07話 荒井VSリョーマ


「リョーマが荒井君と試合?」

が、他のコートでネットの準備をしていたら桃城が走ってきて伝えてくれた。

「なんでも、越前のラケットがどーとか…」
「ラケット?」

リョーマが負けるとは全く思ってはいないが、以前から、リョーマの性格からか荒井に目をつけられているのは分かってたため、一体何がどうなっているのか気になるのは事実。

「桃、ゴメン。後、ここのネットだけだから…」
「わーってるよ。部長達も今、居ないしな」
「よろしくね!」

は、あとの準備を桃に任せて急いでリョーマが居るコートへと向かった。


「一体、何が…」

が見た時、リョーマはなぜか年代物の古びたラケットで試合をしている。

「…よくあんなので打てるわね」

しかし、古いラケットで試合をしているにも関わらず、リョーマの一方的な試合になっている。 さすがにマネージャーとして放っておくわけにもいかないが、何が一体どうなってるのかが全く分からない。 そんな時、いつもリョーマといる三人が目に入った。

「堀尾くん、カチローくん、カツオくん!」

が、呼ぶと三人ともその声に反応しての方を見る。

「あ!先輩!」
「どうして僕たちの名前を?」
「知っててくれたんすか?」
「マネージャーだもん」

本当は、リョーマと一緒にいるから家でも名前を聞いてたからだけど…とは心の中で思う。

「ねぇ、何がどうなってるの?」
「じ、実は…」

が思い切って三人に事情を聞くと、困った表情になりながらもゆっくりと分かりやすく事情を話してくれた。

「つまり、リョーマは荒井君にラケットを盗まれたってこと?」
「確信はないですけど…」

自身もあのリョーマがラケットを忘れるとは思えない。 三人から聞いた荒井君の言動からすると、おそらく普通じゃリョーマに勝ち目はないから、どんな手を使ってでも自分は勝って、リョーマに恥じをかかせようっていう魂胆だろう。

「それでも負けてりゃ、救いようがないわね」
「…先輩、毒舌っすね」

堀尾君は、驚いたようにの方を見て言った。 しかし、マネージャーとしては、部長と副部長が会議で居ない今、止めるのが普通だしここまで一方的な試合を見せられると、 二年の先輩として荒井君の威厳もズタズタで可哀想だが…。

「荒井君が自分で試合を申し込んだんなら、仕方ないじゃない」
「え!本当にいいんですか?!」
「試合は放っておいて、三人ともちょっと付き合って」

がそういうと、三人とも顔を合わせて首をかしげた。


「ほ、本当にいいんですか?」
「いいのよ。ラケット返してもらうだけだもの」
「でも、一体どこにあるかなんて…」
「大体の見当はついてるから大丈夫」
「え?」
「たしか、リョーマのラケットは三本よね?」
「はい。多分」
「そして、盗んだ人が、自分の持ち物に盗んだものをいれてるわけない」
「まぁ…普通はそうっすね」
「となると、そんな短時間で隠せる場所と言えば、スペース的にあそこしかないわね」
「「え?」」

は、閉めていた部室のドアを開けて中に入る。

「えーっと、たしかここに…」

きょろきょろと部室を眺めた後、ロッカーの奥にあった椅子をどけて、そのロッカーに手をかけた。

「ごめん!三人共、反対側もって!」
「は、はい!」
「いくわよ…。いっせーの!」

ガン!

は、三人にロッカーの反対側を持ってもらい、掛け声とともにロッカーを持ち上げた。

「んーしょっと!」

ロッカーを持ち上げ、少し前に出すと、急いで入れたのであろう。すぐに、ポロリと綺麗なラケットが三本とも倒れ落ちてきた。

「うお!すっげー!」
「少し前に出しただけでこんなとこに、大きな隙間が…」
「なんか、他にもいっぱい物が置いてあるね」
「部室の設計の問題で、ロッカーが奥まで入らなかったの。二年生と三年生なら、皆知ってるから」

は、座り込みそのラケットを拾い銘柄を確かめるように見ながらそう言った。

「へー、そうなんですか」
「そう。だから、ここを掃除すると面白いのよ」
「え?」
「こうやって、先生や人に隠したい物とかがいっぱい出てくるの」
「そ、そうなんすか…」
「だから、絶対にここだと思ったんだ」

正解だった!と、は立ちあがって楽しそうにそう言う。

「手伝ってくれてありがとう!」

は、笑顔で三人にそう言って部室を出た。

先輩って、イメージと違うね…」
「もっと大人っぽい人だと思ってたよな」
「でも、なんか親近感湧いちゃうよね」
「俺、先輩のこと狙っちゃおうかな!」
「…絶対相手にしてくれないよね」
「うん。堀尾君だしね」
「お前らなー!冗談じゃねーかよ!」

