闇に降る雨
>885氏
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【注意】イシュヴァール絡み、輪姦、スカトロ
【エリシ雄×ロイ子前提】
雨が降っている。
久しぶりの休日、私はあの日の事を思い出す。
あの日、イーストシティへ移動になり、いよいよセントラルと別れを告げる事になった前の夜。
バーボンが入ったグラスを手に、見るともなく窓の外を眺めていた。
低く垂れ込めた雲、冷たく降りしきる雨は、私の門出には丁度いい。
ハクロを誘ったのは、成り行きだった。
相手など誰でもよかった。
高官なら口が硬いかと思ったが、読みが外れた。
こうもあっさり、女房に私との事を気付かれるとは…。
ハクロの細君は元大将の娘だ。
亭主の地位はそのまま、咎められる私だけ。栄転という名の口止め料付きで、イーストシティに左遷というわけだ。
ばかばかしくて涙も出ない。
私の手の中で、氷が溶け、グラスが微かな音をたてた。
イシュヴァール戦から、一年。
多くの国家錬金術師が資格を返上し、軍を去った。
そのかわり、軍に残った者は『イシュヴァールの英雄』と呼ばれ、賞賛と勲章と法外な報奨金が送られた。
命令違反を犯したアームストロング少佐すら、『イシュヴァールの英雄』として祭り上げる勢いだ。
受勲式に引っ張り出された少佐の苦々しい顔は今でも忘れられない。
彼は命すら投げ出す覚悟で命令違反を犯し、あの地獄を去ったと言うのに。
いい加減にも程がある。
何もかもが腹立たしい。
グラスを机の上に叩きつけ、私は出かける支度を始めた。
今夜は定例の乱交パーティーがある。
もう行くつもりはなかったが、私は出かける事にした。
男に抱かれていれば、余計な事を考えずに済む。
バスローブを脱ぎ捨て、素肌の上にブラウスを羽織り、下着もつけずにタイトスカートに尻を押し込む。
どうせ脱ぐのだから、身につけるものは少ない方がいい。
ガータベルトにストッキングをとめ、濃いめの化粧を施せば、淫乱女の一丁あがりだ。
ハイヒールに足を突っ込んで、アパートのドアを開けると一番会いたくない男が立っていた。
「ヒューズ…」
「こんな遅くに、何処へ行くつもりだ」
「どこだっていいだろう。どけ」
「おまえに話がある」
「こんな夜中に、身重の奥さんをほったらかしてか?」
「そうだ」
睨みつけても、ヒューズは動こうとしなかった。
言いたいことはわかっている。
聞くまでもないんだが…。
「わかった。中に入れ」
ヒューズは何も言わず、私に誘われるまま部屋に入ってきた。
私はあまり他人を部屋に入れない。
錬金術の研究資料を人に見られたくないというのもあったが、この部屋は、唯一、私が安らげるテリトリーだからだ。
女の部屋とは思えない本の山と散らかりように、半ば呆れながらも、ヒューズは椅子を発掘して腰を下ろした。
「以前、来た時より凄まじい事になってるな」
「少し本が増えただけだ。で、用件は?」
「東方司令部に移動になったって聞いたが、ここはこのままなのか?」
「これだけの量の本を移動させる根性はないよ。ここは書庫代わりに置いておくつもりだ」
「…そっか」
「どうした」
「いや」
「言いたいことがあるなら言え」
「おまえ、こんな夜中に、何処へ行くつもりだったんだ?」
「セントラル、最後の夜を楽しもうと思ってね」
「乱交パーティーにでも行くつもりだったんだろう」
「何の話だ?」
「俺の情報網を舐めるな。最近、西地区の倉庫街で行われてる乱交パーティーに通ってるそうだな」
「…」
黙っていると、写真を渡された。
そこには、男と腕を組んで歩いている私の姿が映されていた。
「どういうつもりだ?」
「どうとは?」
「ハクロとの不倫といい、パーティーといい、おまえ、一体、どうしちまったんだ!?」
「どうもしない。元々、私はそういう人間だったというだけの話だ」
「俺か? 俺のせいなのか?」
「は?」
「イシュヴァール戦の前に、おまえを抱いておきながら、グレイシアと結婚した…俺のせいなんだろ?」
