探究浪漫
>412氏



深夜、私は居間で目覚めた。
どうにも、椅子で横倒れのまま寝入ったいたらしい。
数分後、人の気配に目が移る。足音が向こうから来ていたのだ。
歩調の整った軍靴の音、今ここで、この家に存在するその人物など彼しかいない。
「やあ、すまないね…いろいろと手間をかけさせた」
鷹の眼だ。開口一番、私は儀礼的に謝ってしまった。
向こうはじっとこちらを見ている。頷くわけでも首を横に振るわけでもない。
軍の研究に関わる重要人物として敬礼を返しただけだ。
そう、私に対して顔色ひとつ変えずに彼は佇んでいるのだ。
こちらを見落とす無機質な印象が冷たそうに飛んできた。
蔑んでいるのか、それとも私を咎めているのだろうか
ここ数日でたまっていた、私宛の郵便物を渡してきた彼は、事務的な内容を述べていた。そして、最後にこう告げた。
「行ってあげてください」
「今、行くのは…無神経すぎるよ」
私も、去り行く君もまた…
どうにも、話す内容が浮かばないので、要点だけをすかさず私は尋ねてしまった。
「何か、言ったのか?」
「ええ」
事実は事実だ。
現実に突きつけられたものを妻はどう捉えているだろうか、と私が考え込んでしまうと鷹の眼は珍しく自分から発言してきた。
親しんだ妻の名前、私の知らない妻の姿を
羨ましいよ、君のその言葉にいる彼女の記憶が
「ジャクリーンというのは、美しい名…泥沼の戦場でも慕われるほど気持ちの良い存在です。面倒見も良くて、部下達にも好かれている」
「そうか…」
「そんな駒だからこそ、共に進んできた。彼女が走れないなら私が席を埋めるだけ。
これまでだってそうだったんです。
同じ未来は望んでも、絶対に振り返ることはない。
置き去りにする情けで、手を貸すこともあるかもしれないけれど、大佐にとって本当に有用なのはジャクリーンだから…
私にできることはここまでです」
「治せばあの子はまたジャクリーンになれるかね」
「私じゃない、決めるのはあなたです。私にできないことをあなたがする…」
「あの子は君が好きなんだよ。誰よりも、君の事を思ってる。
叶わぬことだと分かってはいるが」
「―――誰にもできないことを、誰かが行う―――――」
そんなことを実現しようとしている焔の女を、支持する自分であり続けたい…
彼は続いて、こう言い足した。
マスタングを支えることができる強い自分でありたいと…――
その瞬間、私には彼の瞳が鋭くとがっていたように見えた。
時間が止まったようにそれを感じてしまったのだ。
これは凄まじい深遠さだ…妻よりも、長く暖めた焔の女と彼の信念との間にゆるぎない重みを受け取ってしまったのだから…
この国をマスタングが欲するのは、君らの決意の固さゆえなのか…
「必要とされ、呼ばれている時…その対象が存在するからこそ共にあろうとする。
…あなたもずっと、探していたのではありませんか?
