殴られたと思った。俺は怯えながら腕を前に出し、あまり意味のないガードをしていた。
しかし、痛みは来なかった。
こわごわと目を開く。
見れば、男の腕は一時停止のボタンでも押したかのように宙に止まっていた。目はクルンと上向きに裏返り、充血した白目が剥かれていた。
そして、巨体がベッドの上に崩れ落ちた。
「え……?」
俺は間抜けな声を上げ、その光景を呆然と見ていた。何が起こったのか全然理解が出来なかった。
しかし、見えた。
ベッドの向こう側に、半泣きの慧が立っていた。
腕には電気スタンドの柄が握られていた。傘の部分は大きくへこみ、パラパラと破片が落ちていた。
「さ、佐奈ちゃん……」
慧が俺の名前を呼ぶ。一方、俺は事態を把握できない。
(なんだ? ……なんで慧がここにいるんだ?)
「さ、佐奈ちゃん……。う、うぅ……、さ、佐奈ちゃん……ッ! 佐奈ちゃんッ!!」
慧が男の体を踏み越えて、俺に抱きかかる。顔を胸に埋めながら、ワンワンと泣く。
「うああああぁッ! さ、佐奈ちゃんんっ! 佐奈ちゃんっ! あっ、あああぁっ!」
俺達はベッドの上で抱き合う。慧はどっちが助けに来たのかよく分からない勢いで号泣する。
俺は、なぜかその頭を優しく撫でている。
『あ、慧くん。あのさ、間違えて今日の衣装の下着とか持って帰ってない? うん、一枚足りないの。楽屋ドロボーとかも多いし心配なんだけど。……ちょっと確認してもらえる?』
衣装さんからかかってきた電話はこんな感じだったらしい。
つまり、俺の持って帰ってしまった下着は結構オオゴトになっていたわけだ。意外と管理とかしっかりしていたことに驚きつつ、俺はやっぱり自分の迂闊さを呪わざるえない。
そして、慧にはすぐに犯人が俺だと分かった。まあ、これは当たり前。楽屋には二人しかいなかったし、慧が間違えていなければ、持って帰ったのはもう一方だ。
だから衣装さんから電話があってすぐ、慧は俺の部屋に連絡を入れた。
しかし、そのコールはあっという間に切られた。
切ったのはあのデブだ。俺が恥ずかしい下着に着替える前に、あいつの切った電話は慧からのモノだった。
「慌てたよ。……だって、あんなこと無かったもんね。電話にでられないことはあっても、邪魔そうにすぐ切っちゃうなんて、絶対に佐奈ちゃんしないもん」
「……そうだな。オナニーに集中してたり、寝ちゃってたりとかはするけど、速攻で切っちゃうなんてのは……」
「うん。で、僕はすぐに佐奈ちゃんの部屋に行った。そうしたら鍵がかかってた」
閉めたのもあいつだ。
「だから、僕はどうにか部屋の状況を知ろうと、部屋の壁に耳を当てたりして、声を聞いたんだ」
「聞こえたの?」
「ううん、ほとんど何も聞こえなかったよ。やっぱホテルって防音設備とかちゃんとしてるんだね。でも、マグカップを押し当てて耳を澄ませたら、ほんの少しだけ声がした。佐奈ちゃんの声と、まったく知らない人の声……」
あいつの声……。
「……恐かった。いや、佐奈ちゃんのほうが百倍くらい恐かったと思うけど、僕も恐かった。慌てて部屋を飛び出して、ロビーに行った」
「なんで?」
「部屋を開けてもらうため」
そして、慧は俺の手を握る。
「ホテルのロビーに行って事情を説明した。一生懸命頼んだよ。そしたら渋々開けてくれたんだ。普通なら絶対にありえないらしいんだけど……芸能人って得だよね」
違うと思う。
おそらく、慧はかなり強引に頼み込んだんだ。どんな風に頭を下げたのか、どんな顔をしていたのかも俺にはなんとなく想像がつく。