「なんで、そういう事になるんだ?」
「あんなに酷い目にあったおまえを、俺は見捨てた」
思った通りだ。
本当に、おまえは人がいいよ、ヒューズ。
イシュヴァール戦の前に、おまえを誘ったのは、たまたまだ。
そして、私がおまえの忠告を無視して部下を助けに行って、敵の罠にはまったのもたまたまだ。
私が国家錬金術師部隊の小隊長だという事がばれ、拷問にかけられたのも、偶然なんだよ。
大したことじゃない。
生きて戻れただけで、充分だ。
「頼む、ロイ子。もっと、自分を大事にしろ。もう、自分を傷つけるような真似はよせ!」
「言っている意味がわからないんだが?」
「グレイシアとは、別れる」
「はぁ?」
「おまえが苦しんでるのに、俺一人、のうのうと幸せになんてなれん…」
「ちょっと待て、ヒューズ。私は別に苦しんでなんかいない。パーティーに行くのも、ハクロをたぶらかしたのも、好きでやってることなんだが?」
「本当に、そうなのか?」
「ああ」
ヒューズはじっと私の目を見つめた。
そんな事をしても無駄だ。
私が何年、おまえを騙してきたと思ってるんだ。
望まなければ、失うものなど何もなかった。
あれは、一瞬でも不相応なものを望んでしまった私の失敗だ。
罪悪感などもたなくていい。
ヒューズ、おまえは何の罪もない。
「わかったよ。白状するよ」
「ロイ子」
「私は、今、男を銜え込みたくてウズウズしてる。だが、妻子持ちには懲りてる。おまえも奥さんが妊娠中で溜まってるのはわかるが、他を当たってくれ」
「ロイ子!」
「なんだ?」
「だから、そういう言い方はやめろ!」
「わかったよ」
私はスカートを捲り上げて見せた。
「これなら、いいだろ? ほら、わかるだろう? こんなに濡れてる…」
机の上に腰掛けて足を開いて見せる。
視線を反らしたヒューズにもわかるように、指を入れて音をたててみせた。
「どうした、ハクロが突っ込んだ穴なんて見たくないか? なら、仕方がないな」
私は机から降りると、奴の足元に跪いた。
ヒューズの股間に手を伸ばすと、叩き落とされた。
顔を上げると、怒りと悲しみに歪んだ奴の顔があった。
あの日と、同じ顔だ。
医務班のテントの中で、グランと話す私のそばで、こいつは今と同じ顔をしてた。
体の傷は、ドクター・マルコーの錬金術で回復していた。
私は捉えられていた時、彼らから聞いた情報をグランに伝え、大掃討戦に志願した時と同じ顔。
やさしいな、ヒューズ。
でも、おまえの優しさは、私にとって重荷でしかないんだよ。
私は奴らに掴まった事を感謝しているんだ。
苦痛に耐える方法を教えて貰った。
体と心が、こんなに簡単に切り離せるものだとは知らなかったよ。
ずっと、苦しかった。
おまえが他の女の事をのろけるたびに、私は何度、彼女達を焼き殺したいと思ったか、おまえは知らないだろう?
自分で女として見るなと言った以上、それを貫くのが筋だ。
なのに、たった一度だけ、私はおまえの前で女らしい自分を見せようとした事があった。
冗談まじりの一言で、なけなしの勇気を粉砕された時、私がどれほど辛かったか、おまえにはわからないだろう。
でも、もう、そんな思いはしなくてもいいんだ。
体と心がバラバラなら、心は傷つかずに済む。
体は、快楽だけを追うことができる。
私は、満たされたい。
この空っぽの体を何かで満たしたくてたまらない。
だから、男が欲しい。
この穴を埋めてくれるものなら、なんだっていい。
頼むから、私から、その肉の棒を取り上げないでくれ。
私は、その肉の棒で体を満たしたくてたまらない。
ヒューズの股間に顔を押しつけ、ズボンの生地ごしに愛しい肉棒に頬ずりをした。
これが貰えるなら、私はなんでもする。
あの時だって、普通の女ならやらないような事を、大勢の男の前でして見せる事ができた。
私は、そういう女なんだ。
「なんでもするから…、何でもするから、おちんちんを挿れて下さい…」
甘い声で強請りながら、自分で自分の胸を揉んで見せる。
「私の穴という穴使って、気持ちよくなって…」
「やめろ!」
