
だが、アルが隠し持っていた本には、女性がそこを舐める描写があった。
恐る恐る舌を伸ばし、先端に触れてみる。
苦いような、しょっぱいような味がした。
「亀頭全体に舌を這わせて…」
「ふぉう?」
「ああ、そうだ。今度は竿を舐めてくれ」
「竿? ああ、竿ね」
わかったふうな返事をしたものの、竿がどこなのか判らない。
とりあえず、銜えてしまえば問題ないだろうと、エド子は先端をパクッと銜えて上目遣いにロイを見あげる。
ロイは驚いた様子だったが、段々不安そうな顔になるエド子に苦笑して優しく頭を撫でてくれた。
「美味しいか?」
聞かれてもよくわからない。
困っていても仕方がないので、とりあえず、先端を銜えたまま、舌を動かしてみる。
すると、ロイが小さく呻いた。
「ふぁひ?」
「い…いや、気持ちよかったから」
「いいの? 気持ちいい?」
「ああ…」
「じゃあ、これは?」
気持いいと言われたエド子の動きが、突然、大胆になった。
両手でロイのものを支え、裏筋に舌を舐め上げはじめたのだ。
そして、教えられてもいないのに、カリのくびれに舌を這わせ、亀頭を銜えて舌を使う。
「ああ、いいよ。唾液を、塗るようにするんだ」
言われた通り、エド子は丹念に唾液をまぶしていく。
舌の動き自体は単調でぎこちないが、夢中でしゃぶりたてる姿に、ロイはとうとう我慢できなくなった。
「もういい。そのくらいで…」
「えっ?」
「気持ちよくて、口の中で出してしまいそうだったよ」
頬にご褒美のキスを貰って、自信をつけたエド子はくすぐったそうに身をすくめて笑った。
「くすぐったいよ」
「いつも思うが、ほんとうに柔らかいホッペだな」
「そうかな」
「ああ、マシュマロみたいだ」
「そうかな。自分じゃ、よくわからないけど」
両手で頬を抑えるエド子を、ロイはゆっくりとソファーに寝かせ、両足を抱え上げる。
「ロっ、ロイ?」
「何だ?」
「やだ、こんな恰好!」
エド子が股間を両手で覆う。
「そうやって、両手で隠してる姿の方が卑猥なんだが?」
「ひ、卑猥?!」
「手をどけたまえ」
「…や、やだ」
「エド子」
「こんなの、はずかしいよぉ…!!」
「そんなに可愛い声を出さないでくれ。このまま、無理矢理、君を奪いたくなる」
「奪うって…」
「痛いのは嫌だろう?」
「…わかったよ」
そろそろと手をどけ、ぎゅっと目をつぶる。
ロイの指が、割れ目を開きまさぐっているのがわかる。
指とは違う、太くて柔らかい感触に、ソレが何かは察しが付いた。
何度か先端を溝にそって擦りつけ、エド子は泣きたい気分になった。
いっそいれるなら、一気にやって欲しい。
股間から聞こえる湿った音に、思わず膝を閉じそうになる。
不意に胸に手が伸びてきた。
小さな乳首を嬲り、熱くぬめった物が胸の上を這う。
チュッと音をたてて、乳首を吸われて、エド子は眉をしかめた。
愛撫に慣れた身体なら、甘い快感に酔うところだが、慣れてないエドには痛みしか感じない。
舌で舐められても、くすぐったくてたまらない。
「やぁ、ロイ、くすぐったい! やぁだぁ! ロイッ!!」
胸を隠した左腕を甘噛みされて、エド子は笑った。
「噛むなよ」
「オッパイを舐めさせない君が悪い」
「だって、くすぐったいんだもん」
「本当に、小さいわり感度は抜群だな」
「ちっさいいうな!」
「なら、まっ平」
「喧嘩売ってるのか、こら…ッぁン?!」
「喧嘩なんて売ってない…さッ!!」
突然、股間に圧迫感と引き裂かれるような痛みを感じて、エド子は慌ててロイにしがみついた。
「イッ…痛ッギャァッ!!」
幼い花を散らされ、エド子は悲鳴を上げる。
「ほら、力をぬいて」
「な…なに! なにッ!?」
「いいから、力をぬけ!」
「い…痛い…痛いよぉ……!!」
「今、ちょうど先端まで入ったところだ。だが、このままじゃ奥まで挿らん」
奥まで何を入れるのかと、問うまでもなかった。
狭穴を奥まで目指そうと、ロイのモノが何度もエド子の肉を穿つ。
「う…うぎッ…ぃ…痛ぁッ!」
小刻みな迪送だが、生まれて初めて雄を受け入れたエド子にとっては、ただただ苦痛だった。
「う…うそつきッ…痛ッ!! や…だ…熱い……熱いよ……こんなッ……ひど…ひどいよぉ……」
確かに酷い仕打ちだ。
小柄なエド子は、当然、膣も狭い。
おまけに、自分で指を入れた事すらない未開の処女穴に、ロイの大きなものが潜り込んでいるのだ。
痛くないわけがない。
「お…お腹が…お腹が裂けるッ……あああ…ん…ヒグゥッ…アムッ…」
「痛ッ!」
背中に爪を立て、胸板に噛みつかれて、ロイは声をあげた。
「おい、エド子ッ!?」
「ヴーッ! フヴーッッ!!」
「痛たたッ! このッ!」
小さな腰をガッチリと掴んで、無理矢理、奥まで引き上げる。
「ヒギァッ!」
「よし、これで全部だ」
「ッッ…も…やぁ!! 抜いてッ抜いてよぉ!!」
「こうか?」
「ヒィ! 痛ッやだぁッ!」
「どっちなんだ」
