「MISSION IMPOSSIBLE Part T〜ミッション・インポッシブル・パート1」 



 何故このような事になったのか。
 景麒は花束を握り締めながら思う。
 あの時あそこを通らなければ……いや、浩瀚の誘いにのって将棋などしなければ……そしてあっさり負けなければ……

 ほんの数時間前の出来事である。
 あっという間に負けた景麒に、浩瀚はさらりと無理難題を言ってきた。
 もちろん景麒は「恐れ多い事」と断った。しかし……
「おや、景台輔ともあろうお方が、一度言った事を取り消されるのですか? 男同士の勝負なのに?」
畳み掛けるように言葉を紡ぐ浩瀚に、景麒は言葉に詰まる。
 誘いにのったのは仕方がないとして、何故負けた方の言う事を聞くという賭けなどしたのだろう……
 後悔にさいなまれる景麒に、更に浩瀚は続ける。
「台輔はお嫌なのですか?主上をお誘いするのが?」
「それは……嫌という訳では、ないのですが……」
「では頑張って下さい。陰ながら応援させて頂きます」

 景麒を呻かせている、その内容とは――

『花を渡しながら主上をデートに誘い、一日過ごす事。その際何か主上に贈り物をする事。そして必ず一度は主上を綺麗だと褒める事』
 まさに無理難題である。さすが浩瀚であった。

 そして、現在に至る。
 景麒はじっとりと汗で濡れた手を握り、花束を見つめた。
 意を決して中に入ると、陽子が書類から顔を上げる。
「何だ、景麒。まだ終わってないぞ」
 景麒は出来るだけ平静を装いつつ花束を主に差し出す。陽子は訳が分からずそれを見つめた。
「どうしたんだ、それ」
「その……これはその……縁起がいい花なので主上に……」
 女性に花束を渡す時の台詞としては、最悪ではないがあまり気の利いていない言葉だが、ともかく景麒は切り出した。
 陽子はありがとう、と言って受け取る。
 しばし沈黙が流れる。
「それで?用はそれだけなのか?」
 陽子の言葉に景麒は一番重要な事を思い出す。
「いえ、あの……主上は最近お疲れのようですので、明日は政務をお休みして少し休まれ……」
 景麒がそこまで口にした途端、陽子の顔が輝いた。
「明日休んでいいのか? 政務なしで?」
「はい。それであの……」
 しかし景麒が肝心な事を言う前に、陽子はいきなり立ち上がると隣の控えの間に声をかける。
「鈴、祥瓊――!明日私休んでいいみたいだから、どこかに遊びにいかないか!」
「あ、あの主上、そうではなくてですね……」
「何だ? 休みじゃないのか?」
「いえ、休んで頂いてよろしいのですが――」

 景麒が皆まで言い終えぬ内に陽子はその場から風のように消えた。
 後に残された景麒は、主の残したやりかけの書類の束を無言でこなしていった。

 仕方なく失敗した旨を冢宰に伝える景麒だったが、
「おや、やはり失敗ですか。では、もう一度最初からですね」
そう晴れやかに言われ固まる。
「頑張って下さい、台輔」
 実に楽しげな浩瀚の言葉を背に受けながら、景麒は陽子の残した政務の続きを片付けるべく力なくその場を後にした。

――任務失敗――



To be continued……


03/02/01

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Part Tです。続きます。
デートとかカタカナ語でおかしいですがもうその辺は翻訳機能ということで気にしないで下さい……

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