「この肉便器に精液でもおしっこでも注ぎ込んでください…お願いします」
「いい加減にしろ! そんな事ができるか!」
「イシュヴァール人のおちんちんを銜えたおまんこだから?」
ヒューズの顔色が変わった。
私は出来るかぎり甘えた声で、知能のカケラもない台詞を羅列した。
「凄かったよ…、壊れるかと思った。もの凄くたくさんのおちんちんが、穴という穴に押し込まれて、精液いっぱい流し込まれて…凄く、気持ちよかった…」
「…おまえ」
「どうして、そんな顔するの? 私は幸せだったんだよ。大好きなおちんちん、みんなに入れて貰えて、嬉しかった…ロイ子の腐れおまんこに、いっぱい、精液出してもらえて…嬉しかった」
「ロイ子…」
顔をあげると、私の胸に、冷たいものが落ちてきた。
今日は雨だ。
雨漏りなんて、安普請にも程がある。
「…すまん…ロイ子!!」
ヒューズが私を抱きしめた。
ブラウスの肩に水滴が染みこんで気持ちが悪い。
謝るくらいなら、別の体液で汚して欲しかった。
「そばにいる。一生、おまえのそばにいるから…だから、もう、忘れろ…! 忘れてくれ!」
「…なら、忘れさせてくれよ」
「…えっ?」
「それとも、非処女の肉便器は用済みか?」
そんな顔をしないでくれ。
本当のことなんだから。
「わかった…」
「奥さんにはばらすなよ。左遷は、もうこりごりだ」
「わかった。だから、おまえも男をとっかえひっかえするのはやめろ」
「それは、どうかな」
「ロイ子!」
「おまえが私を満足させる事ができたら、考えてもいい」
「わかった。満足させればいいんだな」
おまえは、本当に人がいいよ、ヒューズ。
そのうち、私みたいなろくでもない女にひっかかって、いつか、命を落とすぞ。
今、私には手駒がない。上に昇る為の手駒がな。
軍を裏切る事になっても私に絶対の忠誠を誓い、死ぬ事さえいとわない、優秀な手駒だ。
ハクロに手をつけたのは、奴を私の手駒にしたかったから。
なのにあのお間抜け野郎は、自分の弱味をあっさり女房に看破された。
もっと可愛らしく、男心をくすぐるような仕草を研究しなくては…な。
おまえじゃ、格は下がるが、ちょうどいい。
その罪悪感を利用させて貰うとするよ。
ブラウスとスカートを脱ぎ捨て、私はヒューズの膝の上に座った。
奴の眼鏡を外し、机の上に置いて、濃厚なキス。
舌を絡めあいながら、シャツのボタンを外していく。
奴の腕が、私の腰を抱いた。
少しだけ、心臓が跳ねた。
シャツ越しに感じる男の肌の温もり。
冷え切った私の肌には心地いい。
初めて男を知った夜、男の体は熱いくらいだったのに…。
初めて好きになった男の子は、人なつっこい笑顔で私に声をかけてきた。
あの頃の私は、背伸びするのに精一杯で、周囲の事など何一つ見えていなかった。
自分以外の人間が、傷つくことすら知らないほどの世間知らずに、彼は色んな事を教えてくれた。
私は、いつしか彼のそばにいたいと思うようになっていた。
それが、恋とは知らぬまま、幸福な時間だけが過ぎていった。
そう、時間は過ぎていく。
私の思いだけを置き去りに、周囲の景色は変わっていった。
彼は、もうすぐ一児の父親になる。
そして私は、その子から父親を奪う悪い女だ。
それは、私がどうしようもない淫乱で、男がいなければ生きていけない淫乱な売女だから。
「あッ……」
ヒューズの手は、私の胸に触れた。
恥ずかしくて気が狂いそうだ。
胸を触られるのは、今でも好きじゃない。
胸だけじゃない。
男が好きそうな場所は全部嫌い。私は、私の体の全てが大嫌いだ。
私の体は乳首を弄られ、声をあげる。
おまえはそうやって、何人の男に媚びてきた?
甘い声をあげれば、大抵の男は感じていると思い込む。
そしてヒューズ、おまえも奴らと同じだ。
生きる為、私は敵である男達に媚びた。
殺されたくないが為に、自分から足を開いて誘いもした。
奴らは私を蔑み嬲りながら、勃起していたよ。
そして、女房や子供の敵だといって、私の中に突っ込んできた。
セックスは、愛しているもの同士でする事だろう?
だとしたら、あれは、何だったんだ?