私はいずれ、身を持って行う気がします」
その対象は定かではないかもしれない…自身の心に刻み付けるように彼はそう述べていた。
「失礼します。お幸せに」
気持ちのこもらない、相変わらずの言い様を残して彼は去っていった。
幾ばくかの緊張の糸がほどけた私は、カウチで深く腰掛けたまま数個の封書を眺めていた。
すると、あの焔の錬金術師からの封を最初に紐解いた。
表書きには私とハボ子宛の筆…妻にもこれを見せろということらしい。
開いてみると、手紙の中に、私はマスタングからの不器用な文面に気を取られてしまうこととなった。
適当な季節の挨拶の後に続いた核心部分…
妻と私の入籍届けは事前に自分が撤回したのでまだ提出されていない、いつでも取りにこいという彼女の一言が添えられてあったのだ。真の夫婦として成立することを望むのならばこの限りではないが、人の心は容易ではない…追伸にそう書かれてある。
「いちからやりなおせとでも?…それこそ今更だ」
暗にほのめかされたマスタングの一筆に私はなぜか安堵してしまった。
形式とはいえ、あの子を縛る鎖が、はじめからなかったことに…


数分、眼を閉じていた状態からあくびを殺しきれなくなって、寝ようと思って起き上がった。
しかし、その時同時に、二階のほうでゴトンとした濁音を遠くで聞いた気がした。
あの子は、起きているのだろうか…鷹の眼からはよく眠っていると聞いていたのだが…
寝室に行くと、私はすかさず妻に歩み寄った。
寝台の下でうずくまる彼女…とても放ってはおけなかった。
彼女の方へ、支えるように宥めるように手を添えた。
「大丈夫か?大変なら呼び鈴を鳴らせば良いものを…」
そうだ、いつも彼女は助けを請わない。
願いも心も表さない。
彼女が欲するものはただの目的、負傷した体を回復させる方法だけ…
治療への代価として、財産も何も投げ打つこともできない代わりに結婚という条件を受け入れ、私に体を預けることだけしかできないと彼女は思っているのだ。
今だって、悔しそうな顔色だ。
転がって立ち上がれないなど、健康な以前の体だったら絶対に起こりえない状態だ。
「起き上がれるか?」
「くっそぉ…」
サイドテーブルのコップを取ろうとして、バランスを崩し床に転がって、動けなくなったらしい妻…
割れた破片で少し、指を切ってしまっていたようだった。
「平気ですって…おおげざなんだよ、これくらい」
「服も着ないで、風邪をひく」
軽くついた傷を舐めとり、私は彼女をそのまま元のベッドへ戻した。
重い気で、だるそうに反応している彼女だ。
この数日、幾度も君は鷹の眼に抱かれていたのだろう。
しかし、鷹の眼はもういない。
冷たくなった君の手はさっきまで温められていただけに、置いていかれたように力を失っている。
よく見ると、ハボ子の肩はわずかに震えていた
「寒いのかい?」
私は上着を脱いでかけてやった。
だが、ハボ子はそれを必要ないと突っ返す。
布団をかぶり、彼女は裸のまま潜っていった。
しんとした室内、暖房をきかせて開ききったカーテンを閉め、私は彼女が眠れるように部屋を暖めた。
床に無造作に落ちた彼女の衣服を取り、渡してみる。
だが、指先で触れた部分からは何の音沙汰もなかった。
この子にあれは何を言った。どんなふうに伝えたのか
突き放す言葉か、あるいはマスタングの懐妊までもを伝えたのだろうか
そんなに震うほど辛かったのだろうか…
「毛布を足そうか?」
その時、肩にやった手を払われた。
「ほっといてくれ…明日するから、今日は勘弁してください」
「ハボ子…」
「出てってくれ、頼むから」
裸で起き上がって、何も隠さずに彼女は私に命じていた。
顔は俯いているが、瞼が力いっぱい閉じられている。
精一杯の拒絶の姿…私はその美しい妻の体に心が痛んだ。
しないよ、何故そんな君に手が出せる
愛撫で散らされた彼女の肌…
体に纏う服を渡す仕草ですら、君は私が抱こうとするサインと思うのか?
これまでにあった私の自業自得だ、そう取られても仕方がない
「しなくていい」
安易に私は言葉にした。
「抱かないよ、もう一切触れない。すぐに治るさ」
「……」
「治ったら、戻るといい…何をするのも君の自由だ」
未だ籍の入っていないという、先ほどの封書を私は彼女に見せた。
受け取って読んでいた彼女…そして流れる一筋の涙、それはやがて静かにハボ子の頬を覆っていった。
好きなんだね、想っているんだろう?
