『 さくらんぼ 』 1p
“ 愛し合う2人 幸せの空
隣どおし あなたとあたし さくらんぼ ”
「これってかわいい曲よねぇ」
ラブホから出てきた俺の車の助手席で
幸子がそう言った
幸子45歳・人妻
3ヶ月前に出会い系で知り合って付き合いだした
ちなみに俺21歳・独身
フリーターしながらダラダラと生活している
「おう、かわいいぜ。俺この曲歌ってる子好きだな。笑うと目がなくなってかわいいんだよ」
そう答えると幸子は一瞬顔の表情が固まった
「なんつーの癒し系っての?明るくてかわいいし彼女にしたいねぇ」
「でも、芸能人じゃない。そんなの無理に決まってるでしょ?もっと現実的になれば」
幸子が刺のある言い方をする
俺は幸子の神経をもっと逆なでするように返事する
「おいおい、そんなの例えで言ってるだけだろぉ〜。歳下に何ムキになってんだよ、いい歳した大人だろ。」
そう言うと幸子はぷぅとふくれっつらをして、反対方向を向いてしまった
俺は正直、幸子が最近ウザイ
人妻だからもっと割り切った関係でいられるかと思ったのに、こいつときたら何か勘違いしている
もしかしてマジ俺に恋してる?って思うような態度を時々見せる
重い
非常に重い
ま、ちょっとばかりは熟女好みの俺ではあるけど、本気で幸子と一緒になる気は全然無い
彼女にするなら、せめて35歳までだ
幸子には子供がいない。旦那と二人っきりの生活だ
仕事もしてないらしいし、昼間は習い事をしてる言っていた
そこそこ裕福な生活をしている主婦なのか?真実はわからないが・・・
きっと、彼女は暇と金をもてあまして出会い系に足を踏み入れてたのだろう
そして、俺と出会ったんだ
俺は1回きりかと思ったが、幸子が俺の事を気に入り3ヶ月も関係が続いている
ま、俺の方も色々おごってくれたりプレゼントくれたりする幸子は有り難い存在なのだ
でも、今は彼女が重く感じてウザイ
金回りはいいので、その点はすんごく未練があるのだがもうダメだ
今日でお終いだ
もう今後は連絡もとらない
俺は出会い系用に、プリペイド式の携帯を使ってる
こういう時、今後連絡取れなくする為だ
今日でこの携帯ともお別れだ
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『ター君は気づいているのかしら?
私があなたをこんなに好きなのに
私達、愛し合ってると思っていたのに
あなたは私を悲しませる事ばかり言うのね
ベッドの中じゃ、あんなにも激しく私を愛してくれるのに・・・
ずっと忘れてた私の中の女
それを思い出させてくれたのは、ター君あなたなのよ
私はあなたが好き。ずっと好き。このままずっと一緒にいたいの
ター君の好きな曲
「さくらんぼ」の曲
“あなたとわたし二人さくらんぼ”
私もター君とさくらんぼになりたい。二人ずっとくっついていたいの
出会いは不純だけど、ベッドの中でのあなたの言葉を信じたい
私の事、きれいだって言ってくれた事
すてきだって言ってくれた事
私の話をター君はいっぱいいっぱい聞いてくれた
そんな優しいター君を信じたい。お願い信じさせて。私はあなたが好き。愛してる。』
台所の食台の上で私は日記にそう書いた
書き終えて日記を閉じ、壁にかかっている時計に目をやると午後11時
今夜も夫の帰りは遅い
たいした役職でも無いのに、毎晩遅くまで何仕事してるんだろ?
ロクに話もしないから、一体彼がどんな仕事をしてるか知りもしないわ
もしかして・・・浮気?ま、私もこういう状態だからね・・・・別に、どうだっていいわ夫の事なんて
どうせ、向こうも私に無関心だもの。私が出会い系してる事も気づいてないもんね
毎日、毎日つまらなかったの
頭が狂いそうなくらいにつまらなかったの
スーパーのレジのパートをして
夕方には帰ってきて
1人で食事して、1人で寝て
そして、また朝が来る
日曜は夫の休みだけど、私は出勤
私が帰ってくる頃には、夫は出かけていない
また1人で食事して、その内に夫が帰ってきて1人で食事する
夜は会話もないし、もちろん体の関係も無い
本当に何も無い二人
お互いただの同居人
居るだけの人
そんな状態だもの、寂しくて狂いそうだったの
私は自分を救う為に出会い系に飛び込んだのよ
「カチッ」
無機質な機械音をたてて、時計の針がまた進んだ
4畳半の暗くて狭い台所に、時計の音はよく響く
私は今夜も1人寝室に向かった
台所の隣部屋になる6畳和室の寝室へ
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