それから日々は怒涛のような勢いで過ぎ、数日後にはルドルフ学院の校舎の前に立つこととなる。

 二年生で、しかも秋の編入ということもあり、早ければ早いほど良いというのが先鋒の云い分だった。

 懸念していた親の反応だが、聖ルドルフ学院が中・高の一貫教育であることと、新設校といえども有名大学の附属校ということもあり、特待生ゆえの寄付免除で編入できるのならと喜んで賛成してくれた。

 通学にしても、寮施設完備ということであっさりと問題は解決し、中学生にして家を出ることも早々に決定。あれよあれよと云う間に、押し出される形で赤レンガの門を潜ることとなった。都内といえども、神奈川との県境に近い場所にあるルドルフ学院は、閑静な住宅街に囲まれてある。異国情緒溢れた雰囲気の門構えと校舎で、建物自体はまだ新しいのだがデザインが重厚で古めかしい。本当に古くて、海風の為傷みの酷かった六角中学の校舎とは雲泥の差である。正門から教会へ続く道の花壇や庭木ひとつとっても、金がかかっているのが一目瞭然。
 新しい制服が間に合わなかった淳は六角中学の夏服で、白地の半袖のYシャツに黒ズボン姿は、瀟洒な建物が並ぶ学園内では完璧に浮いていて物怖じしてしまった。下校する生徒達と擦れ違うと、必ずといってじろじろと見られてしまうことにも辟易する。人の目を避けるようにして、足早にテニスコートを目指した。

 転入手続きは二日前に一度母親と訪れ完了しており、実際に登校するのは明日からなのだが、入寮するために一日前に家を出てきた。昼頃に辿り着き、生徒のいない寮で荷物を整理していたのだが、どうせなら部活だけでも先に顔を出してみれば、と寮母の勧めもあり出向いてきたのである。

(確かコートって教会右に曲がってまっすぐだよな)

 最初に訪れた折に紹介された校内全体図を思い出す。長い並木道を抜けると、日本人には馴染み少ない教会現れる。全校生徒を収容できるほどの敷地面積を持つ教会は、厳かで優麗たる佇まいだ。淳は産まれてこのかた教会というものに入ったことがないので、純粋に興味を惹かれ見上げた。

「ようこそ、ルドルフ学院へ」

 声をかけられ、そちらに顔を向ける。教会の柱の前にジャージ姿の観月が立っていた。

「観月…さん」

 部活が始まっている時間帯ではないのか、と疑問に思うも、察しの良い観月が即座に「寮母さんから連絡がきてましたから」と答えた。

 よくよく辺りに目をやれば、観月と同じジャージ姿の生徒が三人いた。自分を待っていたテニス部員だと知り、思わず緊張する。

 観月は嬉しそうに転入生を迎えた。

「んふ、よく来ましたね木更津亮くん」
「淳です」

 これまでの人生で何千と繰り返した遣り取りなので、考える間もなく咄嗟に訂正していた。

 大概はこの後「あ、ごめん。淳くん」と続くのだが、観月は笑顔のまま固まっている。

「――――はい?」

「あれ?」

 淳もここで名前を間違えられるということがどういうことか、深く考えると恐い答えしか出てこない気がして背筋が凍った。

「木更津…亮くんですよね?」

 なおも問うてくる観月に、嫌な予感が確信に変わる。

「あの…亮は双子の兄の名前ですけど」
「ふた…ご?」
「双子」
「えーと…」
「一卵性です。オレと同じ顔してます」

 駄目押しで説明すると、観月は上を見て下を見て――沈黙した。

「観月……」

 背後で部員のひとりが、疑わしげに声をかける。もう一人はブハ! と吹き出した。

「観月、間違えただーね!」

 グサリと淳の心臓にその台詞が突き刺さる。

「え…えーっ! 双子ですかっ。クソ、どうりで紛らわしいっ」

 しかもスカウトしてきた張本人が「クソ」ときた。

「なにお前。間違えてスカウトしてきたのか?」
「うるさいっ、バカ澤!」
「ええ〜、間違えてきたお前にバカ呼ばわりされるの、オレってば」
「喧しいと云ってるんだ! 大体、本当にそっくりなんですよ。まさか同じ顔の人間が二人居るだなんて思わないじゃないですか!」