青ざめた顔に、泣きかけの目。体なんかガクガク震えていて、声もうわずっている。言うことを聞かなければその場で死んでしまいそうなせっぱ詰まった表情。……そんな感じだったんじゃないだろうか。
俺は慧の手を握り返す。
「ドアが開いた。そうしたら、ベッドの上ではあの状況だった。僕は部屋の隅にあったスタンドを掴んでいた……。気づいたら」
「俺を助けていた」
慧が頷く。
「……うん。でも助けた方が泣いちゃったらダメだよねー。恥ずかしいなあ」
慧はうつむいて顔を赤らめる。目は細められ、再び涙がにじみはじめている。……慧って、泣き虫だ。
俺は慧の部屋にいる。
一緒にベッドに座って、お話ししている。お互いに手を重ねて、肩を寄せ合っている。
これ以上の安心感はあり得ない。俺は調子にのってしなだれかかり、慧に体を預けていく。慧の肩が俺の頭を受け止める。
ホテルの従業員による芸能人への不祥事。
大人たちは大騒ぎになった。それでもコトがコトだけに、現場には最低人数の責任者しか来なかった。
事件は示談の方向でまとめられそうだった。どちらも客商売、スキャンダルが恐いのだ。
別室で、俺はホテルのお医者さんからの診察を受けた。特に異常はなかった。
後のことはマネージャーさんに全てまかせて、俺は慧の部屋に向かおうとした。
「じゃあ、佐奈ちゃん……。慧くんのことはまかせたよ」
マネージャーさんが俺を後ろから呼び止める。
「逆じゃないっすか、普通は?」
とっさに軽い声でツッコミを入れられるところは、さすがに俺も芸能人だと思う。しかし、マネージャーさんの言葉は大まじめなモノだったらしい。
「オレにはどっちも重傷に見えるよ。本当にね。……正直、心配だよ。……二人とも」
マネージャーさん俺の両肩を叩き、まっすぐに俺の目を見つめてくる。その目には確かな優しさがある。
「……だ、大丈夫です。明日までには、回復しますからっ!」
俺は頭を下げてその場を立ち去った。
そして今、慧と抱き合いながら、ベッドの中にいる。
おそろいのパジャマ姿で、ただ抱き合っている。
どちらからと言うこともなく、俺達は体を寄せ合う。傷ついた鳥が、互いの羽根を舐め合うように。
もう眠い……。あの騒ぎから数時間、もう深夜というより明け方に近い。
暗い部屋のベッドの上、ほんの数センチのところに慧がいる。薄い呼吸が、鼻にかかる。
なんだか、とてもいい匂いがする。
「慧、起きてる?」
「うん……」
慧が少しだけ腕を動かす。
「ごめんね、慧……。迷惑かけて……」
「ごめんねって、佐奈ちゃんは被害者なんだよ。何も悪いこと何てしてない……」
俺は静かに首を横に振る。髪がサラサラと揺れる。
「違うよ、やっぱ悪いのは俺なんだ。……慧の下着を盗んだりしたから、バチが当たったんだ」
神様なんて信じていなかったけど、あの瞬間だけは因果応報というコトを思い知った。たぶん、アレは天罰だった。
大切な人を汚した報いだったんだ。
「だからさ、慧は俺なんかのために泣く必要はないんだ……。こんなバカ、殴ってくれて構わない。怒ってよ……。慧……」
「……ば、バカあっ! なに言ってんだよッ!?」
慧の腕に力が入った。俺達の距離はさらに縮まる。
「佐奈ちゃんは悪くない、悪くないんだよっ! だから、そんなに自分のコトを悪く言わないでっ! そんなの、佐奈ちゃんらしくないよっ!」
「……怒る方向が違うし、……声が大きい」
「ごめん…………」
慧の声は申し訳なさそうに闇に消える。
「……ったく、なんで慧が謝るのかな」