そうだ、拷問だ。
男は愛情などなくても女を抱ける。
奴らは、ただ相手をねじ伏せ屈服させる為に、勃起するんだ。
泌尿器や性器に加えられる暴力は、相手の自尊心やアイデンティティをぶち壊すには持ってこいだ。
奴らは、私に錬成陣を描かせないために、両手に袋をかぶせ、片腕ずつ吊り上げた。
腰をつきだし跪く程度の高さに吊るすと、三人の部下が見ている目の前で、私の軍服をナイフで切り裂き始めた。
下着までずたずたに切り裂くと、脚を開かせ女の肉をこじ開ける。
奴らは私の局部をたっぷりと観察した後、寸評すると指をねじ込んできた。
濡れてもいない場所に挿入され、痛みに呻くと、彼らは面白がって指を出し入れしたり、そのへんに転がっていた酒の瓶を挿入してきた。
声を噛み殺し、痛みと屈辱に耐えていると、男達の一人がライフルの銃口を部下の頭に突きつけ言った。
声を出して誘えと。
私が嫌だと言った次の瞬間、目の前で鮮血が散って生暖かいものが私の顔にかかった。
「おまえが俺達を満足させれば、おまえと他の二人の命はとらない」
銃口を突きつけられ恐怖に強ばった二人目の部下の前で、私は彼らが口にした誓いの言葉をオウム返しに告げていた。
「私はアメストリスの薄汚い雌犬です。これからは、イシュヴァールの肉便器として誠心誠意お仕えします」
嗤いながら、後ろに立っていた私の中にねじ込んできた。
体を引き裂かれるような激痛に悲鳴を上げると、男達は私に罵声を浴びせた。
自分達の同胞の痛みは、こんなものではないと。
それからは、無茶苦茶だった。
少しでも歯を立てれば仲間を殺すといって、肉棒を口の中に押し込まれ、えづいて吐くと腹を蹴り上げられた。
胸を掴まれ握りつぶされそうなほどの力で揉まれ、乳首を抓りあげられた。
殆ど性交渉の経験がない体を引き裂かれ、辛くて意識を失って倒れそうになると、肩の関節が悲鳴をあげる。
私は痛みと恐怖に押しつぶされ、屈辱すら感じなくなっていた。
懸命に男達のものを銜え、しゃぶり、口の中に出されたものを飲み下す。
なけなしの気力をかき集めて、強がって見せるたびに暴力の嵐が吹き荒れる。
痛みに気を失うと着付け薬を飲まされ、気がつくと、尋問が始まった。
国家錬金術師部隊の兵力や戦闘能力などを尋問されたが、自分は軍議に参加させて貰えない下っ端士官で、その場その場でしか指示を貰っていないと答えた。
国家錬金術師は佐官待遇だが、私に与えられた軍事的指揮権は尉官クラスのものだ。
戦争に護衛の兵や不慣れな国家錬金術師達を連れて、上官に命じられた通り作戦を遂行するだけだ。
だが、奴らは私の階級章を見て、少佐級の軍事的指揮権を持っていると思ったようだ。
答えないと悟ると、今度は私の部下達に私を犯すように強要した。
私は部下の性器を口で、勃たせるように命令された。
恐怖で勃起しない性器を、私は、懸命にしゃぶった。
何とか勃起させると、奴らは二人で尻の穴と女性器を犯すように命じた。
両腕の縄が解かれ、床に転がされると男達に手足を押さえつけられ、二人は泣きながら私の穴に挿ってきた。
彼らが謝罪する声を遠くに聞きながら、私は何も感じてはいなかった。
それからは、尋問と強姦、暴力の繰り返し。
二人の部下は、顔が識別出来なくなるほど殴られていた。
彼らが殴られるたび、私は彼らを殴るくらいなら、私を犯すように懇願した。
自分が殴られるより、他人が殴られている姿を目の当たりにする方が怖かった。
人が、人でなくなっていく様を、見たくはない。
いや、この時、私も人ではなくなりつつあったのだ。
人前で排泄をすることを、何とも思わなくなっていた。
私の扱いは犬以下だ。
水が飲みたいと言えば、小便を飲まされる。
臭気と塩分に体が拒否して吐きだすと、床に顔を押しつけられ、舌で掃除をさせられる。
そんな扱いだった。
助けが来るか、自分の体力が持つか…。
食事もろくに与えられず、逃げる力も失っていた。
逃げられなくても、必ず助けが来ると自分に言い聞かせ、正気を保つだけで精一杯だった。
始めは部下とも会話を交わしていたが、いつしか声が聞こえなくなっていた。
