悪酔い
月が綺麗だったから…というのは建前だったかもしれない。
雑念を振り払うように再び酒にと手を伸ばす。
「酒は楽しんで飲むのものだぞ?」
伸ばした指先が触れる前に、酒瓶が春華によって遠ざけられる。
「楽しんでるよ〜春華、返して」
「楽しんでる奴が、んな暗い目ぇしてんのかよ」
「……っ」
こつん。
と頭を小突かれ息を飲む。
上手くごまかせたと思っていたのに。
「もう…分かったから返して」
伸ばした指先は、春華が持つそれに触れる前に絡め取られた。
「…ぁ」
畳に転がる酒瓶に瞳を奪われた隙に押し倒される。
「勘太郎…」
「…ちょっ」
耳元で囁かれれば、耳が熱い。
流されそうになる思考を繋ぎ止めて、躰を捩り近くに転がる酒瓶を手に取った。
「…?」
「こぼれたら、困るから」
苦笑し、少し遠ざける。
器にはまだ少し、酒が入っていて。
「月が映ってる」
「……あぁ」
後ろから抱き込まれ、伸ばされた指先が器を掴む。
「…ぁ」
そのまま酒に口を付ける春華に視線を合わせる。
「…飲むか?」
「え…?」
「ほら」
ぐっと掴まれ、口付けられる。
とろりと喉に流れ込む熱い液体。
開けていられない瞳が、さらにきつく閉じられた。
酒と共に絡む舌先に、畳にと震える爪先が食い込む。
「ふっ……」
「もう少し…か?」
「……っ」
再び流れ込んでくる液体に頭がくらくらした。
普段これぐらいで酔うことなどないはずなのに…。
「…春華」
「どうせ酔うなら…こんな風に酔え」
「……なっ?!」
濡れて光る口元を緩め、くすりと笑う。
多分、自分も春華と同じだろう。
その想像に赤くなるのを止められない。
「勘太郎?」
「あ〜もう!!春華ってばタラシ〜!!」
「……なっ」
「どこでそんな台詞覚えたのさ」
「お前な…」
「……ふふ」
「……」
「ごめん…ありがと、春華」
視線を逸らし、口早に言う。
春華がそんな自分の頭をゆっくりと撫でる。
その感触に瞳をゆっくりと閉じた。
戻
裏、逝く?
2004.12/28 如月修羅
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