「佐奈ちゃんが謝るのもおかしいんだってば……」
「……は、はは」
「ハハハ……」
俺達は向かい合って笑った。なんだか無性におかしくなってしまった。
「なんか、どうしようもないなぁ……、俺達。こんなくだらないことで、こんなに傷ついて」
「そうだね……」
そのまま俺達は黙って抱き合った。
闇の中の長い沈黙。至近距離に慧の体温。
俺は、ついにこらえきれなくなった。
「……慧。俺、いまからすごい勝手なことを言うよ。……いい?」
「うん」
俺は息を少し吸い、ゆっくりと言葉を吐き出した。
「俺、慧が好きなんだ」
ついに言ってしまった。こんな日の、こんな時、こんな状況で、もの凄く卑怯な愛の告白をしてしまった。でも、小さな胸の中でパンパンに膨れてしまったこの想いを、もう押しとどめることが出来なかった。
「……す、すごい好きなんだ。慧のこと、……死ぬほど好きなんだ」
「さ、佐奈ちゃん……」
「もう、どうしようもないくらい好きなんだ……。好き、好きだよ……。大好きぃ……」
やばい、なんか涙がこぼれてきた。声が揺れる弦のように震えている。
「佐奈ちゃん……」
「う、うぅ……」
「じゃあ、僕も勝手なこと……するね」
そう言うと、慧は俺の体をさらに引き寄せた。
「え?」
クチュ……。
唇が吸われた。
柔らかい。
熱い吐息が、そっと流れ込んで来た。
かすめるだけの短いキスが、暗闇で交わされた。
すぐに距離は離れた。俺は目を閉じる暇もなかった。あまりに突然のコト、事態の把握まで時間がかかった。
そして、触れた唇の感触が、染みこむように少しずつ実感になる。
「……あ、…………あぁ」
ブワッと、感情が溢れた。
もう涙を止められなかった。引きつる喉から嗚咽が漏れる。慧を抱く腕が震える。
「佐奈ちゃん……。ずっと好きだったよ。初めてオーディション会場で会った日から、ずっと……。一目惚れだったんだ……」
慧は腕を回し、俺の頭を撫でる。 あの日のように、優しいお母さんの様な手つき……。
俺は慧の腕の中ですすり泣く。
そんな俺の顔を、慧は頬ずりする。何度も柔らかい頬が、俺の顔を往復する。
「佐奈ちゃん……。好き……。好きだよ……。ねえ、佐奈ちゃんも本当に僕のこと好きなの……? ねえ、本当……?」
「うぅ……、好き……。好きぃ……。もう、胸が潰れちゃいそう……。慧が好きぃ……ッ。好きいぃッ!」
僕達はお互いの耳元で愛を叫び合う。一言一言が、心臓に響く。体のどこから溢れてくるのか分からないほどの多幸感が俺を包む。
俺達は硬く抱き合う。もう二度と離れられなくくらい、力を込めて。
胸と胸が重なり、お互いの鼓動が伝わる。まるで一つの心臓で動く、二つの人形のようだ。
『もう僕達はユニットなんだよ。一心同体なんだ』
あの日の言葉を思い出す。慧が言ってくれた、とても優しい言葉。
「……慧、信じちゃうからな。……俺、慧のこと、信じちゃうからなぁッ!!」
「うん、いいよ。……もう僕達は二人で一人なんだ。……僕も、佐奈ちゃんをずっと信じるよ」
そのまま、とても暖かい腕に抱かれながら、俺はまどろんでいく。
満たされた心で夢を見て、朝が来る。
「カンパーイっ!!」
ガコガコガコンとたくさんのビールジョッキがぶつかり合い、飛沫が宴会場に弾ける。
打ち上げの居酒屋、スタッフの全員が二階の大広間に集まっている。乾杯の後は、会場のあちこちで談笑が聞こえはじめる。
俺達はその輪の中を主賓として駆けめぐる。こんな時でもサービス業はサービスするモノだと教わった。俺達はお酒をついで周り、会話の中に入っていく。
