〜〜〜〜趙公明攻略 慕情〜〜〜〜


人間を狂わせるのは簡単なこと。
骨まで溶ける様な恋に堕とせばいいだけ。



「さて、ここが三階か……酷く蒸し暑いのう……」
額に浮き出る汗を拭う。
じめじめとした熱気が空気を支配し、道衣が身体に張り付く。
「次はあたしが行くわ」
五光石を手に蝉玉が笑う。この先に閉じ込められているのは恐らくは土行孫。
そう踏んでの行動だ。編み上げられた栗色の髪は二房。
「それに、太公望じゃこの壁触れないでしょ。天化じゃ通れないし」
目の前には宝貝合金の壁。わずかばかり隙間はあるが男の天化では通れない算段の狭さ。
かといって太公望が行くのならば触れただけでも大打撃は確実だ。
「それに、今のあたしにはパワーアップした五光石もあるしね」
手に持った瑠璃色の石。先刻に太乙が分解し、リミッターを外したばかりだ。
吸い取られる仙気の強さと確かな感触。
「あたしにも守りたいものがあるの。あんたたち二人ならわかるでしょ?」
「ああ、でも俺っち友達が目の前で死ぬのを見るのは忍びないさ」
「何よ!あんたあたしを馬鹿にしてるわけ!?」
ぎゃあぎゃあと言い合う二人を見ているとここが敵地のど真ん中だということを忘れてしまいそうになる。
子供が二人。同じような年頃だ。
「太公望!ちゃんと飼育しておいてよ!このお子様!!」
「何さっ!!このガサツ女が!!」
「おぬしらを見ておると気が抜けるよ。さて、蝉玉よ」
太公望はが指先をすい…と動かす。
隙間の先、どうやら溶岩が蠢いているらしい。熱気と湿気はその副産物だったのだ。
本来ならば風の守護を受けている自分が参戦するのが相性的には最適であろう。
だが、今はそれができる状態ではない。
もしくは攻撃力と破壊力のある天化。断層が進むにつれて敵もより強くなっている。
蝉玉を向かわせることは「司令官」としては得策には入らないのは明確だ。
だが、この女の思いの強さは三人の中でも随一。
人は心で強くなる。ならば、彼女に賭けてみるのも策の一つだ。
「ここはおぬしに頼みたい。わしはこの有様だ」
「任せなさいよ。このあたしに」
「無事で帰れとは言わぬ。無傷で帰ってこれるとは思ってはおらぬからな」
冷静さを欠くことなく、彼女は続けた。
「土行孫と二人、生きて帰って来い。おぬしにはまだまだやってもらうことがあるからのう」
同じ女として生きるしかないのだから。蝉玉の想いは分かるつもりだった。
「任せなさいって!!」