何よりも、どんなことよりも…愛情として表せるたったひとつの想いなんだろうに
だが、叶わなかったんだ
小さく漏れてきた嗚咽に満ちた体を、私は毛布でくるんで抱きしめた。
強引だと思ったが、大泣きする前に少しでもそれを防いでやりたくなったのだ。
彼女の喉が鳴って、熱がびくびくと私の寄り添いに伝わってくる。
「……た、い」
「ああ」
「追いかけたいんだ」
「わかってる」
「だけど、来るなって…っ―――」
「…――」
「こんな体じゃ何もできない、役に立たない」
「ハボ子…」
「欲しいんだ。中尉がいて、大佐がいて…ずっと傍でいられるための強い力が!」
苦しそうなこの子の声に、私は目を閉じて聞き入った。
同時に脳裏に浮かんでくる、鷹の目のさっきの言葉…
強い自分でありたいと…――
彼と君はどこか似ているよ
ひとつのものを二人で支えていくことに、君ら二人はこれまで背を共有していたのだ。
男女の隔てを感じさせぬほどにその均衡は厚く、二人の手綱は等しかったのだ。
君が退場することで、鷹の眼は今までの君の部分をこれから埋めていくのだろうな
「ひとりじゃどうにもならなくて…教えてくれよ、足が動かないのをあきらめるのは強いのか?」
「――……」
「あきらめて、見切りをつけて…それでも望む俺は愚かしいのか?」
そうだ…
今になって気づいた。こんな簡単なことにどうしてこれまで辿りつけなかったんだ。
「悔しい思いをさせて悪かった…」
私は愚かだ。
何を今になってこんな気持ちに直面する。
私は今まで何を見ていた。この子の気持ちを真に考えたことなどあったか?
私に抱かれて可哀相で、一時でも相愛に愛し合えた関係であろう鷹の眼を
贈ってやるだと?
マスタングと鷹の眼が子まで成しているのも知らずに、彼らに哀れまれて慰められるハボ子が気の毒だと?
鷹の眼からひきはがしてこの家で過ごさせても、私とハボ子は心が通うことなどなかったではないか
治すことに戸惑った程度の私の虚しさや気まぐれで、鷹の眼を招き、ハボ子を体だけでも満たしてやるだなどと…傲慢もいいところだ。
それで本当にこの子が喜んでくれるとでも思ったか?
この子の欲しい相手が来れば、一時でも彼への恋慕は蘇り溺れるだろう。
だが、そこで深みにはまらせることに対して、
どこまでも冷静な鷹の眼がいつか何を言うかも想像がついただろうに
あきらめさせる言葉を受け入れるのがどれほど重いことなのか
「すまない」
単に私の節穴だらけの目がハボ子を傷つけていただけではないか
自分が酷く情けなくなった。
足くらい何だってやりたい。
この老いた体でよければ交代してやりたいくらいだ。
万能の方法や魔法があるなら、私は君にできる全てを捧げるよ。
面と向かって相手に手放されることがどれほど辛いか、もっと考えてやれば良かった
トリシャに置いていかれた時から、私は何も成長していない。
寂しがって、虚しく浮いてしまった気分に満ちただけの抜け殻だ。
人一倍生きているくせに、人のことをさほどわかってもいない。
分かろうともしなかった。
この子に対して、私ができることは…――――
来るなと面と言いたくなくて、鷹の眼は私を使ってハボ子を遠ざけることに内心了解していたのだろう。
加えて、マスタングは治してくれと泣いてきた。
今になって合点がいく。
あの二人、この子を傷つけようとは微塵もしていないではないか
鷹の眼をこの数日拝借したいという私の勝手な振る舞いでさえ、あの二人は肩をすくめて了承したに違いない。
ハボ子を治せる唯一の手段と可能性を秘めた相手の要望なら、聞き入れぬわけもいかなかったのだろう。
悔しくてたまらなかったハボ子を、私は抱いて…もっと苦しくさせていたのは結果として私のみで…
これまで見せることなどなかった彼女の、大粒の涙が私のシャツに染みている。
詫びる気持ちでいっぱいになった私は、諌めるように彼女を抱きしめた。
嫌な相手である私の腕の中など忘れたくらい、ハボ子は声を揺らして涙しているのだ。
