「きゃははっ!いーちゃんが三人っ!四人っ!分身分身っ!」 「…」 「ほらいーちゃんも飲みなよ。ヒューストンでのトラウマなんか気にしないないないっ!」 困った。というか、最初の方はよかったのだが。 飲み物を注いでくれたり、ピザを切り分けてくれたり。玖渚なりに僕をもてなしてくれていた。 まぁ、自分でやった方が早いのは確かではあるが。 料理はどれもいい値段がするものらしく、味は満足のいくものだった。 しかしパーティを始めてから三十分程して、玖渚に異変が起きた。 「維新、全開ーっ!」 意味もなく大声を出したり。 「創作料理とかしてみない?あ、コーラってドレッシングっぽいかも!?」 サラダにコーラをかけてみたり。 頬は紅潮し、いつも以上にへらへらしている。 僕がさすがに疑問を抱き、やたらと大きいテーブルを見渡すと― 「あちゃあ…」 いかにも高そうな洋酒のボトルが、空になって転がっている。 僕が飲んでいたのは確かにジュースだったのだが、玖渚は知ってか知らずか酒を飲んでいたらしい。 慌てた僕が向き直ると、玖渚が別の酒をラッパ飲みしているところだった。 そしてまぁ、今に至る。 巫女子ちゃんの飲酒モードは大したものだったが、あれでも比べ物にならない。 シャワーというよりは滝。 言葉のキャッチボール精神を完璧なまでに無視し、豪速球をひたすら投げ込んでくるような。 そんな玖渚のハイテンションに圧倒され、いーちゃんは途方にくれていましたとさ。 「どうするかな…」 「どうもこうもないよ。ささ、ぐいっといってよいーちゃん」 なみなみと酒の入ったコップを突き出してくる玖渚を押しとどめ、僕は嘆息した。 「酒臭っ……何度も言っただろう?僕は酒は飲まないことにしてるんだって」 「僕様ちゃんの酒が飲めないのかー!」 「何でキレるんだよ」 元『チーム』のリーダー、玖渚友。 その頭脳は間違いなく人外のものだが、年齢は十八。 肉体的には普通の…いや、普通以下の子供だ。 傍からどうみても、玖渚は完全にできあがっている。 「友、いいからちょっと離れろ。水もってきてやるから」 「水ならここに沢山あるじゃない?」 「それは酒だ」 ひっついてくる玖渚を何とか引きはがし、台所に一時退避した。 蛇口を捻り、コップに水を注ぐ。 そして早足で部屋に戻 「…は?」 がちゃん。完全に硬直した僕の手から、コップが滑り落ちた。 プラスチックだから割れはしなかったものの、辺りに水が広がっていく。 だが。それどころでは、ない。