大江戸愛絵巻図(続編) +桃ノ花ビラ+ p13

 ふんどしを締めなおし、着物を正して二人は土手を上がった

 上がる際、周りに人がいないか二人はキョロキョロと様子を伺って上がった
 あんな事をしておいて、今更人気を気にするのも可笑しな話なのだが
 興奮が冷めて平常心になったら、周りが気になり始めた

 二人の心配とは裏腹に人気は無かった
 少し安心して、二人は土手にあがり、提灯を持ってまた歩き出した


 夜の静寂が二人を包んだ 

 
 二人が道を歩く音と、どこからともなく聞こえる猫の声
 静かな、静かな、暗闇の中で、越後屋の胸が高ぶっていった
 そして、耐えかねたように、思い切って聞いてみた


 「・・・・・もう・・・会えないのですか?」


 その問いに、代官は返事をしなかった


 「今宵で最後・・・・なんですね・・・」


 返事が無いのが、なによりの答えだとわかった越後屋はガックリと首をうな垂れた
 そのまま、越後屋も口を閉じ、お互い何も語らず道を歩いた
 

 しばらく歩くと・・・・、 越後屋の店が見えてきた


 あぁ、ここでお別れなのだな・・・・・・


 越後屋は観念し、歩みを止めた
 
 自分の恋はここで終わるのだ・・・
 所詮、恋は恋で、愛にはなれなかったのだ・・・
 
 潤む目をごまかしながら、代官の方へ顔を上げた

 すると、信じれない光景が見えた


 代官の頬を一筋の涙が伝っている


 越後屋は、あまりの驚きに声も出ず、ただ代官を見つめた
 越後屋の視線を感じたのか、代官は首を少しさげ、越後屋の方へ顔を向けた

 二人はそのまま見つめ会った

 「終わりでは無い・・・・・」

 代官が言った

 「先の事はわからないが・・・おぬしとは、ここで別れたくは無い」

 信じられない言葉だった
 
 山川屋で偶然出会って、声をかけられた事も信じがたい衝撃だったが
 代官の口から、自分に向かって想いを寄せるような言葉を聞いたのが
 何よりの衝撃だった

 呆然としたまま、立ちすくむ越後屋の前に、代官は胸元からある物を差し出した

 それは、手ぬぐいだった

 「これを、お前にやる。私だと思って身に付けてくれ」

 震える手で、越後屋はそれを受け取った
 その受け取った手に、いくつもの涙が落ちた
 涙は越後屋の目からとめどなく流れていた

 「しばらくは私も忙しいだろうから連絡は取れないだろう。
  しかし、生活が落ち着いたら・・・・おぬしに文を出す。そして・・・・また会おう」

 越後屋はもらった手ぬぐいをギュウと握りしめて、泣いた
 どんどんどんどん涙があふれてくる
 
 嬉しくて流す涙の心地よさに身をゆだねて
 越後屋はずっと涙を流した

 「それまで・・・・待っててくれるか?」

 代官は、提灯を持ってない方の手を越後屋の肩に手を置いた後
 その肩を引き寄せるようにして、越後屋を抱きしめた
 
 暖かい代官の胸の中で、越後屋は何度も頷いた

 「おぬしは、汗かきだからな。だから手ぬぐいにしたのだ。
  しかし、今は汗より涙を拭いた方がよいな」

 代官は、越後屋が握っていた手ぬぐいを取ると
 それを、越後屋の目もとに持っていき、涙を拭き始めた
 それが、嬉しくてまた越後屋の目からは涙がこぼれた
 
 越後屋の大きな顔が、涙やら鼻水でグチャグチャになるのを
 代官は優しく手ぬぐいで拭いた
 
 越後屋は、感動の波も少し収まり、もらった手ぬぐいにふと目をやった

 手ぬぐいには、花びらが書かれていた

 「これは・・・?なんの花びらでございます・・・?」

 代官の顔を見つめながら聞いた
 代官は、ふっと優しく微笑み
 
 「桃の花びら、だ。お前は桃のように可愛いからな」

 その微笑んだ目は、愛しい者を見つめる目だった

 越後屋はその目を信じようと自分に誓った



 夜の暗闇の中で、二人の持つ提灯の灯りがユラユラと揺れた

 夜の空は曇りで、ずっと月には雲がかかっていた
 しかし、除所に雲が流れ始め、雲の隙間から月が顔を除かせた


 途端に、青白い光が二人を包み込むと
 その光の向こうに見える影は、一つになっていた

 




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