「知ってたさ、俺が役に立たなくなったから中尉が俺に気を回してたのも、大佐がそれを分かって慰めさせてたのも」
いいや、買ったのは私だ…治すためと自分をごまかして、君の中に入り込んだ。
自分自身が寂しいから、君を愛していながらも、虚しい気分に酔いしれて…
「大佐が、あんたのとこに行ったら治るんじゃないかって中尉と話してた。
それを、こっそり聞いて、俺は自分からその話に乗ったんだよ」
「ハボ子…」
「だけど、こんなかけひきこなせるほど、俺は器用になれなかった。
あんたに抱かれたら、俺は中尉ばっかり思いだして…忘れないといけないのに…っ…―――」
「言うな…もう何もしないから」
「結婚するならあんたは治してやると、最初はからかい半分で言ってたけど、俺はそれでもかまわなかった。誰にも説得なんかされてない。
自分で決めて、ここに来たんだ」
「…すまない」
「あんたを利用すれば、なんとかなるんじゃないかって思ったんだ…
大佐はダメだと最後まで止めてたけど」
ああ、それであんなに苦しそうな顔で彼女は私に買えと泣いてたわけか。
私の素行の悪さをマスタングは知っていたのだろう。
現に私には幾人もの愛人がいるし、ひとつの女と続かない破綻した男だというのは周知の事実…訂正する余地もない。
きっと、マスタングは私に買えと提示しながら、その逆で…
上官として愚考を見過ごす自身の気持ちを買えと思っていたに違いない。
それを承知でハボ子をごり押すかのように私にあてがって来た彼女…
幸せにと冷たく言い放って無関心なふりをして去ったさっきの鷹の眼…
子までなして命を繋ぐマスタングは不器用で、鷹の目もどこか欠陥だらけだ。
そして私が愚かしくて最も、渇えてる。
だけど私達は、3人でたったひとつのもののために、それぞれの一部で補い合うように願いを持っている。
君を守りたい
だが、ただそれだけを、くるおしいほど願っている。
見方も立場も皆ばらばらだ。
協調性も道徳観もずれ込んでいるし、いい大人達がわがまますぎる。
我々は、3つの願いでようやくひとつの答えをだしてるようなもんだよ
ハボ子の頬を私はぬぐって、彼女を見つめた。
しゃっくりをあげて泣きはらしている彼女の姿を私はずっと魅入ってしまった。
やがて、私の手のひらに重なる小さな手が弱々しく重ねられた。
「利用しようとした俺を見るあんたはいつも虚しそうで、つまらなさそうで…
もう治す価値もないんだと思ったら、もっと素直で普通の女を演じたら良かったって悔しくて…中尉が来てからは、絶望してた…」
「そんなことはないんだよ…誤解させて悪かった」
「自分から飛び込んだのに、あんたとの賭けの材料にもなれない駒なんだって思って…もう何にも必要とされていないらしいって」
「違うんだ、すまない」
だが、今はそれを幸運に感じるよ。私を君に巻き込ませたあの瞬間にこんな男に縋ってきた君に…私は答えなければ―――
「俺は中尉といたかった。大佐がいて、嬉しそうな顔してる中尉といたいから
せめて、軍部に戻りたい…あの人達の近くだったらどこでもいい、もっと働きたい…やっぱり俺はわがままだ…」
わかった。十分にわかったから、もう泣くな。私は彼女を強く抱擁した。
「かなえてやる、必ずだ」
「嘘だ…かなわない」
「みくびるな、私を誰だと思ってる」
「エロ親父だろ」
「そう、君に心酔したファンだよ」
「言ってろ、クソ男」



あれから、7ヶ月ほど…彼女はどうにか歩き出せる程度には回復した。
以前のように、前線で活躍できるほど完全に直りきってはいない。
残念ながら、後遺症を完全に絶てるほど全てを取り戻せなかった。
しかし、軍部でも比較的肉体労働の極小で事務職の多い勤務につくという条件で、彼女は復帰の機会を手に入れることができた。
鷹の眼や同僚らの近くで体ごと活躍できないことを残念がってはいたが、軍部に戻ることができるだけでも本当に有難いとハボ子は割り切りをつけていた。
それに、母となったマスタングの知らせを聞いて、