この人たちのほとんどが、昨日の事件を知らない。あのことは、当事者である俺達とマネージャーさん、そしてもっと偉い人達だけのモノになった。
コンサート最終日、公演は大盛況のまま終了した。
今日の俺の発情は昨日よりちょっとマシになっていた。昨夜四回も射精したからか、それとも慧と寝たからか、理由はよく分からない。後者であることを強く望む。
そして打ち上げもとても盛り上がった。俺達はお酒をダメだからジュースを飲むしかなかったけれど、それでもとても楽しかった。
やがて宴会も終わり、俺達は一次会でホテルに帰ることになった。マネージャーさんがタクシーを呼んでくれた。
車への乗り際、衣装さんが大きな紙袋に入ったプレゼントを持って来てくれる。
「じゃあこれ、約束のモノね。これでいいの?」
「はい、ありがとうございますっ!」
俺は紙袋を受け取り、深々と頭を下げる。
慧も同じモノを受け取った。これはツアー最後のお楽しみ、前から約束していた一品だった。
「うん、そんなに喜んでもらえると嬉しいな。……それにしても本当にいい笑顔するわね、二人とも」
衣装さんも嬉しそうに微笑む。
俺達はタクシーに乗り込み、二次会へ向かうみなさんに向かって手を振った。
ホテル最上階、ロイヤルスイートルーム。
「広いな……」
「うん、なんかお城の中みたい」
慧の感想は素直だった。たしかに彫刻が施された柱や立派な絵があるこの部屋は、映画で見るようなお姫様の寝室を思い出させる。
大きな窓の向こう、下には綺麗な夜景の街並みが広がっている。
そして少し離れた所には、やはり部屋に見合ったとても大きいベッドがある。
なんていうか、夢みたいな光景だ。これ以上のロケーションはちょっと考えられない。
ここで一晩、慧と二人っきり……。
「さ、佐奈ちゃぁん……」
「って、慧?!」
見れば、慧はもう目に涙がたまり、ウルウルに潤んでいる。……こら、ちょっと待て。
「な、なんでもう泣いてるんだよ?! まだ何もしてないじゃん。これからじゃん」
「……だって、だってさぁ。綺麗なんだもん、この部屋ぁ。ここで佐奈ちゃんと一緒にいられるんでしょ? 嬉しくってぇ……」
その気持ちはよく分かる。俺だってまったく同じだ。でも、今から泣き始めたら話にならない。
――だって、夜は長いんだから。
「なんだよ、もぉ……。これから俺達はもっと嬉しいことするんだよ? さあ、着替えちゃおうぜ。……一番かわいい格好にさ」
「う、うん……」
俺達は荷物を放りだし、さっき受け取った紙袋を開けた。中にはコンサートで使っていた衣装が入っていた。
昨日の事件がどのように話がついたかはよく分からない。そのうちお金とかも振り込まれるかもしれないけど、はっきり言ってもう俺には興味がない。
だから、俺はたった一つだけホテル側に条件を出した。それが、一番値段の高いロイヤルスイートルームの一晩宿泊だった。
ホテル側からすればお安いご用だったのだろう。話はあっさり通った。
着替える。
いつもコンサートの後、俺達は衣装さんに使っていたコスチュームの内、一つだけを貰うことが出来た。今日はそれをすぐに受け取った。
俺は鏡台の前に立つ。額縁みたいな飾りづけをされた鏡に、女装した俺の姿が映る。
俺が選んだのは綺麗なタンポポ色のサマードレスだ。かわいく並んだ胸元のボタン、薄いスカートのレース。シンプルに体のラインをだす洗練されたデザイン。
これは必ずアンコールで着ていた一番のお気に入りコスチュームだった。
