「こんにちは、お久しぶりです。ボンゴレ10代目、獄寺氏」 「あ、こんにちはランボ〜久しぶり〜」 「帰れ、部外者」 「あのちょっと酷くないですか、獄寺氏…同じ守護者じゃないですか!」 ツナと獄寺は仕事でボンゴレの某支部へと来ていた。 そこはボヴィーノの本部に少し近いので、それを知ったランボが挨拶に来たのだった。 「お前は普段は別のファミリー所属扱いだろ、有事の時に楯になりゃいーんだ、帰って掃除でもしてろ」 「そんなあ!」 「まあまあ。ランボ、獄寺君は君のこと心配してこんな事言ってんだよ」 「え?どういう事ですか、ボンゴレ」 「ほら、ランボは、いつ子供のランボと入れ替わるかわかんないだろ? 危険な場所にいる時に替わったら大変だから、なるべく安全なとこにいた方がいい」 「はあ…」 「しかしランボも大きくなったよねーアレがどうやってこうなるのか不思議だったけど、 変わるもんだよねー大人だねー」 ツナは、子供の頃よりボリュームは落ちたが今もふわふわした頭を撫でた。 「子供扱いしないでください……ていうか獄寺氏の目が恐いんですけど、ボンゴレ」 どんどん剣呑になっていく獄寺の視線に、ランボが本気で恐怖を感じはじめた時。 ボンという爆発音が立ち、ランボの体が煙に包まれる。そして煙が晴れた後には━━」 「うわああああん!!」 「子供ランボ!」 「ん?あ!おっきいツナだ!」 子供ランボは、既に何度か十年後のツナに会っていて、子供らしい柔軟さで「大きいツナ」という存在を 特に疑問も持たず認識していた。 「ツナ!ランボさんを抱っこしろ!」 「あーはいはい」 ツナはひょいとランボを抱き上げる。 それを見ながら、獄寺はツナに気付かれないようにギリと奥歯を噛んだ。 これだからアホ牛を10代目に近づけたくなかったのに! 「お前、そんなに抱っこ好きだったっけ?甘えただなー」 「ランボさんはおっきいツナに抱っこされるの好きだもんね!ぶどうも大好きだもんね!」 ランボを抱っこするツナの姿は、昔も目にした。 が、暴れまわるランボはツナに大人しく抱きかかえられている事はむしろ少なかった。 「ブドウは無いけど、ケーキがあるよ。じゃあ、あっちの部屋で食べようか」 ツナはそう言って、ランボを抱っこしたまま、ロビーから二階へと続く階段を上がっていった。 「わーい!!ランボさんはケーキも大好き!」 そう言いながらランボは、すりすりとツナの胸に甘える。 こんのクソ牛が━━━━━━━━ッ!! 10年の歳月で、ツナの身長はほとんど伸びなかった。顔立ちもほとんど変わらない童顔で、 一番の大きな外見的変化といえば、バストサイズがAからEに変わった事だ。 ランボが何を指して「おっきいツナ」と呼ぶのか、何故、抱っこが好きなのか。 解ってしまって、はらわたが煮えくりかえりそうな獄寺だった。 ツナに言えば、君の考え方が不純だよ!と言われるだろうから言えない。 10代目は解ってないんです!男はガキの頃からオオカミなんですよ!! アイツは牛の皮を被ったクソオオカミです!! いっそ十年前の自分なら、首根っこ掴んで窓から放り投げてやるのに、さすがに今では そんな事出来ない。 ツナも、懐かしいのか十年前より格段にランボに優しい。 大人になるって、つまんねー、と獄寺は内心で溜息をつきながら、ツナの後に続いて階段を上った。 「何だ、そのウザ牛、またわざわざこっちに来た時に替わりやがったのか」 階段の上まで登った時、心底嫌そうな声が下から聞こえてきた。 「リボーン、帰ってきたの」 「リボーン!」 突如、使命を思い出して、ツナの腕の中でランボが暴れた。 「リボーン!ちねー!」 「わ!ちょ!ダメだよランボ」 ランボはもがいてツナの手から跳び降りると、リボーンめがけて走り出す、しかし途中で勢い余って バランスを崩す。 「ランボ!」 「10代目!?」 ツナが慌てて手を伸ばし、それに獄寺も手を伸ばすが、一瞬遅く。 ツナはランボを抱えて階段を転げ落ちた。 「10代目!10代目!しっかりしてください!!」 「おい!ツナ!」 「へ?あれ?あれ?ツナー!?」 「う、う〜ん」 ツナがゆっくりと目を開ける。 