―――――無論、別れを告げたあれ以来、音信不通だった鷹の眼が、それをマスタングの出産ぎりぎりまでハボ子に伝えないでいたのは、
リハビリに集中させるための、せめてもの良心かと思ってはいたが――――――
ハボ子は、はじめは驚いたようにうろたえていたが、退院から直通で子を抱えて訪問したマスタングと鷹の眼の姿を見て、心から歓迎していた。
いの一番に駆けつけてくれたことに対して、嬉しさのあまり、彼女は涙で喜んで泣いていたのだ。
美しい一児の母の姿となったマスタングが肩を交えて、乳児と共にハボ子を抱擁していたので、ハボ子はそこでこう告げていた。
「大佐にはほんとかなわないや」
「少尉、黙っててすまない」
「だから、謝んないでくださいって…おめでとう、お幸せに」
心から…そう思っているとハボ子は、同じように
目を涙でためているマスタングと抱擁しあった。
私は、ここに到着してからようやく柔らかい表情になっていた鷹の眼を見やって、同じように口元を緩めてしまった。

それから、私と専属の療法士の指導のもと、リハビリに励みながらハボ子は懸命に、より立ち上がろうと日々を過ごした。
やがて、マスタングの管轄下で情報通信の事務職につかせるという正式な辞令が来た文書を私が手渡すと、ハボ子は感極まって笑び、飛び上がれるほどになっていた。
その場で手を引かれて踊りに付き合わされた私は困惑したほどだ。
これが若い女性の、本来の歓び様なのかと、ハウスキーパーや庭師の失笑を買いながら渋々ダンスを踊ったが…
一方、復職の日まであと1ヶ月という頃、私はある疑問を抱いていた。
彼女はあのままこの家からでていこうとはしていないのだ。
いつ出て行くのだろう。
そう考えていた頃のある夕方、夢中になって本を読んでいた私を覗き込んだハボ子が意外なことを行ってくる。
「お…?」
「変に勘ぐらないでくださいよ…飯の時間なのに降りてこないあんたがいけないんだ」
びっくりしたな。キスをこの子からもらえるなんて初めてだぞ。
なぜなら、私はあれ以来…君が鷹の眼と交わった日より、君と色めいたことなどしていないのだから。
そろそろ離婚話をもちかけられると覚悟してはいたものの…
いや、もともと入籍もなにもなかったのだし、夫婦でもなんでもない関係なのだからこれもおかしな覚悟ではあるな…しかし、君はどうしたいんだろう
鷹の眼への女としての想いは、つい先日の出産の知らせと、彼らの来訪から変わっていったと食事の席では零していたこともあったが…
新しく若い男と遊びにいきたい年頃でもあるだろうに、こんな老いぼれの家でいつまで暮らしているつもりなのか。
「いいよな、こんな暮らしで好きな本や研究だけで生きていけるんですからねえ」
「道を探す、といった感じだよ」
「探したいものは、見つかってるんスか?」
答えなかった。答えられなかった。
見つかったが、探していいものだったのかと悩んでいるからだ
「しがない浪漫を求める者に、本当のものは手に入らないことが多くてね」
それくらいしか答えられない自分がいやだと思う。もうすぐ、君は舞い戻るのだろうから。
だが、私は望みたい…
こびりついた執拗な気持ちを未だ振りはらえないでいるのは女々しいだろうか
「ここを離れないのかい?」
おぼろげに、彼女の今後のことを探ってみた。
「治ればここにいなくともいいのだよ。病院の定期検査に行けば後は事足りうる」
「うーん、そうだなあ」
「物件探しなら手伝う。引越しの段取りもあるだろうし、
希望の場所とおおまかな日程を決めてくれたまえ。そうすればもう自由の身だ」
おもむろに、彼女は取り上げた本をぱらぱらとめくりながら私の言葉に答えていった。
難しくて読めない本だと愚痴を重ねながら、しばし何も見ずに考え込むようにしていた彼女…
やがて、心に決めたかのような台詞をあっけなくハボ子は零す。
「それがですねえ。…ここから軍部に通ってもいいかな…なんて思ってるんスよね」
「……」
「―――そういうのって駄目ですか?」