少し上目遣いで鏡の中の自分の顔をのぞき込む。知らない人が見れば、おそらく男だなんて誰も信じないだろうキュートな微笑み……。
なんか顔がどんどん緩んでくる。俺は思わず頬を押さえる。
向こうの部屋では、慧も同じく衣装を着込んでいる。慧がどんな服をチョイスしたかは聞いてないけど、その姿も絶対にかわいいはずだ。
「慧、俺は準備できたよー」
俺は壁の向こうの慧を呼ぶ。
「うん、僕もいいよ」
慧が答える。
俺は最後に鏡で自分の姿を確認し、慧の方に向き直る。慧が扉を開け、その姿をあらわす。
……俺は息を呑む。
それは色違いの同じ衣装だった。スカイブルーのサマードレス。羽根を模した髪飾りが照明を受けてキラキラと光っている。
「慧も、それを選んだんだ……」
「うん、シンプルだけど、これ好きだな。ちょっと肩が見えるのが恥ずかしいけどさ」
「……似合ってるよ」
「佐奈ちゃんもね……」
お互い何度も見た衣装が、今日はやけに新鮮に思えた。おそらく、ここには俺達二人しかいないからだろう。この行為を、他の人が知ることは永遠に無い。
そう、たった二人だけの秘密の儀式だ。
俺達はお互いに手を伸ばす。
一本一本、丁寧に指をからませる。打ち合わせもしていないのに、俺達は阿吽の呼吸で距離を詰めていく。半歩ずつ足を進めて、体を密着させていく。
ついに、俺達はゼロ距離で向き合う。指をしっかり両肩の横で組み合わせ、お腹もおっぱいもぴったりとくっつける。
目を閉じる。それが合図になる。
キスが始まる。
まず、重ねる。お互いの唇を押し合い、さらに少しずつ角度をつけていく。
交互に唇をついばんでいく。俺の番、慧の番、俺の番、慧の番……。上唇と下唇を互いにに吸い上げていく。
そして、口が開いていく。舌の先端同士があたり、徐々に絡み合っていく。
「はう……、うぅ」
「……ふあぁ、……あ、あんッ!」
お互いにやり方もよく分からなかったけど、それでも口と口を重ねる行為はとても気持ち良かった。俺達は不器用に歯をぶつけ合い、鼻に邪魔されたりしながらも、口の中の気持ちいいところに舌を伸ばしていく。
歯茎を舐められると、体から軽くなるみたいな錯覚が起こる。柔らかい舌に柔らかい舌を合わせると、とても暖かい。口の上を舐められると、背筋がゾクゾクしてくる。
俺達はクタクタになるまでキスした。俺は慧の唇を貪り、慧は俺の味を堪能した。初めての大人キスは、とてもうまくいった。
「すごいね、キスって……」
慧が濡れた瞳で、俺を見つめている。
「うん、凄かった。……慧の舌、やらしかった」
「それ、褒め言葉……?」
「そうだよ。……あたりまえじゃんっ」
顔が紅潮していくのが自分でも分かる。俺達は指を離し、体を抱きしめ合う。
さらに密着した体は慧の全てを伝えてくれる。上気した肌、ツンと立った乳首、持ち上がった陰茎……。
数枚分の布地の向こうに、勃起したおちんちんを確かに感じる。
おそらく、それは慧もだ。俺の体も、まったく同じ様な状態になってしまっている。
それを理解すると、興奮が高まっていく。少しずつ呼吸のリズムが早くなり、顔が熱くなっていく。股間が甘く痺れてくる。
「慧……、あ、あのさ……」
「なに?」
「俺、ベッドで……したいな」
俺は自分で言ったセリフに、自分で照れてしまう。なんかかなり恥ずかしいことをおねだりしてるっぽい。耳まで真っ赤に染まった顔を慧の肩に押しつける。
「う、うん……」
慧の方もなんだか恥ずかしげにモジモジしている。そして、それ以上動いてくれない。なんだよ、慧がリードしてくれるんじゃないの?