三人も、そんな話をしながらの後に続いて部室をでた。



「あー…ちょっと遅かったかな」

少しでもリョーマに荒井との試合中止させなければ、と思いリョーマのラケットを見つけ出してきたが…。

「リョーマの奴、容赦ないわね」

どうやら、ちょうど試合が終わってしまった後のようだ。

「試合終わったみたいだな」
「あ、桃」
「そのラケット、越前のだろ?」
「うん。だけど遅かったみたい」
「いいじゃねーか。渡してきてやれよ」
「うーん…いいや!桃、よろしく!」
「はぁ?!」

は、桃城にリョーマのラケットを三本とも手渡し、コートを出た。

「おい!!」
「ちゃんと、返してあげてよ!」
「お前が返してやれよ!」
「いいから頼んだ!」

は、桃城に無理矢理押しつけて、やり掛けの仕事を片づけに戻る。

「生意気な王子様は、女の子に人気があるから大変だわ」

最近、コートの付近でよく見かける髪の長い三つあみの少女をは、頭に思い描いていた。



「ありがとう、桃!」
「ここでいいのか?」
「うん。もうすぐそこだから」
「お前、今、知り合いの家に世話になってんだろ?」
「う、うん。まぁ…」
「どんな家なんだよ?」
「…お寺?」
「はぁ?」
「あ、いや!和風の広い家ってことよ!」
「ふーん。ま、今度ゆっくり話聞かせろよ。じゃーな」
「また明日ねー」

あれから、やりかけの仕事を終えたは、部活で暗くなった帰り道を、桃城の自転車で家の近くまで送ってもらっていた。 は先程、桃城と来た道を二つ手前の角まで再び引き返して、右へと曲がる。

「桃にバレるのも時間の問題かもね…」

秘密は、一人にばれると不思議と大勢の人に広まるものだ。 桃城が喋るなんて思ってもいないが、出来る限り学校で変な噂はさけたい。

「相手がリョーマだもんなぁ」

最初は、別にバレても構わないともは思っていた。 なぜなら、もともと、うちのテニス部は強くて、女の子にも人気で注目を浴びていたからだ。 噂が一つや二つ増えたところで、どうってことない。 だが、最近のリョーマの活躍は見ていて目覚ましいものがある。 その注目度は、の想像を超えていた。 そんなリョーマの家でお世話になってるなんてバレると、厄介だ…。

「…仕方ないか」

勿論、噂なんては気にしないし、そんなことを気にしていたら今まで男子テニス部のマネージャーなんて出来ていない。 そのため、もし噂がばれたときに厄介だと感じているのは、が自身に及ぶ被害ではない。

リョーマの方だ…。

マネージャーとしても、選手として有望であるリョーマには出来るだけ、自分のことなんかでストレスを感じさせたくない。 リョーマだって、人に話せば騒がれると分かっているから、“何も言わない”という手段を取っているんだ。

「ただでさえ、これから大変なんだもん」

は、もう一度、リョーマの家でお世話になっているんだということに対しての認識を改め直した。

「暫くは一人でこっそり帰るか…」

バレてリョーマに迷惑をかけない為にもそれが一番の得策だとは思った。

「ただいま帰りましたー!」
「おかえりなさい!ちゃん!」

こうして出迎えてくれる、温かいリョーマの家がは大好きになっていた。

「おかえり」
「リョーマ!」

先に帰っていたリョーマが、階段から下りてきた。

「先に風呂、入ってきたら?」
「リョーマは?」
「もう入った」
「了解」

は、靴を脱いで家に上がり部屋に荷物を置きに行こうと、リョーマの横を通る瞬間…。

「ラケット、サンキュ」
「…え?」

かすかに耳に聞こえたリョーマの声に、は足を止める。

「堀尾に聞いた」
「な、なんか言ってた?」

自分が、大胆にも取ってしまった行動にいまさらながら、は焦る。

「別に。ただ、自分が思ってたイメージのと違ったって」
「…一体、あの子達は私のことをどう思ってたのかしら?」
「さぁ?」
「ま、なんでもいいか」

は、気にするのをやめて部屋に向かった。

「…」

リョーマは、堀尾達が言っていたの事を思い出す。 確かに、部活だけのを見ていると、しっかり者のイメージが強いが、 リョーマは自分と一緒にいる時や家にいる時のには、どこか年上の割に思考が子供っぽい印象しかないため、堀尾達が話すのイメージや噂もまるで想像がつかなくて、ばかばかしくなるのだ。

「…はぁ」

だが、自分しか知らないがいると思うと、どこか嬉しくなる。 でも、他に自分の知らないの一面もあるかもしれないと思うと、見てみたくなる反面、どこか悔しくなる。 様々な感情がリョーマの中で混ざり合う。こんな気分を味わう日が来るなんて、思いもしなかった。

「ほんと、困るよね」

リョーマはの部屋の方を見て小さく呟いた。

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