私は、眼鏡に霞がかかったのをそこで覚えた。
弱った。望みがかないそうで嬉しくなる。
「あ、ちょっと…何、泣いてんです」
「膝、貸してくれ」
おろおろとした妻を机に座らせて私は彼女の腰にむかって顔を預けた。
こんなに生きている私に探したものが定まった。
浪漫なんて形のない、憧れだけのものだと思ってたんだ。
なのに、涙腺がゆるんできた。
「なんだよ、ガキみたいに…いい年してみっともねえ」
そんな言葉に私は囲まれた。とても嬉しかったのだから

一枚一枚、私が彼女の布を外していく。
呼応するように彼女も私を上手に脱がせる仕草を返す。
懐かしい行為なのに、素晴らしく新鮮だ。
抱いていいのかと問うと、すぐに彼女は頷いてくれる。
「好きだよ」
おお、可愛いな…顔を赤らめ返す君は初めてみるよ。
ついつい私は、彼女の顔と綺麗な裸体をまじまじと見ながら、愛撫に熱がはいった。
「ちょっ…あ、そんな…」
胸の飾りをいじると、感じる妻は喘ぎを漏らしている。本当に愛らしい。
「綺麗だ。花のように美しい…そして、君は本当に可愛いね」
「あっ…ちょ…っ…そんなくっさい台詞で舐めるな。天然すぎてアンタやりにくいって…っ…自覚あんのかよ?」
「何のことだい?…ここは、感じないのかな…」
「や、あん…っひあ…っ!」
すごいな、もうこんなに濡れてる。
揉んでいた胸から手を滑らせると、彼女の入り口に指がひとつ、ずるりと納まった。
すこしきついが、中が潤ってきている。
「い、やん…あぅ…まだ、駄目だって」
「…生物は神秘の宝庫だ」
「変な言い方やめろって…指、いきなり動かすなって…っ」
欲情してるよ、激しい行為を求めて私は…
「ンア、アッ…」
乳房を甘く吸いながら、蜜で緩まった隔たりに私は幾度か指をしならせた。
「あぅ、…っ!」
中で溶けた部分が、彼女を弓なりに反らせるほど感じさせていった。
すらりとのびたカモシカのように美しい肢体、柔らかで若く豊潤な肌ざわり…
私の所存を感じて声を零す姿に煽られ、幾度も指で蕾を開かせた。
濃厚な慰撫を、時間をかけて存分に重ねていった。
「愛している」
もう一度、愛しい人と時間を重ねるために生きていこう。
君のためにどこまでも寄り添いたい。
君は浪漫の全てなのだ。
与えてくれ、愛してくれと願う私といてくれることに、本当に感謝してるよ
「あ、は…ァッ……」
「痛いかね…?すまない」
ゆっくりと自身で浸入したら、少し呻いた妻だった。
十分に解して感度もあげさせた…濡れて飲み込むのを、
指を吸い込んだ奥で欲して腰をしならせていた彼女とはいえ、久々の性行為なのだ。
少々、受け入れるのに身震いしているようだ。
だが、更に中に進むと彼女の奥までなじむように私は収まった。
「あぁっ…う、わ…意外…」
「何がだい?」
「やっぱ違うや…」
「ハボ子?」
「前みたいに…遠くない」
以前の私の憮然とした接し方が、あまりに高圧的でここでの彼女の気をそいでいたらしいことがわかった。
乗りかかる雄を受け入れること自体が屈辱で、負荷を伴った自分にはそれしかできなかったと彼女は考えていたのだ。
だが、今は違うとハボ子は微笑んでくれた。
折り重なる私の胸を器用に指でなぞり、ハボ子は頬を蒸気させながら訊ねてきた。
「本気で欲しいんスか?」
「あ?何がだ…も、動くぞ」
「…ガキだよ、姉弟とか言ってたし…ちゃっかり名前まで口ずさんでたよな」
「覚えてたのか…ただの夢だよ」
「勘弁してくれよ…復職していきなりそれはないだろ」
「―――――――……」
ちょっと待て、今の何だ
妙な間だ。頭が浮ついてきた。
「で、できたのか?ハボ子」
思い切り良く、両手で私は叩かれた。
顔が痛い、女性とはいえさすが軍人だ…ビンタの質も強さもそこらの女と違う。
「ふざけんな、この10ヶ月、リハビリだけで俺は誰ともやってねえだろ」
「ああ、そうだったな…今があれから最初のセックスだ」
「身に覚えがあるほど、よその女と遊んでんのかよ。蹴り飛ばして、突っ込んでるもの引き抜くぞっ」