物騒だと思うのは物々しい装備の道士たちだと彼女は口だけで笑った。
「普賢様、御同行願います」
「何のために?」
分かりきっていても、普賢は笑みを浮かべる。しらを切ってみるものまた一興と。
「封神台のことについてです」
「異常は別段無いみたいだけれどもね……」
す…と両手を前に出す。
「連れて行くなら連れて行きなさい」
「普賢!!」
道士に囲まれて、彼女の手に枷がつけられる。
封神台に進入し、書き換えを行った実行犯として連行するというのだ。
「封神台に異常が無いのならば普賢を捕らえる必要は無いのではないか?」
「道徳様、お二人の御関係は私共も知っている所存です。庇い立てするならば道徳様も謀反の者として
捕らえるようにと教主の命令でございます」
道士たちの後ろから現れたのは白鶴童子。
教主愛弟子の一人。原始天尊の留守を預かる妖怪仙人。
「普賢真人、御同行を」
普段見慣れた白羽の鶴ではなく、人型をとって道士達の指揮を取る姿。
「道徳真君、あなたもです。危険因子を野放しにすることはできませんから」
二人の手に、枷が付けられる。大仙と言えどもそう簡単に外すことのできない仙気封じの手枷だ。
冷たい金属の感触。錆びた銅のような色合い。
「白鶴童子。少し待ってはもらえぬか?」
「玉鼎真人……」
二人の前に歩み出て、庇うようにその姿を隠す。
「この二人が謀反を?仮にも師表に名を連ねる大仙二人だぞ。そこまで愚かしいことをするとは思えぬが?」
玉鼎真人はヨウゼンの師匠。十二仙に籍を置き、普賢とも近しい間柄だ。
冷静さと理論。間合いのとりかたは右に出るものは居ない。
そもそも十二仙とはどこかしら教主よりも秀でたものが在するもの。
玉鼎真人とて例外ではなかった。
「その二人を連れて行くんなら、俺らも黙っちゃいらんねーんだけどさぁ」
陰陽鏡を手に皮肉めいた笑いを浮かべるのは赤精子。
「いくら教主といえども十二仙すべてを敵に回すような愚行をするとは思えないが」
「黄竜……」
ぱちんと普賢の枷を外しながら黄竜は道士たちを一瞥する。
「ようやく十二仙すべてが揃った。それの何に問題があるのだ?」
「わかりました……原始天尊様が御戻りになるまでお二人の処罰は遅延しましょう」
苦々しく笑い、白鶴童子は道士たちを退かせた。
「ただし、厳罰は御覚悟を。それでは」
黄竜はぽん、と普賢の肩をたたいた。
「あまり無茶なことはするな。驚いたぞ」
「どうして分かったの?」
「道行だよ。全部聞いてきた。ご苦労だったな、普賢」
褐色の手がくしゃくしゃと髪を撫でる。秘密裏だったことを彼女は告白したのだ。
守るべきものをそれぞれが持つ。守りたい人がいる。
「俺たちは何のための十二仙なんだ?飾りだけなら十二人も要らないだろう?」
存在意義を、生存理由を考える。
「何のための封神計画だ?誰のための?」
自分がここに居るための必要性を。
「思った以上に裏があることくらいしか分からないけれども……」
生まれてしまった疑問は、消すことはできない。
「でも、みんなが居てくれるなら、どうにかなりそうな気がしてきたよ」
真実を知るまではもう少しだけ時間が必要だった。
それでも時間は刻々と差し迫ってきている。
焦り、不安、恐怖。
捨てたはずの感覚がふつふつと蘇ってくる。
「玉鼎、ちょっとだけいい?」
「私が普賢の誘いを断わる理由は無いぞ」
「よかった。話したいことがあるんだ」
邸宅に招き入れて、普賢は席を勧める。
「道徳は帰ってても大丈夫だよ」
「心配で帰れません。玉鼎と二人きりっていうのは俺的に許せません」
「真面目な話なんだけど……頭痛くなるかもよ?」
「そこまで馬鹿じゃないと思いたいんだが……普賢」
「冗談だよ。ちゃんと聞いててね。大事な話だから。だから……玉鼎に残って貰ったの」
普賢は呼吸を一つ置いて、言葉を紡ぐ。
逃げることをやめて、向き合う道を選んだ者の声。
「前に一度だけだけれども、望ちゃんに封神の書を見せてもらったんだ」
封神の書に記されたものの名前は百八十余名。それに予測不能の者を入れて三百六十五名。
それがこの封神計画で落命する者の総数だという。
「でもね、崑崙の道士の名前は一人も無かった」
「こちらの道士は誰が落命するか予測不可能だからではないのか?」
「そう?予想なんて簡単につくでしょ?まずは……ボクたちってところかな」
「……至極冷静な意見だな」
「弟子だけ参戦させて師表が十二人も御茶会してていいと思う?」
指を組みかえる。不安を紛らわす時の癖だ。
その手を取って、道徳はそっと握った。
「もし……封神の書が二つあったらどうだと思う?」
「二つ?」
「望ちゃんの性格をしってるでしょ?もし……仲間が死ぬことを始めから知っていたら……
この計画の実行者になるとは思えない。だから望ちゃんには金螯の側の封神の書を渡したと仮定するよ。
そうすれば望ちゃんはこの計画を遂行する。仲間が死ぬのをみながらね」
曇る瞳。仮説を出すことですら彼女にとっては苦痛の一つだった。
「だれも犠牲にならない戦争なんて在りえない。ボクたちが皆……生きて帰ってこれる保障なんて
ないんだ。でも、望ちゃんは誰も死なせたくないって言うの……それが無理なことだって分ってても。
腕を失くしても、傷だらけになっても、誰も死なせたくないって……」
震える指。きゅっと握って絡ませた。
「ねぇ、玉鼎。罪って何?」
「罪?」
「太乙が道行を助けたことは罪なの?」
教主の命に背いて、彼は最愛の者の魂を救い出した。自分に降りかかる火の粉を払いもせずに。
「でも、ボク、太乙の気持ちが分るよ」
「普賢……」
「大事な人があんなところに閉じ込められたらボクだって同じ事をする。転生すら不可能な魂の
監獄。自力でなんてどうすることも出来ないなら、力尽くで行くしかないじゃない」
一度封じられれば、内側から破ることなど出来はしない。
「天数、天命……そんなものに縛られなきゃいけないの?始めから死なせるためにボクはここに連れてこられたの?
ずっと考えてたんだ。どうして十二仙になれたのか。どうしてボクだったのか。封神計画の遂行者が
望ちゃんだったのか……ずっと考えてた。そしてでたのがさっきの答えだよ」
「太公望とお前は教主の懐刀のようなものだからな……」
「玉鼎はもし……大事な人が封神されたらどうする?」
玉鼎真人は小さく笑った。
「そうだな……同じことをするだろうな……」
「誰かを好きになることは罪なの?」
仙道に恋は必要無い。そう、教えられてきたはずだった。
「もしそれが罪ならば……教主自らがあんなことをしてまで道行を閉じ込めていたのは何のために?」
忘れようとして、忘れられない。罪を共有することを選んでくれた女性。
そして、その罪は自分ひとりが背負えばいいとした。
誰にも渡したくなかったからその半身を封神台に埋め込んだ。
自分以外のものが触れることが出来ないように。
他の男が何度抱いてもそれは欠けた身体だとあざ笑うかのように。
「結局は皆同じなんだ。好きな人がいたら何も見えなくなる」
「ああ……それが叶わない恋でもな。私もヨウゼンのことは笑えぬ立場だ」
「………」
「まぁ、人の心は移ろい易いからな。何時道徳に飽きるかも知れん。気長に待ってることとするよ」
どれだけ夜を見送って、朝を迎えても。
ここにキミが居ないと思うだけで体感温度が下がるから。
「玉鼎」
「どうかしたのか?」
「いろんな意味で、ボクは玉鼎が好きだよ」
その言葉に嘘はない。
「だが、私が思う好きだという気持ちとは違うだろう?」
「多分……」
言葉は無意味に沈むから、迂闊に出すことが出来なくなる。
それでも、その言葉を欲しがるのはきっと「心」がまだ生存しているからなのだろう。
「お前の声は呪文だな。それだけで私を拘束し、操ることができる」
「玉鼎……」
「あの御老人からお前を守ることくらいなら私にも出来よう。言っておくが道徳に手を貸すわけではないぞ。
私はお前のためならば力を貸すといってるわけで」
「ありがとう……」
後姿。振り返らないで玉鼎は呟いた。
「この先、お前が私に惚れないという保証もないしな」
ゆっくりと運命は近づいてくる。素知らぬ顔で。
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