 逆ギレの挙句、開き直り。

 淳はとにかく呆気に取られて、立ち尽くした。

「きみ! ええと、淳くん」
「はい」
「顔が似ているのに、髪型まで一緒だということが解せません。どっちかが伸ばすなら、どっちかが切るのが常識というものです」
「えええ〜〜〜?」

「凄いオレ様発言だーね」

「観月、非常識って言葉知ってるか?」

 突っ込みさえままならずいる淳に代わって、アヒル口で個性的な顔立ちの少年と、長身で浅黒い肌の少年が呆れたように云った。
 数瞬後、二人は腹を抑えて悶絶することになる。
 目にも止まらぬ速さで観月がボディーブローをお見舞いしたからだ。黒羽に劣らない、容赦ない攻撃に淳は青褪める。
 高飛車ではあるが、か弱そうに見えた観月の意外な凶暴たる一面を目の当たりにして、もはやどう対抗すればいいのかわからなくなった。

(そもそも間違われたオレの立場は? 亮と変わるべきなのか? ってか間違って転校ってありえなくない?)

 この場合、謝罪をするのはどちらなのだろう。間抜けなことを真剣に考えてしまうほど、淳は混乱していた。

「んふふふふふふふっ」
「え…っ」

 突如、観月がどっからか取り出したのは切れ味良さそうな新品のハサミ。

「な…なにスルツモリデスカ」
「ご想像通りですよ。大丈夫です。僕、器用ですから」

 にっこりと笑顔の観月に、素で退く。

「ええええ―――っ!」

 淳のルドルフ学院生活初日は、こうして驚愕・戦慄・恐怖のトリプルカウンターを受けて始まったのだった。

 

 






 

 …東京の学校に転校したいんだ。

 意を決して亮にそう打ち明ければ、初めは目を丸くし、次いで訝しげに細められた。

『――何云ってんのお前』

 冗談だと思ったらしい。

『もう母さんや父さんには相談して、OK貰ってるんだよね』

 続けて伝えると、『はあ?』と間の抜けた声で返された。


『本気かよ』
『うん』
『母さんと父さんはいいって?』
『うん』
『ふーん。つか、なんでいきなり東京なのさ』

 適度に散らかっている亮の部屋は、自分の部屋と違い物に溢れている。回転椅子に座っていた亮は、背もたれに顔を乗せて片割れを責めるように見た。何の相談もなしに勝手に決めてしまったことに、やはり後ろめたい気持ちがあり萎縮するも、転校に至るまでの経緯を説明している最中、亮は渡したパンフレットをまじまじと眺めていた。

『スカウトか。凄いじゃん。なんでお前なのかわからんけど』
『オレもわからないし。でも、こんなチャンス滅多にあるものでもないしさ』
『そうだな。やりたいことやれば』

 意外にもあっさりと応諾を得られて、淳は拍子抜けしたものだ。頭ごなしに反対されるとは思っていなかったが、それでももっと別の反応が返ってくると予想していたのである。

『いいの?』
『いいもくそも、もう決定事項なんだろう?』
『そうだけど…、いいのかな』

 ニュアンスを微妙に変えてしまった。黒羽の云った通りだと思う。自分は最後の最後で、結局亮の意見で決定か否かを決めるのだ。知ってか知らずか、亮は面倒臭そうに髪を掻きあげて『いいんじゃねーの』と呟いた。

『キレイなとこみたいだし。設備が整ってて、スクールも通わせて貰えるんだろう? 最高じゃん。オレが行きたいくらいだぜ』
『亮ちゃんも行く?』

 学校や友人の前では決して使わないが、淳は亮を『亮ちゃん』と呼ぶ。幼い頃からどうしても抜けない習慣のひとつだ。しかし亮のほうはいつからか自宅でも『淳』と呼び捨てたままだった。

『行けるわけねーだろう。オレ、今の仲間と離れたくねぇもん』
『亮ちゃん…』

 淳は言葉に詰まった。逡巡して、悩みを打ち明ける。

『オレ、冷たいかな』
『別に冷たいなんて思わないよ。お前の行く道を決めるのはお前なんだし。あいつ等だってそれがわからないほどバカじゃないだろう。ただ、お前が寂しいってのはなしだからな』
『………』
『お前はここじゃない、新しい場所に行きたいと思って、自分で選んだんだ。行った先でうまく行かないからってさっさと帰ってくるんじゃねぇぞ』
『酷い…。普通そこって何かあったらすぐに帰ってこいよ、ってのがセオリーなんじゃないの』
『甘えてんじゃねぇよ。ってか、他の奴等だったらそう云うだろうし、親だってお前に甘いからそう云うだろう。オレまでお前甘やかしてどうするんだよ。いいか、すぐに帰ってきたら蹴飛ばして家から追い出すからな。誰も云わないだろうから、オレがきっぱりはっきり云ってやる。お前はみんなの期待を裏切ったんだから、どの面下げてまた仲間に入れてくれって云うつもりなんだよ』

 痛い所をズバリと突かれ、唇を噛む。

『オレだって、悩んだんだ』
『わかってるよ。だから、いいじゃん。頑張れよ。いつでも愚痴聞いてやるしさ。こっちにはオレが残るんだ。誰もお前のことは忘れないし、お前のことを心配し続けるだろうよ。ま、その前に皆にどうやって説明するか考えておくんだな。オレもその辺はフォローしてやるよ』

 ――亮ちゃんはオレと離れて平気?

 咽元まででかかったが、プライドが邪魔をした。中学生にもなって気持ち悪いと、客観的に思った。亮は淡々と、尚も突き放してくれた。

『愚痴は聞くし、泣き言だって聞いてやる。ただし、わがままは聞かないからそのつもりで』
 



 

 ――初日から帰りたくなったって云ったら、きっと殴られるんだろうな。

 兄弟喧嘩で最初に手を出してくるのは、殆ど亮のほうである。

(…いや、いきなり蹴られるかも)

 長嘆すると、背後で咳払いをされた。

「その…悪かったですよ。だから、当てつけるように外を眺めながら溜息ばかりつかないで下さい」

 出窓を開け、秋の香りも濃厚な風にぼんやりと晒されている淳の後ろで、観月が不貞腐れたように云った。

「そして寒いからそろそろ閉めてください」

 第一印象では大人びた雰囲気の少年だったのに、たった一日で見事に覆される。ここに居るのがもしも亮のほうだったら、速攻観月の首を締めていただろう。淳はやはり盛大な溜息をついて、窓を閉めた。

「だから悪かったと何回も云っているでしょうが」

(しかも逆ギレされた)

 窓枠から離れてベッドの上に移動し、いつもの癖で髪に手をやって何も触れないことに情けなくなる。

「ああ、もうほら。これから春の部屋替えまでは同室なんですから、仲良くしましょう。これでもどうぞ」

 白地に青い花のレリーフが美しいティーカップを、ソーサーごと手渡された。紅茶の馥郁とした香りが優しく身を包む。

「砂糖が欲しかったらステッィクのがありますけど」
「いや、いいです。ありがとう」
「やっと口を聞いてくれましたね」

 ほっとしたように、微かにだがあどけない笑みを観月が浮べた。
 彼は彼なりに自分に気を遣っているらしいとわかり、淳は肩から少しだけ力を抜く。

 人違い騒動のあと、淳は観月に部室に連れ込まれ、本当に髪の毛を切られてしまった。まさか本気だったとは考えてなかった淳は、パニックを起こしたまま動けず。気づけばサッパリとしていた頭に気が遠のいていた。

 半気絶状態でテニス部員の紹介を受けたものだから、まったく頭に入っていない。引き摺られるまま、寮に戻り。寮内でも紹介されたが、やはりショック状態が抜けきらず、一言も喋らずに終わった気がする。それで済んでしまったのは、ひとえに観月が仕切りやだからだ。寮生への紹介から、荷解きに整理まで、全てをいつの間にか観月が完了していたのである。二人部屋だとは転入前の説明で知っており、初めての寮生活、ルームメイトと上手くやっていけるかどうか心配だったが、よりにもよって人違いでスカウトした挙句に、紛らわしいからと強引に髪を切った相手となると、涙振りまきながら千葉に走って帰りたい気持ちになるのを誰が咎められるだろう。

「髪、伸ばしているのに何か理由があったんですか? もしそうなら…今更でアレですが、すみませんでした」

 云いにくそうに、観月が謝罪した。本当に今更だ、とは思ったが、改めて問われると何で髪を伸ばしていたのかよくわからない自分に気づく。

「いや、理由は無いです」
「そうですか。では何に対して怒っているんですか?」

 可愛らしい仕草で、観月は首を傾げた。

(このひとってどういう性格なんだ?)

 傲慢で我儘でわが道を行くかと思いきや、ときたま幼子のような表情や仕草をする。

「怒ってないです。ただびっくりしただけです。あと…混乱してます」
「怒ってないんですか。あれから一言も口を利いてくれないから、てっきり怒っているのかと思いました」
「喋ってませんでしたっけ」
「はあ、とか、うん、とかは云ってましたけど」
「そうですか…。気づきませんでした」
「無口なんですねえ」

(そういう問題なんだろうか)

 云ってやりたいが、この後の及んで遠慮してしまう自分が愚かしい。

「髪ですけど。そっちのほうが新しい制服に似合いますよ。今日みたいな女性のような髪型だと似合わないと思います」
「制服はまだできあがってないんですけど」
「でも、近いうちにできあがるでしょう?」
「あの…。オレはここにこのまま居ていいんですか?」
「当たり前じゃないですか。なんでそんなことを聞くんですか?」

 本気で不思議がられて、淳は脱力した。

「オレは淳ですよ」
「知ってます。よく似てますね」
「じゃなくて、あなたが欲しかったのは亮のほうだったんでしょう? オレをスカウトした時いいましたよね。自分の目でみたものを信じるって。見たのは亮のほうだったんじゃないんですか」
「よくそんな昔の話を覚えてますね」
「いや、二週間くらいしか経ってないから」

 耐え切れずに突っ込んだ。

 観月は気を悪くした風もなく、指を唇につけてどう反論しようかと考あぐねているようだった。

「えーと。あれだけ似てるってことは一卵性ってことですよね? 遺伝子的には一緒だし、同じなんじゃないですか」
「双子だからといって全てが一緒なわけじゃないですよ」
「そうですね。でも、僕が欲しいのは即戦力ですし。ダブルスプレイヤーがルドルフには必要だったんです。あなたは充分、その条件を満たしてます」
「オレがテニスをしていることを見たこともないのに?」

 意地悪な質問で返す。これくらいの意趣返しはさせて欲しい。

「ありますよ。六角中の試合のビデオ見てスカウトに行きましたから。ビデオで見て、六角中で実際のあなたを見て…まあ、これはお兄さんだったようですが、欲しいと思ったんです。ビデオ、先ほどあなたがお風呂に行っている間に見返したら、こちらはあなたでした」
「ビデオ…? それがオレだってわかったんですか」
「似てるって云ったって、あなたが先ほど云ったように全てがそっくりなわけじゃないでしょう。あなたのほうがちょっとタレ目ですよね。佐伯といった選手とダブルスを組んでいる試合でした。あなたは視野が広くフォローが上手い。ウチにはサーブ&ボレーヤーがいないですし、丁度いいです」

 淳は言葉を失った。確かに長年自分達を見ていれば、間違うことは無いくらいの差違はある。しかし遠目で見れば親でさえ間違うのに、試合のビデオと、近くで見たとはいえ過去に一度しか会ったことのない自分達を見分けるなんて大した洞察力だ。

「違ってますか」
「いや…。ただ、そのビデオを観てみないことにはなんとも」

 そう答えたものの、それが自分であることはわかっていた。たまにシングルスをやりたいと亮が駄々をこねる時があり、その際佐伯と組んだことが一度ならずあるからだ。

「今度お見せしますよ。ところで、不思議に思うんですけど」
「はい?」
「どうして同じ髪型なんですか? 双子が同じ服を着せられるのは、未熟児で産まれやすい双子は弱いから、丈夫に育てるようにと意味合い込めての風習だというのは知っているんですけど」
「え、そんな風習があるんですか?」
「みたいですよ。今は医療設備が整っていますから、滅多なことはないですけど。昔の多胎児はハイリスクのため出産率や育成率が少なかったようですね。医療設備が整ったのだって戦後の話ですから、そう昔の話ではないです」 