後ろ手に縛られ、床に転がされて、うとうとして、次に目を覚ましたとき、二人は居なくなっていた。
見張りの男に尋ねたら、死んだときかされた。
次は、私だ。
その日も、一口の水を貰うため、押しつけられた男性器の臭気と己の涙に咽せながら奉仕していた。
足元では、誰かがおもしろ半分で私の性器や尻の穴に銃口や鉄パイプを押し込んで遊んでいた。
このまま、さらに押し込んだらどうなるかという問いに、私の口を塞いでいた男が、どのくらい広がるか試してみようと言いだした。
恐怖と飢えと乾きに張り付いた喉で、身も世もなく泣き叫び、やめてくれと懇願する私の中に、男達は様々なものを突っ込み始めた。
「さあて、腕を突っ込んでみるか」
その一言に私は凍り付いた。
奴らは私を殺すつもりだ。
血まみれの下半身に、男の腕が入ってきた。
膣への侵入には何とか耐える事はできたが、直腸に入ってきた時、私の意識が焼き切れた。
死ぬのだと思った。
だが、死にはしなかった。
人間とは、案外丈夫に出来ているものだ。
朦朧とした意識の向こうで、銃声とヒューズの声を聞いた気がした。
次に目を覚ましたとき、私は前線の野戦病院のテントの中で目を覚ました。
何の代価も払わずに差し出された水を飲み、そばについていた女性兵に軍服と晒しを持ってくるように頼み、そっと、局部に触れてみた。
体毛こそなかったが、出陣の時と変わらない感触が、そこにあった。
主治医のマルコー氏の治癒錬成に感謝しながら、私は戦場への復帰を望んだ。
見舞いに来たグラン准将と私を救出し戦功をあげたヒューズ少佐、ドクター・マルコーにも反対されたが、私の意志は変わらない。
このままセントラルに帰れば、こんな辺境に何をしにきたのかわからない。
話の途中、女性兵が軍服を運んできたので、私は彼らの前で着替えを始めた。
勇猛でならした強面准将が、たかが女の裸に狼狽え、視線を反らし、コソコソとテントを出ていくの姿は見物だった。
女性士官制度に真っ向から反対し、女を戦場に出すべきではないというグランの持論は、彼独特の優しさなのだろう。
女が戦場に出て、いいことなど何一つ無い。
だが、それは、男とて同様ではないか。
敵に掴まり、殴るだけ殴られ、衰弱死していった部下の声が耳について離れない。
イシュヴァール人を殲滅することで、あんな不幸な兵達の数を減らすことが出来るなら、私は喜んでこの身を捧げよう。
いや、これは詭弁だ。
私は恐かったのだ。
イシュヴァールの男達の暴力が恐い。
殺せば、敵は二度と立ち上がっては来ない。
私は殺した。
国家の為と大義名分を掲げ、自分を恐怖に陥れる者達全てを焼き払った。
そして、その成果を研究手帳に書き込む。
どうすれば効率よく人を焼き殺せるのか、最適な温度はどのくらいなのか。
戦場で、私はそんな事ばかり考えていた。
帰還後、セントラルで研究のまとめや軍務で忙しい日々を送る最中、私は得体の知れない虚脱感と焦りを感じ、頭痛に悩まされるようになっていた。
睡眠をとれば、イシュヴァールの夢。
目を覚ませば頭痛。
男遊びを始めたのは、寝酒がわりに一杯やろうと立ち寄ったバーだった。
見知らぬ男に声をかけられ、どうせ眠れないのだからとついて行ったのが最初だ。
セックスをすれば、ぐっすり眠れる事に気がついた私は、何かに取り憑かれたかの如く、男を誘っては寝るようになった。
しかし、何故かヒューズを誘おうとは思わなかった。
奴は、イシュヴァールからセントラルに戻って直ぐ、約束通りグレイシアと結婚したし、所属部署が違うからあまり顔を会わせることもなかった。
結婚式の日は出張で出られなかったが、お祝いのカードだけは送っておいた。
結婚後は、直ぐに奴の子供ができたと聞いたと聞いて、食堂で声をかけた程度だ。
幸せそうに愛妻の妊娠報告をするヒューズの姿に、和みさえしていた。
映画の中の出来事のように、平和な時間が過ぎていく。
男達の嬲りものになっている夜でさえ、私にとっては静寂の時間だった。
私はもう、昔の私じゃない。