俺はしょうがないので、
「えーいっ!!」
「わ、わぁ、何ぃっ?!」
俺は慧の胸を抱きかかえたまま、一気にベッドまで押していった。まるでラグビーのタックル。慧は体勢を大きく崩し、ベッドの上に倒れ込む。
どーん。その上に俺も倒れ込む。
「ははーっ、俺の勝ちぃ!」
「な、なんか競争してたっけ? なにするのぉ……」
「なにするのじゃねーよ。俺は慧とするのっ! したいの……ッ!」
俺はそう言うと、慧のスカートを一気にまくし上げた。空色の裾がはためいて、中から純白のショーツと勃起したペニスの先端が現れる。
俺は広がったスカートの中に頭を潜り込ませる。俺の視界は慧のかわいい股間だけで埋め尽くされる。
「や、やあっ……! なんなのぉ……? もう、そんなことぉ……ッ!」
慧が俺の頭を押し出そうと、スカートの上からムリヤリ頭頂部を押す。しかし俺は慧の足を腕で抱えて耐える。
徐々に俺達の体はベッドの奥に移動していく。この変な体位の力比べは俺の勝ちみたいだ。
俺は慧のショーツの端に指をかけ、少しずつ足下に下ろしていく。慧の陰茎部がプルンと目の前に現れる。
いつも着替えの時に見る形とは全然違う、先っぽが剥き出されたかわいいおちんちん。俺がずっとずっと見たかったモノだ。
俺は舌を伸ばしていく。粘膜の先端が、粘膜の先端に触れる。
「ひゃんッ!」
慧の悲鳴が一枚布地を挟んだ向こうから聞こえ、ペニスもビクンと震える。俺は調子にのってさらに口元を寄せていく。
ついに俺は慧をくわえ込む。絹のような亀頭の表面が舌に触れる。俺は抵抗する慧の腰をムリヤリ押さえ込む。
「く……うぅ…………、佐奈ちゃ……ぁ」
慧の動きが止まり、体が徐々に弛緩していく。
(慧、気持ちいいのかな……? まだ、くわえてるだけなのに……)
俺は勃起肉に舌を絡ませていく。頬の裏から唾液を集め、包皮に塗り込んでいく。
軽く歯で海綿体を噛んでみる。慧の腰がビクビクと跳ねる。俺はそのまま頭を回し、ひねりを入れながらペニスを唇でしごいていく。
「はあっ……、あ……、はあぁ……」
慧の息が荒くなっていく。ついには体をベッドに投げ出し、無抵抗に快感を享受し始める。
俺は期待に応えようと、さらに気を入れて慧のモノをしゃぶる。軽く指を添えて根本をさすったり、丁寧に袋を持ち上げ、表面を撫でたりする。溢れたヨダレがシーツにまで垂れていく。
口から奏でられる粘着音のリズムが、狭いスカート内に反響する。……すごくエロい。
俺はさらに速度を速めていく。サマードレスが合わせて上下に揺れる。カリ首が口の裏を掻く。
そして、俺は自分の性器に痺れが生まれているのを感じる。
(え……?)
いつの間にか、俺は口の中を出し入れするペニスで感じていた。口を慧のペニスで犯されて、興奮しはじめていた。
(なんで……? 俺は慧を気持ち良くさせているハズなのに……。なんで俺まで感じちゃってるんだよ……)
なんか腰がウズウズする。俺は自分の腰をベッドでこすりだす。柔らかいクッションに体が埋まっていく。
慧のペニスをクチャクチャと舐めながら、俺は自分でも同じくらいの快感を得ている。……やだ、凄く気持ちいい。もしかしたら、さっきのキスより……。
ビクビクと慧の腰も震え出す。お腹が波打ち、呼吸がせっぱ詰まったものになっていく。
「あうぅ……ッ! さ、佐奈ちゃぁ……、も、もう、出……、出ちゃうぅ……」
慧の体がのけぞる。
口の中に、何か甘い液があふれ出してくる。それは俺の唾液と混ざり、喉の奥まで官能を刺激する味が広がっていく。
俺の腰の動きも速くなる。体をイヤらしくくねらせながら、動きに合わせて慧のおちんちんをなぶる。
慧の体が硬直していく。足がピンと伸ばされ、小刻みな痙攣で太ももが揺れだす。
「あっ……、あっ、ああぁ……ッ! だ、ダメだよぉ! もうダメ、これ以上されたら、僕ダメぇっ! ダメぇっ!!」
ジュワッと、慧のおちんちんの味が濃くなる。
「ひっ、ひあ……、あ、ああああぁッ!!」
ドビュウウゥッ! ドビュルウウゥッ! ビュルウウゥッ! ビュウッ! ビュッ! ビュウウゥッ!
熱い精液が俺の上あごの裏を打った。
口の中に広がっていく快感の結晶。特に味なんてないもののハズなのに、俺はなぜかミルクのような甘みを感じる。
たまらず、俺は溢れた唾液と一緒に精液を飲み込む。慧の快感が全身に広がるような感覚……。俺はうっとりと目を伏せながら、慧の精子を味わう。
「あ、……あぁ、……うぁっ」
慧はビクビクと痙攣を続ける。考えてみれば、慧は他人にしてもらうのは初めてのハズだ。俺は慧の初めての人なんだ。
そう思うと、体がフルフルと震えてくる。
俺は慧から口を離し、スカートの中から這い出る。ベッドの上で膝立ちし、脱力する慧を見つめる。
慧はとてもだらしない姿になっていた。
顔は耳の先まで真っ赤になっている。口が半開きになっていて、ヨダレが端から流れている。頭をシーツに押しつけたらからヘアセットが乱れ、寝癖のようなひねりが頭頂部に出来てしまっている。
(あぁ……慧……。慧って、やっぱかわいい……)
そう思うと、身体の芯が燃えるように熱くなる。目の前が少しずつぼやけていき、意識に霞がかかる。
「さ、佐奈ちゃん……」
ようやく快感が引いてきたのか、慧がモソモソと立ち上がる。肘をつきながら上体を起こし、俺に近づいてくる。
そして、俺の股間に手を伸ばす。
「あっ!」
俺はとっさに身を引く。
「……まったく、乱暴なんだから。……僕だって、佐奈ちゃんのこと、気持ち良くしたいのに」
「だ、ダメっ!! いま触られたら、俺、なんかヤバい……ッ! だ、ダメッ! ダメえぇっ!!」
しかし俺の制止なんて耳に入ってこないのか、慧は身を乗り出し、指先を伸ばしてくる。爪が、俺のペニスに薄い布越しで触れる。
その瞬間。
「ひああぁっ!!」
ドビュルウウゥッ! ビュウウゥッ! ビュルンッ! ビュッ! ビュウウゥッ! ビュルンッ! ビュッ!
「え……? さ、佐奈ちゃん!?」
慧が驚くのもムリはなかった。俺は慧にほんの少しだけ触られただけで絶頂に達していた。しごきたてる暇なんて無い。一瞬で俺は、スカートの裏地にバシャバシャと淫欲の精を噴き出していた。
気が遠くなる。
俺は慧の上に重なるように倒れ込んでいく。慧が俺の体を支える。
お互いに力も入らない状況で、俺達はベッドの上でだらしなく抱き合う。
「……ど、どうして。いきなりこんな」
慧はまだ驚いている。
「いや、慧のおちんちん舐めてたら、感じちゃってた……。俺、なんにもしていないのに、もうあんなになってた……」
俺は脱力した肢体を慧に預け、荒い呼吸を繰り返す。
俺は、恐くなってきてしまった。
俺達がこの衣装に着替えて、まだ十分も経っていない。
それですでにこの状況。もう俺達は気を失うほどの快感にガクガクと震えている。……挿入もしていないのに。
今夜、俺達はどこまで感じてしまうのだろう……?
(続く)
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