「まさか、もう彼女らとは手を切ったよ」
不意に、逃げられてはたまらないと思った私が、彼女の腰を掴んで奥深くに弾くように進んでしまった。
揺れた彼女の内襞に沿って、私は彼女を更に貫く。
「あっ…ン」
「妬いてくれてるのか、可愛いな…そんな所も私は好きだ」
「あっ、ァ…動かすな…あんた、アホだ」
軽口を叩いてこの話題をもちかけてきたハボ子に、私はすっかり口元を緩ませて返してしまった。
キスを落としてから、荒い息遣いに彼女を誘った。
交じり合う私達…重ねあった下半身で、流れる情欲がとろけあう。
ベッドが揺れて、淫らな水音が擦れて響く。
久しい行為で、私はハボ子のペースを気遣いながら優しくしていった。
「いい、から…もっと抱けよ…」
「ああ…」
「んっ…ぅ、はぁぁっ」
動くと彼女はしがみついてきた。
ほんとうに凄い…こんなふうに抱けるなんて初めてだ。
犯しているとか、背徳や荒廃、不毛なんかのイメージがまったく感じられない。
熱い彼女の中で動くと、妻が悩ましい声であえいでくれる。
生命のエネルギーを強く感じてしまう。
これがあの、官能に酔いしれ、情欲にひたらせてくれるという一番の瞬間なのか
「あっ…あァ…ひゃぁんっ!」
浪漫だ…君は最高の官能美を秘めてるよ。
いとおしいよ、美しい。
「ひィっ…もっと、ゆっくりしてくれってっ!」
「いいよ、子供なんか…君が嫌なら」
「あっ…だ、から…ハァ」
何を彼女が言わんとしているのか、私はきちんと避妊して臨んでいる。
不安にさせたくないし、彼女以上のものを望むなど今の私には贅沢すぎるのだ。
「アァッ!」
「愛している、ハボ子…」
「ン、アァ…――――ッ!」
高みに追いやった彼女と共に私は恍惚の域を感じた。
中から出て、私は甘い彼女の肌に再び重なった。
口付けを零して、彼女のあがった息が戻るのを感じながら…何度もキスで暖めた。
額を寄せ合い、眼を開けるとハボ子が私の頬を包んでくれた。
「ハボ子…」
「いつか、だ…」
「ん…?」
「そのうち…だ」
「何のことだい」
熱に包まれた体と、息切れで彼女の呟きは途切れ途切れだ。
それでもなんとか、くぐもった声を繋ごうとしている彼女の可愛らしい仕草に、はにかみながら私は愛しているよと何度も囁いた。
告げても、到達したばかりの私の気配が再び蘇りそうな勢いであるのを、密着した部分から確認したハボ子が、顔を真っ赤にしながら私にキスで応じてくれる。
「ん…うっ」
「愛してる、好きだよ…ハボ子」
「ああ、そのうちな」
「何が?」
「今度は俺がかなえてやるよ、あんたの夢を―――」
「――……」
家族を…私と望んでくれると――
幸せな、夢を作っていけるのだと――――
もう私は、そこで涙腺がおもいきりよく壊れた。
自分の目から、ハボ子の頬に流れるものを押しとどめることができないほどに、体中の気が熱くなった。
「なんだよ、なっさけねェの…ここで泣くか?」
「年寄りなもんで…年季がはいっているのでね」
「嘘はつかねえよ、好きでなきゃこんなこと言うわけないだろ」
「ハボ子…」
「気づいたんだ、あんただけだって…―――愛してるって」
真剣な眼差しで言い放った彼女の言葉、姿、そしていとおしい魂…
それら全てに、私は更に視界が霞んできたのを覚えた。
ようやく届いた。やっと手に入れた。
たどり着くことができたのだ、想い人の所へ…
浪漫だけでなく、最高の夢までもを獲得できる愛しい相手…
頬に添えられたその手を取って、濡れた喉で息をしながら口付けを刻むように私は返していった。
「ありがとう」
かすれた声で、私はもう一度、彼女と熱いキスを交わした。
この温もりに、私は全てを捧げよう
失くさぬように、大切に…私の愛するたったひとつの女神に捧ぐ
いつまでも、君を想う
浪漫ただよう至福の夢の君の中で







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