惚れた男に会いたい一心で戦場行きを志願し、かなわない筈の想いを遂げた女の子は、もう、どこにもいない。
戦場の廃墟の中で、私の心は行き場もなく立ちつくしたままだ。
「ンんッ…あぁ…あん……」
乳首を舐め上げる舌が熱い。
優しく吸われて、私は泣きそうになる。
まだ、覚えていた。
もう、忘れたと思っていたのに…。
私の中で、止まっていた時間が動き出す。
初めて乳首を吸われたとき、本当は痛かった。
自分で触ったことすらない薄い皮膚は、些細な刺激にも敏感に反応する。
痛くても嫌じゃなかった。
おまえがそうしたいって言ったから。
胸にむしゃっぶりつく頭を抱きしめながら、涙がこぼれそうになる。
おまえの髪の匂いがする。
大好きな匂いだ。
忘れようとしても、忘れられない匂いだ。
何人の男に抱かれようと、おまえと同じ匂いの男は一人もいなかった。
おまえは、本当に女の気持ちなんて、何一つわかっちゃいない。
女は不幸に溺れたがるものだ。
幸福な記憶なんていらない。
傷が増えれば増える程、嫌な事を忘れられる生き物だ。
「噛んで…」
「えっ?」
「噛んで…、噛みちぎって!!」
「けど」
「いいから噛め!」
ヒューズは渋々私の胸に歯を立てた。
「もっと強く! 血が出るくらい強く!」
乳房に歯が食い込み、私は痛みと快感に震えた。
「あッ! ああッあッああ!!」
「ろ…ロイ子?」
「もっと…もっとして…、酷いこと、して。私を罰してくれ!!」
「………」
「縛ってもいい、殴ってもいい。言うことなら、何でも聞くから…私を、飼ってくれ…」
「………」
「私は、犬だから…雌犬だから…グレイシアを裏切った事にはならないよ。家族が知らないところで、犬を飼ったところで、咎める者はいない筈だ。私はもう、まともな女には戻れない。どうせ飼われるなら、せめて、おまえに飼って欲しいんだ…」
「ロイ子…」
そんな目で見ないでくれ。
私はまた、卑怯な手を使っておまえを繋ぎ止めようとしてる。
妻も子も得て、やっと自由になれた筈のおまえを…。
「…もう、他の男と寝ないと、約束するか?」
「はい」
「二度としないな?」
「しません」
「…わかった。おまえは今日から俺の飼い犬だ。いいな?」
私は嬉しくなってヒューズの、ご主人様の口を舐め回した。
これでおまえは私のものだ。
尻尾を振って見せたいが、生憎、私の体に尻尾はない。
いずれ、ご主人様に立派な尻尾をつくって、挿れていただこう。
ご主人様が、私の胸を触る。
私は気持ちよくて、はしたない声をあげてしまう。
かまうものか、私は犬だ。
「ああッ…もっと…もっとしてッ…気持いい…いいのぉッ!!」
戸惑うご主人様に、私は懇願する。
「もっと、もっと、可愛がって。抱きしめて放さないでッ!!」
「ロイ子…」
「ヒューズは、私のご主人様なんだろう? 犬を躾て可愛がるのはご主人様の勤めだろ?」
「…そうだな」
「たくさん、可愛がって…もう、捨てないで…ご主人様」
私は懸命に体をすりよせた。
犬としてまで見捨てられたら、私はもう生きてはいけない。
「ご主人様はやめてくれ」
「えっ……」
「俺はご主人様って柄じゃない」
ヒューズの瞳に、泣きそうなメス犬の顔がうつっていた。
「でも、前から犬は欲しいと思ってた。黒毛の可愛いわんこがな」
「……」
「嬉しいよ、こんなに可愛いわんこを独り占めできるなんて」
「ヒューズ…」
「ほら、おいで。いい子だ」
ご主人様が、ヒューズが私を抱きしめてくれる。
私は嬉しくて泣き出してしまった。
「大丈夫か?」
「…うん」
私の涙を唇で拭いながら、ヒューズの手が股間に忍び込んでくる。
「お仕置きをしなくちゃな。今まで悪いことをしてきた、おまえのここに…」
「あっ…」
「こんなにたくさん涎を垂らして、いけない子だ」
「い…いやっ…」
「だらしない口には栓をしてやらなくちゃな」
「…栓って…これ?」
そう言いながら、私はズボンの生地越しに萎えたヒューズのものを撫でた。
「欲しいのか?」
頷くと、ヒューズはジッパーを降ろしてくれた。
私は剥き出しになったものにしゃぶりつき、懸命に奉仕を始めた。
「おいおい、そんなに焦るなよ」
「んッウブッ…チュッ…」
「まったく、しょうがないな」
苦笑しながら椅子に腰掛け、ヒューズは私がしたいようにさせてくれる。
自分の口の中で、ヒューズのものが硬く大きくなってきた。
私は夢中で扱き、舐め、吸い上げた。
色んな男のものを銜えてきたが、カリの張り具合といい、太さ、長さといい、こいつ以上の肉棒には出会った事がない。
私は大好きな肉棒を舐め立てながら、早くヒューズと繋がりたくてたまらなくなる。
先走りと唾液で口元から顎を濡らし、大好きな肉棒を握りしめてヒューズを見あげる。
「栓してやろうか?」
私が頷くと、ヒューズは優しく微笑んで、挿れていいと言ってくれた。
喜んで跨ろうとすると、「待て」と言われた。
「えっ…?」
「まだ駄目だ」
「どうして…?」
「おまえは待ても出来ない、駄目なわんこなのか?」
「うっ…」
「よし、いい子だ」
大きな手が私の頭を撫で、優しいキスが額に落ちてくる。
「ベッドにいこうか?」
そう言って、ヒューズは私を両腕で抱き上げて、寝室へ連れて行った。
ベッドの上に寝かされると、ヒューズは私の服を全て脱がせ、自分も全裸になる。
膝を割られ、脚をM字に開かされた時、私は一年ぶりに羞恥の焔に焼かれた。
ヒューズは何も言わず、そこにキスをした。
とめどなく溢れる蜜を啜り、過敏になったクリトリスを舌で嬲る。
一番感じる場所を舐められ、吸い上げられ私はたまらず身を引こうとしたがかなわなかった。
強い腕に押さえ込まれ、私は為す術もなくヒューズの愛撫に翻弄された。
体の奥まで奴の指が届く。
中の様子を確かめるように、ためすがめつ抜き差しされる。
優柔普段な指にくすぐられ、もどかしくて腰を振る。
「う…やぁ……もっとッ、もっと大きいのがいい……」
「わがままいうんじゃない」
「お願い…も…我慢できない…」
「だぁめ。待てって言っただろ?」
「ううッ……」
「うわあ、ぐちょぐちょだなぁ。まあ、このくらいなら、気兼ねしないでよさそうだな」
その一言に、私は凍り付いた。
こいつも、男なんだ。
急速に萎えていく私の気持ちなど知らないヒューズは、ゆっくりと私の中へ入ってきた。
膣壁を擦るように奥へ、そして私の体は甘い声を漏らして奴にしがみつく。
男の質量は圧倒的だった。
指など較べものにならない快感に私の体は喘いだ。
「痛くないか?」
私が頷くと、肉棒がゆっくりと動き出した。
触れ合う場所から生まれる快感が、体を支配する。
奥を突き上げられ、下腹部に疼痛が走る。
子宮を押し上げられる感覚に、小さな呻き声をあげると、ヒューズは浅い場所で迪送を始めた。
もう奥まで来ないのかと思った瞬間、深く突き上げられる。
「ヒッ…ああぁああッ!! あッ…ぁ…やぁッああッあああッ!!!」
何度も、何度も突き上げられ、膣壁を擦られ、男の体の下で身もだえる。
大きくなりすぎた不格好な胸を掴まれ、揉まれ、乳首を吸い上げられた。
先刻、噛みつかれた場所に舌が這う。
熱い息に、鼓動が早くなる。
私はヒューズを締め上げながら、「もっと…」と呟いていた。
唇を奪われ、舌を絡めあう。
結合部からは、湿った音が漏れていた。
窓を打つ雨の音が激しさを増す。
ヒューズの動きが激しくなった。
太くて硬い肉棒が、私の女を責め苛む。
「ひっヒァッ…あぁッ! あぅッアッあああッ!!」
嬌声をあげる私の耳元で、微かにヒューズの声がした。
「忘れろ…忘れちまえ…」
祈るような声だった。
ばかだな、忘れることなんか出来るわけないだろう。
誰に抱かれても忘れなかったおまえの匂い、声、形…。
ずっと、欲しかった温もり…。
「ヒ……うッ…ァッ…ッ……い……ぁ…」
「ロイ子ッ!!」
私は押し寄せてくる得体の知れない感覚に、抗うようにヒューズの背中に爪を立て、しがみついた。
身体の奥で、深く繋がった場所から生まれるうねるような感覚。
「ヒャゥッ…あ…ああ……ぃやぁッ…やッ…や…やめてぇッ!!」
先端に子宮口を擦りつけられ訳がわからなくなる。
