※注意

裏要素を含んでいますので苦手な方はご注意下さい。

陽子×景麒です。陽子が攻めです。
愛はありますがちょっと歪んでるかもしれません。
マイ設定盛りだくさんです。

こういった傾向が苦手な方はお気をつけ下さい。

全然大丈夫、という方は下にスクロールしてお読み下さい。





「アンチノミーの熱情(前編)」



 陽子が牀榻に座らせた下僕の膝の上に向かい合う形で乗り、彼の頭を両手で抱えるように固定して唇を貪っていた頃、下界では大粒の雨が大地を潤していた。
 雲海の上では大きな気候の変化はないが、それでも煙のような濃い霧が朝から王宮を包み込み、宮に住まう神と仙と人の肌に溶け込んで彼らを憂鬱にさせた。明るく清潔な室内から、ふいに鬱蒼とした森にぽつんと置き去りにされたような、そんな不思議な日だった。

 よくできた人形、まるで精巧な玩具、置物のよう、作り物じみた麒麟の目は、陽子を更に憂鬱にさせた。じっと覗き込んでいると、否応無しに彼女に自分の責務を思い出させ、急き立てられるような嫌な気持ちにさせられるのだ。
 だから陽子は下僕の目を二つとも深く閉じさせて、何かを奪うように小さく開いた唇を機械的に何度も何度も押し付けた。景麒の両頬を包み込んでいる陽子の両の掌は焼けるように熱く微かに汗ばんでいたが、唇だけは冷たくひんやりとしていて、真夏のけだるい火照りをどこかに置き忘れて来たかのようだった。
 地に深く根を張っている雑草のような、力強い草色の目を大きく開けたまま下僕に触れては離れるを繰り返していると、長くて薄い蜂蜜色の睫毛が柔らかな瞼と一緒に切なげに小さくわなないているのが分かった。これから起こることに対する期待の表れなのか、それとも気紛れな主が次に何を言いつけるのか分からないことへの恐れなのか。

 まだ日も高いというのに堂室内は仄暗く、薄めた墨を流し込んで大雑把にかき混ぜたような陰気な闇に満ちていたが、景麒の肌だけはとけるような白さで、その目と同じくどこか作り物じみた印象を他者に与えていた。
 見ているこっちが暑苦しい、そう主が嫌がるので、麒麟の上半身を覆っていた黒の官服はしばしの間彼を守るのを止め、綺麗に畳まれて大人しく牀榻の上に鎮座している。今は薄い絹をゆったりと羽織っているだけで、真っ白な胸から腹にかけてが大きく露わになっていた。
 柔らかな景麒の唇に、獣のような尖った歯を立てながら涼しくなった? と陽子が問いかけると、麒麟は両目を閉じたまま抑揚の無い声で馬鹿正直な答えを返した。
「涼しくない、と申し上げれば嘘になりますが」
 肩を軽く震わせ、陽子はくつくつと笑った。普段は必要以上に口やかましい景麒だが、こうした陽子の気紛れな戯れにはとても従順で素直だった。

 陽子は時々果実を齧ったり生暖かい水を飲んだり、親鳥のような神妙な面持ちで両目を閉じさせたままの麒麟にそれを与えたり、そんな風にしながらしばらく乱暴に口付けていたが、満足したのかいい加減飽きたのか、ようやく下僕の唇に噛み付くのを止めると、彼の白い平たい胸から腹にかけてを指の腹でゆっくりとなぞりはじめた。円を描くように撫でてから、臍(へそ)の小さなくぼみに指を入れて軽くくすぐる。景麒は反射的に開きそうになる目をきつく閉ざし、気紛れな主の愛撫に身を委ねた。こそばゆさとはまた違った感覚がじわじわと彼を支配していき、解放された唇から溜め息が漏れた。

 陽子はこんな風に麒麟で戯れるのが好きだった。いつ見ても作り物のような身体で、人間には決して持ち得ない、どうにも抗い難い奇妙な魅力があった。だから時々無性に抱きたくなる。つねったり撫でたりくすぐったり噛み付いたり、贅沢な玩具を手に入れた子供のように無邪気に遊ぶのだ。
「そういえばさ、昔は麒麟にお臍があるのかどうか疑問だったんだけど、やっぱりあるんだよね」
 思ったより早く疑問が解消できた時はちょっと嬉しかった、陽子は独り言のように呟くと、滑らかな麒麟の腹部を綺麗に整えられた爪の先でそっと突付く。それから彼の肩口に歯を当て一瞬だけ力を込めてから離すと、うっすらと小さな歯型が残った。
 ぎらぎらと光る肉食獣のような目でそれをほんの少しの間眺めてから、呻くように「主上」と言う景麒の耳に濡れた唇を押し付けて囁く。
「嫌なら逃げればいいんだよ。命令はしてないんだから」
 陽子が戯れている間中ずっと閉ざされていた目を静かに開けると、景麒は主を見つめた。硝子に小筆で丁寧に彩色したような、繊細そうな澄んだ瞳だった。
「私を遠ざけないで下さい」

04/09/03

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