「ねぇ、まだ〜?」 「うん…もうちょっとかな」 「えー?さっきももうちょいって言ってたのにー」 8月らしい暑い日曜日、その午前10時半。 高嶺さつきはいかにも暇そうに、枕に顔を埋めて足をばたばたさせた。 彼女がいるのは、親友である松本智恵の部屋――の、ベッドの上。 ほどよくクーラーの効いた中、部屋の主は真面目な顔をして机に向かっている。 「まだひと月くらいあるし、宿題なんかあとでいいじゃんよー。 夏休みなんだからとりあえず遊ぼうってば」 「だーかーら、もうほんの少しだって。さっちゃんだってまだ終わってないでしょ? まさか、今年もあたしの写すつもりじゃないよね?」 「ん?当たり前じゃん」 「…否定しなよ」 二人の関係は、おおまかに言えばこの会話から分かる通り。 端的に言えば、さつきがボケで智恵がツッコミといったところだろうか。 さつきは今、智恵が勉強をきりのよいところまで進めるのを待っている。 彼女は既に15分程をベッドの上で過ごしており、そこにあった熊のぬいぐるみを いじくりまわすのにも飽き飽きしていた。 「ともちゃーん。あとどのぐらい?」 さつきはベッドから起きあがり、同じ質問を繰り返す。 小学5年生にとって、10分単位で何かしらをじっとして待つという行為は苦痛以外の何でもない。 とりあえず、智恵の肩越しにノートを覗いてみるさつき。 「うあ……今日の朝だけでこんなにやってるの?」 「さっちゃんも、早い内に進めないと後悔するよ」 ノートには智恵の綺麗な字がびっしりと書かれていた。 現在取り組んでいる宿題は漢字の書き取り。 量もさることながら、これは他人のものを写す意味がない。 なので、さつきも早く取りかからなければいけないはずなのだが… 彼女はいつも、宿題は切羽詰まってから始める(大概間に合わない)タイプなのである。 「あーあー、真面目なもんだねぇ…そんなに漢字が好きですか」 「好きじゃないけど、やらないわけにはいかないでしょ」 「夜でいいじゃんよー」 さつきは智恵の両肩を掴み、がくがくと揺さぶる。 「ちょっ、字ぃ変になっちゃったじゃん!邪魔しないでよ〜」 「だって暇なんだもん」 退屈さに耐えかねたさつきは、ついに智恵にちょっかいを出し始めた。 後ろから髪をひっぱったり、字を書いている右手を掴んだり、ノートに手を置いてみたり。 しかし、智恵もペースを乱されつつも、半ば意地になって勉強を続ける。 「もぉー…ともちゃん、頑固なんだから……」 一通りのいたずらを試してみても、どれも大した成果が上がらなかった。 これでは宿題の終わる時間が遅くなるだけ損だ。 「あと1ページだから。いいから大人しく待っててよ」 「う゛ー」 万策尽き、諦めたように一歩下がるさつき。 しかし。智恵の無防備な後ろ姿を見て、また1つのいたずらを思いついた。 さつきは再び智恵に近づき、ぴっと人さし指を立てる。