私の体の中で、ヒューズのものが膨れあがり、奥まった場所が熱くなる。
硬く熱い物が脈打ちながら、私の中で力をなくしていく。
「ぁあぁああああ……」
私は懸命に締め上げて、一秒でも長くヒューズを感じようとした。
ヒューズは身動きもせず、私の上で荒い息を吐いている。
私は幸せだった。
唇から、自然と甘い声が零れだした。
「ヒューズ…」
「ん?」
「…キス、して」
そう言うと、顔中にキスの雨が降ってきた。
「もういい」
「だめだ。俺はまだ足りない」
「くすぐったい」
「だめだ」
繋がったまま、じゃれ合っていると、ふいにヒューズのものが抜けてしまった。
「あッ!」
「おっと」
「ご…ごめんなさい」
「おまえが、あんまり締めつけるから」
「私の…、使いすぎて緩くなってるから…」
「そんなことないよ」
「でも、おまえが気持ちよくないかなって…」
「…そっか。一生懸命、尽くしてくれたんだな。ありがとう」
キスをされた瞬間、私の中で何かが壊れた。
こらえようとしても嗚咽が止まらず、こともあろうか声をあげて泣き出してしまった。
いつものように、枕に顔を押しつけ歯を食いしばろうとしても泣き声は止まらない。
大きな手で頭を撫でられ、段々、訳がわからなくなってきた。
ヒューズがそばにいるのに、どうして私は枕にしがみついて泣いていているんだろう。
そばに、大好きな人がいるのに…。
枕から顔を引き剥がし、身を起こすと、私はヒューズに掴まった。
ヒューズの力強い腕が、この世のありとあらゆるものから、私を守るように抱きしめてくれる。
ずっと待っていた。
ここでなら、泣いていいのだと思った。
私の泣き声にもう一つ、嗚咽が混じる。
ひとしきり泣いた後、私はヒューズにこれで終わりにしようと持ちかけた。
「おまえには、守るべき家族がいる。子供も生まれる。女を囲ってる場合じゃないだろう?」
「そうだな」
「私は、一人で、大丈夫だから…」
「俺は、大丈夫じゃない」
「…えっ?」
「俺はおまえみたいに強くはなれないよ」
「でも、おまえには、帰るべき場所がある。暖かく迎えてくれる家族がいる。なら、帰るべきだ」
「家族…か」
ヒューズは溜息をつき、仰向けになった。
「そうだな…」
天井を見あげ、ポツリポツリと語り始めた。
「セントラルはイシュヴァールとは違う。朝、眼が覚めれば、優しくて美人の女房が俺を起こす。明るくて清潔な食卓には暖かい朝食。仕事も順調だ。命を失う不安や恐怖なんて、どこにもない。
不満なんて感じる暇もないくらい、俺は幸せなんだと思っていた。いや、思い込もうとしていたんだ…」
「……」
「グレイシアがさぁ、子供の名前を考えてくれって言うんだ。日に日に周囲は俺のことを父親呼ばわりするようになって…なのに、子供の名前さえ思いつかない。
思い出すのは、あの戦場だ。俺は生き延びた。生きる為に殺した数は両手じゃきかない。恐いんだ。そんな俺が、父親になってどうやって子供を育てていけばいい?」
「ヒューズ」
「愛してないわけじゃない。でも、俺はあいつらの愛情に答える資格がある人間なのか? おまえが犬なら、俺だって犬なんだよ。生きる為なら、何だってした…」
「……」
「俺はおまえに助けて貰いたかったのかもしれない。辛いんだ、グレイシアが気を遣ってくれているのがわかる度、途方に暮れる自分が嫌なんだ」
「…うん」
「ずっと、暖かい家庭が欲しいと思ってた。なのに…俺は………」
軍人になろうと決めたとき、人を殺す覚悟はしていた。
だが、現実は残酷だ。
過酷な戦場に、幼い覚悟をうち砕かれた私達は行き場を無くして、お互いに逃げ込む場所を見つけてしまった。
そこは、安住の地でも楽園でもない、不毛の地だと知りながら、それでも私達には必要だったのだ。
雨の日は嫌いだ。
辛い事ばかり思い出す。
私がイーストシティに旅だった後、ヒューズは父親になった。
そして私は、かつての自分と同じ目をした幼い錬金術師と出会い…いや、いい、もうやめよう。
今夜は眠れそうにない。
エリシ雄、君はいま、何をしているだろう。
君が、恋しい。
終