散り行く葉はまるでヒトの命のようで、儚く。
その手に触れて堕ちるまでの時間が愛しい。


「最近城内を何かがうろついております」
「そのままにしておけ。害は無いのだろう?」
その影は小さな道士。
時折見せる後姿が愛らしい。
揺れる黒髪はまだ幼く、かすかに覗く横顔は子供の様だ。
(顔くらい見せてくれてもいいような気もするが……)
姫昌は少女の気配を感じながら職務をこなしていた。
小さな影は決まった時間にだけ現れ、そしていつの間にか消えているのだ。


芽吹きの季節が穏やかに終わりを告げ、緑に彩られる世界。
同じように揺れる髪はほんの少しばかり、長くなった。
(さて、どうするか……)
物陰からいつもこちら見ているのに、見つめ返そうとすれば顔を背ける。
その横顔だけ、いつも。
道士見習いなのか、まだ完全に気配を消すことが出来ないその姿。
(よいか。悪いものでもない)


その日も同じように彼女はこの城にいた。
違ったのは帰る手段が無いのか何時までもその気配があるということ。
(喧嘩でもしたか?道士も大変だな)
うろうろとする影にそっと近づく。
「これはこれはお客人」
「!!」
後ろから抱きかかえられて彼女はばたばたと手を動かす。
「還る手段を無くしたか?」
「……そのとうりじゃ……」
業を煮やした白鶴童子は彼女を残して崑崙に還った。
残されて途方にくれながら沈む夕日を見つめていたのだ。
「名前は?」
「……呂望……」
「よい名前だな。俺は……」
「昌。知っておるよ」
笑う呂望の顔は予想していたよりもずっと幼く。
昌の心の奥に沈んでいった。
きらきらと輝くその欠片は、刺さって抜けない。



崑崙に還ることを拒否して、彼女はこの城の客として住まうことになる。
付かず離れず、昌の傍でその仕事を手伝う。
「呂望」
触れてくるその手。それだけで鼓動が早くなるのが分かる。
人間であることを捨てきれない彼女は、恋をした。
それは仙道にとっては最も不必要なもの。
「昌……」
風に揺れる想い。
ただ、傍に居たかった。



何度目かの夜を見送って、一緒に居ることが当たり前になりそうだった。
自分の名を呼ぶその声が耳に心地よい。
「呂望」
「月を見ておった。綺麗じゃのう……」
欄干に腰掛けて、彼女は天を仰いだ。
その顔を覗き込み、そっと唇を合わせる。
「お前も綺麗だぞ」
「……おぬしもな……」
ヒトは寂しさを嫌って嘘をつく。
「ますます還れなくなる……」
帰れない。帰れずに。
「帰すつもりも無い……」
静かに、静かに絡めあう。
ただ、知るのはこの月ばかりと。




テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル