「桜子どこ行ってるんだゾナっ! 魔獣が街で暴れているゾナっ! 大至急、帰ってくるゾナっ!」
「え? でも今、渋谷なんだけど……。帰ってくるの二時間くらいかかるよ?」
「へ、変身するゾナぁっ! ひとっ飛びで帰ってくるゾナぁっ!」
「ブレスレットそっちだよ。変身できない。だいたい今日はクリスマスデートだよ? 帰ってくるはず無いじゃん」
「……ワザと忘れたゾナね?」
「なんのことやら〜」
お姉ちゃんの部屋で変なアヒルが、携帯電話を羽根で器用に持ちながら、なにやら会話をしていた。相手はどうやらお姉ちゃんらしい。
現実離れした光景に、僕は思わず手に持っていた辞書を落とした。それは狙ったように右足の甲に命中した。
「ふぎっ! いだだだだっ、だだあぁっ!」
「ゾナっ!?」
アヒルが僕の方に振り返る。そして、青ざめる。とんでもないところを見られてしまったって感じだ。
いや、僕もとんでもないところを見てしまったって感じなのだが……。
「あぁ、拓海そこにいるのぉ?」
脳天気な姉の声が携帯電話の向こうから聞こえてくる。
「あんたちょっと魔法少女やってみない? なーに、簡単簡単。サクって悪い奴やっつけちゃえばいいだけだから。あぁ、拓海は男の子だから魔法少年か」
……なんかとんでもないことをサラッと言われた。
ここ最近、埼玉県赤牟市では奇妙な現象が多発していた。集団性健忘症とでも言おうか、とにかく街にいる人や学校のクラス、場合によっては市内全域の人々が一斉に、短時間ながら記憶を無くすのだ。
僕も何回か体験したがとにかくイヤな感じだった。
そして、断片的に覚えているのは空を飛ぶピンク色の少女だった。彼女が何をしていたのかは分からないが、その姿はボンヤリながら、健忘症経験者は皆わずかに覚えていた。
「そう、あれの正体があたしなワケ。話が早くて助かるなー、我が弟よ」
「悪の魔法使いが召還する魔獣を倒すのが『魔法少女ファンシーチェリー』の使命だゾナ。そして、我が輩・大魔術師ゴルモアが記憶抹消の大魔術を使って、みんなの記憶を消しているゾナ」
「分かりやすい設定ですね……」
魔法少女……。そんなことをやっていたのかお姉ちゃんは。それにこのアヒルは、マスコットってやつかな? あんまりかわいくないけど……。
「で、今は駅前通りが大ピンチらしいらしいのよ。ゴルちん、そうだっけ?」
「もう死人もでているゾナっ!!」
「ありゃ、それはちょっとまずいね。まぁそういうわけだから拓海頼むよ、変身して!」
「ちょ……、ちょっとそれは……、なんでそんな……」
話は分かったが、展開の早さについていけない。僕が魔法少年? なにそれぇ?
「拓海分かってるのぉ? あなたが迷っている間にも犠牲者は増えているのよ。早く現場に行きなさい!」
「だったら桜子が帰ってくるゾナあぁっ!」
「だから、すぐには無理だってば! ……ったく、あとでデートのやり直しができるように、光毅くんの記憶操作ちゃんとしてよね?」
犠牲者云々言っているわりには、心配は自分のデートらしい。我が姉ながらいい性格をしていると思う。
でも、人が死んでいる……。もしかしたら現場には僕の友達もいるかもしれない。それなら、急いだ方がいい……!
「いいよ、僕やってみる。だから、変身の方法教えて」
「ゾナゾナぁ?!」
「よぉーし、それでこそあたしの弟だ。がんばれー。それじゃゴルちん、後よろしくねー」
僕はブレスレットを胸の前に握り、今習ったばかりの呪文を唱えた。
「チエノジアゼピン・ベンゾジアゼピン・デパス・デパス・エチゾラム!!」
かなり人を不安にさせるリリックだったが、詠唱終了と同時にブレスレットは光りだし、パステルカラーの不思議な光線が僕の周囲をまわりだした。
服が糸を抜かれたようにバラバラとほどけていった。半裸の僕を今度は薄手の衣装が包んでいく。
パンッと光が弾けると、僕の変身は完了していた。
「……はぁ、なんだこれ?」
ブレスレットはいつの間にかオモチャみたいなステッキに変わっていた。まぁこれはいいや。でも、異常にヒラヒラのついた薄手の衣装に、かなり趣味的な網タイツ、あげくに超ミニのフリフリスカートってのはどういうこと?!
「おぉ、意外に似合っているゾナね。本家よりいいかも知れないゾナ」
「いや、全然嬉しくないし……」
色は僕に気をつかってか薄いブルーになっている。でも、パレットを変えるよりデザインそのものを変更できないものなのか……。
「さあ、『魔法少年タイニータップ』の初仕事だゾナ! 魔獣ドガギクゲゴンを倒すゾナ!」
なんか勝手に名前までつけられてるよぉ。
僕は飛翔や攻撃など、いくつかの簡単な呪文を習った。後は実戦でどうにかするしかない。
飛翔の呪文を唱えると、体が羽のように軽くなった。足が床からフワッと浮く。
「よーし、ではそっそく出動だゾナ。赤牟駅北口駅前通りだゾナ」
うん、じゃあ行こう。僕は空を駆けた。
クリスマスの飾り付けも華やかな商店街に、タコを十匹くらいくっつけてそのまま巨大化させたような化け物がいた。その無数の触手が街の人々を捕まえている。
泣いている人、喚いている人、そして、ピクリとも動かない人……。まさに地獄絵図だった。あれが魔獣ドガギグゲゴンらしい。
そして、その怪物の上に黒いローブを羽織った、くま取りメイクの怪人がいた。やっぱり分かりやすい悪の魔法使いだ。彼は空からやってきた僕の存在に気づく。
「フハハハハハハ、あらわれたなファンシーチェリー! って、あれぇっ?」
「あ、すいません。本日、姉はお休みです」
「……なら、貴様はなんだ?」
「あ、僕は弟の……」
「正義の魔法少年タイニータップだゾナ! 悪の魔法使いブラックマリン、覚悟するゾナ!」
「ちょっと待って! 勝手な紹介しないでよぉ!」
「なるほど……、本人はトラブルでお前は代理というワケか」
さすが魔法使い、話が早い。
「まぁ問題はなかろう。魔法少女でも少年でも構わん。大量の魔力を持つ依代でさえあればな」
よりしろ……? 言っている意味がよく分からない。
「あのぉ、僕は魔力なんて別に持ってないと思いますけど……」
「人間風情が呪文一つで魔法使いになれるなら、それだけで十分な素質なのだよ。大量の魔力が君の中には眠っているのさ。さぁ、おとなしく我が輩のモノになりたまえ!」
おそろしく勝手な言い分だと思った。察するに、どうやらこいつは魔法少女をおびき寄せるためだけに、こんなことをしでかしたらしい。さすがに僕も頭に血が上る。
「ふざけるなあっ!! 僕だって攻撃くらいできるんですよ! さぁ、おとなしく人質を放してください!」
僕はステッキを振りかぶる。が、ブラックマリンの態度は変わらない。
「ふん、人質を放して欲しければ、おとなしく我が輩のモノになりたまえ。君の攻撃が当たる前に、我が輩は人質全員を殺せるのだよ。アドバンテージはこちらにある」
「……うぅ」
僕は自分の命と、他人の命十数人分を天秤にかけてみた。それは、あっけなくに他人の命に傾いた。
――ステッキを捨てる。それはどこか下に落ちて見えなくなった。僕はブラックマリンの前に立つ。
「……分かりました。……僕をすきにしてください」
「ゾナああぁっ?!」
「ゴルモアさんは早くお姉ちゃんを呼んできて! 僕がどうなるかは分からないけど、とにかくこれ以上人は殺させない!」
……ゴルモアさんはさっき捨てたステッキの意味に気づいてくれるだろうか。
あれは投降の意思表示だったけど、ゴルモアさんが拾ってお姉ちゃんに渡すことができれば、彼女はすぐに変身して駆けつけて来てくれるハズだ。
「わかったゾナ! いますぐ桜子を呼んでくるゾナ!」
ピューっとゴルモアさんは南の空に飛んで行った。
「……えっ、……あれえ?」
「当てが外れたというところかね、少年」
……なんで悪の魔法使いが気づいて、正義の大魔術師が気づかないのかなぁ。なんか泣きたくなる。
ドガギグゲゴンの触手がステッキを拾い、それはブラックマリンの手に渡された。
「それでは儀式を始めようか、魔法少年タイニータップ。生け贄は君だ」
彼は枯れた長い指で、僕のアゴを持ち上げた。
「う……、ぐぅっ……」
魔獣ドガギグゲゴンの何十本もの触手が僕の体にまとわりついた。ミミズの様に細いものから、大蛇より太いものまで種類も様々だった。それはブラックマリンの意志で自由に動くらしく、統制をもって僕を縛り上げていった。
ヒトデの裏か、イソギンチャクを思わせるような感触だった。ヌルヌルの粘液が肌をねめつけ、吸盤が吸いつきながら少しずつ移動した。
腕は真上に引き上げられ、肩の関節がギリギリと痛んだ。足は強制的に広げられ、冬の冷たい空気がスカートの中に流れ込んできた。人の字の形で、僕は商店街の真ん中に吊り下げられた。
遠巻きに何十人もの野次馬が僕を見ていた。魔法少女の格好をした男の子の僕を……。僕はあまりの恥ずかしさにギュッと目をつぶる。
「耳まで赤くして、そんなに恥ずかしいのかね。これからもっと恥ずかしい目に遭うというのに……」
「……僕を、どうするんですか?」
「とりあえず、体の中を綺麗にしないとな。でなければ卵が産みつけられない」
「た、たまごぉ!?」
「まぁ、それは後だ。今はとりあえず……」
ブラックマリンが指を上げると、一本のホースのような触手が僕の目の前に伸びてきた。それはクルクルと僕を馬鹿にするように宙を舞うと、おもむろにお尻の方に進み始めた。
スカートを持ち上げ、タイツの中に潜り込んでくる。そして、僕のお尻の谷間を這う。
「ひいっ!」
おぞましい感触に僕は思わず悲鳴を上げる。しかし構わず触手はお尻の穴を撫で始める。
僕はお尻に力を入れて、どうにか進入を拒もうとする。だが、触手の動きは止まらない。ヌルヌルと液を吐き出しながら、強引に窄まりをこじ開けていく。
ギチギチと括約筋が悲鳴を上げる。
「や、やだっ! 痛い、痛いよぉっ……!」
「大丈夫、すぐに痛みは引いてくる。母体を傷つけるような馬鹿な真似を、魔獣はしないよ」
「ぼ、母体って……」
「君はこれから魔獣の花嫁になるってことさ」
言っている意味が全然理解できなかった。男の子の僕が、花嫁?
しかし、それについて考えてる余裕はなくなった。触手がダクダクと冷たい液を直腸の中に吐き出し始めたからだ。
「な、なに……、なにか出てるぅ……! ひっ! き、気持ち悪いっ……!」
僕は体をねじるが、戒めはいっこうに緩まない。かえって僕の間接にダメージがくるだけだ。いや、ここで拘束を解かれても10メートルは落下して、僕は大怪我をするだけなのだが。
液は人体本来の摂理を無視して、どんどん奥へと進んでいく。大腸を抜け、やがて小腸にまで染みこんでいく。
しばらくすると、なんだか頭が熱くなり始めた。無理矢理こんなひどいことをさせられているからだと思ったけど、それは違った。
……息が荒くなった。目も潤んできて、おちんちんがどんどんタイツの中で硬くなっていった。
「な……、なんでぇ……? こんな……、こんなことされてるのにぃ……。なんでぇ……!?」
「それはね、その浣腸液には媚薬の効果もあるからだよ」
「かぁ、浣腸ぉ……? それに、媚薬って……、そんな……、そんなぁ……」
「心配いらない。すこし我慢すればとっても気持ちよくなれるさ。さぁ、魔法少年のケツアクメをみんなに見て貰いなさい」
とんでもないことになってしまった。ケツアクメの意味はよく分からないけど、要するに僕は衆人環視の中、無理矢理ウンチをさせられるらしい。
「やだあぁっ! そんなっ、そんなのイヤだあぁっ! そんな恥ずかしいことさせられたら、僕、死んじゃうよおぉっ!」
僕は暴れる。空中で体が左右に揺れる。それでも、体勢はぜんぜん変わらない。
「やれやれ、君は自分の立場というものが、いまいち分かっていないようだね」
ブラックマリンはそう言うと指を振り、僕を縛り付ける触手の数を増やした。それは僕の腰や胸にシュルシュルと巻きついた。
いくら体を強引にひねっても、その動きは止められなかった。触手の一本はその細い先端を僕のおっぱいにのばしてきた。
薄いシルク生地の下、触手は僕の乳輪に巻き付き、強引にそれを絞り上げた。激痛に僕の背中は反り返る。
「ひぎいいぃっ!」
一方、腰に巻き付いた触手は僕のおちんちんを狙っていた。狭いタイツの中、クルクルと器用に僕のモノに巻きつき、ネチョネチョの体液を塗りつけながら螺旋状に這い始めた。
「うぐうぅっ! ううぅ……、いやぁ……、いやあぁっ……」
時間が経つと、乳首の痛みも甘い痺れに変わっていった。頭がボーッとして、快感に体が震えはじめた。
体を這う触手はどんどん増えていった。コスチュームの狭い隙間から入り込み、僕の脇腹や、鎖骨、さらにはアゴの先まで柔らかい肉のブラシで撫でていった。
どんどん意識が遠くなる。いったん快楽を受け入れてしまうと、いままで悪寒だったものは全部、悦楽の呼び水に変わってしまうみたいだった。
幾本かの触手が、すこしずつ僕の衣装を引き裂いた。ついにタイツが破かれ、僕のお尻やおちんちんは空中に剥き出される。火照った肌を冷たい空気が撫で上げ、それだけで喘ぎ声が漏れそうになる。
「うぅ……、やだぁ……気持ちいい……、イヤなのにぃ……こんなのイヤなのにぃ……」
その時、お腹の奥から不気味な響きが聞こえ始めた。
媚薬を十二分に吸い取った排泄物が、一斉に出口を求めて動き始めたのだ。
汚物の大移動を僕は感じる。一気に背筋が寒くなり、全身に鳥肌が立つ。
「うわあああぁっ! やだ、やだ、出ちゃうぅっ! ……イヤああぁっ!」
しかし、それは出なかった。まだホースの触手は僕のお尻に深々と突き刺さったままで、汚物の奔流に押し流されることもなく、僕の穴をねぶっていた。
途端に僕は強烈な排泄欲にさいなまれることになった。無理矢理堰き止められたウンチは触手でかき回され、腸内で暴れる。体中からイヤな汗が噴き出る。
「……ふぐううぅっ!」
括約筋は自分で意志を持ったかのようにモコモコ動き、触手を押し出そうとする。しかし触手は押し出された分、再び中に進入し、僕の前立腺をさらに刺激していく。
コスチュームの中、大量の触手が波を打つように動いていく。腕も、足も、顔までヌメヌメと舐めて、僕を絶頂の縁に追いつめていく。
僕は自分がウンチを出したいのか、出したくないのかも分からなくなった。排泄の欲求がギリギリと僕の理性を削っていく。
……そして、僕の心は折れた。
「出させてぇ……」
「うん? なんだいタイニータップ」
「ウンチ……、出させてぇっ……!」
悪の魔法使いは意地悪に聞き返す。
「そんな小さい声じゃ全然聞こえないなぁ。もっとみんなに聞こえるように、大声でお願いしてみなさい!」
一瞬だけ、理性が盛り返す。言えない、そんな恥ずかしいこと言えない。
……でも、僕はもう本当に限界だった。あぁ、出したいっ。ウンチ出したいっ! ウンチ、ウンチ、ウンチぃっ!
「出したいぃっ! 出したいんですうぅっ! 出させてぇ! ウンチ出させてえぇっ! お願いっ、お願いぃっ! ウンチ出させてくださいいぃっ!!」
「……いいだろう、さぁ、イってしまいなさい!」
ブラックマリンは自らの手で触手の一本を掴むと、それを力いっぱい引き抜いた。
ゴボオオォッ!
「ほおおぉっ! おおっ! ふああああぁぁっ! 出るっ! 出るううぅっっ!!」
ブボボボボボオオォッ! ブリュブビュビュリュウゥッ! ブボババアァッ! ビュリュリュリュウウゥッ!
大量の媚薬と黄土色の軟便が一条の滝となり、一気に地面に流れ落ちた。
苦痛からの解放と排泄の快感が、僕の脳をドロドロに溶かす。自然と背筋が反り返り、腰が前に突き出る。
「うぅっ! やだっ……長いぃっ!、まだ……出てるぅっ! 止まらないっ! ウンチ止まらないぃっ!」
体中の汚物が全部吐き出されていくかのようだった。あまりに長く、熱い排便に僕の腰が浮いていく。快感が僕の陰茎をさらに硬化させ、ブルブルと震えが走る。
合わせて体中の触手がさらに動き、媚薬で粘膜より敏感になった肌を徹底的に愛撫する。あまりの気持ちよさに僕の頭は真っ白になっていく。
「……あぁっ、イくっ! イっちゃう……! イく、イくっ、イくうぅっ!!」
ドビュウゥッ! ビュウゥッ! ビュクン! ビュクンッ! ブビュウウウゥッ!
スカートの中に僕は射精してしまった。大量の白濁が薄い生地に反射し、ボタボタとコンクリートの地面に落下した。
足先がつりそうなくらい、力が入った。それはヒクヒクと痙攣し、射精が終わるまで続いた。
頬に、一筋の涙がこぼれ落ちた。口はだらしなく開いたまま、絶え絶えの息をはきだしていた。
やがて、全ての筋肉から力が抜け、僕は全体重を柔らかい触手の束に預けることになった。
「君は、男女の営みというモノを、どこまで理解しているかね?」
その声は、とても遠くから聞こえた。僕は今、どんな状況になっているのかもよく分からなかった。
魔法使いの声が続く。
「あれはコソコソやるモノじゃないと、我が輩は思うのだ。セックスはとても神聖な行為だ。未来へ命を託す大切な儀式だ」
「……なに、……なんのこと?」
「大勢の人間に祝福されながら、犯るというのが正道だろうと我が輩は思う。だから、こうしてみた」
視界が開けた。僕は触手の一本で目隠しをされていたらしい。
……悲劇的な全景が、僕の目に飛び込んできた。
「…………あ、……あぁ、……うああぁっ!!」
たくさんの人々が、触手によって空中につり下げられていた。
足を掴まれているひと、腕を絡まれている人、そして首に巻き付いた触手を、必死に剥がそうとしている人。老若男女の区別無く、様々な人々が、まるでクリスマスツリーの飾りの様に、商店街の縦横にぶら下げられていた。
そして、彼らは一様に僕を見ていた。
僕は自分のあられもない姿に気づいた。
僕は、とても柔らかい肉のソファーに座らされていた。それは意志を持ち、背中をまんべんなくマッサージしていた。
さらに足首が触手で縛られ、上につるされていた。両足はVの字型に広げられていた。
さっきの陵辱でタイツはビリビリに破かれていた。僕はおちんちんからお尻の穴まで、全てを何十人もの人の目の前で晒していた。もがいて逃げだそうにも、手首がすでに縛られていた。
そして、恥ずかしく勃起し僕のおちんちんの向こうに、さらに凶悪な肉柱がそそり立っていた。僕の腕より太そうな巨大な赤紫のペニス……、それは魔獣ドガギクゲゴンの真の逸物だった。
肉塊は僕の視線に気づいたのか、ゆっくりと頭を垂れ、そのまま、前に進んできた。
とても熱い亀頭が、僕のお尻の割れ目にくっついた。そして、モゾモゾと隙間を割り込んできた。
貞操、と言うよりは生命の危機を感じ、僕は半狂乱になって喚きだした。
「嘘だぁっ! こんなのっ、こんなの入るはずないじゃないかぁっ! だいたい僕は男の子なんだ! こんなこと、こんなことできないよおぉっ!」
「落ち着きたまえ、性別は関係ない。魔獣の卵は腸内で人間の魔力を吸って成長する。子宮は不要だ。君はドガギグゲゴンと結婚し、子を孕み、出産する」
……出産! あまりにおぞましい響きに、ブワッと全身が粟立つ。
「や、やだ……、そんなの、そんなのやだよぉっ……、やだああぁぁっ!!」
「なに、その子は責任を持って私が引き取ろう。君は安心して本来の人生では絶対に体験できない至福を甘受してくれたまえ」
恐怖で歯がガチガチとなった。怖い……! こんなに怖いことは今まで一度だってない!
「では、鐘をならそう。性なる儀式の始まりだ!」
デパートの時計台から、クリスマスの鐘の音が鳴り始めた。すると、極太のペニスがいよいよその体をひねりながら、僕への進入を試み始めた。
「ぐああぁっ! あ、うあぁ…………、うぅ…………、ふうぅ…………、あぐうぅっ!」
灼熱の肉柱が本当に少しずつ、だが確実に、万力のように力強く、僕の中に進入した。
ミヂミヂという、肉の切れる音がした。だが、痛みはなかった。媚薬が僕の痛覚を完全に麻痺させていた。
入ってくる。一センチ、また一センチ……。僕の直腸を焼きながら、確実に奥を目指して進んでくる。
……やがて、圧倒的な極太ペニスは、緩みきった僕のさもしい穴を完全に制圧した。直腸は少しの隙間もなく邪悪の性棒で満たされた。
目の前で火花が散り、今までかいたことのないような大量の汗が、首の後ろから噴きでた。防御の本能なのか、自然に体が丸まろうとした。だが、手足は完全に触手に押さえられ、僕は赤ん坊のようなポーズでガタガタと痙攣した。
「何を怯えているんだい? 彼はこんなに君を愛しているというのに」
「あ、愛……して……?」
「そうさ、今からその証拠を君に見せよう」
ブボババババアァッ! ブビュリュリュリュウゥッ! ブビュウゥッ! ブビュウゥッ!
「うがあああぁっ! あつっ、熱いいぃっ! やだ、やだこれ焼けるううぅっ! 死ぬ、死んじゃうよおぉっ!」
さっき空にさせられた僕の腸に、熱い寒天質の魔液が注入された。その量は尋常ではなく、僕のお腹はみるみる張り出していった。
熱がどんどん奥に入っていくのが分かった。一気に大腸を越え、さらに複雑な小腸を駆けめぐった。
「ふぎゃあああああぁぁっ! ひぐううぅっ! ひぐっ! ひぐっ! ひぐうううぅぅっ!!」
僕はなりふり構わず、頭を振り乱しながら絶叫した。
もう、最悪に恥ずかしいポーズも、それを見つめる大量の視線も関係なかった。体内を蹂躙する魔の所行に、僕のプライドは欠片まで砕かれた。
ようやく、魔液の注入が終わるころには、僕はもう理性が飛んでいた。はっきり言って狂いかけていた。
「うあああぁ……やだあぁ……、僕のお腹ぁ、パンパンだよぉ……、妊娠……、妊娠しちゃったよぉ……」
「そうだね。正確には今ようやく着床したというところだが。これからこの子は君の魔力を吸い取って成長する。少しずつ固まって、大きくなるんだ」
「これ以上、大きくなる……?」
「ああ、でも君は少しも痛くない。いや、とても気持ちよくなっちゃうはずだ。さぁ、大切な赤ちゃんを育てていこう」
「あ、赤ちゃん……。僕の、赤ちゃん……」
僕のお腹はボコボコと音をたてながら揺れていた。何かが、僕の体内で意志を持ち始めていた。それは、新たな命の誕生を確かに予感させた。
腸が膨らんでいくにつれ、お腹の細胞が少しずつ千切れていくのが分かった。僕はお母さんのお腹についていた妊娠線を思い出した。僕は、本当に妊娠している……。
なんでだろう。僕は体の芯が暖かくなり、フワフワと気持ちよくなっていった。
僕は完全におかしくなったみたいだ。こんなに恥ずかしい格好をみんなに見られているのに、泣き喚いて死にたいくらいなのに、とても、とても気持ちいい。おかしい、こんなのおかしいのにぃっ……!
僕は、最後の自我で懇願する。
「うあぁ……、やだあぁ……見ないでぇ……。気持ちいいの、見ないでぇ……。僕を、見ないでぇっ!」
「それはダメだろう、タイニータップ。君はみんなの祝福を受けながら、子供を産むんだ。それが、真の幸福というものだ」
「幸福……、これが、こうふく……?」
「ああ、夫に愛され、子に愛され、皆に愛されるんだ。君はとても幸福な花嫁さ」
「うううぅっ……、僕、僕ぅっ!」
圧倒的な感動に、僕の小さな心臓が満たされた。……僕は、完全に壊れた。だって……、だって……!
「しあわせだよぉ……。ぼくぅ、ぼくぅ、しあわせだよおぉっ!」
ポロポロと玉のような涙があふれ出した。ジワッと暖かいものが胸の中から広がり、全身の細胞が歓喜した。
僕は一気に幸福の絶頂に登り詰めた。このまま死んでも、なにも悔いはないとさえ思った。
赤ちゃんが僕のお腹を蹴った。それはまた快感で、僕は喘ぐ。とても幸せで、僕は顔が緩む。
「あはっ、かわいいなぁ、僕の赤ちゃん……」
ついにお腹はおへそがなくなるくらいに張り出した。もう針をさしたら割れてしまいそうなくらいに丸くなっている。
ブラックマリンがやさしく撫でる。僕はそれだけで飛び上がりそうなくらい感じてしまう。
「うん、いい子に育ったようだ。君の魔力を全て受け継いだとびきりの赤ちゃんだよ」
「えへぇ、そうだよぉ。パパと僕の大切な赤ちゃんだもん。ねぇ、パパ?」
僕は今だに挿入されている極太ペニスに話しかける。それは返事をするようにビクビク動く。
通じてる。僕たちはもう家族だ。……こんな幸福がこの世にあるなんて思わなかった。
「……では、いよいよ出産だ。君の内臓は膣壁以上の性感帯になっている。長さ四メートルもの赤ちゃんがそこを駆け抜けたら、君は連続絶頂で発狂確実だ。覚悟はいいね」
「……うん、いいよぉ。みんなに赤ちゃん産むとこ見て貰うんだ。ねぇ、みんな見てぇ。僕これから赤ちゃん産むのぉ!」
僕は宙に浮いたたくさんの人々に問いかける。泣いている人がいる、目を背けてる人がいる、なんか怒鳴っている人もいる。どうしたの、みんなどうしたの?
「ははははは、みんな君たちのあまりの幸せぶりにあてられちゃったみたいだね。さあ、遠慮はいらないよタイニータップ。おもいっきり我が子をひりだしたまえ!」
「うんっ、僕、産むよっ! もう気持ちいいの限界なのぉ! 産むぅっ! 産むのぉっ!」
ズリュウゥッ!
極太の栓が僕の中から引きずり出された。
同時に、赤ちゃんも動き出した。ズルッっと僕の腸をゆっくりと滑る。その瞬間、僕はあまりの快感に全身が硬直する。
「うああああぁっ! な、なにこれぇ! き、気持ちいいっ! うそぉ、これだけで……これだけでこんなに気持ちいいぃっ!」
ズリュッ、ズリュッ、ズリュリュウゥッ! ズズズズズズズウウゥッ!
いよいよ、赤ちゃんは蠕動し、僕の肛門から頭を出そうとしていた。ついには括約筋を抜け、新たな生命は世界への第一歩を踏み出した。
腸壁を摩擦する快感や、前立腺への刺激、括約筋を通過するプリプリとした感触、そしてなにより出産の幸福が僕の快楽中枢をデタラメにかき回す。僕の譫言はいよいよ意味をなさない嬌声になっていく。
「うがああぁっ! いいっ! あかひゃんいいっ! イきゅうぅっ! 出産でイきゅううぅっ!!」
ドビュウウゥッ! ビュキュウゥッ! ビュルルゥッ! ビュクン! ビュビュウウゥッ!
僕は虚空へ射精する。それは弧を描き、魔法少年の衣装を白く染め上げていく。
節くれ立った赤ちゃんは僕の肛門を波打たせ、その表面に生えた産毛がさらに複雑な刺激を僕の前立腺に与える。
僕は下品に腰を8の字に振りながら、快感を貪る。延々と噴出する精液が、周囲に四散する。
「見えるかい、君の赤ちゃんだよ。ほら……」
ブラックマリンが赤ちゃんの頭を掴み、僕の前に晒す。それはまるで、もう一本の極太ペニスだ。
赤黒い表皮、ムカデのような節、ボコボコの突起、びっしり生えた繊毛、これが、僕の赤ちゃん。
かわいい……。僕は縛られている手を、強引に前へ伸ばす。
「ねぇ、お願い……、抱かせて……、僕の赤ちゃん……僕に……抱かせてぇ……」
「ああ、いいよ」
拘束が緩む。僕は優しくこの手に赤ちゃんを抱きしめる。こみ上げてくる幸せに、僕はまたビュルビュル射精する。
まだまだ出産は終わらない。早く、僕は赤ちゃんの全部を抱きしめたい。
……僕は、赤ちゃんをおもいっきり引っぱった。下品な粘着音を上げながら、赤ちゃんが一気に引き抜かれる。
「あがあああぁぁっ! あかひゃんっ! あかひゃんすごいいぃっ! ひいいぃっ! あかひゃんいひいいぃっ!!」
腸液が霧散し、魔液が吹き上がる。精液も一層高く、噴水のように噴き上がる。
僕は狂ったように赤ちゃんを引き抜く。次々と節が僕の肛門を抜けていく。死にそうなほどの快感が僕の脳を揺らす。それでも、手は止まらない。いや、いよいよその速度は上がっていく。
みんなが僕を見てる。グサグサと刺さる視線がここちいい。もっと見て。祝福して。そうしたら、もっと僕、気持ちよくなれるから!
しあわせぇ! 僕……、とっても、とっても、しあわせだよぉっ!!
開いた足、晒された股間。止まらない射精、止まらない出産。ああ、すごい、すごすぎるよおぉっ!!
全身があらゆる体液で濡れ、衣装が張り付く。おへそから乳首まで全てが丸見えだ。冷たい風が熱い体を撫で上げて、さらに気持ちいい。
やがて、僕の射精に黄色い汚濁が混じり始めた。おしっこだ。ついにおしっこが精液と同時に噴き上がった。
プシュッ! ブジョオオォッ。 ブシュシュシュシュウウウゥゥッ!
それは僕の胸の上でとぐろを巻いている赤ちゃんにドバドバと降りかかった。顔にも雫が飛び散る。とても臭くて、僕はもう本当にとろけそうだった。
いよいよ、赤ちゃんが抜けきる。僕は何も考えられない。ただ、恍惚として赤ちゃんをひたすら引き抜く。
僕の赤ちゃん……。もうすぐだね……。もうすぐ会えるね……。全部抱けるね……。
いっぱい、いっぱいいっぱいいっぱい愛してあげるぅ!!
「あああぁぁっ……、あがあぁっ! あいしてるうぅっ! ぼくの、ぼくのあかひゃんっ! あひいいぃっ! あぎいいぃっ!!」
ボギュウウウゥゥッ!!
ついに、出産が終わった。僕の赤ちゃんはすごい音をたててその全身をあらわし、濡れた尻尾が空に跳ねた。
僕の腰も同時に跳ね上がり、最後の射精の一吹きを蒼穹に高く打ち上げた。
「あひゃああぁぁ…………、ふわあぁ……、あ、あぁ…………」
赤ちゃんはホカホカと湯気が出ていて、とても暖かかった。僕は優しく両腕で包んだ。
幸せすぎて、グスグスと泣き出してしまった。
赤ちゃんをブラックマリンに取り上げられ、僕はただひたすらに喚き散らした。
「やだああぁぁっ! だめなのおおぉっ! それは僕のなのぉっ! 僕の赤ちゃん返してぇ! 返してえぇっ!」
「ふん、魔力を根こそぎ吸収し、ここまで育ったか。こいつはいい触媒になる。安心しなさい、この命は無駄にはしない。大事に、大事に使わせて貰おう」
「やめてえぇっ、僕の赤ちゃん、殺さないでえぇっ! やだ、やだやだやだあぁっ!」
アスファルトに転がる僕を、ブラックマリンは全体重を乗せて踏みつけた。僕は潰れた蛙のような呻き声を上げる。
「……うがあぁっ!! 赤ちゃん……、僕の赤ちゃん……!」
「くくっ、ふはははっ、ふはははははははぁっ!」
ズタズタになった僕の心を、ブラックマリンの高笑いがさらに踏みにじる。
彼は目的を果たし、その姿を消そうとしていた。魔力を全て奪われた僕は、たぶん死ぬ……。
ごめん、みんなごめんね……。僕、何一つ守れなかった……。
「さーくーらーこっ、キイィーック!!」
「ふごおおぉっ!!」
爆音を上げて、ブラックマリンが店舗の一角に吹っ飛んだ。
噴煙の向こうに、人の影が見える、……あれは、
「お……ねえ……ちゃん……?」
「おぉ、弟、生きてたかぁ。いや、よかった。なんとか間に合ったね」
お姉ちゃんは朝出ていったままの勝負服だった。風に舞ったスカートの奥には勝負下着も見えた。
間違いない、間違いなくお姉ちゃんだ。
「お、おねえちゃん…………、ぼく……、ぼくぅっ……!」
もう尽きたと思った涙がまた流れだした。
「話は後。今はあいつをやっつけないとね」
お姉ちゃんは、力強く言い切ると、ブラックマリンをキッと睨みつけた。
「ふははははは、何を言っているのかね君は! こっちにはステッキがあるのだぞ。変身もできない君なんて……」
よろめく魔法使いにお姉ちゃんはつっかけた。一気に距離を詰め、まるで斧を振り下ろすように蹴りを放った。
「桜子ローッ!!」
ゴギュッ!!