「ああ!10代目!俺が分りますか!?大丈夫ですか!?」 「へ?」 ツナは大きな目をぱちくりさせて獄寺を見、周りを見まわして、また獄寺に視線を戻した。 「……獄寺、君?」 「そうです!どっか痛くないですか?気持ち悪かったりしませんか!?」 「え、う、うん、ちょっと背中痛いけど、別に気持ち悪くはないよ…?」 「良かったあ!10代目!」 獄寺がひしと10代目を抱きしめる。 「ぎゃああ!」 「10代目?」 「あ、あの、ちょっと離れて…!」 ツナは真っ赤になって獄寺を引き剥がそうとする。 「ボンゴレ、大丈夫ですか?」 いつの間にか元に戻ったランボが心配そうに声をかけてくる。 「あ!大人ランボ」 「「え!?」」 「どうやらツナの奴…」 読心術の使い手であるリボーンがいち早く状況を察し、感情の読めない声で呟いた。 「十年前まで、記憶がとんじまったみてーだな」 「「「えええええええええ━━━!?」」」 すぐにボンゴレの医療チームが呼ばれ、ツナは徹底的な精密検査を受けた。 しかし身体的な異常は全く見受けられず(背中に少々打ち身があったが)ツナの部分的な記憶喪失の 原因は不明、治療法も不明であった。 「そのうち思い出すかもしれないし、思い出さないかもしれない……か」 「10代目…」 「とにかく、今のこいつを表に出す訳にはいかねえ、敵対ファミリーに知られたら、こと、だ。 部屋に閉じ込めとけ」 こうして、ツナはボンゴレ支部の自室に軟禁状態となった。 扉をノックするが返事が無い。 もう一度叩くと、遠慮がちに「どうぞ」という声が聞こえた。 「失礼します。10代目、獄寺隼人、只今戻りました」 獄寺が中に入ると、所在なげなツナが大きなソファにポツンと座っていた。 「あ、えっと、…お、おかえりなさい」 「いいですよ、そのまま座ってらしてください」 立ち上がろうとしたツナを手で制す。 「お1人にしてすいません、ですが、この事態は内密にしておきたいので、他の人間は…」 「ううん、いいよ、大丈夫。…ていうか俺の方が迷惑かけちゃってるんだよね…」 「10代目がお気になさることは何もありません、悪いのはあのアホ牛です。 喉渇いてませんか?今、コーヒーでも入れますね」 「う、うん…」 「はいどうぞ、熱いので気をつけて」 「ありがと、獄寺君」 ツナにコーヒーを手渡し、ソファの隣に座って、獄寺もコーヒーを飲む。 一瞬、静寂が訪れた。 「あの…、何か、思い出しましたか?」 「ううん、何も…ごめん」 「謝らなくていいんですってば!ゆっくりいきましょう!」 「うん…」 そう言ってツナはうつむいてしまった。 「10代目…」 そっとツナの肩に手を置く。 「うわあ!」 途端、ツナが大げさなくらい驚いて獄寺から離れる。 「え…」 獄寺はあげた自分の手と、ソファの端まで逃げてしまったツナとを交互に見、悲しそうにため息をついた。 目を覚ました時の態度といい、やはり。 「10代目……俺のこと、こわい…んですか……」 確かに昔、ツナは獄寺のことを恐がっていた。しかし時間をかけて、少しずつ少しずつ距離を縮め、 かけがえのない絆を築いていったはずだったのだが。 「ち、ちが!違うんだよ!獄寺君!」 どんよりとしたオーラをまとって落ち込む獄寺にツナは近づいていった。 獄寺とツナの目が合う。するとツナはすぐに顔を伏せてしまった。 「……10代目、無理なさらないでください…。さっきからずっと俺の顔、見ようとしないの、 気付いてましたから…顔を見るのもお嫌でしたら、俺、すぐ出て行きます…」 「だーかーら!違うってば!」 「じゃあ、どうして?」 「それは…」 獄寺がツナの顔を正面から見据える。 ちらちらと獄寺に視線を送っていたツナの顔がみるみる赤くなっていく。 「だって、その…」 「10代目?」 「大人の獄寺君……、すごい、かっこいいんだもん…」 最後の方の声は消え入りそうだったが、獄寺の耳には確かに届いた。 「だから、その、なんか恥ずかしくって……直視できなくって…、なのに、ぎゅ、ぎゅっとか、するから… おれ、どうしていいかわかんなくて……」 |