 剛と二人で「どうして同じ服着せたがるかな」とボヤいていたが、そんな意味があるというなら納得する。ただ現在はそのような風習の意味は廃れ忘れ去られているようなので、単純にそういうものだと思い込んでいる人間が多いということなのだろうが。

「で、なんで同じ髪型なんですか?」

 他意ない、純粋な興味で聞いているようだった。淳は返答に困る。

「――意味はないです。ただ、なんとなく同じでした」
「そうですか。それはずっと?」
「そう、云われると恥ずかしいですけど。多分、産まれた時からずっと」
「じゃあ親の意向だったんですかね。親御さんに怒られたりしますか」
「いえ、それはないです。さすがにこの年ですし」
「そうですか。それは良かったです」

 安堵したのか、観月は何度も満足気に頷くと紅茶を啜った。そして思い出したように、顔を上げる。

「そうそう、明日はスクールにご案内します。僕達特待生は学校の部活動は週二回のみ参加ですから」
「二回、だけなんですか?」
「ええ、学院側が僕達に求めているのは、何も仲間同士仲良く部活に励むことではなく、勝って結果を残すこと。それだけです。僕達は強くならなきゃいけない」

 六角中学とは随分違う環境になる。今更だとはわかっているが、なんとも云えない気持ちになった。

「あれ? 観月さんは…観月さんはそういえば何をやっている人なんですか?」
「僕はマネージャーですよ」
「はあ、マネージャーってスカウトもするものなんですか」
「……そもそも、僕はこの学院の姉妹校に在学していたんです。そっちのテニス部は一応全国区と云えるほど強いんですが、こちらは三年前に新設されたばかりでしょう。運動部を強化したいという学院側の意向で僕がこちらに呼ばれたんです」
「え、じゃあそもそも観月さんはテニスを?」
「してますよ。ルドルフテニス部の補強選手第一号が僕なんです。ただ人手がどうしても足りないものですから、僕がマネージャーとスカウトを兼ねて有望な選手を招き入れる窓口になってます」
「凄いんですね」
「そうでもないですよ」

 と、自信に溢れた笑顔を浮べた。

「詳しいことはおいおいわかることでしょう。勉強の進み具合なんかは、六角と違うかもしれませんが。もしわからないことがあったら僕でも柳沢くんにでも聞いてください」
「柳沢?」
「今日紹介したでしょう。隣の部屋にいますけど、彼があなたのダブルスパートナーになりますし、元は進学校にいたのでああ見えて頭いいんですよ彼」
「はあ」

 頭の中で今日一日のことを反芻するも、怒り狂っているか、鼻で笑っているかの観月しか思い出せない。そこに多分、柳沢とやらがいたはずなのだが、

(パートナーか…。やっていけるかなぁ〜。いや、やらなきゃいけないんだけど)

 昨日まではやっていけると、自分に云い聞かせてきた。

 ――大丈夫、パートナーが亮でなくとも自分はちゃんとテニスができる。それだけの練習量をこなし、自信をつけてきたのだから――と。

 出鼻を挫かれて弱気になっている場合ではない。

 転校することを、仲間に告げた時のことを思い出す。皆、いちように驚き、そして十人十色の反応を示した。

 黒羽は少しだけ寂しそうに『そっか、がんばれよ』と笑って激励し、樹は泣きじゃくりながら『なんで?』を繰り返していた。それでも最後には『あっちゃんが戻ってくる場所、いつまでも空けてるから、だから心配しないでやりたいことやってきて』と送り出してくれ、首藤は『お前の穴を埋めるの大変だけど、関東大会で会えるの楽しみにしてるよ』と背中を叩き、佐伯は……

『亮のことは任せて、淳』

 爽やかに云われたので思わず膝蹴りを鳩尾に決めてしまった。お前はむしろオジイの面倒を見ていろと……。

「ど、どうしたんですか? 木更津くん」

 勢いよく、しかし無言で携帯を取り出し、怒ったようにメールを打ち始めた淳に、観月は首を傾げたのだった。

 

 

 

















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