その蹴りはブラックマリンの太ももを打ち抜いた。肉の下の骨が砕けるイヤな音が響いた。
「うがああぁっ!! ぼ、防御だ……。魔法を……」
「桜子一本拳人中撃ちぃっ!!」
「ぼぎゅうっ!!」
致命的な一撃を受け、魔法使いはその場に崩れ落ちた。しかし、お姉ちゃんはさらに鋭い足刀をみぞおちに叩き込んだ。あの威力では、おそらく胸骨も砕けている。
「ふん、護衛用の魔獣から引き離せば、ひょろい魔法使いなんてこんなもんだ。呪文詠唱なんて暇はあたえないぜっ!」
ブラックマリンはもう意識がないようだ。それでも、お姉ちゃんは攻撃を止まない。下段の踵蹴りでくま取りの顔を徹底的に踏み続ける。
「このおっ! このこのこのこの変態があぁっ! ウチの弟になにさらしてんだあぁっ!」
「お姉ちゃん……」
「あたしが開発したかったのにいぃっ! おいしいとこ全部持っていきやがって、ふざけるなあぁっ!」
……いや、ちょっとまて。何の話だ、それは。
回復魔法はとても優しいキスだった。お姉ちゃんの柔らかい一口で僕の体は全快し、破れた服まで元にもどった。
壊れた理性も形を取り戻し、あの歪んだ愛情も修正された。
悪の魔法使いブラックマリンは、その姿を消し、魔界に帰った。後は向こうの管轄ということになるらしい。あっちの警察に捕まって、おそらくは死刑だそうだ。
主人を失った魔獣ドガギクゲゴンも、煙になって消えていった。そして、その子供も……。
僕には、消えていく一本の幼い触手がとても悲しかった。胸が締め付けられる思いがした。
……間違いなく、あれは僕の子供だった。……一生忘れない、さようなら。
実戦では何の役にも立たなかったゴルモアさんが呪文を唱えると、周囲の人々が倒れだした。この事件に関する全ての記憶を奪われたのだ。これであの悪趣味なショーを覚えている人間は僕以外に誰もいなくなった。
全てがあっさりと元に戻った。
「死んだ人達についての記憶と記録も無くなったからね。彼らは存在自体が無くなった。とても悲しいけど、これで全部元通りだよ」
「……その命は、僕が背負うんだね」
「そんな難しく考える必要はないよ。悪いのは人間をなめきって、魔界からノコノコやってくるあいつらなんだから。まぁ、無責任にデートに行ったあたしもちょっとは悪いか? なんにしろ、そんなクヨクヨ悩むようなことじゃない」
我が家の居間、こたつにみかんというほのぼの空間。それでも不釣り合いに僕たちの話題は深刻だった。いや、正確には僕一人が落ち込んでいた。
暗い顔をしている僕に、お姉ちゃんが問いかける。
「まぁ、そんなにあれなら、拓海の記憶も消したっていいよ。辛かったんでしょ、今日のこと。全部忘れちゃったほうがいいかもよ?」
「そうゾナ。また魔力を狙われる可能性もあるけど、今度はお姉ちゃんが守ってくれるゾナ。なにも心配することなく、記憶を修正……」
「それはイヤだっ!」
僕はゴルモアさんの言葉をさえぎった。
「今日のことは、全部忘れない。殺された人達のことも、可哀想なあの子のことも一生忘れない。そう決めたんだっ!」
「そっか……」
「ゾナぁ……」
そうさ、そうでなきゃいけないんだ。正義ぶるわけじゃない、同情でもない。これは、僕が僕として生きていくために必要なことだ。
重い息を吐き出すと、また少し悲しくなった。でも、感傷に浸るのはもう終わり。僕は強く生きる。成長する。そう心に誓った。
「……じゃあ、そんな拓海くんにはクリスマスプレゼントでもするゾナ」
「えっ?」
ゴルモアさんが懐(というか羽根の下)から何かを取り出した。
……それは、ブレスレットだった。色は僕のために薄いブルーになっていた。
「まずは見習いからだゾナ。修行は厳しいゾナ」
突然のプレゼントに少し戸惑ったが、それは確かに僕の望んだものだった。僕はそっと、両手で受け取った。
「……うん、頑張るよ」
右手首にはめると、ちょっとだけ誇らしげな気分になった。キラキラと不思議な光りを反射して、とても綺麗だった。
お姉ちゃんは、その光景をとても優しい目で眺めていた。なにか懐かしそうに。そして、とても大切な思い出を噛み締めるように。
少し冷えた空気が、窓の隙間から流れ込んできた。
僕たちが外を見ると、チラホラと白いものが舞い降りていた。
まるで魔法をかけたような、ホワイトクリスマスだ。
いよいよ暗くなり始めたイブの夜、僕は薄皮を綺麗に剥いたみかんを口に運んだ。ブレスレットがまたキラリと光った。
(了)
|