枯れない花

静雄さんからのメール。
最初は短文だった。
すごく静雄さんらしい一言。
“飯は食ったか?”
そんな言葉一つだけでも嬉しくてうれしくて、つい長文でメールを送ってしまった。
僕ってどうしてこう…メールやチャットだと喋っちゃうんだろう。
その分会ってるときにおしゃべりできたらいいのに。
なかなかうまくいかない。
テスト期間前とテスト期間中を混ぜて一週間と三日間。
静雄さんに会えないのになぁ。
〜〜〜♪♪
「あ、メール」
最初の短文メールから、今日で五日目。
結構長文になってきていて、さらに返信も来るようになっていたからすごくうれしい。
静雄さんはあんまりメールをしないイメージがある。
それが、僕のために時間を割いてメールを送ってくれるなんて。
なんて嬉しいことなんだろう!
知らず知らず口元が笑みを作るのがわかる。
「…え」
けれど、それはメールを開くまでの間だけだった。
「……なん、で」
“もうメール寄こすな”
最初の頃と同じ短文メール。
なんでどうして?
シャーペンが転がっていく。
あわてて怒らせたのかと昨日までのメールを見るけれど、とくにこれといって可笑しい点はない。
「どういう…」
震える指先で返信メールを打つ。
「なんで…」
〜〜〜♪♪
「……っ」
普段なら嬉しいメールの着信音が怖くて、一瞬躊躇してからメールを開く。
やっぱりそこには絶望的な文字しか書かれてなくて。
“お前にあわせるの、面倒だ”
「ごめんなさ…っ」
ぽろぽろ涙がこぼれてくる。
嬉しくてついつい何度も送っちゃったけど、そうだ、静雄さんは働いてるんだ。
僕に無理してあわせてくれてたのに違いないのに、そこまで頭が回らなかった。
どうしよう。
送らなければまた話してくれるだろうか。
それとももう話してもくれないだろうか。
〜〜〜♪♪
さらに追加できたメール。
“当分会いたくない”
目の前が真っ暗になった。
かなり怒ってる。
どうしよう、怒らせるつもりはなかったのに。
あわてて立ち上がって、ドアをとっさにあけた。
会いたくないって言われても、一言謝りたくて。
あぁでもそんなことしたら嫌われちゃうのに。
どうしようどうしようどうしよう
せめてちょっとだけ、一目だけみてそれからどうするか決めよう…。
混乱した頭でそこまで考えたところで、誰かにぶつかった。
「いったー」
「すみません!」
「あれ、帝人君、どうしたの?」
「…臨也、さん…?」
不思議そうな顔をした臨也さんが立っていた。
どうやら前を見てなくてぶつかってしまったらしい。
なんだか臨也さんの姿を見た瞬間、ふっと気がゆるんでしまった。
「え、ちょっとどうしたの?!」
「す、すみません…っ」
臨也さんは正臣に近づくなといわれていたけれど、僕には悪い人には思えなくて。
なにかと助けてくれたのは臨也さんだ。
まぁ少し…警戒しないといけないところがあるのはわかってはいるのだけれど。
「泣かないでよ。そうだ、公園で少し休もうか?」
「…はい」
「話きくからさーもう本当どうしたの、帝人君」
困ったようにそう言って、頬に少し冷たい感触。
それが涙をぬぐっていってくれる。
やさしい。
「あ、飲み物買ってくるからベンチ座ってて」
「すみません…」
「いいよいいよ」
それから少ししてジュース片手にやってきた臨也さんにさっきまでのことを報告する。
そうしたら、少し困ったように臨也さんが顔をしかめた。
「その…悪いんだけどさ」
「はい?」
「んーシズちゃんって俺がいうのもなんだけど言葉が足りないっていうか」
それは、否定しない。
「はい」
「簡潔すぎるところがあるからさ」
「…はい」
「ここからは独り言としてとってほしいんだけど」
と前置きして、臨也さんが言った言葉は。
持っていた缶ジュースを下に落とすには十分で。

『シズちゃん、なんか今付き合ってる人居るみたいだよ?』

「な…」
「俺も吃驚したんだけどね?女性と会ってるの見たって人居てさ」
「…それは、」
「なんか親しげに話してたみたいだよ?弱み握れたかなーって俺は喜んでるんだけど…帝人君?」
心配そうに覗き込んでくる臨也さん。
少し赤い瞳がこちらをみる。
「どうしたの?具合、悪い?」
「大丈夫、です」
「ごめんね。一応伝えておいた方がいいかなって思って」
「ありがとう、ございます。僕勘違いするところでした」
「うん?」
「そうです、よね…」
男の僕なんかに、静雄さんが興味を持つわけないんだ。
なんで気がついちゃったんだろう。
気がついた瞬間に失恋なんて。
なんて笑えない。
「んー帝人君、当分会わない方がいいと思うんだ」
「そう、ですね」
「うん。それに…その、ごめんね?」
「え?」
「なんか余計追いつめちゃったみたいだ」
そっと触れる指先。
優しい指先。
危険人物なんて到底思えない。
優しさにすがってしまいそうになる。
「いいんだよ、泣いて。泣くのは当たり前だもの」
「…っ」
「うん、つらいね…」
「……臨也さ……」
「うん」
それから臨也さんは僕が泣きやむまでずっと一緒に居てくれた。
何度も背中をなでられて、安心する。

「俺でよかったら、また話をきくからさ」

優しいその言葉に、うなづいた。

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2010.8/16 如月修羅

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