「わ…わかんない……痛くて…きもちわるい……」
「気持ち悪い?」
「奥が…きもちわるい…」
「ここか?」
突き上げられて、エド子は悲鳴を上げた。
「や…やめてぇ…ゆるして……ごめんなさい……ごめん…なさ…ぁ…」
「エド子」
ロイはしゃくり上げるエド子を抱きしめ、キスをする。
「もうちょっとだけ、辛抱してくれ」
「ロイ…痛い…もう、やだ…」
「すまない…」
ロイの腕の中で、エド子はだんだんと痛みが和らいでいくのを感じていた。
「痛い…もうやだ……痛いよ…ロイ…」
手足をなくした時も、機械鎧をつけた時も口にしなかった弱音が溢れ出す。
「痛い…痛いよぉ……苦しい………助けてよ、ロイ!」
「大丈夫だ」
「こんなの、気持ちよくないよ。気持いいなんて、嘘だ」
「慣れれば、よくなる」
「…嘘?」
「本当だ」
「慣れるまでするの? 何回も? こんなに、痛いのに…?」
「ああ、エド子が、私を許してくれるならね」
「………」
エド子は涙に濡れた金色の瞳で、ロイを見あげ掠れた声で呟いた。
「いいよ、ロイなら…。がまんする」
「ありがとう」
ロイが抱きしめると、エド子がしがみついていくる。
「う…動いて…」
「いいのか?」
「うん…」
本当は、まだ恐い。
脈打つたびに、股間が痛む。
繋がった場所は、依然、微妙な振動で裂けてしまいそうな程だ。
とてつもない圧迫感に恐怖を感じながらも、エド子はロイのすぐに慣れるという言葉を信じる事にした。
「ッ…あ…あぎゃッ……」
内臓を引っ張られるような感覚と痛みが走る。
「ああ…? あ……?」
しばらくすると奥の圧迫感が消えて、ホッとしたのも束の間、狭い膣をこじ開けながら、また奥まで突き上げられた。
苦しい。
エド子は弱々しく首を振って痛みから逃れようと喘いだ。
本当に大人達は、こんな事が気持いいんだろうか。
首筋にかかるロイの息が熱い。
「う…ひう……う…ふっ……」
膣内で暴れ回るロイの熱さに、早く終わって欲しいと祈るエド子の肉芽をロイが摘んで弄り始めた。
「ヒッ…あぁあッ…ら…らめぇ!!」
過敏な場所を摘まれ、思わずロイを締めつけてしまう。
「いッギィッ…あ…あはぁッああ……」
声をあげるエド子を感じていると勘違いしたロイは、肉芽を弄りながら迪送をくりかえす。
「や…ぁ…や…う……して…ゆる…して……」
膣内をぐちゃぐちゃに掻き回され、それが痛みなのか快感なのかさえわからなくなってきた。
抜き差しするロイのものに、愛液に溶けた破瓜の血が絡みつく。
「…ろ……い……い…あ…ぁん……」
身体の奥で、ロイのものが一際大きく感じ、動きが止まる。
ゆっくりと消えていく圧迫感に、エド子はやっと終わったと息をついた。
事が終わり、一息ついて身を起こしたエド子はほつれた髪を整えながら、ロイを見た。
ふと目が合い、びっくりしてそっぽを向く。
「エド子」
「あ、あの、オレ、ケーキ作りの続きがあるから」
慌てて立ち上がり、傷が痛んで思わず手で押さえた。
手のひらがピンク色をした体液で濡れている。
先刻の情事を思い出したエド子はサッと頬を赤らめた。
まだ、体の中にロイが入っているような感じがする。
夢中で痛みに耐えるので精一杯だったが、達成感に似たものを感じエド子は少しだけ嬉しくなる。
そして、ふいに、エド子は先刻の行為の本来の意味に気がついた。
「なあ、ロイ」
「なんだ?」
「どうしよう。赤ちゃん、できたら…」
「そうだな、私は君そっくりの娘が欲しいな」
「そうじゃなくて、オレ、まだ、やらなきゃならないことがあるんだ。子供なんて生んでる場合じゃないんだよ」
「………」
「アルの身体を、元に戻してやらないといけない。それまでは、結婚も子供を生むのも無理なんだ」
ロイは少し考えて、エド子に生理の最終日を尋ねた。
「んなっ! なんだよ、急にそんなこと!」
「妊娠の可能性が一番高いのは、生理が終わって十日から二週間目あたりなんだ」
「そうなのか?」
「女性なら、知っていて当たり前のことだぞ」
「なんで男のあんたが知ってるんだよ」
「知っておいて損する知識などない。で、どうなんだ?」
エド子は頭の中で計算し、「大丈夫そう」と答えた。
「まあ、何かあったら連絡をよこしたまえ。結婚は無理だが、生活の援助はしよう」
「いらない! 人殺しするようなテロリストの世話になんかならない!」
ロイは何か言いたげな悲しそうな顔をして、溜息をついた。
「わかったよ。君の好きにすればいい」
「ああ、好きにするさ!」
エド子はブラジャーを拾い、落ちていたロイのジャケットに袖を通し、アカンベーをして出ていった。
「人殺し…か」
じっと手を見つめ、ロイは地獄の日々を思い出す。
焔に焼かれながら、死きれず叫ぶ人々の悲鳴、蛋白質と脂肪が焼ける独特の匂い。
あの日まで、ロイは確かにこの国の正義を信じていた。
「事実は事実だ。言い訳はしないさ」
拳を握りしめ立ち上がると、ロイは落ちていた服を拾い集め、くしゃみをした。
続く