※注意 裏要素を含んでいますので苦手な方はご注意下さい。 陽子×景麒。陽子攻めです。 愛はありますがちょっと歪んでいるかもしれません。 こういった傾向が苦手な方はお気をつけ下さい。 全然大丈夫、な方は下にスクロールしてお読み下さい。 「アンチノミーの熱情(後編)」 陽子は愛しさと嫌悪感の入り混じったような奇妙な目で下僕を見下す。彼の愚かさの半分は哀れな麒麟の本能のせいだろうと心の片隅でぼんやり思った。 執拗に続けていた愛撫の手を唐突に止めて景麒の膝の上からするりと退くと、陽子は牀榻の上にゆったりとうつ伏せになって頬杖をつき、ちらりと下僕に一瞥をくれて微笑んだ。その微笑みはどこか物憂げで儚かったが、それでも景麒は嬉しそうに牀榻の前に跪いて主を見上げる。 「来てもいいよ」 許しを得てすがるように自分を抱く景麒の乱れた鬣を、陽子は乱暴に撫で付けた。 見た目よりもずっと軽い麒麟の身体を受け止めながら陽子は考える。 この麒麟は、気紛れな王が彼を強い愛情と執着と僅かな苛立ちを持ってがんじがらめに支配していると思っているのかもしれないが、本当のところはきっと違う、そんな単純なものだけではない、まったくもって違うのだ。 確かに陽子は麒麟に対して絶対的な支配力を持っていて、こうして気紛れな戯れ、気紛れな情事に彼を引き込んではいるけれど、それよりも強い、濁流のような本能で麒麟は陽子の動きを、一挙一動を見守っている、いや監視しているというべきか? それは景麒の意思ではない、陽子を苛立たせるあの蛇のような油断ならない目で見張らざるを得ないのは彼の意思ではない、それは天が可哀想な麒麟に、罪人に焼きごてを押し付けるように無慈悲に植えつけたどうにもならない本能のせいなのだから、もっと慈しんでやらなければと思うのだ、そう上手くもいかないのだが。 陽子は麒麟を支配し、麒麟は陽子を監視するのだから絶対的かつ一方的な支配などあり得ないのだ。 玉座に在る限りは民の望みだとか失望だとか国の発展、そういったものが常に陽子を絡めとり、ことあるごとに彼女にそれを痛烈に思い起こさせることだろう。癇癪を起こして束ねてぷつんと切ってしまうこともその気になれば可能ではあるが、それはまだずっと後でいい。 陽子に強いられた犠牲と、その代わりに得た対価とを秤にかけてみたとしたらどちらに傾くか、それは彼女自身にも分からないし、天の理とやらは気に入らないことも多いが、それでもいいと思えるものが陽子にはあるのだ。 その代わりに手に入れたこの可愛い哀れな麒麟が、今の所とても気に入っているし、こちらもそんなに悪くはない。 何にせよ、この麒麟を独り占めして時々は気紛れな戯れに引き込んでもいいくらいの代償はもう充分支払っている、それが重要だった。これからも支払い続けなければならないという問題、それはとりあえずは保留でいい。 だからこのまま大人しく玉座を暖め続けるのもそう悪くはないと陽子は思う。 角度によっては泣き顔のようにも見える不思議な微笑みを浮かべながら「主上」と何度も呟いて赤ん坊のように陽子の身体をまさぐってくる景麒を、乱暴に手で押しやって自分の上から退かせると、そのまま彼の腹の上にまたがる。そうして再びしげしげと景麒の顔を観察すると、これ以上ないくらい、嘘偽りのない嬉しそうな目が陽子を見つめ返してきた。 これだから、玉座は捨てられないのだ。 愛すべき哀れで愚かな可愛い自分の麒麟を愛撫する為に、陽子はしなやかな腕をそっと伸ばした。 04/09/03 前編 戻る ちょっと歪んでるかもしれませんが愛はそことかこことかに溢れんばかりにあるはず……なんですが何だか色々怪しい感じになってしまいました(笑) |