RETURN TO NOVELS




7

気付かなければよかった。
それがつかの間の幻想に過ぎないのだということに。


眠る昴治を前にして、
祐希はただうなだれるしかなかった。
青い髪の男が現われたあの夜。
気を失って、祐希の腕にぐったりと体を預けた昴治は
あれから丸2日経っているというのに、いまだ目を覚まさなかった。
初め、酷く青ざめていたその顔色も今は幾分赤みが差して、
唇から静かに零れる呼吸も穏やかになった。
それなのに、青い瞳は薄い瞼に隔てられたまま。
祐希を見ては、笑みに形取られていた綺麗な唇も
今はただ薄く開かれたままで。
静かに胸に満ちてゆく恐怖に、祐希はそこから離れることができなかった。
じっと、ベッドの脇にイスを引いて腰掛けて。
外にも出ず、食事も取ることなく。
雑多な考えが浮かぶにまかせて、呆然と意味のない時間をやりすごす。

好きだった。
昴治が、好きだった。
だから大切にしたいと思った。
そうすれば、一緒にいられる気がした。
昴治が笑ってくれる、
それがずっと続くと思っていた。

でも。

どうして気付かなかったのだろう。
どうして気付いてしまったのだろう。

そこに確かな物など、何一つありはしないことに。

いっそ気付かなければよかった。
そうでないなら初めから気付いていればよかったのだ。

昴治の記憶がないということの意味に。

もしかしたら、今この瞬間にも
目を覚ました昴治が祐希と過ごした時間を消し去って
元の場所へ還ってしまうかもしれないのに。

そう思うほどに、祐希の心はキリキリと締め付けられていった。
青い髪の男。
宙に浮いていた。
自分を守った昴治。
不思議な力。
そのどれもが、昴治の記憶が戻ることを示しているようで。
突きつけられる痛みに、祐希はもう顔を上げていることもできなかった。

恐かった。
両手で顔を覆えば、脳裏に浮かぶのはこの人の姿ばかり。
何もない。
自分には、昴治以外に何もないのだ。
昴治がいなくなったら、自分はひとり。

一人?
また?
またひとりになるのか?
嫌だ!
いやだ!!
失いたくない。
離れたくない。
ずっと一緒にいて欲しい。
ずっと暖かなまま傍にあって欲しい。
一人は嫌だ。
一人は…恐い…。

思えば思うほど弱気になって。
知らず昴治へと伸ばしかけた手を止めた。
どうせ自分を忘れてしまうのなら、
いっそ目を覚まさずにこのまま…。
浮かんだ考えを、祐希は嘲笑のなかに打ち消す。
止めていた手で、そっと昴治の頬に触れ、そして戻した。
変わらず穏やかに続く呼吸に、また視線を落としたのにわずか遅れて
うん、とうめく小さな声が聞こえた。
ぎくりと体を強張らせる。
ようやっと顔を上げると、
ぼんやりと、しかし何かを探すように彷徨っていた昴治の視線が
祐希にたどり着いてふと止まった。
表情を凍りつかせたまま、その顔を見下ろす。
小さな唇が、その言葉を形作った。
息を呑んで。
返す言葉のない祐希に、昴治はもう一度確かめるように囁く。

「ゆうき…。」

そっと差し出された手をすり抜けて、
祐希はその細い体をただ強く抱きしめていた。






---------------------------------補足ぅ!
なんというか、もうどんな話だったか忘れるほど間が開いてますが
漸くお届けします。7話目です。
いや、なんかもうコメントするとネタバレにしかならなさそうなのですが…
って、本人もコメントかけない話に感想を誰が持つと…(汗)
願わくば、皆さんが呆れずに読んでくださいますように…(びくびく)

ところで、手を伸ばした祐希。
別に首きゅ★しようとしたわけではありませんです…


テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル